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2010年8月19日 木曜日

旅行記

望郷のスコットランド旅行記 Part 3

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食べ物の話

これが定番のイングリッシュ・ブレックファスト (食べかけ)

 イギリス行くと食べ物も楽しみ。と言うと、イギリス人にも変な目で見られるが、私は本気でこっちの食い物がうまいと思うんですってば。
 イングリッシュ・ブレックファストがうまいという話はもう何度も書いたから省略。だいたい、日本でも私は朝食のほうが好きなので、朝食を時間をかけてたっぷり食べ、夜は軽食程度。(働きに出ている日も昼は食べない。1日2食が普通) だから朝飯がうまいというのは重要なのだ。

 それに忘れてならないお茶とクッキー。クッキーというのはビスケットの米語だと思っていたが、最近はイギリスでもクッキーという言葉を使っている。どうやら何も入ってないシンプルなのをビスケット、いろんなフレイバーの入った甘いのをクッキーと呼んでいるようだ。これはもちろん大量におみやげとして買い込んだ。
 私はお茶とクッキーさえあれば生きていけるというぐらい好き。ただ、クッキー自体はベルギーの方がうまいとは思うけど、こっちの素朴な味のクッキーもなかなか。いちばんヒットだったのは、マークス&スペンサー(高級スーパー)で買った柔らかいクッキー。中にリンゴやジンジャーの煮たのが入っている。私はカリカリのクッキーのほうが好きだったのだが、これは食べるとリンゴやジンジャーの香りが口いっぱいに広がって、それもしっとりした「具」が大きいまま大量に入っていておいしかった。
 イギリスのホテルでは、どこでも必ず部屋でお茶を沸かして飲めるというのがいいなあ。いや、日本旅館なら当たり前だけど、大陸ではひとつもそういうところがないんです。とにかくホテルに帰ればまずお茶を一杯、寝る前や起きたときにもお茶を一杯、そうでなくても一日中お茶を一杯が習慣になっている私は、本当にありがたかった。

左から、リンゴ、アンズ、グリーンゲイジ、それと「つぶれ桃」

 あと、フルーツがうまい。去年のヨーロッパ旅行記で、「私は果物のうまさは日本がいちばんだと思っていたが、考えを改めた」なんて書いていたが、例によって記憶力ゼロの私は、そもそも最初の海外旅行だったロンドンで、果物のうまさに感激したと書いたことを忘れていた。特にみんなが歩きながら丸かじりしている小さいリンゴのうまさに感動したんだっけ。
 ところで、石神さんは異常なまでのフルーツ好き。だからきっとこっちのフルーツが気に入るだろうと思っていたが、大感激してくれて、ほとんど三度三度フルーツを食べまくっていた。彼女のおかげで、私もひとりだったらおそらく手を出さなかっただろう珍しい果物を味見できた。
 初めてお目にかかったのは、小さな平たい桃。正式な名前は忘れたが、私たちは勝手に「つぶれ桃」と呼んでいた。桃を平らに押しつぶしたような形をしていて堅い。味は普通に甘くて、味が濃厚で、少しとろみがある。あと、やっぱり名前を忘れたが、緑色のプラムも甘くておいしかった。というか、何を食べてもおいしいんですけどね。
 (これは帰国後に判明したのだが、この緑色のプラムはグリーンゲイジといって、去年ベルギーで食べたレーヌ・ド・クロードと同じものだった! フルーツマニアの石神さんはあれを読んで「食べたーい!」と言っていたので、食べられて良かったね。あと、「つぶれ桃」は形や色はまったく違うけど、味や食感は日本の「黄金桃」とよく似ています)
 去年も買って食べていたフルーツカクテルも、日本のカットフルーツって、見た目もまずそうだし、見るからに、「売れ残りを切って詰めました」という感じで、ひからびて気が抜けたような味じゃない。だけどあれは切ったばかりのようにみずみずしくておいしい。いろんなフルーツのジュースがまざりあって、よけいおいしいし。それをどこの売店でも売ってるのがうれしい。
 不思議だなあ、イギリスなんて果物はほとんど取れなくて、すべて輸入なのに。

 お菓子もおいしい。さすがにスーパーで売っている子供向けの駄菓子(ものすごい着色がされていて、舌がしびれるほど甘い)には手が出ないが、ちゃんとしたお菓子屋さんで作っているお菓子はうまい。私は日本人の好きな「甘すぎないケーキ」に疑問を抱いていたのだが(だって甘くないクリームなんてただの脂肪のかたまりじゃん)、石神さんも似たようなことを言っているのを聞いてうれしかった。
 ただ私の好きなアップル・クランブル(焼きリンゴをクリームであえた上にほろほろしたクラム(そぼろ)が乗っている)は、今回どこでも見かけなくて、キャロット・ケーキ(ニンジンの入った蒸しパンのようなケーキ。だけど味は濃厚。上に甘いアイシングがかかっている)ばかり食べていた。いわゆる日本風のクリームとスポンジの「ケーキ」があまり好きじゃないので。どちらも日本でもときどき売っているのを見かけるけど、日本のはまったくの偽物。本物は舌がとろけるほどうまいです。

 それにもちろんイギリス料理もけっこう好き。イギリス料理と言っても、フィッシュ&チップスとか、ソーセージとかパイとかプディングとか、日本人の感覚ではスナックみたいなものが多いが、予約のいるような高級レストランはいざ知らず、大衆食堂でも中級レストランでもパブでも、このメニューはたいして変わらない。もっとも高級レストランでもローストビーフにヨークシャー・プディングだから、基本はたいして変わらない。
 たぶん、イギリス料理をまずいという人は、高いお金出して高級レストラン入って、出てきたものがこういう料理とも言えないような料理(ローストビーフだってただ肉を丸ごと焼いただけだし)だから怒るんじゃないか? 私はうまいと思うけどなあ。内臓関係と血のソーセージだけは食べられないけど。
 やっぱり郷に入れば郷に従えで、土地の食べ物がいちばんうまいね。

 石神さんも最初はイギリス料理に疑念を抱いていたようだが、私が食べていたステーキパイ(ビールとグレービーで柔らかく煮たビーフの上にパイ皮の蓋がかぶせてある)を試食してから考えが変わったようで、「おいしい! おいしい!」と言って食べていた。食べ物の好みまで合いますか? ほんとはイギリス名物はステーキ&キドニー・パイなのだが、私はキドニー(腎臓)が食べられないので、キドニー抜き。おしっこ臭いところがうまいとか??

 フィッシュ&チップスはさすがに脂っこすぎると敬遠していたが、分厚い衣のついたフィッシュはともかく、チップスはやっぱりベルギーのフリットよりうまいと思う。特にフェリーの上で食べたチップスは熱々で、洋上の風が冷たいせいもあり、おいしかった。

 あと、酒がうまい、そうだが、完全な下戸の私は飲めない。パブに入ってエールが飲めない、スコットランド行ってもスコッチが飲めないというのは、かなり損をしているようで悲しい。いけるクチの石神さんも、気の毒にドライバーなので飲めない。なんて、こっちの人に言ったら、「なんで?」と言われちゃうが、日本人はこっちの人間みたいにバカみたいに酒に強くないんですってば。
 その代わり、石神さんはビールを買ってホテルで晩酌、おみやげにアラン島のスコッチを買っていた。

 しかし、私は外国では(日本でもだが)我ながら悲しいほどの貧しい食生活を送っていて、まともなレストランなんかまず入らない。カフェ飯やパブ飯で十分。毎日サンドイッチでも平気。朝ご飯だけはイングリッシュ・ブレックファストをたっぷり食べるが、あとは適当にお腹が減ったらお菓子やフルーツやチップスをつまむぐらいで満足してしまうという安上がり人間なんで、同行者はたまらんだろうなあと、はじめは心配していた。石神さんが三度三度レストランに入りたがったらどうしよう? それだけで私はお財布がピンチなんだけど。
 ところがどういうわけか、いっしょに暮らし始めると、彼女も私の食生活に同化してしまったばかりか、私がうまいと思うものを「おいしい、おいしい」と食べてくれたのに感激。朝は必ず納豆とご飯という人がだよ! 「日本食食べたいなんてぜんぜん思わない」とも。適応力があるっていうか、この人はとりあえず果物さえ食わせておけばなんでもいいような気がするが(笑)。

 というわけで、2人とも失敗だったと思ったのは、インヴァネスで入ったインド料理店。その前に、私が大衆食堂へ入ろうと誘ったのだが、「こっちのファミレスみたいなもの」という私の説明が悪かったのか、彼女がカレーが食べたいというので、ちょっとこじゃれたインド料理のレストランに入ったのだ。もちろんインド料理は英国の定番だからいいんだけど、前に一度ロンドンでカレー食べて(そのときは大衆食堂で)ぜんぜんカレーじゃなかった経験があるので、どんなものかしら?と思っていた。
 いちばん無難そうということで、私が頼んだのはチキン・マサラ。ところがこれ、私が西葛西(ほとんどインド人街と化している)でいつも食べているのとはずいぶん違って、ヨーグルトの味が濃すぎて甘ったるい。そういえば、インドからの輸入のレトルトカレーを食べてみたときも、こんな感じの味だったから、もしかしてこっちのほうが本場の味なのかもしれないけど、どうも私の口には合わなかった。(ちなみに大衆食堂で食べたビーフカレーは、カレー粉の入ったビーフシチューでした) 西葛西の店も客はほとんどがインド人なんだけどなあ。インドと言っても広いので、地方によってだいぶ味が違うのかも。
 石神さんの頼んだやつのほうがおいしいと思ったが、彼女もあまり口に合わなかったみたいで、「やっぱりイギリス料理にしておけばよかった」と。
 とにかく、やっぱり外地では現地の人が食ってるものがいちばんうまいです。

グラスゴー

グラスゴーの広場、ジョージ・スクエア。ホテルはこのすぐ裏にある。

 グラスゴーは車で初めて行く大都会なので、石神さんはピリピリしていたが、何の問題もなくあっさり空港に到着。Hertzの営業所もすぐに見つかって、無事到着、と思ったら、またも車を返す場所はここではなく、営業所で地図をもらったにもかかわらず、空港周辺を何度もぐるぐる走り回るはめに。だって看板も出てない、空港の駐車場の一部みたいなところなんだもん!

