スポーツ評
こんなことは言いたくないのだが、本田圭祐の今後のサッカー人生がどう転ぶかに関係なく、たぶん私は彼のことをクラブに関しては恵まれない不幸な選手として記憶し続けるだろう。
Jリーグの金持ちクラブ名古屋からオランダの弱小チームVVVへの移籍はしょうがない。当時の本田はまだそれほどの選手じゃなかったし、日本人サッカー選手の海外移籍自体がまだ珍しい時代で、選べる立場じゃなかった。それでも、名古屋でもう少し辛抱して結果を出してれば、後のJ選手のドイツ移籍ブームに乗れたんでは‥‥と思わないではないが、このVVVでの体験が彼を大きく変えたと思うので、これはいいことにする。
そのVVVで二部落ちしたことも、彼自身の力不足もあったからしょうがない。でもこの二部で本田は覚醒した。それで、海外組では稀な日本人キャプテンとしてチームを率いて二部で大暴れして優勝した。この二部時代に私は彼を知ったのだが、この当時の本田は本当に輝いていたし楽しそうで、見ていて本当にかっこよかったし楽しかった。
それで一部へ上がって、ここでも大暴れ、しそうな予感があり実際うまくやっていたところへ突然のロシア移籍。これにはさんざん文句を言ったが、結果として危惧した通りの事態になった。
一部でも十分通用するところを見せて、満を持して、いきなりビッグクラブは無理でも、サッカー先進国の中堅クラブへ移籍するというのがいちばん無難だと思ったが、なんでそこでロシアなのか? 中東の次ぐらいに最悪な選択じゃない? 私には「ロシア抑留」という言葉しか思い浮かばなかったが、本当にそうなったのは皮肉としか言いようがない。
こればっかりは引退後にでも本人の口から明らかにしてもらうしかないが、勝手に推測すると、おそらく本田自身はロシアはすぐに出るつもりだったに違いない。あるいは、口利きをした代理人から、よほどいいことばかり聞かされたか。当時言われた、「(代表監督の)岡田にワールドカップメンバーに選んでもらうには、チャンピオンズリーグで活躍しないとならなかった」という噂も一理あると思われる。すでに代表でも結果を出していたことを思うと納得行かないが、確かに監督にはあまり気に入られてなかったし、海外でもVVVではクラブとしての格はだいぶ下だったし。
それでCLに続き、ワールドカップでも大活躍だから、一気に世界に本田圭佑の名がとどろいた、あの南アフリカWC後が、年齢的に言っても話題性から言っても、移籍のビッグチャンスだったし、本田もこれで行けると思ったに違いない。でも世の中は甘くない。
せっかく使えるということが判明したばかりの期待の選手を、採ったばかりのクラブがそうおいそれと出すはずがない。それでも莫大な金を積むビッグクラブがあればまた別だろうが、日本人選手にそこまでするクラブはない。それでも移籍シーズンが来るたびに、あまたのビッグクラブの名前が挙がったが、CSKAは決して首を縦に振らなかった。VVVぐらいの貧乏クラブならすぐにうんと言ったはずのオファーもことごとく蹴られた。なまじCSKAが金には困っていない金満クラブなことが裏目に出たのだが、そんなことも入団前に予測できただろうに、いつでも出られるという根拠のない自信があったとしか思えない。
それでも本田自身がロシアを気に入っていて、ここでプレイしたいと望んだのならしょうがないが、彼がロシアを安住の地と考えてないというのは、あれだけの完璧主義者が、ロシア語を覚える気がまったくないというだけでも明らかだった。
私がロシアをいやだったのは、もうすべていやだが(笑)、あたらサッカー選手として最も脂の乗りきった全盛期を極北の地で、誰にも知られないまま過ごすのかということが大きかった。異常な低温も人工芝などの環境の悪さも選手生命を縮めるとしか思えないし、実際、ロシアで彼は徐々に命を削られていくように見えた。実際膝も壊したし。
何より本田自身がロシアで楽しんでいない様子なのがつらかった。VVVではあんなに元気で生き生きしてたのに、CSKAではクール、という外見に隠れた失望や内心の焦りが気になった。
そこで4年間、結局CSKAとの契約が切れるまでいるしかなかった本田の、内心の葛藤はどれほどだったろう。っていうか、それを見ているこっちがどれだけつらかったか。
そして待望の刑期満了、じゃなかった契約が切れたのが昨年12月。衰えたとはいえ、本田クラスの選手がタダで手に入るチャンスだから、多くのクラブがオファーしたはずだが、彼はイタリア・セリエAのミランを選んだ。
待望のビッグクラブ、それも子供の頃からあこがれたクラブらしいから喜んであげるべきなんだが、私の心中は、ええ~?
