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2010年8月19日 木曜日

旅行記

望郷のスコットランド旅行記 Part 2

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ドライブの話

 ここで英国を車で旅行することについて。もっとも私は車のことはなーんもわからないので、あくまで同乗者としての感想ですが。

 走ってる間中、昔のボーイフレンドのことを思い出していた。
 とか言うと、「なんじゃ、そりゃ?」と思われるでしょうが、とにかく生まれついての走り屋だったんですよ。それも狭い山道を吹っ飛ばすのが大好きな。その彼に連れられて、ずいぶんいろんな山道を(私は死ぬ思いをしながら)走り回ったんだけど、スコットランドのドライバーは全員彼が運転してるみたいだった。と同時に、こんなところを走れたら、彼は驚喜のあまり死んじゃうんじゃないかと。

 道は日本の山道と似ていて(私は伊豆箱根あたりを思い出しました)、ゆるいカーブの連続する細い道なのだが、私たちはそこを80〜90キロで巡行しているというのに、すべての車(大型トラックだの、郵便配達だの、地元の農夫の車だの)がそれを楽々追い抜いていくんです。ありえねー! 比較的見通しのいいところ(でもすぐカーブ)では140キロは出てるぞ
 夏の観光シーズンで、家族サービスのお父さんや外国人観光客も多いだろうから、中にはトロいやつや下手くそなドライバーがいても当然だと思うのだが、そういうのがまったくいないというのも驚き。私たちが追い越したのは老夫婦の車1台だけだったような気がする。
 単にスピードが速いだけじゃなく、運転もみんなうまい。先の見えない(もちろんカーブミラーなんてない)カーブにあのスピードで突っ込むなんて、日本だったらこわくて目を開けていられない(彼の車ではいつもそうだった)が、こっちはそんなにこわくない。というのも、センターラインをはみ出してくるような対向車が、ただの1台もいないから。
 カーブでブレーキ踏まないのもうまい。というのは、彼から学んだ。山道でエンジン・ブレーキ使わないやつを見ると、彼がいつも罵りまくっていたから。ところが石神さんも同じようなこと言ってるので笑ってしまった。こいつも実はなかなかの走り屋だな(笑)。
 最初とまどったのは、こっちがノロノロ(じゃないんだけどなー)走ってると、後続車がすぐにぴたっと後ろに付けること。これが日本ならイライラしてあおってることになるが、実はそうじゃないんだね。単に抜くチャンスをねらってるだけで、せっかちに無理な追い越しかける人は(めったに)いない。まして幅寄せしたり、いやがらせするような車もいない。運転マナーもとてもいい。町中でもあれだけマナーのいい(ゴミをポンポン道に捨てることを除けば。これはヨーロッパのどこへ行っても同じ)イギリス人が、運転のときだけマナーが悪くなるはずもないんだけど。

 思うに、イギリス人は本当に車が好きなんだね。これは私も知識としては知っていて、学生に教えたりもしていたが、自分で実感した。そこがアメリカ人との違いなんだよ、知ってた? アメリカ人にとっては車は単なる足。だからボロボロの車でも平気で乗ってるが、イギリス人は車をピカピカに磨き上げ大切に乗る。車に乗ること自体がスポーツ感覚というか、馬の代用物なのかもしれない。馬も好きだもんね、あいつら。
 町を走っている自転車はすべてスポーツタイプで、乗ってる人は全身専用ギアに身を固めている(でもって、車と同じスピードでいっしょに走る)のと似ている。オランダではいたママチャリや子供自転車なんてロンドンではまったく見ない。こっちの人にとっては車も自転車もスポーツ感覚で乗るものみたい。

 道路でおもしろかったのは、左右のカーブだけじゃなく、山では上下にもかなりうねってること。千葉県の九十九里浜に波乗り道路というのがありまして、そこがちょうどこういう感じで、そこを高速で走るとジェットコースターみたいで楽しかったが、それがえんえん続いてる感じ。ただ、こっちはかなりの高低差があるので、丘の手前では前方がまったく見えず、カーブと同じぐらいスリルがある。
 ラウンドアバウトも私は楽しかったが、石神さんはやっぱり「どっちなのよー!」と悲鳴上げていた。
 そうそう、一般道でも信号がまったくないのもイギリスの道路の特徴。信号は町の中心にいくつかあるだけで、あとは信号も横断歩道もない。だから一度も止まる必要がない。4日間のドライブで信号で止まったのって(工事中の片側通行を除けば)、大きな町中で2、3回だけだった。
 これでまた彼のことを思い出した。彼の車に乗るのは私には恐怖体験以外の何者でもなかったんだが、深夜の首都高を140キロぐらいで飛ばすのだけは、やっぱりジェットコースターに乗ってるみたいで好きだった。高速なら対向車いないし、信号もないし歩行者もいないからね。(お巡りさんだけこわいけど) それをこっちの人は一般道で日常的にやってるわけ。楽しいんだろうなあ、たぶん。

 ところが車1台しか通れなくてスピードが出せないような本当の山道に入ると、周囲の車はぱったりいなくなる。どうやらスピード出せないとつまらないかららしい。そういうところをまったり走るのも気分爽快でした。そんな道でもちゃんとすべて舗装してあるので走りやすいしね。

スカイ島

 スカイ島の宿に着いたのは早い時間だったので、荷物を置いて、そのまま北上し、島の中心にある町、ポートリー(Portree)へ向かった。ここのインフォメーションで情報や地図を仕入れようと思ったのだが、小さい町なのに、さすが観光シーズンで、駐車場は満車。町の中をぐるぐる走り回ったのだが、なにせ海辺の崖みたいなところにできた町で、路地のように細い急な坂道ばかりで、とても車を止められそうなところがない。あきらめて、Uターンして宿に戻った。
 うーん、残念。何が残念ってインフォメーションで地図をもらえなかったのが(笑)。スコットランドのインフォメーションは、どこもその土地の無料地図を置いているのだが、これがすべて紫色のデザインで統一されていて、なかなかおしゃれなのよ。今回行った町や島では必ずこの地図を集めていたのに、ハイライトのスカイ島だけが抜けてるー!
 この地図、それこそ東京のスコットランド観光局みたいなところで(そんなものはない)全種類、ご自由にお持ち帰り下さいってなってたら、うれしくて死んじゃうんだけどな。
 あ、私は地図コレクターでもあります。行った町では必ずパンフレットとストリート・マップをもらってくることにしている。あとから見て思い出すには、地図がいちばんだから。これがイギリスではどこでもたいてい無料なのに、ヨーロッパ大陸ではしっかり金を取られたのも、ヨーロッパ嫌いに拍車をかけた。

スカイ島の内陸部。あいにくここには見えませんが、こういうところに牛や羊が散在する牧歌的な風景の中をひたすら走りました。

 というわけで、9日は終わり、翌8月10日は、スカイ島の中心部を抜けて南下し、最南部のアーマデール(Armadale)へ向かう。このルートの選び方が石神さんらしいところ。どんな島でもそうだけど、ここもメインルートは島をぐるっとまわる海岸線沿いにある。真ん中を通っているのは地元の牧夫しか利用しないような山道だけ。で、実際に出会ったのは付近の牧場関係者とおぼしきトラックだけだった。
 島の中はほとんどが牧場になっている。というか、スコットランドでは人の手が入ったところはすべて牧場になっている。イングランドは牛より羊が多いが、こっちは羊より牛が多い。牛といえばベルギーも牛だらけだったが、ベルギーは牛の放牧場と(牛の飼料である)トウモロコシ畑が交互にあったのに、こちらでは畑というものはまったく見ない。やっぱりこれだけ緯度が高いと作物って育たないのかな。いや、でもスコットランドよりベルギーの方がよっぽど寒いし、それより寒い北海道だって畑はあるのに。
 この牛には悩まされたのだが、その話はまた後ほど。イギリスの顔の黒い羊はすごくかわいくて好きなのだが、夏だからか羊たちはみんな毛を刈られたあと。羊はあのモコモコだからかわいいので、裸んぼの羊というのはけっこう情けなかった。