 ここからはバスで市内に向かう。バスがしずしずと市街に入っていくと、万感の思いがぐっとこみ上げてきた。おおお、帰ってきたよ、グラスゴー!
 帰ってきたような気がするのも当然。地図を見るとホテルのすぐそばにはKillermont Streetが走り(Aztec Cameraの曲に、“Killermont Street”という「ご当地ソング」があるのだ)、目を上げればEast Kilbride行きのバスが走っているんだもん。(Aztec CameraのRoddy FrameとThe Jesus & Mary Chainのリード兄弟の生まれ故郷がEast Kilbrideなのだ。ただのベッドタウンなのは知ってるから、行ってみようとは思わないけどね。でも20年前なら迷うことなく行ってた)

 グラスゴーの市街は写真やなんかでみたまんま。ロンドンの建物は白いのが多いが、こちらは赤い石を使った建物が多く、そのぶんロンドンより古びてくすんだ感じ。だけど、近代的なビルが多いのもロンドンと違う。(ロンドンもテムズ南岸はそういうビルが増えてきたが) もちろん、町としてはエジンバラのほうがずっときれいなのは知っているが、きれいとかなんとかいう問題じゃないの。ここが私のふるさとなんだから。

グラスゴーのラマダ・ホテル。
ラマダ・ホテルの豪華な四柱式ベッド。部屋の広さもここに写ってるのの4倍はある。
踊る女の子たち

 予約してあったラマダ・ホテルは町の中心にあった。インヴァネスで予約するときは、ハイランドのホテルのことだけで頭がいっぱいで、選ぶ余裕などなく、料金だけ聞いて、「はいはい、それでけっこうです」と決めちゃったのだが、来て初めて知ったのは、これって近代的なアメリカ式のホテルだったのね。そういうのは避けるつもりだったんで、ちと残念。
 だけど部屋は広々として超豪華。うちのマンション(の全部)と同じぐらい広い部屋の真ん中に、でーんと四柱式のダブルベッドが鎮座している。これまでのダブルベッドは日本式のダブルベッドだったが、これは日本で言うキングサイズのダブルベッド。デスクにコンピューターまで備わってるし、すごーい! (あとから調べたら、ダブルじゃいちばん高い部屋だった。でもそれに予備のベッド入れて95ポンドだったから、やっぱりロンドン以外は安い!)

 「え?」とここで気づく。ダブル? ツインで取ったはずなのに、また! すぐにフロントに降りて苦情を言うと、「エキストラベッドをご用意することになっているんですけど、まだ用意してありません?」 ああ、そういうことか、ツインルームがいっぱいだから、ダブルの部屋に予備のベッドを入れて無理やり2人泊まらせるわけね。そういうのって予約の時点では何も教えてくれないんだな。

 とにかくあとで人を行かせるというから、その間、町を散策する。エジンバラ・フェスティバルほどではないとはいえ、ここでも夏のシーズンだからか、町の広場で何かの催しが行われて、人だかりがしている。
 何かと思ったら、いずれもスコットランド名物の、バグパイプ・バンドの演奏ハイランド・ダンスハイランド・ギャザリング(伝統スポーツの大会。屈強な大男たちが丸太投げなどで力を競う)などの模範演技を見せているらしい。
 私たちが行ったときにはちょうどバグパイプの演奏が終わり、ダンスと砲丸投げみたいなのが始まったところだった。
 ダンスを踊るのは民族衣装に身を包んだ、ほとんど子供と言ってもいいぐらいの若い女の子たち。これはなかなかおもしろかった。
 文化的に近いせいか、アイルランドのあの踊り(リバーダンスとかの)によく似ているが、アイルランドのあれって、世界一滑稽なダンスだと思うんだよね、私。激しく踊っているにもかかわらず、上半身は直立不動で、完全な無表情ってのがすごい変だし。それにくらべ、こちらは上半身も使う。激しいところはいっしょで、バレエのようにつま先で立って踊る部分が多いし、すごく疲れるしむずかしそうだと思った。

 ホテルへ戻ったが、まだベッドの用意はできていない。催促すると、フロントの女の子は「ご覧の通り今、チェックインが立て込んでおりますのでもう少しお待ち下さい」。もう疲れてるので早くくつろぎたいのに、人が来ると思うといつまでも休めない。ちっ、これだからシティ・ホテルはいやなんだよ。高い料金取るんだから、そういうサービスぐらい迅速にやれよ。というのが顔に表れてたのだろう。隣にいた男の子が気をきかせて、「これ済ませたらすぐに行くから、部屋で待っててください」 この子がいかにも気だてがよさそうだったおかげで、スコットランドの評判は傷つかないままだった。
 それでやってきた男の子は、ソファを解体してベッドを作り始める。なーんだ。ソファベッドだったのね。誰がどっちで寝るかという話になったが、これまでは私の方が体が大きいからという理由でダブルを使ってたので、ここでは石神さんにダブルを譲って、私はソファベッドに寝た。これだって普通のダブルの広さだし、十分寝心地良かったです。

アラン島

遅れてやってきたフェリー
フェリーで航行中。しかし、とてもスコットランドとは思えない天気。海が真っ黒く見えるのは日射しが強すぎるから。
うわー、すごい太陽! 見ているとあの暑さを思い出す。と言っても23度ぐらいですが(笑)
実際、写真で見ると、不思議と冷たい感じに見えるからおもしろい。
アラン島民俗資料館。
あいにく、デジカメのメモリがいっぱいになってしまったのでアラン島内は写真なしです。

 ホテルに着いてから考えた。明日は電車に乗ってヨークに行って1泊するつもりでいたが、まだスコットランドを離れたくない! 石神さんも同じ気持ちらしい。それに彼女はアラン島へ行きたがってるし、私はチャールズ・マッキントッシュがらみの場所をまわりたい。1日足らずでそれを両方ともやるのはまず不可能。
 うーん、スカイ島が良かったから島はすごい魅力なのだが、私としてはマッキントッシュも外せないしなあ。別行動にしては?とも提案したが、さすがにそれはちょっと無理そう。
 だったらここにもう1泊すればいいじゃない。というので、ヨークはあっさり削除。ほんとはヨークも魅力だっただんだけど、それはまたの機会でいいさ。そこで明日はアラン島へ行き、マッキントッシュは半日で十分だから、あさってということに決めた。
 さっそくフロントに聞いたが、明日は満室だそうだ。しかたがない。またインフォメーションに行ってホテル探しだ。

 翌日、これもすぐ近くにあるインフォメーションに行く。さすがにグラスゴーだとホテルがないなんてことはなく、今いる場所から歩いていけるところにホテルが見つかった。これもシティ・ホテルだがしょうがない。あの重いスーツケースを引きずっていかなきゃならないんだからね。
 そこでアラン島(Isle of Arran)へ出発。アラン島へは国鉄でアードロッサン(Ardrossan)まで行き、そこからまたフェリーに乗って島のブロディック(Brodick)というところに渡る。

 天気は快晴! うーん、スコットランドらしくない。だいたい暑い! と言っても、せいぜい23度ぐらいなのだが、ハイランドの気温は15度かそこらだったので、よけい暑く感じる。おまけに私は昨日あたりから膝がまたひどく痛み始めている。まあ、いいや。アラン島では島巡りの観光バスに乗っちゃうから、歩かないですむし。

 フェリーはスカイ島で乗ったのと同じ会社だが、切符を買いに行くと、船が遅れていて、次の便はいつ出るかわかりませんと来た。はいはい、いつものことだからちっともあせりませんよ。ここは腰を落ち着けて待つしかない。予定を1時間以上遅れてやってきたフェリーは、距離が長いせいか、スカイ島で乗ったのよりはるかに大きい豪華船だった。
 乗り心地は最高だし、天気は最高だし、ここまではOK。

 ところが、着いてみたら島内周遊の観光バスは運休! フェリーが遅れたから運休なんだって。何それ! ああー、車ならこういう心配しなくていいのに。路線バスに乗るという手もあったのだが、私は暑さと疲れでまったく頭が働かず、地図で見ると比較的近いと思えたブロディック城まで歩いて行こうということになった。
 それでカンカン照りの太陽のもと、海辺の道を歩き始めたのだが、行けども行けども城は見えてこないし、私は急速に体力消耗して、とても行き着けそうにない。石神さんはお城を見たかったようだが、ごめんなさい、もう無理です。

 それでも途中にあった民俗資料館に入った。資料館と言っても、古い民家や農機具なんかを展示してあるだけのひなびたところ。家の中に入るにはけっこうな料金を取るので、庭だけでいいですと言って、庭にあるカフェで一休み。
 間違っても外国人観光客なんかが来るところではなく、客はいかにも地元民という感じのくたびれた子供連れだけだ。親はへばって座り込んでいるが、子供たちは元気いっぱいに走り回っている。こういうところでやることもなくぼーっとしてるのもなかなかいいんだが。
 ここへ行く途中、小川があるのだが、そこで観光客がカモに餌をやっている。隣の民家の軒先に「カモの餌」の無人売店があるのだ。このカモはどう考えても民家の人が締めて食べるので、一石二鳥ってやつですか(笑)。

 あと、海岸通りにこじゃれたお菓子屋さんがあって、そこへ入ってケーキを買って食べた。

 帰ってから、アラン島の写真をあれこれ見て、激しく後悔。ここもこの世のものとは思えないほどすごい景色ばっかりじゃないですか! 景色だけならスカイ島よりいいぐらい。スタンディング・ストーンの古代遺跡もあるし、険しい山にも登れるし(これは足が大丈夫でもたぶん無理ですが)、なのにその百分の一も見れなくて、海岸線をちょびっと歩いただけで帰ってきたなんて。結局この日は、ほとんど一日かけてフェリーを待ち、フェリーで往復したようなものだった。
 足と膝はどうにもならないし、フェリーが遅れたのも不可抗力だから、しょうがなかったんですけどね。とにかくこれを半日で見ようなんて甘かった。それとやっぱり島は車がないとだめだとつくづく実感。ここはやっぱり2泊3日ぐらいかけて、車でじっくりまわるべき。また今度ね。でもその今度は二度と来ないのも現実だし、ああ‥‥

体調について

 今回は体調が万全とは言えなかった。かつてロンドンではインフルエンザで1週間寝込んだし、オーストラリアでも風邪ひいて医者にかかるはめになったが、病気が治りさえすればあとは元気いっぱいだったのに。なぜか私は外国に行くと日本よりはるかに体調が良く、日本じゃ考えられないほど行動力に満ちあふれてしまうのだが、今年はどうも勝手が違った。
 とにかく滞在中、ずっと膝と足が痛くて、思うように歩けない。本格的に膝をやってしまうと本当に歩けなくなってしまうので、それがこわくて無理ができないし。そもそも去年よりずっと軽いスーツケースを重いと感じた時点でなんか変だった。去年なんか今年よりどっさり服詰めて、おまけに(小旅行用の)キャリーカートまで引きずって歩いていたのに、重いなんて一度も思わなかったもんなー。
 やたら眠いのも変だった。時差ボケらしい時差ボケは感じなかったにもかかわらず、日中生あくびが出る。時差のせいで早寝早起きになるのはいつも通りだが、どうもよく眠れないし、寝起きが悪いんですわ。普段だと、日中運動するせいで夜はぐっすり、朝はパッと気持ちよく目覚めるのに。
 思うに、あの病気がまだあとを引きずってたんだと思う。(実際帰ったあとも病院通いですが) 病気で寝込んですっかり体がなまってしまったせいもある。そのあとも出発までずっとデスクワークで家に閉じこもってたし。それともやっぱり年なのかなあ。「動けるうちに行けるだけ行かないと!」とはいつも思ってるが、いくらなんでもまだ早すぎるので、やっぱり帰ったらトレーニングしなくちゃ。

 眠りが浅く、何度も目覚めるせいで、よく夢を見た。すべて旅行に関するというか、旅行をしている夢で、それもろくでもないトラブルに遭遇する夢ばっかり。帰国が近づいてくると、今度は帰国後にトラブる夢(間違えて旅行中に終了するオークションに入札していて、ネガティブ・フィードバック食らってたとか)ばかり。夢見も悪かった。