 いやー、しかし島はいいねえ。別に何か特別なものが見えるわけでもない、ただ田舎道が、ほとんどなんの手も入れてないのどかな放牧地の中を続いているだけなのに、石神さんと二人で、「いいねー、いいねー」と言い合っていた。彼女が何を思っていたかは知らないが、私はとりあえず島っていうだけでぐっとくる。いいと思いませんか、島?
 やはり島国生まれのせいか、島というだけでほっとするし、なんともいえないロマンを感じるんだよね。そういや、イギリスもれっきとした島国だった。島好きに大陸嫌いというのも付け加えてもいい。どうしてもヨーロッパ(イギリスはヨーロッパじゃないです)が好きになれないのも、同じ英語国なのにアメリカやオーストラリアが嫌いなのも、大陸だからだとしか言えない。
 ついでに言うと、島国でも内陸部は嫌い。悪いけど私は海なし県とかどうしても住む気にはなれないです。埼玉とか行っただけで息が詰まる。西葛西が気に入って住み着いたのも、海と大きな川に囲まれた三角地帯で、まわりじゅう水っていうせいもある。私は海や川のそば以外には住めないし、水が見えただけでほっとする。人には山派、海派っていう分け方もあると思うけど、それをいうなら私は絶対海派。その点、どこへ行ってもつねに水が目に入るスコットランドは天国です
 もちろん椰子の木が並ぶ南の島もそれなりにステキなのはわかるが、私はやっぱり風雨に洗われた、無骨だけどたくましい感じの北の島が好きだなあ。昔テレビで見た映画にスコットランドの離島を舞台にしたのがあったんですよ。確かホラーだったけど、どんな話かも忘れちゃったぐらいどうでもいい映画で、なのに、寒々とした漁村や自然の風景だけは目にくっきり焼き付いている。
 スカイ島みたいに、ある程度観光ずれした島でもこんなにいいんだから、ここよりさらに北のアウター・ヘブリディーズ諸島とか、シェトランド諸島なんかどんなにいいか。時間さえあればあっちにも足をのばしたかったんだけどねえ。

アーマデール城

アーマデール城の門のひとつ。ツタのはびこり具合が歴史を感じさせる。

 アーマデール(Armadale)へ向かったのは、ここからフェリーで本土に戻るためだが、近くにお城(Armadale Castle)があったので行ってみた。と言っても、この城はすでに見捨てられた廃墟なのだが、広大な庭が見所。

 ここはクラン・ドナルドの本拠地である。スコットランドをご存じない方のためにちょっと解説すると、スコットランドは古来、クラン(氏族)と呼ばれる血縁集団を中心とした社会で、いくつものクランが群雄割拠していたのだ。それぞれのクランは紋章と独自の模様のタータンを持っている。つまりここはドナルド一族の拠点というわけで、今もマクドナルド・クランの本部が置かれている。(macは息子という意味なので、マクドナルドは「ドナルドの息子」、つまり同じクランに属する)

 城そのものは廃墟だが、巨木がそびえるとてつもなく広大な庭は美しくて見応えがあり、他に博物館とか資料館も併設されているらしい。あいにくフェリーの時間があるから、あまりゆっくりは見られなかったんだけど。
 しかしこれだけ立派な城を廃墟のままにしておくなんてもったいない! だってドナルドって言ったらスコットランド最大のクランで、その子孫はそれこそ世界中で繁栄しているじゃない。帰ってからパンフレット読んでたら、いちおう再建計画もあるみたいですけどね。
 しかしその一方で、これほどの権勢を誇る一族が、こんな辺鄙なちっぽけな島から生まれたというのもすごいなあと思うけど。(もちろんドナルドは巨大クランなので、各地に「分家」があり、スカイ島にいたのはあくまでその一部ですが)

フェリーも乗ったよ

アーマデールのドックに入ってくるフェリー

 スカイ島を満喫(というにはあまりにも短すぎたと2人とも感じていたが)したあとは、フェリーで海を渡り、対岸のマレイグへ。こうすると南へのショートカットになるからだが、フェリーというものに乗るのが初めての私はこれもわくわくしていた。ただそのためには、電話で予約という悪夢が待っていたけれど。
 いや、べつに悪夢でも何でもないんですけどね。いちおう英語はしゃべれるし、ただ電話が苦手なだけなのよね。だから電話だとなぜか舌がもつれてしまってうまくしゃべれないんではないかという恐怖感から、舌がもつれてしまうわけ。おまけに携帯だし。あんな板きれみたいなものにどうやって話せと言うんだ! マックレーおばさんに電話をかけたいと言ったら自分の携帯を貸してくれたのだ。そういや、電話代も請求されなかったな。やっぱB&Bはいいよ。

 とりあえず、車に乗ったままフェリーに乗るのっておもしろい。船の大きさと並んだ車の数を見て、本当に乗り切れるのかと思ったが、うまくパズルみたいにはめ込むものですね。(なんか最後は無理やり押し込んでるようにも見えたが)
 甲板からの眺めもいいし、船室も広くてのんびりできるし、飲み食いするものもふんだんにあるし、これなら一日乗ってたい。(船は酔うくせに好き)

フェリーから見たマレイグの町。このあたりは海岸のすぐそばまで山が来ているので、段々畑のように崖に張り付くような形にできている町が多い。

フォート・ウィリアムのB&B − Seafield House

シーフィールド・ハウス外見。まあ、普通のちょっと大きい家って感じ。

 さて、本土に戻ったあとは南へ向かい、フォート・ウィリアムの町を目指す。ここはベン・ネヴィスとグレンコーの入口になっているので、ここに1泊する予定。
 前のマックレーおばさんの家とくらべると、ここはちょっと場所がわかりにくいので、空いていたのもわかる。町はずれの海岸から細い坂道を上がった突き当たりの家だから。私たちも迷って、車を降りてしばらくうろうろするはめになった。
 応対に出てきた男性は家族という感じじゃなく、従業員みたいだった。部屋数も多く、プロっぽい感じで、B&Bというよりはゲストハウスと言うべきかも。(厳密な違いはないが、私は家族経営がB&B。やや大きくてプロっぽいのがゲストハウスと解釈している)
 見た目は日本にもありそうなごく普通の民家。そういう意味でおもしろみはまったくないが、部屋はきれいで居心地が良かった。もちろんマックレーさんちみたいに何もかもピッカピカとはいかないけどね。ちょっと少女趣味のマックレーさんと違って、こっちは大人の雰囲気かも。

 ところで、マックレーさんちでは貸し切り状態だったので経験できなかったが、私の脳内では「泊まり客同士の交流もB&Bの楽しさのうち」。
 だけど、イギリス人はシャイなので、会えばにっこりしてあいさつはするが、知らない人とペラペラしゃべったりはあまりしないようだ。ここではインド人一家とちょっと言葉を交わしたぐらいだった。
 このインド人一家はイギリス在住の移民で、小さい子供たちを連れた典型的なインディアン・ファミリーに見えたが、乗ってきた車を見たらジャガー! ひえー、お金持ちじゃんか! もっとも西葛西のインド人たちもみんなインテリでお金持ちだし、肌の色で偏見持ったらいかんね。

フォート・ウィリアム

 ここでフォート・ウィリアムの町についても書こうと思ったのだが、両替所を探してうろうろした(B&Bではカードが使えないことが多いのを、私が忘れていたせい)ことを除けば、ろくに記憶にない、っていうぐらい印象に残ってない。ここも海沿いの崖っぷちにしがみつくようにできている町なのだが‥‥
 え?海じゃなくてこれは湖? たしかに地図で見ると湖になってるが、入り江じゃん。というか、スコットランドの常で、海と湖と川はほとんど区別が付かないように入り組んでいる。
 私の印象は言っちゃ悪いが、陰気くさくて貧乏くさくてみすぼらしい田舎町って感じ。イングランドの田舎の町や村が、本当に絵に描いたように美しくかわいらしいので、どうしてもそれと較べちゃうから分が悪いよね。貧乏くさいたって、本当に南とくらべれば圧倒的に貧乏なんだからしょうがない。
 しかし、ベン・ネヴィスとグレンコーという二大景勝地を間近に控えたリゾート地で、夏のピーク・シーズンでこれ?と思うと、ちょっとわびしい。まあ、スコットランドは自然さえあればいいが。