 くやしいなあ。体調さえ万全ならば、スコットランドにはウォーキングにぴったりのフットパスがたくさんあったのに。グレンコー歩いてみたかったよー!
 ただ、海外旅行に行くと食べ物が合わなくて胃腸をこわす人が多いが、私は胃腸だけはいつでも絶好調。おかげでモリモリ食べてまた太りましたが、つくづくこっちの水が合ってるとしか。

グラスゴー ティスル・ホテル

ティスル・ホテル

 とまあ、たいしたものも見られず、くたくたになってグラスゴーに帰ってきたのだが、このあとまだ難行苦行が待っている。ラマダに置きっぱなしにしてきた荷物を持って、今夜の宿ティスル・ホテル(Thistle Hotel=アザミ・ホテル。アザミがスコットランドの国花)まで移動しなくちゃならない。行く前から難儀だなあとは思っていたが、実際にやってみると想像以上の苦行だった。
 たいした距離ではないのだが、ラマダからはずっと上り坂なのである。しかもロンドンのデコボコの石畳では普通に転がったスーツケースが、道はそれほど悪くないのにいちいち引っかかって動かない。それを半分持ち上げて引きずりながら坂道を昇ると、膝が悲鳴を上げ汗がどっと噴き出してくる。すごい形相で歩いていたに違いなく、すれ違った通行人に「がんばれ!」なんて声をかけられた。そんなこと言うなら運んでくださいよー! ようやくホテルに到着したときは虫の息だった。

 このホテルも近代的なシティ・ホテル。プールやジムまであったらしいが、私はくたくたに疲れ果てていて、探検する余裕もなかった。
 これまでのホテルはすべて朝食付きだったのだが、朝食は20ポンドもする別料金で高いので、外で食べることにした。
 外の通りには安い飯屋がいろいろあったが、「イングリッシュ・ブレックファストもそろそろ飽きたので、スープが食べたいなあ」なんて話ながら路地をうろついていたら、スープの看板を出した店を発見。
 ここで食べたのは(イギリスのスープは飲むものではなく、「食べる」ものです)ニンジンとコリアンダーのスープ。それにハーフサイズのサンドイッチがセットでついてくる。スープはコリアンダーの香りが効いていてうまかったし、サンドイッチもおいしくてお腹いっぱいになった。ほんと、スープは外れがないなあ。ただこっちでスープを食べると、たいていこういうドロッとした裏ごし野菜みたいなスープなのだが、どうしてこういうのが日本じゃないんでしょうねえ。

こちらも豪華なティスル・ホテルの部屋
(写真がなかったのでホテルのホームページから。私たちの部屋はシングル2台だからこれよりちょっと小さいけどほぼ同じ作り)

天候について

 旅行から戻ると必ず訊かれるのが、「お天気どうだった?」という質問だが、今回の私の答はおそらく、「うーん、ちょっとー‥‥」。というのも、晴れてばっかりだったから。
 なんと今回の英国はやたら好天につきまとわれた旅行だった。「好天に恵まれた」じゃないのかって? 確かにこれがイギリス人やベルギー人なら目を輝かせて、「もう最高!」と言うところだが、私は違う。そもそも太陽を求めてイギリスに行くやつがどこにいる! 太陽なら東京にいても、いやってほど浴びられる。(「あぶられる」というのが正しい) むしろ太陽から逃げたいからこそ北国に行くのにー! だから私的には「つきまとわれた」としか言いようがないのだ。

 去年のヨーロッパでは1日1回は必ず雨(それもたいていはどしゃ降り)に降られたし、スコットランドはイングランドよりさらに雨が多いって聞いてたし、当然毎日雨降りを期待して行ったのに。(嵐も多いって聞いたしね)
 ところが2週間の滞在期間中、傘をさした日は一日もない、というだけでもどれだけ異常気象かわかるでしょう。(行く前にイギリス人と話したときは、1週間スカイ島にいて、一日だけは晴れた、というのを自慢げに聞かされた) 正確にはロンドン初日だけは雨だったのだが、このときはスーツケース引きずって、でかい手荷物持ってたから、傘をさす余裕がなく、石神さんのレインコートを借りた。でも、その後はせっかく持っていった傘は出番もなく、スーツケースの底に眠ったまま。
 百歩譲って雨が降らないのはいいとしよう。だけど、曇り空はガチでデフォルトでしょうが、イギリスの場合! ところがスコットランドでさえ太陽が出てるって何?
 用意のいい石神さんはちゃんとサングラス持参で来ていたが、私は去年こそサングラスを持っていったものの、「いくらなんでもイギリスでサングラスはいらんでしょ」と置いていったのだ。私は近視なので、サングラスも度入りでないと見えないから、そこらで買うわけにもいかないし。本当に後悔。アラン島なんてまぶしすぎて何も見えなかったよ。東京と違って空気が澄んでるせいか、それとも普段が暗いからか、いったん太陽が出るとまぶしさが半端ないんだよね。

 やっぱり地球温暖化というか異常気象なのかなー。そういえば、去年のロンドンの暑さ(これも一日だけだけど30度越えた)も異常だったし。今年は高くても25度で、まあましだったけど。(それにこっちは雨でも湿度が低いので、普通は暑さというものは感じない) それでも15度のスコットランドから降りてくると、暑いと感じた。いや、その頃の日本の殺人的暑さは知ってるので、ぜいたくは言えないけど。
 ロンドンでは天気さえ良ければ昼間は半袖でも過ごせるぐらい。さすがに朝晩は冷えるので、みんなセーターを腰に巻いてるけど。暑いのは地下鉄だな。冷房なんてないから、ラッシュ時はさすがに暑い。というか、どこへ行っても冷房なんてないから、いつだったか連日30度になった夏は死んだらしい。

 一方のスコットランド。なにしろ去年、9月初旬とはいえ、オランダ・ベルギーで凍死しそうになったから、寒さは大いに警戒していた。なにしろ緯度はそれよりはるかに高いっていうか、ほとんど北極圏に近い上に、いちおう高地(ゼロメートルのオランダ・ベルギーに較べれば)だからね。その一方、グレート・ブリテン島は全体が暖流に囲まれているので暖かいということも知ってたんだけど。ということはつまり、相殺し合って、去年のオランダぐらい? とは思ったけど、どんな場合にも対応できるように、何枚でも重ね着できるような服を持っていった。
 すると、さすがにハイランドは涼しく、特に山の上はかなり空気が冷たかったが、去年みたいに骨まで凍えるってことはなかった。むしろこのぐらいの寒さは気持ちよくて歓迎って感じ。ほとんど車で移動してたせいもあるけどね。でも実際の気温は去年のオランダぐらいだったと思うの。だけどヨーロッパみたいに底冷えしない、マイルドな寒さ。これも大陸と島との気候の違い。これなら真冬のスコットランドでも行ける。(たぶん。っていうか、イギリス人は「ぜんぜん平気」って言うけど、あいつらの耐寒性能、異常だしな) 逆に真冬のヨーロッパは、スペイン・イタリア以北は死んでも行かない!

(とか書いてたが、この冬のヨーロッパは大寒波に襲われ、イギリスも雪と氷に閉ざされた。やっぱり気候おかしいわ)

チャールズ・マッキントッシュ詣で

ケルビングローブ(以下略)博物館の壮大なファサード
博物館のメインホール
ハギス(右)とその想像上の本体 (Wikipedia
マッキントッシュの部屋 (scotiana.com)
ここにある家具調度・美術品はすべて彼のデザイン。

 翌日は、私の希望通りマッキントッシュ詣で。と言っても、こっちに来てから調べたのだが、彼が建てた建築物はグラスゴー周辺のあちこちに散在していて、とても半日では回りきれない。
 そこでマッキントッシュ作品を多く所蔵しているというKelvingrove Art Gallery and Museum(長くてめんどくさいので、以下、ケルビングローブ博物館と省略)と、グラスゴー大学の中にあるマッキントッシュ・ハウス(大学付属の美術館の中にマッキントッシュの自宅を再現したもの)に狙いを絞る。建築だけじゃなく、家具やデザインも魅力だからね。それに私が興味があるのはエクステリアよりインテリアだし。
 そもそも私がマッキントッシュを知ったのは、シムピープルを通じてなのだ。なにしろシムピープルのオブジェクト作者は世界中にいるので、世界の名建築や有名な家具のたぐいは必ず作ってくれる人がいる。それで例の椅子や絵を集めているうちにマッキントッシュに興味を持ったわけ。そのマッキントッシュがグラスゴー出身となれば、これはもう見るっきゃないでしょ。

 大学や博物館には地下鉄で行った。ロンドン以外ではイギリスにある唯一の地下鉄だ。でも環状線の一路線しかなく、私はブリュッセルの地下鉄を思い出した。

 ケルビングローブ博物館は巨大で立派な建物だ。もっともロンドンの博物館はみんなそうだから、今さら驚かないけど。
 ただ、ここは展示に工夫を凝らしてあって、それがすごく新鮮でおもしろかった。普通だと、「東洋美術」とか「15世紀フランドル絵画」とかいうふうに、地域や時代ごとに分類してあるじゃない。ところがここはそういうのがすべてごたまぜ。地域や時代と関係なく、テーマ別に分けてあるうえに、美術館と自然史博物館の両方を兼ねている。長ったらしい名前もそういう意味らしい。
 古代から現代まで時代も場所もごちゃまぜで、古代の発掘物もファインアートもダイソンの掃除機(インスタレーションとかじゃなくて掃除機そのもの)もいっしょくたに並べてあるのが、おもしろい。
 たとえば、「戦争」がテーマの部屋では、戦争を描いた絵画の隣に鎧兜(西洋の甲冑だけじゃなく日本の鎧兜も!)が並んでいるかと思うと、「動物界の甲冑」として、アルマジロの剥製がいっしょに展示してあったりする。
 最近はやりの触れる展示や体験型の展示も多く、これなら子供でもお勉強になるし楽しめそう。

 笑ったのは「スコットランドの動物」のところにハギスがいっしょに展示してあったこと。そう、あの食べるハギスです。それで解説にはもっともらしく、「ハギスは短い足で野山を駆け回る動物だと信じている人もいますが、多くの人はおいしい食べ物だと考えています」なんて書いてある。
 私は冗談だと思って、お堅い博物館にしてはやるなと思っていたが、帰宅してからWikipediaで調べると、ほんとにハギスという想像上の動物(ツチノコみたいな)がいて、その肉と考えられているらしい。これ自体がジョークだが。
 とにかく部屋ごとに何が飛び出してくるかわからなくて、いくら見ていても飽きない。時間さえあれば、これこそくまなく見たかったのだが。
 あと、ここはダリの『十字架の聖ヨハネのキリスト』を所蔵していて、私はこの絵がダリの作品の中でもいちばん好きなので、それを知ったときは「やたっ!」と思ったのだが、この絵は貸し出し中でお留守だった。残念。

 目当ての「マッキントッシュの部屋」も予想以上に充実したコレクションだった。やっぱり好きだなあ。家具も絵も装飾品も。アールヌーボーというのは曲線を多用して女性的な雰囲気だが、彼のは直線を多用しているところが、かえってモダンな感じがして、現代にも十分通用する。ヨーロッパみたいに装飾過剰じゃなくてミニマムなところも、品が良くてすごく現代風だし、東洋趣味も日本の工芸デザインは世界一と思っている私はすごくなごむ。

グラスゴー大学の中(外? イギリスの大学の常で町中に広がってるからどっちかわからないや)で見かけた小川にかかる橋。これも映画の一場面のように美しい。
マッキントッシュハウスの内部 (independent.co.uk)

 続いては歩いて近くにあるグラスゴー大学へ。これもイギリスの古い大学らしく、巨大で風格のある大学だ。この中のハンタリアン美術館という建物の一部が、マッキントッシュが生前住んでいた家(もう残っていない)そっくりに復元されているわけ。
 例によって迷いながら、人に道を尋ねながらなんとか到着。
 復元された自宅といっても、もちろん都市の家だから、一戸建てではなくて、一軒の建物を縦割りにした形で、それが美術館の中にそっくり入っているわけ。
 なんか作りは去年行ったオルタ美術館そっくり。縦に細長く、狭い部屋が階段でつながれているところが特に。確かにあれも建築家の自宅だけど。
 ただ、オルタにはあまり感銘を受けなかった私もこれには感動。やっぱり作家に対する好みの違いだわね。
 すてき! 住みたい! というか、シムピープルで作りたい! あの椅子はどうも座り心地よくなさそうだけどね。
 原型となった家の写真も展示してあったが、本当にそっくりに復元してある。そうか、本当にこんなところに住んでたんだな。私にはやっぱり想像もつかないや。
 とにかくかわいくておしゃれで、気品と風格があって、これが19世紀のデザインだなんて信じられないよ。というか、今でもパクってる人多そうだな。

 もちろんマッキントッシュ・デザインのおみやげを買うことも私の重大な目的のひとつ。どれもこれもすてきで、迷った。特にいかにもアールヌーボーという感じの鏡はすばらしかったんだけど、重すぎて持って帰れないし、送料高いし、それは断念した。結局買って帰ったのは、どれもバラのデザインのペンダント、コンパクト、キーホルダー、革製のしおり、それにマグカップ。いっぱい買ったなー(笑)。(ごめんなさい。うちの携帯はすごい特殊な方式みたいで、まだパソコンへの出力方法がわからず、写真をお見せできません。契約してないので、メールで送るという手も使えないし)
 ここは通販ショップもあるけれど、どれも通販にはないやつばっかり。特にペンダントがお気に入りで、それほど高いものじゃなかったし、色違いも買っておくんだった! とか言って、ネットで検索してたら、他にもマッキントッシュ・デザインのアクセサリーを売ってるところはたくさんある。あー、もう金ないのにー!

おみやげについて

 というふうに貧乏旅行者の私としては、マッキントッシュだけは買って帰るつもりでいたが、その他のおみやげは泣く泣く断念。
 もっとも食料品だけは大量に買い込みましたけどね。これは日本にいてもどうせ輸入食品店で買うものだし、日本で買うよりはるかに安いから。買ったのは、大量の紅茶とビスケット、それにまたベーコンとハム。(ソーセージはなかなか私の好みのものを見ない)
 ベーコンとハムはさっそく食べたが、やっぱりうまいー! ケチらずもっと大量に買ってくるんだった。こういう生ものは帰宅する日に買って、機内は涼しいし(ていうか、荷物室はたぶん暖房してないので零下)、家に帰るとすぐに冷凍庫にぶち込むので、たくさんあっても困らなかったのに。
 私は肉の脂身が嫌いなので、ベーコンの脂は切り取って炒め物に使ったが、脂だけでもスモークの香りと塩味がしっかりついて、ただのオムレツでもすごいおいしかった。ハムはバゲットにはさんで食べたが、パンは日本のものでも、やっぱりイギリスの味がする。こういうの食べてると、また猛烈にイギリスが恋しくなって困るんだけど。

 他に買ったのは、訪れた各地で買った写真集。私はカメラを持たない観光客なので、その代わりに行く先々の名所の地図(インフォメーションでただでくれるやつ)と、パンフレットを集めているのだ。
 でもなぜか今回はいつも私が買うようなパンフレット(ホチキス止めで、写真と解説と地図が載っているようなの)がなくて、写真集を大量に買うはめに。おかげでお金もかかったし重かったし大変だったが、これだけ神々しいばかりに美しい場所は、やっぱり美しい写真がほしかったのでいいとする。

 他にはトランプだけ。私は1枚1枚違う絵柄のついたトランプを集めているのだが、スコットランドの各クラン(氏族)の紋章とタータンを印刷したやつがあったのでほしかったの。

 おみやげをがんばったのは私より石神さんのほう。彼女は旅先でおみやげ(会社で配るのは別として)なんか買わない人だと思ってたのに。(実際、買わないそうです) 私も日本じゃ買わないけどね。
 彼女はなぜかケルト文様に魅せられてしまい、そのデザインのアクセサリーを買いまくっていた。普段はアクセサリーなんて着けない人だと思ってたのに。(実際、着けないそうです) 人はなかなか見かけじゃわかりませんね。
 でも気持ちはわかる。だって、あれもすごいモダンでかっこいいもの。私が昔買ったのとそっくりなアザミのデザインのペンダントまで買ってるのにニヤリ。なんか何から何まで趣味が似てるんだな。

写真について

 カメラを持って旅行に行くのをやめたのは、去年の経験で「持っていても撮らない」、または「宿に置いていってしまってバッグの中にない」、または「バッグの中にあっても充電してなくて撮れない」またはことがわかってしまったからだ。基本的に写真を撮る習慣も、携帯を持ち歩く習慣もないので、にわかにやろうと思っても無理だったみたい。だいたい、感動するような場所では写真を撮っている時間が惜しい。
 ただ、日記に載せるためにやっぱり写真はほしい。今回は同行者がいることでもあるし、「デジカメ持ってたら持ってきて」とお願いしてみた。あわよくば、運転手兼カメラマンに仕立てようという魂胆である。
 そしたら石神さんはわざわざお母さんからデジカメを借りてきてくれた。だけど、彼女も写真嫌いで、「写真なんか撮られたら魂とられる」なんて、私みたいなこと言ってるので(笑)、写真のほうはぜんぜん期待していなかった。どうしてもこれだけは、と思うところだけ頼んで撮ってもらうつもりで。
 ところが、ここでもまた意外な才能を発揮して、最初の頃こそ義理でという感じで撮っていたのに、スカイ島に行ったあたりから写真の鬼に変わっていった。いっしょに歩いていて、ちょっと姿が見えないと思うと、必ずどこかで立ち止まって写真を撮っている。とにかく撮った写真が数千枚! 毎晩寝る前には、撮った写真を取捨選択して消すのが習慣になっていた。それでもしまいにはSDカードがいっぱいになって、現地で買うはめに。
 しかも彼女の撮った写真が、ここに載せたのを見てもらえばおわかりの通り、すごい上手に撮れていてきれいなんですよ。(ここではウェブ用にかなり圧縮してあるから、元の写真はもっときれいです) 本人はカメラのおかげだと言ってるが、お母さんのカメラだから初心者向けのコンパクト・カメラなのに、最近のカメラはこんなにきれいに撮れるものなのか。(デジカメが出始めたころ、私はさっそく買って旅行に持っていったけど、撮った写真は何が写ってるのかよくわからない手ぶれ写真ばっかりだった) 元の景色が美しすぎるせいもあるかも。
 で、もらった写真を見てつくづく思ったのだが、やっぱり旅では写真を撮る価値はあるかも。ガイドブックに載ってるような名所はいいとしても、たまたま通りがかった路地とか出会った人の写真って、見ているといろんな記憶が呼び覚まされる。というか、記憶力のない私は、「こんな所行ったっけ?」という写真多数。記憶の代わりとしての写真には確かに価値がある。とにかく石神さんに感謝!

 写真に関して反省しているのは、「食べたものは全部記録のために、食べる前に写真撮っておくんだった」(毎回思うのだが、飢えてるのか、いつも食べちゃったあと)、「各B&Bのご主人とは、並んで記念撮影してもらうんだった」(たしかに恥ずかしいけど、いい思い出にはなる)ということ。

キルトとタータンの話

左のショーン・コネリーは正装、
右のチャールズ皇太子はやや軽装のキルト姿
さすがにこれだけ背の高い人が着るとかっこいいです

 タータン大好き。私もタータンばかり着てた時代がありました。それは高校時代で、うちの高校(青学高等部)の制服が、上は紺のブレザーと白いブラウス、下はプリーツスカートとハイソックスという決まりで、ブレザー以外はこの範疇なら何を着ても自由だったのね。
 当時はミニスカート黄金時代だから、当然私もパンツぎりぎりの超ミニをはいてたけど、プリーツのミニスカートと言えば、タータン以外にないでしょう。というか、タータンミニってかわいくてかわいくて大好きだったし、色や形も各種持っていた。さすがに高校を卒業しちゃうと、ガキっぽくて着れないのが残念だった。(今の女子大生の服装で違和感かんじる理由のひとつが、大学生にもなって平気で中高生みたいな格好してくること)
 でもスコットランドへ来たからにはミニよりもキルトですね。これはこれでかわいいけど(笑)。キルトと言うと、まん丸に太ったおじさんを思い浮かべるけど、それで実際、そういうおじさんがかっこいいんだけど、女の子用のキルトもあって、それはそれですごくかわいいのよ。

 グラスゴーのショッピングモールを歩いていたときのこと、10才ぐらいの女の子を連れたお父さんとすれ違ったんだけど、私も石神さんも「おおっ!」と言って振り返ってしまったぐらいかわいかった。
 驚いてほしいポイントは、私はガキなんか大っ嫌い! 特にメスのガキなんて何の興味もないし、(6才から18才のイギリス人の美少年のみ許す)、女の子見てかわいいなんて思うことはめったにないの。その私が息を呑むぐらいかわいいんだから、本当にかわいいのだ。お人形さんみたい。
 最初はスコットランドの民族衣装を着てるのかと思ったけど、民族衣装風にアレンジした子供服を着ていたみたい。もちろんタータンがあちこちにあしらわれていて、やはりタータンの帽子をかぶっていた。

 とにかくそんなこんなでキルトに興味のあった私は、「一般人がキルトを着ることってどれぐらいあるんだろう?」というのを確かめるのも、この旅行の目的のひとつだった。でもやっぱり見かけるのは観光用キルトばっかり。キルト姿の男性を見たのは、グラスゴーの広場でやってたセレモニーの出演者と、ホテルのドアマンと、バグパイプ吹きぐらいだ。
 ただ、グラスゴーの町中で一度だけ、一般人ふうのおじいさんが着て歩いてるのを見かけたけど、あの人も何か観光業に従事している人かもしれないし。
 私の理解するところでは、キルトは日本の男性の紋付き袴みたいなもので、何かあらたまった式典とか、伝統行事のときだけ着る感じだねえ。おじいさんなんかは、日曜日の晴れ着に着る人もいるって聞いたんだけど。それでも、スコットランド出身のミュージシャンなんかも、パーティーとかでは着てるのをよく見るし、日本の着物よりは一般的かも。