ネヴィス・レンジとベン・ネヴィス

 というわけで、私たちの本命は町より自然! 明けた11日はベン・ネヴィスとグレンコー見物に出発。

 ベン・ネヴィス(Ben Nevis)は英国最高峰である。と言っても、そもそも山らしい山のないイギリスのことだから、高さ1344メートルしかない。写真で見てもボタ山みたいなぼってりした形で、美しいとかいう感じでもない。それでも有名な場所だし、どうせ通り道にあるんだからというので、行ってみることにした。
 行ってみると言っても、もちろん登山用具なんて持ってきてないし、そんな気力もない。それにベン・ネヴィスに登っちゃったらベン・ネヴィスは見えない。どうやらその向かい側のネヴィス・レンジと呼ばれる尾根がいちばんの鑑賞ポイントらしい。それでそのてっぺんまでは都合がいいことにロープウェー(こっちではゴンドラと言う)が通っている。ということは、例によっての無計画なので、こっちに来てから知った(笑)。
 そこでまずはそのゴンドラ乗り場を探す。「あっちだ!」、「こっちだ!」としばらく迷ったあげく、結局初めの道が正しかったことがわかる。(車で迷うのはやたらこのパターンが多かった。「道を間違えたのでは?」という不安が先に立って、正しいルートを走ってるのに引き返してしまうのだ)
 着いたのはだだっ広い駐車場。そこに古めかしい巨大なロッジとロープウェー乗り場がある。今日はめずらしく曇り空で、山の上はすでに雲に隠れているし、眺望はあまり望めそうにないな。見てると、マウンテンバイクをかついだ若い人たちが続々と登っていく。冬はスキーとかもできるらしいけど、夏なのでマウンテンバイクが人気らしい。確かにマウンテンには違いないが、こんなゴロゴロ石だらけの山のどこを走るんだろう?と思っていたのだが‥‥

ネヴィス・レンジを走るマウンテンバイク。こわっ!
ガスに覆われたネヴィス・レンジ山頂付近
山頂からの眺め。
こうやって見ると低いのはわかるんだけど。
ほんとはこういうのが見えたはずのベン・ネヴィス。
もっともこれは雪に覆われてるから冬の写真だね。標高が低いので夏に雪はない。だけど、雪でもないとぜんぜん高山に見えないので、この写真を持ってきました(笑)。

 ゴンドラの上から眺めていると、下の山肌に道、とすらも言えないような細い道ができていて、そこをバイク(英語でバイクは自転車ですからね)に乗った人たちが下っていく。
 それはいいんですが、その道というのはでっかくて不規則な形の石がゴロゴロ並んでるだけで、しかも傾斜は頭から真っ逆さまに突っ込んでいくような角度に見えるんですが‥‥
 しかもヘアピンカーブだらけで(もちろんガードレールなんかない)、ところどころ、ジャンプしないと越えられないような場所もある。それはいいけど、これ、転んだら下まで真っ逆さまやんけー! そこを女の子もけっこうな速度で下っていくからびっくり。これは怖い。スキーの滑降より怖い。スキーならまだ下は雪だけど、こっちは岩だけしかないし。
 ここは国際大会なんかも行われる有名コースらしいが、日本じゃ子供の乗り物の印象が強いマウンテンバイクが、こんなにエクストリームなスポーツとは知らなかったよ。

 というところで、いきなり自分の体験を思い出しました。いや、私だって昔から意気地なしの婆さんだったわけじゃなく、それなりにエクストリームなスポーツもしてるので。
 何かというと、オーストラリアの山に馬に乗りに行ったときのこと。話がまたそれるが、思い出しちゃったのでちょっと書かせてね。こういうリーダーのあとについていく遠乗りというのは、思い切り走ることもできないし、みんなでトコトコ歩いていくのが多いので、つまんないなーと思っていたのだが、「はい、ここを降りますよー」と言われて下を見て、思わず目を疑った。
 まさに断崖絶壁。「義経の坂落とし」のあれ。もちろん道なんかないし、斜面は大きな岩がゴロゴロして、岩の間はぬるぬるの粘土質の土だ。おまけに前夜雨が降って、岩も土もびしょびしょに濡れている。ここを蹄鉄打った蹄で降りろって? しかもそれがちょっとの区間ならまだしも、ここを地表まで降りるというのだ。
 あきれてリーダーの顔を見ると、「平気平気、馬は慣れてるから馬に任せなさい」と言う。だってー! 断っておくが自転車で転ぶのと、馬で転倒するのとでは危険度が段違いなのである。バランスを崩して転べば、馬は確実に骨折するし、人は手足ぐらいならまだしも、首や胸や腹が少しでも馬の下敷きになれば内臓破裂でさようなら。
 私も馬で危険なことはいっぱいやったし、落馬は数限りなくしたが、転倒の経験はない。でも、クラブで行った富士山麓の外乗で台風に見舞われ、同行の先輩たちほぼ全員が落馬負傷して動けなくなったのも見てきたし、怖さはいやってほど知っている。
 でも他のみんな(全員オーストラリア人。ちなみにこの人たちの危険察知レベルは動物以下)が降りていくから、やむなく目をつぶって馬の首にがしっとしがみついて降りた。で、当然のように馬は足を滑らせまくる。というか、斜面が急すぎて、一歩あるくごとにドシンと尻餅をつく。その腰を落とした状態で、ズリズリとすべり落ちて行くのだが、奇跡的にバランスは崩さないし転ばない。あれは本当に怖かった。

 だけど馬は知性があるから、危険は自分で察知して、ある程度は対処も回避もできるけど、自転車は脳みそないからひとつ間違ったら怖いよなー。これはもちろん自動車にも言えるので、私は日頃から、あんな恐ろしい乗り物に乗って、みんなよく平気だなと思って見ている。アクセル踏んだら、前が壁だろうが崖だろうが突進するようなバカな乗り物によく乗れるな!
 と思って見ていたら、1台のバイクがカーブを曲がりそこね、思いっきり空中に投げ出された。キャー!と、大声を出して、見てなかった石神さんをびっくりさせてしまったけど。
 幸いなことに、バイクは大きく宙に飛んで行ったものの、人はすぐそばの地面に落ちて、しばらくすると自力で立ち上がっていたから、たいした怪我はなかったようで良かったけど。ただ、そうやって全身泥まみれ草まみれになって降りてきた人たち(転んだ証拠だもんね)が、またすぐゴンドラに乗って登っていくんだよね(笑)。
 まあ、気持ちはわかりますけどね。はっきり言ってここまで怖いと、逆にアドレナリンだだ漏れ状態になって、快感の極地に達するのだ。オーストラリアでも、山を下りてまだ命があると知り、すっかりハイになってしまった私は、奇声をあげて走り回ってみんなに笑われた(笑)。

 話がすっかりそれたが、そういう手に汗握るショーを見ながら山頂に到着。というのは嘘で、本当の山頂はここから数100メートル登ったところ。ちょうどいいハイキングコースになっている。
 しかし予想はしていたが、あたり一面ガスで真っ白じゃありませんか。その中を細い登山道が通っている。これはこれで神秘的でいいんだけど。
 だけど、根性なしの私は、どうせ登っても何も見えないだろうし、膝の状態も心配だったので、途中棄権。途中のベンチで待っていることにして、石神さんにひとりで行ってもらった。結果はやっぱり雲が切れなくて、かんじんのネヴィスだけが見えなかったそうだ。でも上の写真のように周囲のパノラマはけっこう見られたみたい。
 ひとりで待ってる間、いろいろ観察していた。やっぱり岩がきれいだなー。ひとつひとつ色や模様が違って、宝石みたいにきれいな岩もある。
 おもしろいのは、ここがわずか標高650メートルの高さなのに、まるで高山のような雰囲気なことだ.。気温の低さ(さすがにここまで来ると、防寒着きてても震える)もそうだし、この濃霧もそうだし、景色もそうだし、植物というものがまったく生えず、苔だけしか育たないところもそうだし、動物相もそうらしい。不思議だねえ。自分がたった今地上から、たいした距離じゃないロープウェーで登ってきたばかりなのはわかってるのに、どうしても高山に登ってるような気がする。ここが丘に毛の生えた程度の低山だなんて、言われてもぜんぜん実感できないよ。これも緯度の高さのせいなんだろうか? 不思議だ。