音楽の話

せっかくだから、私がいちばん愛したスコットランド人、Aztec Cameraのロディ・フレイムのお写真も貼っておきましょうかね。もちろん今では彼もすっかりおじいさんになっちゃったけど、これはまだ芳紀十代のころ。「美少年」系では彼ほど愛した人はいなかった。
しかし、彼みたいにブームに乗って「天才少年現る」という煽りで出てきた人は、概して一発屋で終わることが多いのに、地味ながら30年に渡って活躍し続けているのはすごい。

 私がイギリスへ行くのにウォークマンのたぐいを持っていくのをやめたのは、25年前のロンドン滞在の経験からだ。あのときは1か月も滞在したので、とにかく聴くものに困らないようにと、万全の準備をしていったのだが、実際はまったく使わなかったというか、街にリアルタイムで最新の音楽が満ちあふれているのに、ウォークマンなんかいるかいという感じだった。
 なので以降、一切音楽を持参するのはやめたのだが、その後25年の間にすっかり世の中は様変わりして‥‥という話は去年も書いた。
 で、わかってたはずなのに、今年も持っていかなかったんだよねー。これは行ってからヒジョーに後悔した。というのも、今回は車での移動が多く、しかも車ってやつにはカーステレオが付いてるんだってことを、車に乗らない私は完全に失念していたのだ。CD持ってくりゃよかった!
 というのも、やはり初めてのイギリス旅行で学んだことのひとつに、「やっぱり音楽はそれが生まれた風土の中で聴くと絶対的にいい!」という真理がありまして、上にも書いたように、スコットランド・バンドの音楽というのは、あの風土そのものの音なので、それをあの景色の中で聴けたらどんなにか!と、何度歯噛みをしつつ思ったかわからない。ドライブソングにぴったりな曲もたくさん持ってるのに! これも昔なら、カーラジオのBBC2付ければ、それで済むことだったんですけどねえ。やっぱり英国ロックそのものが落ち目だし‥‥

 で、その悔しさをぶつけるためにこちらのページを編集してたんだけど、なんかなつかしい曲をこれだけまとめて聴いたら、また涙が出ちゃって‥‥ああ‥‥
 この手の泣かせの曲って、私が抵抗できないもので、それを丸ごとスコットランドでカバーしていたか。私の音楽趣味の半面の「うるさいロック」だって、孤軍奮闘だけどMary Chainがいるし。ないのはダンス系だけだな。こちらはイングランドが圧勝。なんでスコットランドでダンス音楽が育たないかは一考に値するが、今はそんな時間がないのでパス。ああ、あとMansunみたいな、形容が難しいけど、「皮肉っぽくて小賢しいロック」もないな。みんなまっすぐで一途すぎて。これは国民性から言ってよくわかる。
 ただ、私もトシのせいか、年々、こういうしみじみ泣かせる音楽が好きになってきていて、個人的にもスコットランドの需要はますます高まっているっていうか。

 しかし、こうやって並べてみると、どれも似ているっていうか、共通点あるね。どれもスコットランドのバンドで私の好きなバンドだから当たりまえって言えば当たりまえなんだけど、かなりの個性派揃いで、時代もバラバラだし、他には何も共通点はないのに。やっぱり風土というか、血なんだと思うよ。
 それを言うなら、古いフォーク・バラード(スコットランド民謡)とも共通点あるし。『蛍の光』とか『アニー・ローリー』とか、日本でも人気あるけど、スコットランドの哀切なメロディーって、やっぱり日本人の好みに合うんだよね。
 ここらへんが似ているけどアイルランドとの分かれ目かな。実際、アイルランド民謡も似てるところは似てるんだけど、私はあれはどうしてもC&Wっぽくって、田舎臭い感じがダメなんだけど、スコットランドは全面支持だからね。(実際は、アメリカに移住したアイルランド移民の音楽からC&Wが生まれたので逆なんだけど) あと、あのフィドルがヒステリックでやかましいし、ついでにアイルランドのダンスの引きつけみたいな動きを思い出しちゃうともうダメ。

 そうそう、アイルランドがフィドルなら、スコットランドはやっぱりバグパイプだよね。あれも嫌う人はいるけれど、私は好き。これまた哀切な響きがなんとも言えない。バグパイプは学生っぽい男の子のバスカー(ストリート・ミュージシャン)がいたなあ。バグパイプというと軍隊調のマーチングバンドが頭に浮かぶけど、ソロでの演奏もいいもので、やっぱりあの景色の中で聴くとじーんとします。あー、ほんとにCD持ってくんだった。 

 あと、思い残しはクラブやライブに行かなかったこと。日本だと私は平気でひとりでも行くけど、外国ではひとりだとなかなか行きづらいものだが、今回は同じ趣味を持った友達がいっしょなので、絶対行こうと思ってたんだよ。べつに好きなバンドが出てなくても、雰囲気味わうだけでもいいし、夏休みにはいろんなところでコンサートやってるはずだし。
 なのに、2人とも探そうという気力すら起こさなかったのはなぜ? やっぱりかなりの強行スケジュールで疲れていたとしか。クラブとかは私は年齢的にそろそろ限界という感じなので、思い出作りだけでも行きたかったんだけどねえ。

 というわけで、私の愛したスコットランド音楽についてはこちらのページにまとめたので、いやでも聴くこと。

ロンドンへ帰る

 とにかくこれでもうスコットランドとはお別れ。残りの4日間はロンドンで過ごすことになる。あー、こんなにスコットランドがいいと知ってれば、ロンドン抜きでスコットランドだけにすれば良かった。というか、私はロンドンは見尽くしたが、むしろイギリスそのものが初めての石神さんのために、こういう計画にしたつもりだったんだが。ところがかんじんの石神さんは骨の髄までスコットランド至上主義に染まってしまい、「もうイングランドなんかどうでもいい」と言い出す始末(笑)。まあ、ロンドンはロンドンで、私は非常に居心地がいいからいいんですけどね。クリアレイク・ホテルに泊まるのも楽しみだし。

ロンドンへ向かうヴァージン特急

 というわけで、午後の列車に乗り、一路ロンドンへ。ホームへ行ってこれから乗る列車を見て驚いた。国鉄(かつてはイギリスの鉄道はすべて国有だった)が民営化されたことは知ってたが、ヴァージンのロゴが付いてる! 飛行機だけじゃなく鉄道にも乗りだしてるのか。ヴァージンだけでなく、各社が乗り入れてるみたい。へえー。
 たかがレコード屋のヴァージンが航空事業に乗り出したときも相当なベンチャーだったはずだが、それを見事に成功させて着々と手を広げてるな。ブランソンすごい。

 しかし、ふと気が付いたが、去年までは地下鉄を除く鉄道駅には改札なんてなくて、ホームへの出入りは自由だったのに、いつのまにか自動改札ができている
 さらにロンドンへ着いて、トラベルカード(定期のフリー切符)を買おうとしたら、なくなってる! どうやらスイカに似たICカードが導入されたかららしい。これも去年まであったのに、1年でこんなに変わるなんて!

 とりあえず、列車は一部区間を除きガラガラ。飛行機より高くて遅いから当然だけど。テーブル付きの向かい合わせの席を確保して、そこで飲み食いできて快適だった。食堂車はないけど、売店は中にあるし。この列車は日本の新幹線に当たるもので、形も似ているが、ただ、窓が小さくて眺めが悪いなあ。石神さんにイングランドの田園風景を見せたかったんだけど、あいにく景色もあまりきれいじゃなかった。ていうか、そう感じるのってスコットランドを見たあとだからですか? 昔インターシティに乗ったときは、車窓の風景に感動したものだけど。

クリアレイク・ホテル

 で、今度は確実に部屋があることにほっとしつつ、またケンジントン・ハイストリートへ戻る。ここも駅からちょっと歩くのだが、なぜかスーツケースが重いって気がしないのは、我が家に帰ってきたという安心感からだろうか。
 フロントへ行ってチェックインしようとすると、またあの黒人の女の子がいて、私たちの顔を覚えていたらしく、ニコニコ笑顔で迎えてくれた。それで部屋の鍵を受け取ってリフトに乗ろうとすると、「外だから案内する」と言ってすたすたと玄関から出て行く。「えっ? 外ってどういうこと?
 ついていくと、いったん玄関から出て、すぐ横の階段を降りていく。すると地下室? やっぱそういうところしか空いてなかったの?
 えー、解説しますと、この手の建物は必ず半地下があり、グラウンドフロア(1階)はトントンと階段を昇ったところにある。つまり、地面を0とすると、地下が-0.5階、1階が0.5階になってるわけですね。だから地下室と言っても、普通の地下室と違って、ちゃんと人が住んでいる。この半地下がおもしろくて、前々から中はどんなふうになってるのか見てみたかったので、ちょっとわくわく。
 下へ降りるとすぐボイラー室兼洗濯室があって、そこから廊下をずんずん歩いてドアを開けると、また長い廊下があり、ベッドルームへのドアがある。だけど入ってみたらまたダブルベッド! えー、話が違う!と抗議しかけたところ、女の子は「ここがダブルルーム」と言って、さらに先へ歩いていく。次のドアを開けると、今度はダブルベッド1台とシングルベッド1台の置かれた部屋があり、さらにその先にダイニング・キッチンがあり、突き当たりにバスルームがある。なんとこれは本物のホリデー・アパートメント!
 以前1か月泊まったのもアパートメントだったのだが、それはツインベッドルームにキチネット(簡易キッチン。でも小さいダイニングセットが置いてあって、そこで食事もできる)がついただけの狭いところだったので、今回もそういうのを想像していたのだ。(幻の予約で私が取ったつもりだった部屋もそう) ところがこれは大家族が長期滞在するアパート。ワンフロア全体が私たちのもので、うちのマンションよりぜんぜん広い。
 おまけに上にあがる階段まで付いていたから、「これは?」と尋ねると、「それは別の人の部屋だから行っちゃダメ」と笑う。要するに昔のフラットを階ごとに分けて、そのまんまホテルにしてあるだけなのだ。

クリアレイクホテル正面。左側(自転車の置いてない方)の階段を降りたところが我が家です。 階段の下に見えるのが、ダブルルームの窓。
こちらがダブルルーム。暗いのは夜だから。 ちょっとピンぼけだけどこちらがキッチンです

 しかし広い! ダブルベッドルームだって、応接セットが楽々置ける広さだし、キッチンもすべて備わった本格的なキッチン。バスルームだって広い。これで1泊70ポンド(1人あたりだと5000円弱)って安すぎるよ。
 しかし安いのにはわけがあって、とにかく古い。いつ建ったものか知らないが、おそらくどうしても必要なところだけ修理して、それ以外はまったく手を加えていないと見た。家具類も明らかに建った当時からあるとしか思えない骨董品。当然、あっちこっちガタが来ているが、それは予想済み。それにどんなに古くても、たかだか築30年のうちよりきれいだし(苦笑)。むしろふだん汚いところで生活している私は、これぐらい古ぼけて汚いほうが心安らぐ。
 それで地下で暮らしてみての感想だが、やっぱり思ったより明るい。バスルームにだって窓があるし、うちよりましだ。暗さだって日本の陽当たりの悪い家ぐらいだし。ていうか、うちとくらべることに無理があるか(笑)。

滞在中は気にしてなかったけど、今にして思えば、壁一面鏡張りのバスルームって(笑)。これはドアの外から覗いたところで、鏡に映ってるのが撮影者の石神さん。恥ずかしがり屋さんなんで、こんな写真しかない。

 それでとにかく一風呂浴びようと思ってはっと気が付いた。前に泊まったときは、お湯が出ないで苦労することが何度もあったから。去年泊まったときは嘘みたいに熱いお湯がふんだんに使えたので、取り越し苦労だとは思ったけど。そこで風呂に入ろうとする石神さんに、「先にお湯が出るかどうか確認して」と言ったのだが、案の定というか「出ませーん」(苦笑)。 以前は夜になるとボイラーを止められてしまうことがあったので、その晩は風呂はあきらめ、翌朝試したところ、やっぱり出ない。
 そこでフロントに文句を言いに行くと、今朝はあの黒人の女の子じゃなくて、もっさりした感じの30ぐらいの白人の男がいる。その人に「お湯が出ないんだけど」と言うと、のっそりと立ち上がってボイラー室に降り、「今バルブ開けたから、10分ぐらいすれば出るから」。人が泊まることわかってるんだから、バルブぐらい開けておけ! いや、これでも25年前よりずいぶんましになったんですけどね。少なくともうちの風呂より湯量多いし。(だからいちいちうちと較べるなって!)
 風呂にはもうひとつトラブルが。洗面台で水を流すと、ゴボゴボ音がして、バスタブの排水口から黒い汚い水があふれてくる。これはおそらく配管自体が古くていかれてるのでどうにもならない。対策は風呂を使うときは洗面台を使わないしかない。でもうちの風呂も排水悪いし‥‥

 こういうのって、人によっては「最悪の思い出!」となるんだろうな。でもこの値段、この環境、この広さでこれなら、私的には十分納得。というか、今回の旅では私としては信じられないほどぜいたくな宿ばっかり泊まったので、これぐらいボロいとかえって家に帰ってきたようでほっとするし(笑)、半地下暮らしは一度やってみたかったのでワクワクするし。でも石神さんはそうは思わないだろうな、と思って、悪いことをしたような気分になったんだけど、彼女は平気な顔で、「ここのお風呂けっこう好きですよ」なんて言い放てる神経の太い人でよかった。実際、グラスゴーで泊まったようなシティ・ホテルはどこも狭いシャワーだけが標準なのに、こういうところは広々した家族風呂(?)なんですけどね。

ロンドンで飲み食いする話

こちらがカフェ・コンチェルト。名前のせいかイタリア風。
なんかパリっぽいCote

 とにかく風呂問題を除けば、なんの不満もなかった。
 キッチンにはガスコンロもあり、鍋釜も揃っているので、自分で料理して食べることもできたのだが、さすがに急ぎ足の旅の終盤となると、2人とも疲労がたまってたせいか、料理をする気になれず、朝は近所のカフェで朝食、夜はまたまたWhole Foodsで買ったお総菜で済ませるのが定番となった。

 まずは朝ごはん。「イングリッシュ・ブレックファスト、イングリッシュ・ブレックファスト!」とバカのひとつ覚えみたいに唱える私の癖が移ったのか、石神さんまですっかりこれが気に入ってしまったみたい。ほんと、何から何まで好みが合うんで気持ち悪いぐらいよ。普通、日本人、それも失礼だけどあんまり若くない女性の場合、「脂っぽすぎる」とか「量が多すぎる」とか言って敬遠し、「お茶漬け食べたい」とか言い出すものなのに。
 そこでぜひ去年入って、しゃれてるんで感心したカフェ・コンチェルトに連れて行ってあげたかった。

 カフェ・コンチェルトでは石神さんはエッグ・ベネディクト(半分に切った英国風マフィンのトーストに、焼いたハムと半熟卵を載せてオランデーズソースをかけたもの)なんていうしゃれたものを食べて、これもすごく気に入ったみたい。私も味見させてもらったが、おいしかった。
 あと、石神さんが見つけたCoteというレストランが気に入って、朝飯だけだが二度も行った。こういうところでは、夏は外で食べるのがお約束。真夏だというのに朝はけっこう冷えるんだけどね。と思ったら、壁の上のほうに電気ヒーターが付いてる! そこから暖気が降りてくるので、冬でも外で食べられるという仕組み。そこまでして外で食べるか、と思うが、これがヨーロッパ標準。

 ホテルの近所には他にもけっこうしゃれたカフェやレストランが増えている。25年前はここに1か月も滞在したので、それこそしらみつぶしにいろんな店に入ったが、こんな小じゃれた店はなかったんだけどなあ。当時から高級ファッション街ではあったんだけど。というあたりに四半世紀という歳月の流れを感じる。
 気になるのは、こういう店って私にはヨーロッパを思い出させるんだけど。(私がヨーロッパと言うときは、たいていイギリスを含まない大陸のことだからね。ついでに気づいてる人もいるかと思うけど、たいていは悪口) 行ったことはないけどパリとかウイーンとかね。しかも、本家のソレはやっぱり歴史を感じさせるキチガイみたいな豪華さと重厚さがある(はずだ)けど、これらはもちろん新しいので、そんな重みはない。その意味、日本の雑誌に載るような「おしゃれな店」と似てるような気がしちゃうのよ。
 もちろんメニューはどっちも完全に英国流だし、味も雰囲気もサービスも申し分ないんですがね。あと、日本との大きな違いは値段かも。ロンドンはヨーロッパとくらべても物価がメチャ高いんだが、この雰囲気、この味でこの値段は日本じゃ絶対無理。腹いっぱい食べて(お茶だけど)飲んで、チップとか入れてもひとり10数ポンド(1500〜2000円)だった。
 私が考えるイギリスらしい飲食店というと、やっぱりもうパブだけかね。これもなぜかパブに入るチャンスが一度もなかったのをすごく後悔してる。私は飲めないが、パブはただの飲み屋ではないので飲まなくても平気だし、パブの料理や雰囲気が好きなので。せっかくお酒が好きな人と行ったのにこれはないよ。

 くやしいので、日本に帰ってから石神さんを誘って西麻布にあるヘルムズデールというスコッチパブに行った。店はあー、小さくて狭くてボロいという日本の飲み屋そのものだったけど、(本家の老舗パブはもちろんキチガイみたいに古くてでかくて豪華)、雰囲気は良かったです。ここでもまたハギスを食べたけど、ここのは水気がなくてポロポロのそぼろ風だった。でもうまかった。

 私が去年発見して感動したWhole Foods(自然食品中心の大型スーパー)だが、これは石神さんも気に入るだろうなと思った通り、ほとんど入り浸っていた(笑)。というか、私たちってどこへ行っても、観光名所よりスーパーに行った回数の方が多いような(笑)。
 ほんとおもしろいんだもん。外国では野菜や果物が並んでるのを見るだけで、日本とまるきり違ってエキゾチックなので楽しい。だからべつに露店の屋台でもいいんだけど、スーパーへ行けばあらゆるものが揃ってるし、何より屋台と違って、買わずにぽかーんと見ているだけでも文句言われないしね。特にここは超巨大スーパーなので品揃えが半端ない。
 Whole Foodsのお総菜は去年よりさらに種類が増えたようで、前菜からデザートまで、ほとんど万国の料理が買える。今回食べておいしかったのはスペアリブ。かなりしょっぱいが、香辛料が効いていておいしい。
 「夜は外で食べないでお総菜買ってすませる」とか言うと、すごい貧しいみたいだけど、ここのお総菜はそこらのレストランの料理よりうまいし、2人であれもこれもと買い込んでくるので、うちで自分で作るよりもはるかに豪勢でぜいたくな夕食だ。あー、また太っちゃう!
 それと去年は気づかなかったが、ここは2階(自然食レストランになっている)も地下もあって、ものすごい大きな店だ。それが大繁盛しているからすごい。ほんとにこれ、日本にもできればいいのに。ただ、お総菜は日本で同じもの作ろうと思ったら、デパ地下なんてものじゃない、とんでもない値段になるな。

 スーパーと言えば、ロンドンだけでなくイギリス中に100円ショップならぬ1ポンドショップができているのにも驚いた。品揃えも店の雰囲気も日本と似ているが微妙に違う部分もおもしろい。でもなんでも安っぽいのは同じ(笑)っていうか、どうせどっちも中国製だし。100円ショップってたぶん日本人の発明だと思うのでさっそく真似したな。

ストリート・マーケット巡り

今は昔のカムデンロック・マーケット

 ロンドンでは本当に何も計画を立てていなかった。それこそ石神さんが行きたいところへ行けばいいと思って。しかし、彼女はまだ頭がスコットランドでいっぱいで、何も思い浮かばないようなので、しかたなく、私が初回のロンドンでいちばん好きだった場所は?と考えて、カムデン・ロックに行ってみることにした。なんというか「ロック文化」華やかなりし頃は、カムデンがその中心で、私らには聖地みたいなものだったもんね。そしたらちょうど日曜日でもあるし(日曜はたいていのレストランや遊び場が閉まってる)、カムデンにはストリート・マーケットが出てるから、マーケット巡りとして、コベント・ガーデンにも行ってみよう。どうせカムデンに行くなら、リトル・ベニスから運河巡りのボートが出てるから船で行こう。
 と、残り少ない旅行を充実したものにするために、私としては精一杯あれもこれも詰め込んだ計画を立てたつもり。25年前の若い私なら、大喜びしたはずのルートだし、今の私だってなつかしさで胸一杯になるはずだったのだが。ところが、その通り歩きまわってもあまり感動できなかった。石神さんがどう思ったかは特に訊かなかったのでわからないけど。

 私が不満だった最大の理由は人混み! とにかくどこへ行っても観光客多すぎ! なんだかんだ言っても、やっぱりスコットランドは人少ないよ。なのに夏休みの日曜日のロンドンなんていったら、どこへ行っても人、人、人! と、東京人の私が言うのは矛盾して聞こえるかもしれない。でも、普段そういう所に住んでるからこそ、旅行ぐらいは人から逃れたいの! おもしろそうな店とか、おいしそうな露店とかもいっぱいあったけど、あの人混みを見ただけで気力が一気に萎える。
 考えてみたら、最初のロンドンは真冬だったんだ。それでもホリデー・シーズンには違いないので観光客は多かったけど、夏とは桁が違うことを発見した。

 もうひとつの理由はたぶん、ロック文化の衰退。とにかく店見ても欲しいと思えるものがないんだ。昔はレコード屋だけじゃなく、洋服屋でもジュエリーでも雑貨でも本でもポスターでも、私が「ロックっぽい」と考えるようなかっこいいものや掘り出し物が多くて、欲しいものがありすぎて持ちきれないほどだったのに、カムデンでさえ、ロックショップと言えそうなのはレトロなヘビメタ・ショップぐらいで、いい年したおばさんがこんな中学生みたいなもの買えないし興味もないし。(実際買うのは腹の出たおじさんたちなのだが) おかげで、物欲にはまったく悩まされないですんで、お金もかからなかったけど。
 楽しくないかと言えばもちろん楽しいんだけど、とにかく思ったようでなかったのはがっかり。夏はだめだ、やっぱり夏は。