グレンコー

石神さんの撮ってくれた写真もすばらしかったんだけど、ここはやっぱり1枚パノラマ写真がほしかったので、ウィキメディア・コモンズでもらってきましたよ。
はっきり言ってマット・ペインティングそのものですな。なんかの映画のために描かれた絵と言われても絶対信じる。でもこれも現実に見えるもののほんの一部。

 ネヴィス観光を終えたあとは、さっそく次の目的地グレンコー(Glencoe)を目指す。実は、日本出発前の漠然としたイメージでは、ここがメインイベントのつもりだった。ネス湖やベン・ネヴィスは有名だけどたいしたことないっていう印象だったし、それにくらべ、血なまぐさい歴史が刻まれた惨劇の舞台でもあり、いろんな映画でも見たグレンコーは、映像だけでも印象的だったので、私も一目見たいと思っていたから。
 ネヴィス・レンジから、海だか湖だかに沿って南下すると、グレンコーはすぐ近くである。

グレンコーに入っていく車。おっおっおっ、雲が立ちこめていい感じになってきたぞ。
横を見上げるとこんな感じ。頂上付近は雲に隠れている。
上の細いすじは小川、下の細いすじはトレッキング用の小道。

 名前は前述のように「コー谷」という意味で、その名の通り、谷である。しかしハイランドというところは、これも前述のように山か湖でなければ谷なので、谷だって無数にあるし、ここだけが有名な理由はやっぱり行ってみないとわからなかった。
 地図で見るとわかるのは、ここがハイランドでは珍しい水のない谷であること。ふむふむ、確かに映画で見ても草一本生えない火星みたいな風景だったな。そこを国道A82号線がまっすぐ貫いている。ふむふむ、それじゃこの道を走っていけば端から端まで見物できるわけね。

 と、見る前はわかったようなつもりでいたのだが、車が谷に入っていくと、「うわわわわー!!!」と、私は助手席で仰向けにのけぞっていた。ひっくり返っているのは、少しでも全景を目に収めたいからである。なにしろとんでもないパノラマが周囲に広がっていたのだ。
 日本人の感覚から言うと、「谷」といえば、普通狭いところの両側に絶壁が切り立っている感じじゃないですか。ところがこちらの山は何度も言っているように、丸くなだらかでこんもりした形なので、決して絶壁にはならない。
 その代わり、地面が足もとからぐわーーーんと湾曲して盛り上がり、離れるにつれてだんだんと高くなっていく。と書いてもわからんでしょうね。まるで足元で地球が逆方向に湾曲してるみたいな感じなんですわ。しかも、山自体は低いのだが、てっぺんの方は雲がかかって見えないので、その壁がゆっくり湾曲しながらどこまでどこまでも昇っていくような錯覚に陥る。
 上でもパースが狂ってるとか、遠近感がおかしくなると書いたけど、ここはそれの集大成ですわ。
 ていうか、私の印象では完全にSFの世界に迷い込んだよう。どの小説だっけ? 物理定数が地球と違うたらなんたらで、ありえないような景色が広がってる星が出てくるのは? クリストファー・プリースト? 違ったかな。ニーブンのリング・ワールドも近いが、あれは巨大すぎて、人間の目には湾曲が見えないって設定だったから違うな。
 とにかくこれはすげえ! あり得ない風景が、周囲360度に広がってるわけだから。と同時に、ここで写真や映画の限界をつくづく悟った。ここに載せた写真、どれもすばらしいんだけど、あの雰囲気をぜんぜん伝えてない。あのパノラマの一部だけを切り取っても、全体のスケールを伝えられないんですよ。
 ていうか、この壮大なスケールはなんなんだ! ここがアメリカだとかオーストラリアだとかいうならまだわかるけど、イギリスみたいなちっぽけな島国で、しかも都市からほんのちょっと離れただけのところにこんな場所があるなんて。
 それを思うと、ここが映画のロケに重宝されるのがよくわかりますね。グラスゴーからちょっと離れるだけで、異世界ファンタジーや中世歴史物が撮れるんだもの。でもプロの撮った写真でも、ワイドスクリーンの映画でもこのスケールはわからない。だから私も知らなかった。
 その意味、石神さんもちょっとかわいそう。彼女は運転しなきゃならないので、周囲ばっかり見てるわけに行かないから。もちろんところどころで車を降りて見たのだが、車で走りながらこの景色が動いていくのを見るのがまたすごいんだよね。
 ここにはトレッキング・コースもあるようで、山に見え隠れしながら細い道が続いているのが見える。あー、膝の故障さえなけりゃ私もここ歩きたい! 車じゃなく、自分の足で踏みしめて歩けばまた違った景色が見られそうだし。ていうか、ここでポニー・トレッキング(馬に乗ったハイキング)やらせてくださいよ! 金なら出す! ハアハア‥‥
 とにかくこれだけは現地行ってみないとわからないので、ここに行けただけでも良かった。やっぱり私的にはこれがハイライトだったな。

最後にもう1枚、ウィキメディアにあった写真。これもやっぱりどこからどう見ても絵かCGだな(笑)。でもね、上の写真で雲が少し切れると、そこから光が差し込んで谷の一部だけが照らされてこうなるってのは容易に想像つくんですよ。実際、こういう感じの景色は各地でよく見たし。

 「わー!」とか「おー!」とか言いながら、ずんずん走っていくと、谷は途切れ、目の前にはいきなり真っ平らな大平原が広がる。その中を道がまっすぐに通っている様子はそれこそアメリカかオーストラリアによくありそうな景色だ。これはこれで壮大だけど、グレンコーはもう終わりか。短いよー! これが永遠に続いてほしいよー。というか、前に書いたように他の車の巡行スピードがやたら速いので、それに合わせると一気に駆け抜けてしまうのね。こういうところぐらいゆっくり走ればいいのに。
 このまま行くと方向違いなので、ここでUターンして元来た道を戻る。少なくとも2回は見れるからそれで満足するしかない。あー、ここに住んだらどんな気持ちだろう。文字通り俗世から解脱しちゃうっていうか、ファンタジー世界か過去の世界の住人になっちゃいそう。住むのは無理でもしばらく泊まりたいなー。ちょうど谷の終わるところの荒野の真ん中にホテルが建っていた。そこでUターンさせてもらったんだけど、ここに泊まりたかったよー!

オーバンのB&B − Sgeir Mhaol

Sgeir Mhaolの外観。ここも見るからに普通の家。
Sgeir Mhaolのベッドルーム。なんか散らかしてますが、本当はとてもきれい。

 グレンコーに後ろ髪を引かれながらも、車はさらに南下してオーバンへ向かう。なんとなく気が重いのは、もうスコットランド旅行も終わりに近づいているから。
 オーバンの宿は、取ってくれたマッケンジーさんも「なんと発音するのかわからない」と言っていた、Sgeir Mhaolという名前の家。あとで奥さんに「なんと発音するの?」と訊いてみたが、聞いてもやっぱりわからなかった(笑)。
 場所がわかりにくいと思ったので、先に町のインフォメーションに立ち寄って場所を聞いた。係員は感じのいい女の人で、「いいところが取れたわね。すごくすてきな宿ですよ」と言ってくれたので期待していた。

 迎えてくれたのは、移民であることは一目でわかるが、何人なのか見当の付かない人種の女性.。この人が奥さんらしく、かなり広い家なのに、彼女がひとりで切り盛りしているみたい。
 家や部屋は食堂はどこもとてもきれいで、インフォメーションの人の言葉に嘘はなかった。でも奥さんは忙しすぎるみたいで、ゆっくり話をする余裕もないし、家庭的というのとはちょっと違う。そこがスカイ島との違い。
 会うなり、私たち2人をじろっと見て、「で、英語話すのはどっち?」。こういうぶっきらぼうな口のきき方は、移民にはよくあるし(たぶん英語が得意じゃないせい)、良くて事務的なだけでごく普通なのだが、どこへ行ってもニコニコして優しいスコットランド人の対応に慣れていたので、ちょっとむっとする。ぜんぜん悪い人ではなかったんだけどね。やっぱりスコットランドで泊まるならスコットランド人の家がいいなあと思ってしまった。

 翌朝、外へ出てタバコを吸っていたら、カモメがゴミ袋を食い散らかしていた。乱暴に袋を破っては、いらないものをパッパとそこらに放り投げる。「カラスと同じだなあ」としげしげと観察していたら、奥さんが大声を上げながら出てきて、ちょっと気まずい思いをした。 

オーバンの町について

見るからに漁村という感じのオーバン (ウィキメディア)
夕景は絵ハガキみたいだ。
壁だけが残るマクレイグの塔 (ウィキメディア)
マクレイグの塔から眺めた夕景色
元写真はもっともっときれいだったんだけど、圧縮したら細部が黒く潰れちゃってよく見えないのが残念。

 今ひとつ気に入らなかったフォート・ウィリアムと違って、オーバンの町は一目見て、「あ、いいな」と思った。
 ここもべつにきれいな町ではないんだけど、湾を囲むようにできた町で、見るからに漁村が発展しただけという感じがするのがいい。港沿いにはレストランやパブがたくさん並んで活気があるし。
 見ていたらシーフードが食べたくなったので、いちばん港に近いところにあるシーフード・レストランに行った。すると、ウェイトレスの女の子が出てきて何か言ってるのだが、これがわからない(笑)。
 スコットランドへ来て言葉がわからないのは初めてなので、やっぱり相当なまってたんだと思う。スコットランド訛りには慣れてるつもりだったんだがなあ。しまいには2人の女の子が身振り手振りで話してくれて、ようやくまだ時間が早すぎるのでピザしかない、と言っているのがわかった。
 しかし、こんなアホンダラの日本人観光客を相手にしても、いやな顔ひとつせず、辛抱強く相手をしてくれるんだから、やっぱりスコットランド人は愛想が良くて親切だ。
 しょうがないので、適当なレストランを見つけて入ったのだが、入ってから気づいたのは、これがコロンバ・ホテルの付属レストランだってこと。あ、チェーンなのか。

 町を散策していると、上のほうに(ここもやっぱり段々畑式の町)円形競技場のミニチュアみたいなものが見える。なんだ、あれは? お城の廃墟かな?
 一見古代ローマの遺跡のように見えるが(実際、古代ローマの遺跡はイギリス中、いたるところにあるのでまぎらわしい)、調べると、これはマクレイグの塔(MaCaig's Tower)と言って、20世紀初頭に建ったもの。
 ジョン・スチュアート・マクレイグという建築家が一族の記念碑になるようなものをと考えて、美術館か何かにしようと建て始めたのだが、彼の死によって中断し、そのままほったらかしになってる。(以上Wikiの抄訳) でもなんか形がおもしろいというので、今では観光スポットになっているらしい。
 なーんだ、と思って、私はそれほど興味をそそられなかったし、すぐそばに見えているわりには昇る道が見あたらなかったので、パスするつもりでいた。でも石神さんが行きたがって、道を見つけてずんずん昇っていくので付いていった。

 塔(というか外壁のみ)は急坂をいくつも折れながら昇ったてっぺんにある。下から見たときはバカにしていたが、近くで見ると、え、いいじゃん。
 いい感じに古びて苔むした石と、天蓋のように塔を覆ってこんもりと茂る木々(でも植生はちゃんと手入れされている)とのバランスがよく、なんとも落ち着く、隠れ家的な空間になっている。
 しかもだんだん日が暮れて暗くなってきたのだが、この丘の上から見る港の景色が絶景なのだ。
 こういうきれいな景色はスコットランド中、いたるところにあるのだが、ここでもやっぱり時が止まる。こういうところに座って、沈み行く太陽と、刻々と変わる雲や海の様子をながめていると、本当に飽きないんですわ。
 こういう時間ってどこから来るの? なんで日本にいては味わえないの? 前にも書いたけど、「旅行者だから」という答えしかないのかな。でも見えるものなんて、殺風景な港町と、真っ暗けな空と海と、ほんの100年前の作りかけの石壁しかないのに、それがなんで、こんな神話的な時間を感じさせるんだろう? こういう感じはもちろんイングランドでも他のヨーロッパの国でも味わえるが、スコットランドはそういうところばっかりのような気がする。やっぱりこの国自体に魔法がかかっているのだ
 (あとから思ったが、こういう所って絶好のデートスポットだよね。これが日本だったら、当然カップルで埋め尽くされるだろうに、観光シーズンまっただ中でも、ほとんど誰もいない、ってあたりがスコットランド・クオリティー。好きだ。「なんで日本にいては味わえないの?」なんて、聞くだけヤボでした)

場所がずれちまったけど、いちおう写真ぐらい貼っておくかな。これも絵かジオラマにしか見えないグレンフィナン鉄橋。(ウィキメディア)

オーバンからグラスゴーへ

 明けて12日はグラスゴーへの長いドライブが待っている。ここは最短距離を行けばそんなに遠くはないのだが、例によって石神さんが人の行かない間道を走りたがったので、けっこう走行距離があり、あまり寄り道しないでまっすぐグラスゴーを目指すはずだった。
 それでも車で走ってるだけでも見所はいっぱい。ていうか、この辺はどこを走っていても、どっちを見ても嘘みたいに美しい景色しか目に入らない
 たとえば、フォート・ウィリアムでは、映画『ハリー・ポッター』で有名になったグレンフィナン鉄橋(この蒸気機関車ジャコバイト号がホグワーツ特急のモデル)を見てるはずなのだ。
 この橋は日本で写真を見て、「行きたいねー、機関車乗りたいねー」と話していたのだが、時間の都合が合わず、断念した。でも確かにルートからして、どこかで横切ってるはず。
 石神さんに話したら、「通ったよ。でも一瞬で通り過ぎちゃったから」だって。確かに、車で走ってて、「あ、ほら!」とか言われても気づかないこともしょっちゅう。車のスピードが速すぎるせいもあるなあ。私が気づいてないだけで、(なにしろガイドブックって読まない人なんで)、他にもけっこう名所を見てるのに気づいてないだけかも。
 とにかく山道を走るのはやっぱり楽しい。

動物の話

スコットランド名物ハイランド・キャトル。目がすっぽり金髪の前髪で隠れてるところがかわいい。(ウィキメディア)
と思ったら、行く手にその毛長ちゃんの大群が。これはまだかなり離れていて、接近したところを撮れなかったのが残念。
あいにく見られなかったスコットランドのアカシカだけど、かっこいいからこっちの写真も貼っておこう。写真はguardian.uk.com

 そういう道では、こわいのは人や車じゃなくて動物。行く前もイギリス人に「鹿に気を付けて」と言われたし、実際いたるところに鹿注意の標識が立ってるので期待してたんだが、鹿は一度も見られなかったな。スコットランドのアカシカは立派な角のある堂々たる大きな鹿でかっこいいんだけど。(映画『クイーン』に出てきたあの鹿です)

 代わりに邪魔してくれたのが牛と羊。羊はまだいい。臆病だしけっこう敏捷だから、車が来ればどくから。問題は、これもスコットランド名物のハイランド・キャトル(全身ながーい、モサモサした茶色の毛に覆われた牛。私たちは勝手に毛長牛と呼んでいた)。
 こういう山中の谷間はたいてい放牧地になっていて、道路は柵もなんにもないその真ん中を走っている。どこにでも牛や羊がゴロゴロいるので、いるだろうなあと思ったら案の定、道路の真ん中に毛長牛の大群が。いや、単に道路が彼らの住まいの中を突っ切ってるだけなんですが。(よって路上は牛糞がすごい)
 ところが、車が近づいていっても、ホーンを鳴らしてもまったく動じなくてぴくりとも動かない。こうなったら私が降りてどかすしかないが、馬の扱いなら慣れたもんだけど、牛なんて知らないし、ましてこいつらは恐ろしく長くて尖った湾曲した角を持っていて、けっこうこわい。ほとんどが子連れの母牛で、子牛脅かしたら向かってくるんじゃないかしらなんて思って。
 でも杞憂でした。私が車から降りると、全員がのそのそと歩き出した。なぜか車は無視するが、人が近づくと動くのだ。やれやれ‥‥

 牛の話が出たので、せっかくだから、ほかの動物の話も。動物好きの私はイギリス行くとうれしいのは、小鳥やリスなどの小動物が人を怖がらないこと。人を怖がらないのは、おそらくいじめられた経験がないからなんだよね。これはやっぱり農耕民族の国じゃないからで、日本とくらべても仕方がないが、それにしてもイギリス人の動物好き、特に犬好きは尋常でない。