ライオン(イングランド)とユニコーン(スコットランド)に守られた門を通って宮殿に入ります
このように時代装束を付けた俳優が城内を歩きまわっていて、観光客との記念撮影にも応じてくれます。この人は親衛隊長かな。その腕にぶら下がって喜んでいるどっかのおばさんは諸事情によりカット。
文字通り、果てが見えない、ありえない広さの庭園。もちろん彼方に見える森の向こうにもまだ続いています。
あの有名な肖像画も見ました。どう考えてもやっぱりジョナサンのヘンリーより、これがヘンリー8世の本当の姿だよなあ。
と思ったら、「本物」のヘンリー8世のお成り。右でうれしそうな顔をしているのは、ただの見物人のおじさんですが、このあとうれしそうにお辞儀をしていたのがかわいかった。客もちゃんとわかってなりきってます。
で、こちらが問題のトイレ。せっかく豪華絢爛な宮殿を見て、貼る写真がこれかよ!という感じだが、本当に感動したので。
これが私たちの乗った馬車。しかし去年もそうだけど、冗談みたいにいい天気だったな。

ハンプトンコート

 とかなんとか言ってるうちに旅行の残りの日数はどんどん減っていく。17日は帰国日なのでもうどこへも行けないし、遊べるのはもう16日一日しかない。昨日はロンドン市内を見たから今日は近郊へ遠足かな。でもどこへ行こう? 石神さんと話し合って、なんとなくお城を見ようということになったのだが、城といってもたくさんあるのでまた迷う。結局はまたも私の独断で、ハンプトンコートへ行ってみることにする。ここはヘンリー8世の居城で、私は行ったことがなかったし、ちょうど“The Tudors”を見たので、あのドラマの舞台をこの目で見たかったの。

 でも石神さんもはるばるイギリスまで来て、私なんかに変なところばかり連れ回され、「ガイドブックに載ってるようなイギリス」をなんにも見ないのはかわいそうだと勝手に気を回して、ならばいちばん有名なイギリスのシンボル、ビッグベンを見ればそれで事は足りると思いつく。(すげー安易な発想) ハンプトンコート行きの列車はテムズ南岸のウォータールー駅から出るのだが、ビッグベンのある国会議事堂はちょうど川の反対側だから、ひとつ手前のウエストミンスターで地下鉄を降りて、ビッグベンやロンドン・アイを見ながら歩いてテムズを渡ればちょうどいいお散歩になる。
 これはなかなかいいアイディアだと思ったし、テムズ河畔のこのあたりはすごくいい雰囲気なので、それを見せてあげたいと思っていたのだが、それはやっぱり暗くて寒い冬の話。暑くて人でごったがえしていて、ぜんぜんなごめる雰囲気じゃない!
 (書いた後で写真を見たのだが、ぜんぜん混んでなんかいないじゃない。人、まばらじゃん(笑)。と思うのは、頭が東京モードになっているからで、あのとき人だらけと感じたのは頭がスコットランド・モードだったからとしか思えない)

 と、文句を言いながら、とにかくハンプトンコートへ向かう。イギリス王室の所有するお城のひとつだが、ここは現在は使われていなくて、もっぱら観光用に公開されている。ハンプトンコートの鉄道駅はちっちゃい田舎の駅。町もちっちゃい田舎の町。だけど、なんかかわいらしい。というのは、典型的なイングランドの田舎町。

 お城も駅からすぐ近くで、というか他にはなんにもない。とにかくまずびっくりするのは、そのとてつもない広さ。庭園まで含めたらどれだけ広いんだよ。これまで見た英国のお城の中でも桁外れにでかい。
 まあ、英国史上最も有名な王様ヘンリー8世の居城なんだから、それぐらい当たりまえと言えば当たりまえだが、それを500年間そのまま残してあるってのが、考えてみたらなかなかすごいことだよね。
(ちなみにヘンリー8世については、“The Tudors”のリビューをご覧下さい)

 城内には扮装をした俳優が歩きまわっていて、時間と場所を定めて、ヘンリーの結婚式の日(どの結婚だったか忘れたが)を再現する寸劇を演じている。
 こういうアトラクションがいかにも観光向けで、いやだなーと一瞬思ったが、やっぱり見てると楽しい。演技も衣装もかなり気合い入ってるしね。だいたいヘンリー8世自身もジョナサンよりよっぽど本物らしいし。
 衛兵らしい恰幅のいいおじさんがいたので、写真撮らせてくださいと頼んだら、演技を崩さないまま、いかめしい顔つきでさっと腕を差し出す。あ、なるほど記念撮影にも応じてくれるんですか。というわけで、いっしょに写真撮ってもらいました。

 王様が城内を移動するときは(お芝居の場所があっちこっちに散らばっているので、いやでも移動しないとならないのだ)、この人が先導して「大名行列」をやってる。日本語で言えば「下に、下に〜」って感じの。
 でも2人きりの大名行列だから、見学者はなかなか気づかず、いきなり王様に出くわしてびっくりする人も多数。ひとりのおばあさんが王様と出会って、一瞬「あらまあ」とびっくりした後、優雅にお辞儀をしてみせた(あのスカートをつまんで膝を曲げるやつ)のがすごくかわいかった。こちらの人は客もわかって合わせてくれるからおもしろい。日本でも歴女だの戦国ブームとかで、お城に行くと扮装した武将とかがいるそうだが、やっぱり客は乗ってくれるんだろうか?
 役者じゃないのに中世風のガウンを着た人がちらほら歩いていて、なんだろうと思っていたのだが、地下に衣装部屋があって、そこで希望者にガウンを貸し出してくれるのだ。それを服の上に羽織って、時代気分に浸るわけ。

 で、かんじんの城内ですが、なにしろもう使われていない城なので、現役の城の豪華絢爛さには及ばないし、かなりの部分が「復刻」なところがいささか興ざめだが、むしろ500年前の王様の暮らしがよくわかって、私は非常に興味深かった。
 特にずっと前からシムピープルでお城を作るときに悩んでいたのがお風呂とトイレ。この当時にはすでにあったことは知ってるんだけど、どんなものなのか想像がつかないし、図版のたぐいもなかったので。
 そしたらちゃんとトイレもお風呂場も再現されていて、だいたい私がこんなだろうと思っていた通りだったので感動した。これは本当に参考になります。
 だから圧巻は台所。これだけの巨大な所帯を賄う台所は、ほとんどワンフロアを占めるほど巨大なのだが、そこに食材や鍋釜類を再現して、往年の雰囲気がわかるようになっている。このあたりはほとんど博物館だな。
 もちろんそれ以外の寝室や居間もおもしろかったです。これぞ「王様ベッド」という感じの、天井まで届く天蓋付きベッドとかね。

 一通り見終わって、あとは庭園を見学と行きたいが、とにかく広すぎて私はもう足が棒。おまけにその庭園がまた常軌を逸した広さ。見たいけど、とてもじゃないがもう歩き回れないよー。
 と見回したら、観光馬車が走ってるじゃないの。「あれ乗るー!」と子供みたいなことを言って、さっそく乗る。これなら足は痛まないし、屋根あるから暑い日射しからも守ってくれるし、楽ちん! どうせならもっと遠くまで行ってほしかったんだが、あいにく近間をひとまわりして終わってしまったのがちょっと残念だったが。
 でもいいの。2頭のシャイアーが引いてるんだが、こういう重種の巨大馬好き。好きだから、降りたあと、馬をスリスリなでていたら、「触らないでください」と御者に叱られた。やっぱり子供(笑)。いいじゃねーかよー、減るもんじゃなし。って、ほんとは素人さんがみだりに触ると危険だから禁じてるのは知ってたんですがね。こういうときだけ何も知らない観光客のふりして触っちまったい! って、やっぱり子供かよ、おまえは!

 おみやげは本を2冊買った。1冊はもちろんガイドブックだが、子供の宿題用なのか、当時の暮らしの詳しい解説が載っていて、私は(シムピープルの)参考になるので大いに助かる。
 もう1冊はジョーク本で、城内で演じている結婚式をスクープした女性誌+ファッション誌の形式になっている。こういう遊び心も好きだし、当時の衣装のことが詳しくわかってこれもお勉強になった。

 というわけで、なんか勝手に盛り上がって楽しんでしまった。こういう「観光地」に行くといつも思うんだけど、観光で売ってる国だけに、人を楽しますコツを心得ていて、至れり尽くせりなんだよね。
 しかもディズニーランドと違って(ほぼ)本物だしディズニーランドと違ってわざとらしい押しつけがましさはないしディズニーランドと違って行列も人混みもぼったくりもないし、楽しめない方がおかしい。
 ここもやっぱり一日ですべて楽しみ尽くそうというのは(主として体力的に)無理だ。庭園だけでも3日ぐらいかかってまわるといい感じ。
 これだからイギリスは何回行っても足りない、どんなに滞在しても足りないんだよなあ。この調子で見てないところや、もう一度行きたいところはたくさんあるし。これはもう数年住むぐらいじゃ足りない。永住するしかない、といつも思うんだが、それができたらねえ‥‥

また公園のこと

暮れなずむラウンドポンドの空。晴れてて雲がないところが致命的なんだが、それでもこんなにも美しい。

 あー、でも明日はもう日本に帰らなくちゃならない。それを思うと、悲しみで心が引き裂かれそう。というのは毎回経験してるんだけど、永遠に慣れない。
 それで残されたわずかな時間をどうやって有意義に過ごすかというと、もう「公園のベンチに座ってる」ことしか考えられない。というのは、去年も書いたが、また結局公園へ戻っていって、あのベンチに座ってしまう。
 というのは、私が変人だからかと思っていたが、石神さんも同じことを考えていて、何かにつけて「公園行こう」となり、結局ロンドン滞在中の私たちは、どこかへ出かけるたびに公園に寄っていた。
 それで何を見ているかというと、鳥たちもかわいいが、やっぱり空である。

 「イギリスの曇り空ほど美しいものはない」というのが、私が初めての英国旅行で感じたことだった。それでイギリスでは曇りでない日のほうがめずらしいのである。そのため、私は一日中、公園のベンチに腰掛けて空を見ていても飽きなかった。
 日本とどう違うのかというと、まず雲が低くて分厚くて立体的なのだ。要するに雲が多いということだが、その雲が一様ではなく、まるで空の建造物のように立体的、重層的に折り重なっている。だから光と影のコントラストも、グレーのグラデーションもくっきり。さらにそれが絶え間なく移り変わる。
 ロンドンの空を眺めていて、私は人がどうして天国というものを想像したかがわかりましたね。灰色の雲の間に時折、ぽっかりと穴が空いたように切れ目ができて、そこだけ青空が見えて、太陽こそ見えないものの、青空を取り囲む雲がそこだけまばゆい銀色に光り輝いている。さらにそこからはっきり目に見える光の帯となって、光線が地上に降り注いでいるのを見ると、確かに神様ってのは、ああいうところに住んでいるんだろうなあという気分になるから。
 ロンドンの空ですらこれだけきれいなんだから、スコットランドがきれいでないはずはなかったのだった。