 人がいるところには必ず犬もいて、もう完全に人間と同格。観光地でもみんな犬連れ。旅行に行くなら、当然、家族の一員である犬もいっしょなのね。フェリーだって、みんな犬を連れて乗り込んでくる。もちろんケージに入れろとかいうヤボは言いませんよ。だって、人よりでかい大型犬ばかりだもん。ほんとは外ではリードを付けなきゃいけない決まりなんだけど、公園なんかじゃ、そういう大型犬を平気で放して走り回らせている。

 大型犬好きの私には天国だが、犬嫌いの人にとっては悪夢かもね。でも大丈夫。この犬たちがまた、実にしつけが良くて、吠えてるところなんて聞いたことがないし、犬同士が出会っても知らんぷりしている。人なつこすぎて、通りすがりの人に寄ってくる犬はいるけど。(まあ、それだけでも犬嫌いの人には悪夢でしょうが)
 しかも、その犬がどれもこれもすごい賢そうで美しくて立派! アフガンハウンドとかセッターとか、日本だったら、西麻布とかの高級住宅地で、歩くアクセサリーとして連れてるのをたまに見るだけの犬が、そこらじゅうにうじゃうじゃ。純血種じゃない犬もどれも大きくて毛並みが良くて美しい。こんなにきれいな犬なら、そりゃ大事にもするしかわいがるよな。

 前にも書いたように、日本の犬ブームを多少苦々しく思っていて、ときどき蹴飛ばしてやりたくなる私も、こういう犬なら機会さえあれば触らせてもらってる。だいたい犬をほめられていやがる飼い主はいないので、誰とでもすぐ仲良くなれるしね。私の嫌いな小型犬も、たまに都会でおしゃれな女の人とかが連れているのを見るけれど、それはそれでサマになっているのだ。
 クリアレイク・ホテルにも犬がいる。とにかくかなりのお年寄りみたいで、いつもベタッとつぶれて寝そべってるだけの真っ黒な犬だけど。なでてもしっぽを振る気力もないのか、目だけ上げて、「あんがとよ」と目だけで語るところがかわいい。
 だから、去年、アンドレのうちに行ってペットがいないと聞いたとき、すごく驚いた。ヨーロッパ人の家というのは犬がいなきゃ成立しないような気がしていたので。

スカイ島で猫とたわむれるじゅんこ 見事なドヤ顔と寸詰まりの体型がかわいい猫さん

 ただ、イギリスでは猫はめったに見ない。そもそも野良猫というのがいないうえ、(犬猫を捨てるような人間はイギリス人なら喜んで死刑にすると思う)、猫はみんな室内飼いらしくて、ときどき窓越しに見るぐらい。それがちょっと寂しいなあと思っていたら、今回初めて外で猫を見ました。
 スカイ島で朝のお散歩をしていたら、モフモフの長毛の三毛猫が寄ってきたの。女の子のくせにドヤ顔なんだけど(笑)、すごく人なつこくて、呼ばなくても人のあとをちょこちょこついてまわり、足にすりすりする。首輪を付けていたので、飼い猫だが、こういう田舎だと放し飼いにしてるんだな。

 野生動物でとにかく豊富なのは鳥。見たこともないような美しい野鳥が、これもいたるところにいる。イギリスへ行くと、朝食のパンを少し残して持って歩き、鳥にやるのが習慣なのだが、つい忘れてぜんぶ食べちゃう食い意地の張った私。
 バードウォッチャーにとっても天国だが、そうじゃない私は種類がわからないのがくやしい。鳥類図鑑買おう。

植物の話

 動物の話が出たついでに植物の話も。と言っても、私は動物のことならけっこう語れるけど、植物はまるっきり素人なので、勘違いとかあったらごめんなさい。
 スコットランドというと、来る前のイメージでは荒涼としている感じで、緑や花にあふれているという印象はなかったのだが、さすがに盛夏ともなると、鮮やかな緑が目を楽しませてくれた。荒野にはお約束のヒースの花が咲き乱れて紫色の絨毯みたいになっているし、スコットランドの国花であるアザミの花(日本のよりずっと背が高くて猛々しい)も普通に道ばたに咲いてたし。
 こういう野の花もいいが、(ここはイングランド人と変わらない)園芸命の国民だけあって、猫の額ほどの個人の家の裏庭でも、地平線まで続くような広大な王宮の庭園でも、色とりどりのかわいらしい花が咲き乱れていた。

 でも私は花よりも木が好き。石神さんが「木が大きい!」と感動してるのが、最初はなんのことかわからなかったの。木の種類は日本とそんなに変わらないと思うし、屋久杉みたいな巨大樹があるわけじゃないし。だけど、ちょっと考えて彼女の言う意味がわかった。

 たとえば、東京は世界基準でも緑の多い町だと思う。公園に木がたくさんあるのはどこの国でもそうだが、町中にこれだけ街路樹や植え込みや花壇のある町はそうはない。だけど見てていつも残念に思うのは、ちょっと伸びるとすぐに枝やてっぺんをジャキジャキ切り落としてしまうこと。おそらく信号や標識が隠れて邪魔になるとか、日照の妨げになるとか、あるいは防犯上死角を作るというので剪定されてしまうんだと思うけど。
 これは本当にもったいないといつも思う。巨木がアーチみたいに道に蓋をしている並木道は見ただけでもすてきだし、太陽や雨をさえぎる屋根になってくれるのに。
 あと鳥のおうちにもなってる。西葛西の駅前の小さい木なんか、ムクドリのねぐらになっているらしく、夕方になると数百羽の鳥が帰ってきてものすごい騒ぎになっているが、もっと大きい木ならもっとたくさんの鳥が住めるのに。(同じ光景が西葛西だけじゃなく、都内の多くの駅前で見られるのだが、なんで鳥は駅のそばが好きなんだろう? それこそ公園に行けば大きな森も水場も餌場もあるのに、何もあんな殺風景でうるさいところに住まなくてもいいと思うが)

 ところが、今回気が付いたのだが、イギリスではそういう理由で木を剪定したりしないのである。したがって今ある木は勝手に伸び放題になっている。
 「今ある木」とわざわざ書いたのは、主としてイングランドでは放牧地を作るため、根こそぎ森を取り払ってしまったせいである。だからイングランドには森らしい森はほとんどない。去年も書いたように、ゴルフ場みたいできれいだけど、あれはゴルフ場のような人工の美なのである。スコットランドはそれほどではないが、緯度が高すぎるため、やはり大きな森は存在しない。
 とりあえず、確かに車で走ってるとあれは邪魔だねえ。私は今回ナビゲーターをやってたので、標識が木の枝で完全に隠れて見えなくてイライラすることが何度もあった。それでも木は切るべきじゃないと思ったけどね。標識が見えなきゃ速度を落とせばすむことなんだから。
 そういえば、こういうふうに自然のままに高くそびえる木って、東京じゃあまり見ないなー。明治神宮とか早稲田大学とかでは見られるけど。早稲田の構内には10階建ての校舎よりも高くそびえる木がたくさんあって、あれは見てるだけでも気持ちが良いので、私は休み時間はなるべく外のベンチで過ごしているぐらいだ。
 ただ、上に書いたような理由で、大きい木なら北海道の方がたくさんあると思うんだけど、石神さん。

インヴァレリー城と、グレンコーの大虐殺と、謎のお兄さん

インヴァレリー城
写真がいまいちだが、城内は撮影禁止だったので、これはオフィシャル・サイトから持ってきた。
配置の仕方が印象的な武器ホールの写真。
こちらは寝室のひとつ。布がタータン。

 走っていくとインヴァレリー(Inveraray)という湖(海? 川? もうなんでもいいや)に面した町に出た。湖のほとりにフェア(移動遊園地)ができていたりして、わりと観光地っぽい。でももちろん日本の観光地よりはるかにステキだし、人出も多くて(と言っても日本の感覚だと過疎に近いが)なんかワクワクしてくる。そばにインヴァレリー城というお城があり、なかなか立派そうだったので行ってみる。
 しかし、幽玄な雰囲気の北部から、南部に向かうに従って人が増えて、にぎやかになってくるなあ。

(注) このInverarayの発音がわからなくて困ってたんだけど、ほんと便利な世の中になったもんで、このForvoというサイトへ行って綴りを入力すれば、世界中のあらゆる言語のあらゆる単語の発音を音声で聞かせてくれる。ばかりか地方ごとの訛りまで聞けるってすごいな。ためしに「Junko」って入れてみたら、ちゃんと日本人女性が発音していた。
 しかし「今日の言語はグジャラート語」って、グジャラートってどこだよ? 私も人よりは物を知ってるつもりだったが、知らないことはたくさんあるなあ。
 (と思って今日の新聞の経済面を広げたら、グジャラートの記事だった。インドの州なのね。うーんやっぱり世界って小さい?)

 ここはキャンベル氏族の本拠地で、今はキャンベル族の本家筋にあたる、アーガイル公の居城になっている。(ここのところ、もらったパンフレットを読みながら書いている) (アーガイルはキャンベルの領地だったここら一帯を表す地名で、その領主なのでアーガイル公爵なわけ)
 門の前には巨大な駐車場があり、庭師など大勢の人が働いているのが見える。ここはなかなかはやってるな。ドナルド一族負けてるじゃん。と書いてハッとした。ということは、私たちはグレンコーの大虐殺の下手人と被害者の両方の城を訪れたことになるんじゃ‥‥

 グレンコーの大虐殺とは、1692年、当時グレンコーに居を構えていたマクドナルド一族が、キャンベル一族に虐殺された事件。もちろん裏で糸を引いていたのはイングランドだが。
 この年、イングランド王ウィリアム3世に対する臣従の誓約書にサインするよう(もちろんサインしなければ叩き潰すという脅し付きで)求められたハイランドの各氏族が、それに署名しようと集まったのだが、土壇場になって署名場所を変えたり、わざと途中で足止めしたりという汚い手と大雪のせいで、マクドナルドだけが期限に遅れてしまう。
 それを口実にマクドナルド一族の粛清を命じられたのが、イングランドの手先で、なおかつマクドナルドの仇敵であったキャンベルというわけ。それは70才以下のマクドナルドは全員殺せという非情な命令だったのだが、何も知らないマクドナルドは訪れたキャンベルを客として歓待し、家に泊まらせる。そしてみんなが寝静まった真夜中に殺戮が始まった。
 その様子を描写した「グレンコーの大虐殺の歌」の翻訳が日本語版Wikiに載ってたが、あまりにいい歌なんでここに引用させてもらおう。

(おお、極寒の雪は
グレンコーの谷を浚い
ドナルドの墓を覆う
そして非情なる敵は
グレンコーの地を破壊し
マクドナルドを滅ぼした)
(以上繰り返し)
彼らはブリザードを越えてやって来た
彼らに暖かい火を与え
風雪をしのぐ宿を与え
乾いた靴を与え
ワインと夕食を与えた
彼らは我々のもてなしを受け
マクドナルドの家で眠った
(繰り返し)
彼らはフォート・ウィリアムからやって来た
殺意をその胸に秘めて
命じたのはキャンベル
署名したのはウィリアム
すべてを切り捨てよと
マクドナルドを生かしておくなと
(繰り返し)
彼らは夜、やって来た
皆が眠りについたとき
アーガイルの軍隊が雪の中から現れた
無防備な眠りに襲いかかる狐のように
ほしいままに殺戮を
(繰り返し)
ある者は敵の手にかかり
ベッドに骸を横たえ
ある者は夜闇にまぎれ
雪の中に斃れた
ある者は生き残った
ウィリアムに一太刀報いるために
けれどもマクドナルドはもう戻らない

 おおおおお! これはまるで『氷と炎の歌』の、結婚式の夜のスターク一族大虐殺の場面そっくり!!!! いや、むしろラニスター家によって全滅させられたキャスタミアのレイン家か。
 というか、いつも言うように、あの小説がこういう歴史を下敷きにしているのだが、あの小説はあまりにも好きで好きで何度も読み返しているので、なんだか現実の歴史のような気がしてしまうのよ。しかし、今まではイングランドの歴史に重ね合わせて読んでいたが、(実際、重なるところが多いので)、あのハウスとかっていかにもクランっぽいし、中でも最北の地を支配するスタークはまるでハイランダーだよね。うんうん、今後はスタークをマクドナルドだと思って読もう。
 なにしろクランの長たちが署名のために最初に集まった場所がフォート・ウィリアム、最終的に変更された場所がインヴァレリーだというから、まさしくこの場所じゃないか。出てくる地名も私たちが通ってきたところばかりで、文字通り歴史の中を通ってきた気がする。ろくな計画もなく、下調べもせず、ほとんど行き当たりばったりに行き先を選んで旅してきたのに、偶然立ち寄ったところが大当たりってどうなってるの?!
 というのも、私はヨーロッパのこういった歴史が大好きで、そもそもなんでそういうのに興味を持ったかといえば『氷と炎の歌』のせいで、去年のヨーロッパでとことん中世にこだわったのも、リアル版『氷と炎の歌』の舞台が見たかったせいだった。まあ、それなりの収穫はあったが、私が本当に求めていたものはやっぱりヨーロッパじゃなくて、ここハイランドにあったのだ。(グレンコーの虐殺は中世のできごとじゃないけどね) どうして最初から回り道しないでスコットランドに来ない! 私のバカバカ!
 と、つい逆上してしまったが、これでなんかひとつずっと気にかかっていた使命を達成した気になったよ。ありがとう。

 ところで現実には、この歌みたいにマクドナルドが全滅したわけではなく、ほとんどの者が逃げ出して助かったらしいが、あまりに汚い姑息なやり口と、女子供も巻き込んだ無差別殺人というところが悪評高く、クランの中で未だにキャンベルが嫌われる原因になっている。そこでこれから、その極悪人の親玉アーガイル公の根城に突撃して参ります(笑)。

 が、その前に、石神さんがトイレに行きたいというので、それを待っている間、私は地下のギフトショップでこの城のガイドブックを見ていた。すると、カウンターにいたハンサムなお兄さんが、ニコニコしながら、「それ、僕の奥さんが書いたんですよ」と言う。とっさのことで、私は面食らって、なんと返していいかわからなかったから、「へえ、そうなんですか。すごいですね」と答えたのだが。

 城内見学を始めると、あっちこっちにまだ20代とおぼしき現在の当主と奥様の写真が飾ってある。でも、この人、もしかしてさっきの売店のお兄さん???

 まあ、よく似た他人という可能性も捨てきれないが、たぶん間違いない。レジのお兄さんの奥さんが本を書くよりも、城主の奥さんが書くほうがまだ可能性が高いし。そう思えば、ずいぶん品のいい男性だったし。英国貴族も今はなかなか家計が苦しくて、特にこういう立派な城を持った人ほど、維持費捻出のために働かなければならないことは知っているし。それを思えば、城主さまがギフトショップで本売っていても少しもおかしくないのだが、証拠がないんでどうにもイライラする! あのガイドブックが手元にあって、著者がアーガイル公爵夫人になってれば間違いなのに! 欲しかったのだが、重くて高い本なので、私は買えなかったのだ。
 しかし仮に、あのお兄さんが本当にアーガイル公だったとしたら、私、ものすごーく間抜けなレスポンスした?