 今回の旅行はあいにくの好天に恵まれてしまったので、ロンドンの空の本当の美しさは味わえなかったけどね。でもこの日は晴れているせいで飛行機雲がいっぱい見えた。ヒースロー(だかガトウィックだか)に離着陸する旅客機が、ひっきりなしに上空を行き交うんだけど、それがどれもくっきりした飛行機雲を残していく。しかも飛行機雲ってしばらくすると拡散して消えるはずなのに、いつまでもくっきり残ってる。そのうち空全体が落書き模様みたいな飛行機雲に覆われてしまうのが見ていておもしろかった。
 ああ〜(ため息)。東京で飛行機雲を眺めていたのなんて、もう大昔の小さい子供時代までさかのぼらないと記憶にないよ。なのに、ふとした瞬間に、数十年の年月を一気に引き戻される。文字通り、一瞬でいろんなところにタイムスリップさせてくれる。そういう町なんです、ここは

結び

(80年代の終わりに書いた、It's Immaterialのディスク・リビューから引用)

すぐれた音楽には魔法がある。そしてIt's Immaterialの魔法はというと、7つの海を越えて、あのふるさとへ私の魂を引き寄せる魔法なのだ。(中略) とかいって、私の故郷はイギリス全土に散らばっていて、今のところ、London、Manchester、Liverpool、Glasgowだけど、へたするともっと増えそう。
とりあえず、どこでもいいから、私はあのふるさとへ帰りたい。
飛行機から見降ろす
夜の操車場と郊外住宅地
ぼくは家へ帰ってきた
夏の雨の中
すべては昔通りに見える
昔のままのペンキ塗りの家々が呼んでいる
そこでは誰もがきみの名を知っているように思える
ぼくは知ってる
世界は決して変わらない
すべてはいつまでも変わらない
スモールタウン生まれの少年の目には
(It's Immaterial “Home Coming”)





蛇足――もう一度同行者の話

 旅行、特に長期の海外旅行というのは、どこへ行くかってのも大事だけど、「誰と行くか」ってのも無視できない要素。それも失敗から学んだ。
 初めてのロンドン1か月は、ひとり旅だったみたいなこと書いてるが、実は行くときはひとりじゃなかった。(帰りの便が決まっていないオープンチケットだったので、帰りは別だった) 大学の同い年の同僚と行ったのだが、それでも実質ひとりといっしょ。というのも寝る部屋が同じだけで、いっしょだった期間も起きてから寝るまですべて単独の別行動、食事も別々に取ってたから。
 毎週大学で会って、休み時間には5分間おしゃべりする程度のつき合いで、どういう人かも知らないままいっしょに行ったのが悪かったんだけどね。それでも職場では明るくて楽しい人に見えたのだが、一歩海外に出たとたん(と見えたが、単に素が出ただけというのが事実だろう)ガラッと人格が豹変し、もう思い出したくないからここには書かないが、初日の夜にはすでにお互い顔見るのもいや!という大げんかをして、じゃあ、すべて別にしましょうということになったわけ。まあ、それができる相手だったことだけが救いで、ひとりで過ごすロンドンは心底楽しかったから、もう恨んではいないけど。
 その後、やはり大学の別の同僚と一度オーストラリアへ行った。彼女は私より年上の先輩で、長いつき合いだったし、相手は少なくとも大人だから(笑)間違いあるまいと思ったんだけど、やはり1か月近くもいっしょに暮らすといろいろ見たくなかったものとか、日本では見ても見ぬふりしていたものが目についてきて、向こうはご機嫌だったが、私の方がストレスがたまることが多くてキレそうになった。(ちなみにその後、彼女とも些細なきっかけで大げんかをしたのを機に縁を切りました)
 で、それからはもう誰が相手でも大学教員はダメ! 本当に心が許せて、相手のことが好きで、ひとりでいるよりも、この人といっしょにいたいと思えるような友達としか行かないと心に決めた。なんか結婚でもするような騒ぎですが(笑)。そういう友達とは一度だけロンドンに行ったが、やっぱり楽しかった。ただ、彼女は体が弱くて、向こうで病気になってしまい、半分ぐらいしかいっしょに行動できなかったのが残念だったけど。

 というように、職場のつき合いなら誰とでもまあうまくやっていける。旅行だって2、3日、長くても1週間ぐらいなら、我慢するところは我慢できる。しかし、1週間を超えて、しかも場所が外国となると、よほど気の合う長年の友達でもきしみは出てくるものなのだ。そういう例は他にもいっぱい見てきたし、成田離婚なんてすべてそれが原因でしょ。
 ああ、もちろん私にも原因がないとは言いません。「非常識が服着て歩いてる」と言われる私の場合、むしろ私といっしょにいて耐えられる人の方が意外だし(笑)。(でもここだけの話、大学教員には「非常識が裸で歩いてる」ような人もけっこういるんですよ)

 石神さんとは年数は長いけどほとんどメールだけのつき合いで、彼女が上京したときに何度か会っただけだったし、そんなによく知っている人というわけではなかったので、その意味では賭だった。だけど、私もダテに長生きしてるわけじゃなく、それなりに人を見る目ができてきたと思うし、この人とはきっと気が合うという予感がして、勘が「行け、行っちまえ!」とささやいてたんだよね。

 などと偉そうに書いてるが、実際は石神さんの方が我慢に我慢を重ねて耐えてただけで、実は仏のように寛容な人だったので助かったということもありえなくはないんだけど(笑)。だってそうでしょ、「まかせといて」なんて安請け合いしてたくせに、現地いったら「宿がありませんでした」なんて、普通ならそこで切れられても私はいっさい文句が言えない立場。それを笑って済ませてくれる度量のある人で本当に良かった。
 それに前述の大学の同僚2人なら卒倒しそうな貧乏旅行につき合ってくれて、それでもニコニコしていられる適応力もえらい。

 長時間いっしょにいて、お互い気持ちよく過ごすには、もちろん基本的なマナーを守るってのは当然だけど、やっぱり気質が合う、合わないが大きいと思う。
 個人的に私がいっしょに旅行して楽しい人は、おいしいもの食べたら、「うわー、おいしい!」と言ってくれる人楽しいことがあったら、「すっごい楽しい!」と思ってくれる人珍しいものを見たら、「うわー!」と驚いてくれる人なんだけど、なぜかそういう人って意外と少ないんだよね、日本人って。(当然ながら感情をすぐに外に出す欧米人には多い。っていうか、日本に初めて来た外人見てると、なんにでも感激しておもしろいし、こっちも幸せな気分になる)
 逆に嫌いなのは、まずいもの食べて、「ウエー、まずーい」と文句言う人、些細なことに文句付けてグチグチ言う人、何を見てもシラっとして無感動な人。そ実に多いんだ、こういう人が。
 その意味、石神さんは私なんかよりずっとちゃんとした社会人であるにも関わらず、そういう子供みたいな好奇心や感動も失っていない人で、いっしょにいてとても気持ちが良かった。

 ほんと石神さんには驚かされっぱなしだったと言ってもいい。何に驚いたってここまで気が合うと思ってなかったので驚いた。公園のベンチに何時間も座って空を眺めて桃源郷とか、イギリス料理をうまいうまいと言って食うとか(笑)、私の趣味嗜好っておかしいとみんなに思われてるから。
 でもいちばん驚いたのは、行くまでなんの縁もゆかりも関心もなかったスコットランドに、1週間かそこらいただけで、あそこまで惚れ込んでしまったこと。いや、私から見ると当然なんだけど、普通あんまりないと思う。だいたい私の英国愛、スコットランド愛だって、何十年もかけて培われたものだし。
 その私が驚かされたのは、帰りの飛行機で、真顔で、「で、次いつ来ます?」って訊かれたこと。ちょ、ちょっと待って! 私、このために貯金使い果たして、おかげでエアコンも冷蔵庫もおあずけなんだけど。そう言ったら、「来年は私も無理だけど、再来年までにはお金貯められるでしょ。働いて貯めて下さい!」と詰め寄られてしまった(笑)。

 まあ、帰りの便では誰でも日本に帰りたくなくなるのは当然だからと思ってが、次に会ったときは、なんでかスコットランド永住の計画を練ってる! な、なんか話がどんどんエスカレートしてるんですけど! でもその第一歩として英語の勉強始めたというから本気だ。
 うーん、英国を知ったおかげで私も人生かなり狂ったけど、もしかして私はひとりの女性の人生を狂わせてしまったんではないかと思うと、責任感の重さに身が引き締まると同時に、なんかうれしくて口元がゆるんでしまう。

 だってそうでしょ。私も石神さんも独身で子供もいないし、仕事は一生を賭けるほどの価値のあるものじゃないし(と、少なくとも私は思ってる)、人生の中で何かひとつぐらい打ち込めるもの、一生を賭けて追い求める夢があってもいいじゃない。かく言う私はもちろんイギリス永住が夢だが、問題はそのための努力は何ひとつしてないこと。でも若い石神さんならできるかもと思うと、それだけでもうれしくなってくる。

 とにかくお疲れ様でした! 楽しかったね! また行こう!

蛇足の蛇足――しつこく同行者の話

 変な相手よりはひとりで旅行する方が楽しいのは事実だが、結局、旅行って誰と行くのがいちばん楽しいのかな? 普通に考えるのは家族、配偶者ってところかな。確かにそれは楽だし気兼ねがいらないが、もう相手に飽きてるし(笑)、新しい発見もないぶんいまいちな気がする。
 やっぱり気のあった友達がいちばんかな。もちろん、異性の友達っていう選択肢もありよ。ただ、恋人との旅行も上と同じ理由で新鮮味がない気がする。あと、観光客見てると、疲れた顔してお互いうんざりした様子のカップルが多いのも、なんかやだなーという感じがする。
 私がちょっとうらやましいのは男の子(年齢問わず)同士の友達旅行。男だと女同士よりも無茶ができるし、お互いズケズケ文句も言えるし、珍道中になるケースが多くておもしろそうに見える。買春旅行なんてのは論外ですがね。
 あと、おばさんが若い男の子2人と旅行したのもなんかうらやましかった。もちろん部屋は別だが、枯れちゃってるからできることですがね(笑)。あ、でもこれだと何かにつけておばさんが金払う役か。それじゃ私には無理だ。
 あと、あこがれてるのは男女混合のグループ旅行(笑)。もちろん国内なら経験あるよ。若いころはやってたし、大学のゼミ仲間とも行ったけど楽しかった。その中にはカップルは一組もいなくて、変な下心はないけど、エッチな冗談も言える仲、ぐらいのがいちばん楽しかったな。1対1だと気の合わない奴とかいるけど、グループだと適当に緩衝剤がはさまるからケンカも起きにくいし。
 この年になってグループ旅行するとしたら、いっそ性別だけじゃなくて、年齢も職業もまちまちなグループがおもしろそう。それで全員が一芸に秀でているの。大人の取り柄ってそこですもんね。今回の私たちもある意味そう。私の英語、石神さんの運転という特技があったからこそ、ひとりで行くより楽しめたわけだから。特技ったってたいしたことなくていいの。たとえば木や鳥の名前に詳しいとか、そういう人がひとりいるだけで旅行が楽しくなるからね
 というわけで、もしこれを読んでる独身男性(既婚者はやっぱ無理でしょ)で我こそはと思う人がいたら、名乗り出なさい。いや、本気。大学外でそういう仲間がほしいよ。

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