 とりあえずあのお兄さんの正体は別としても、写真で見てもおっとりとした優しそうな人で、さすがに300年の間にはずいぶん角が取れて大人しくなったものだ(笑)。(ちなみにキュートな奥様は、チョコレートのキャドバリーの社長令嬢だそうだ)

 すっかり話がそれてしまったが、かんじんのお城の話。小尖塔の付いた外見はまんまお伽話のお城でかわいらしいし、中もきれい。王室所有の城ほど絢爛豪華ではないが、むしろこれぐらいが住みやすそうでいいな。あとやっぱりベッドまわりの布類がタータン柄だったりするとうれしくなる。タータンかわいいよ、タータン。

再びスコットランドについて

 とにかくここまででも私は大満足。だけど、同行者はどうかな?と思っていたら、石神さんのほうがスコットランドに夢中になってしまったのは意外だった。私はいつも自分のことをイングランド愛国者と言っているが、石神さんのほうがよっぽどスコットランド愛国者。だって、スコットランドの国旗見ただけで目の色が変わるし、あのでかい国旗を買って帰るなんて言い出すんだもん(笑)。おみやげもとことんスコットランドにこだわって選んでるし。
 スコットランドを見ただけで、「もうイングランドなんかどうでもいい」と言ってるが、いやいや、あなた、それはまだイングランドを何も見てないからですよ。
 私に言わせると、ぜんぜん違うけどどっちもいい。ひとつの国の中で両方見れるなんて、なんとぜいたくな国だ。いや、ウェールズはまた違うらしいから、一粒で三度おいしい。これだからイギリスはやめらない。
 景色もすばらしいが、やっぱり人もいいね。田舎なせいか、人ものんびりして純朴で人なつっこくて、とにかく親切。イングランド人は冷たいと言われるが、(冷たそうに見えて実は親切なところがいいんだが)、スコットランドは人もほのぼのあったかい。
 やっぱり北はいいなー。とか言って、北欧にはまったく惹かれないんだけど。
 あー、こういうところに住みたいなー、と言うとやるせなさで泣きたくなるので言わないが、住むならやっぱりイングランドよりスコットランドかもしれない。中村俊輔(サッカー選手)なんか残留の話もあったのに、なんでスコットランドを捨ててスペインなんか行ったのか理解できないよ。

 そういや、今年はサッカーの話が出なかったが、グラスゴーではセルティックとレンジャーズ(スコットランド・リーグの2強チーム。どっちもグラスゴーが本拠地で、中村俊輔は長いことセルティックのスターだった)の、それぞれのオフィシャル・ショップを見かけた。オランダ行ってもサッカー・ショップなんか見つからなかったのに!(あったらVVVの本田のユニフォームを買おうと思っていた) ここでもやっぱりサッカーは生活の一部って感じね。

観光地のサービスとスコットランド人の愛想の良さについて

 こういう「観光地」に行くと、いかにもうんざりした顔つきと態度で、いやいや仕事している感じの従業員が必ずいるもので、私が観光地を嫌いなのもそういうのを見たくないからだ。そういうのいません? 客が入っていっても無視してペチャクチャしゃべってる姉ちゃん店員とか、ぶっすーとした顔つきのもぎりのおばはんとか、ありがとうも言わない食堂のじじいとか。
 逆に変に愛想のいいのもいやだけどね。高級ホテルの従業員なんて慇懃無礼としか思わないし。
 もっともそういう人たちは、おそらく働いていても少しも幸福じゃないのだから、むしろ気の毒に思うべきだ、と、教師をやっていても少しも幸福じゃない私は同情する気にもなるのだが。逆に店の仕事はやっていて心から楽しかったから、店のお客さんにはめちゃくちゃ親切で愛想が良かった(笑)。実際、そのおかげで世界中にこれだけ友達たくさんできたしね。石神さんももちろんそのひとりだけど。

 というのは、自分が行ったことのある日本の観光地を思い浮かべながら書いていたのだが、スコットランドではそういう人を一度も見たことがない。いちばん態度が悪かったのは、オーバンのB&Bのおばさんだが、あの人にしても態度が悪いと言うより、移民だからああいう話し方しかできないんだと思う。
 とにかくスコットランドではほとんどどこへ行っても、老若男女の誰もがにこやかで親切で、いかにも仕事を楽しんでいるという感じなのに感心する。駐車場で切符のもぎりをやっているおじいさん(およそこんなに退屈な仕事はないだろうと同情するが)ですらそうだ。
 実はこれは初めてイングランドに行ったときも驚いたことだ。イギリス人は冷たいなんて誰が言ったんだ?という感じで、本当に縁もゆかりもない人たちに至れり尽くせりで助けられて、なんとか1か月を過ごした感じ。とりわけロンドン初日だった深夜のアールズ・コートで、「女の子だけじゃ危険だから」と言って、来ないタクシーを何時間もいっしょに路上で待ってくれて、名前も告げずに去っていったサラリーマンのおじさん、あなたのことは忘れません。
 それでさすが観光立国は違う、よそ者に対する親切さが違う、と感心したんだけど。だからそれはヨーロッパ本土にも言える。でもそういうところにも、感じの悪い店員とかは必ずいるのに、スコットランドはそういう人がほとんどいない。やっぱり田舎だから人が良くてストレスないせいかなあ。

 ところが奇妙なことに、外人から見ると、日本の接客業者ってみんながにこやかでサービス満点の国ってことになってるんだよね。まあ、その理由はすぐわかるんだ。それは彼らが外人(白人)だからで、日本人は白人と見ると態度が変わるから。私は外人のお客さんをどこかに連れて(または連れられて)行くことが多いからわかるんだけど、白人連れだと、高級ホテルでも、近所の店でも、おもしろいほど店員の態度が変わる!
 今でもそういうことがあるんだから、昔はもっとすごくて、30年前の箱根で、父の取引先のオーストラリア人社長夫妻といっしょに高級ホテルにランチを取りに入ったときなんか、コーヒーを注ぎに来たウェイターは緊張のあまり手がガタガタ震えて、コーヒーを全部こぼしちゃったぐらいだ。
 ま、私はそもそも日本人とその他を差別するような従業員が嫌いだけどね。

 でも同じことが逆の立場でも言えるかもね。つまり私が親切にしてもらえたのは、私がこっちでは外人、それもめずらしい東洋人だからかも。そう言うと、「でも日本人なんてどこへ行っても掃いて捨てるほどいるじゃない」と思われるかもしれない。まあ、ソウルとかハワイとかは知らないが、少なくともヨーロッパではそんなことない。去年はあれだけあっちこっち回って、日本人を見かけたのは2、3回、それもブリュッセルだけだったし、今回も人でごった返すロンドンは別として、グラスゴーで数回ぐらいだったな。田舎ではまったく日本人なんて会わない。
 そういやグラスゴーではむしろ、町を歩いていて、現地民に、“Chinese?”とか声をかけられるのに驚いたな。イングランド人は観光客にそんな気軽に声をかけたりしないので。やっぱり東洋人がめずらしいからじゃないのか?

 とにかくサービスや愛想の良さは、圧倒的にスコットランド>イングランド>ヨーロッパ本土ですよ。その意味でもスコットランド大好き。

《蛇足》

 よけいなことだけどもうひとつ。私は「イギリスでいやな思いさせられるなんてありえない!」と、さんざん吹聴しているが、ネットとか見ていると、「イギリス(ドイツでもフランスでも適当に入れ替えて)で死ぬほどいやな思いして、もう二度と行かない!」と言っている人もいるのは事実。確かにいやな奴や犯罪者はどこの国にもいるし、そういうのに当たっちゃったらお気の毒で、不運としか言いようがないが、たいていの場合、他の国は知らないが、少なくともヨーロッパでは自業自得だと思うね。
 私も向こうで、殴り倒してやりたいと思うような傍若無人な日本人見るもの。向こうの奴はそういうときあまり遠慮しないので、殴り倒されても文句が言えない(笑)。
 あとは言葉の問題だね。言葉ができないばかりに、自分では知らずに、相手にすごい無礼な態度を取ってる人とか。だから学生にも、「他はぜんぶ日本語で通してもいいから、thank you、sorry、excuse meの正しい使い方だけは覚えていけ」って言ってるんだ。(それすら知らない学生多数ってところがあれだが)
 その3語をちゃんと使うだけでもかなり違うけど、それに加えて、英国流のややこしい舌噛みそうな丁寧語が使えるようになると、少なくとも英国では確かに相手の態度がガラッと変わるよ。何か頼もうとして、「ああん?」と見るからにいやな顔されても、こちらが落ち着き払ってていねいに話しかけると、相手もすっと背筋が伸びて丁重な態度に変わるもん。
 ここらはいかにも階級社会ね。つまり、そういう言葉遣いができる人は上級階級→上流階級に対しては卑屈になるというのが、理屈とは関係なく肌にしみついてるような気がする。まあ、この辺は私の偏見かもしれないので、あまり真に受けないでほしいんだけど。まあ、他のヨーロッパ諸国はともかく、イギリスでは誰にでも礼儀正しく接するのが吉。原則としてちゃんとした人間はちゃんとした扱いを受けるから。

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