正直、セリエもミランも昔のセリエやミランじゃないし、なにも沈みかけた船に乗らなくてもって感じ。まあ、香川みたいに沈没船に乗ってる人もいますがね(笑)。あれは香川にも責任の一端があるし。
私は言うまでもなく英国一筋なので、もうどこのクラブでもいいからプレミアへ行って!とそれだけを毎日願掛けしてたのだが無駄だった。まあ、本田の年だと、子供時代がセリエの全盛期なんだろうね。だからあこがれる気持ちもわかるのだが。もしかして(元ミラン監督の)ザッケローニの人脈もあったかも。
しかし、本田がイタリアへ飛ぶ日、2ちゃんねるでは本田の乗った飛行機を見守るスレが立っていたのには笑った。今は世界中の航空機がどこにいるかをリアルタイムで追えるんだね。日本のファンとしては、これまであまりにも何度も移籍話が出ては泡と消えたから、実際にミラノへ乗り込んで入団発表するまでは安心できないという気分はわかるが。
と思ったら、ミランの英語フォーラムでも同じことしていた(笑)。ところで日本からヨーロッパへ飛ぶにはモスクワ上空を通過するのだが、2ちゃんでは「早く逃げて! 逃げないとプーチンが送った迎撃機が!」と騒いでいたのには笑った。
私はイタリアは好きだし、住む分には最高だと思うが、セリエは中田の時代ぐらいしか気にしてなくてよく知らないけど、なんか今のミランは信頼できない感じで、ちょっと心配してた。
それでも本田さえ活躍してくれれば文句はないのだが、チームもガタガタ、本田自身もガタガタで、今に至るわけだ。本田の不調は多分に、前章に書いた病気のせいだと思うが。
というわけで、まだ先のことはわからないが、ここまで振り返ってみると、実力と人気のわりにあまりに不運な裏道を歩いてきたクラブ人生に涙が出る。まあ、このあとミランで大成功すればすべてはめでたしめでたしなんだが、やっぱり世の中そう甘くないと、私の中の世間を知り尽くしてしまった意地悪なリトルじゅんこが言っている(笑)。
他人の人生にあれこれ言うのは失礼だが、海外に出るのはもうあとほんのちょっと待って、日本人選手の海外移籍ブレイクのあとだったらとか、VVVを出るのはせめて南アフリカのあとだったらとか、そうじゃなくてもロシアじゃなかったら‥‥と、タラレバばかりが頭に浮かぶ。
実を言うと、現在の日本人選手の力量から言って、私が理想だと思うのは、そこそこの中堅クラブでレジェンドとなること。キラ星の居並ぶビッグクラブなんかで2、3シーズン活躍したって、すぐに忘れ去られる。それより地域に密着した中堅クラブで、永遠に語り継がれる英雄になる方がいい。いや、すでにVVVではそうなってるかもしれないが(スタジアムに本田の名前を付けるとか、銅像を建てるとかいう話があったがどうなったんだ?)、格から言ってそれがVVVではあまりにも悲しい。
くやしいけど、理想は中村俊輔。何がくやしいかと言うと、個人的に本田との確執が記憶に新しくて敵認定なのと、セルティックを振って日本に帰ってきたところが、(ややこしいが私はスコットランド側なので)裏切り者だと思うからだが、それでも彼は永遠にセルティック(グラスゴーを本拠とするスコットランドリーグの最強クラブ)のレジェンドだし、今も市民に愛されている。
帰国後の俊輔の活躍を見ようと、スコットランドからキルトはいたセルティックファンが、わざわざ横浜まで見に来ているのを見たときは、嫉妬で死にそうになったぐらい。私は特にスコットランドが大好きなので、スコットランド人にこれだけ愛されてるだけでも嫉妬の嵐よ。
さらに、引退前はもう一度セルティックに帰ってきてほしいと言われているんだって。引退前ってことは当然もう力は衰えてるから、戦力ではなく、単にクラブのレジェンドをもう一度見たい、引退の花道を用意してあげたいってことでしょ。これ以上のリスペクトはないでしょう。(たぶんあいつは行かないが) なんてうらやましい! 本田にもできればイングランドの中堅クラブで、こういう身分になって欲しかったんだけどなあ。
レジェンドでこそないが、シャルケの内田も、インテルの長友も、サポーターに愛されてるしチームの顔になってるよね。ヨーロッパでの知名度も本田・香川に次いで高いし。なんかいいなあ。
あーだめだ。この話題になると愚痴しか出てこないのでやめる。少なくともミランにいれば、いいプレイさえすればみんなが見てくれてるし、あとは実力で見返すしかない。あと、仲のいい長友が同じ町にライバルとしているのってちょっといいね。お互い切磋琢磨できて。インテルとミランに日本人がいるなんて、やっぱり夢の世界だよなあ。
それにクラブはダメでも代表チームでの本田はとっくにレジェンドだし、それに見合う活躍してくれてるからいいんだけど。とにかくブラジルでも期待してます。
ついでに他の選手の移籍話についても。
私としては、本田の次に好きな岡崎慎司がドイツのシュトゥットガルトで低迷していたことには、本田以上に心を痛めていた。同時期に日本代表では点取りまくっていたのに、やっぱり小さすぎるからか、それとも不器用だから海外は向いてなかったのかなあとか、いろいろ考えた。
ところが同じドイツのマインツに移籍したとたん、破竹の快進撃で、2桁得点。ちゃんと資料を調べてないが、確かもう高原や香川の記録を超えて、ドイツで最も成功した日本人選手になったんじゃなかったっけ?
代表での通算得点記録も確かもう原(博実)を越えたはずと思って、いま(6月25日)調べたらこうなってた。
表左が通算出場回数、表右が通算得点
名前 | 最終所属クラブ | 出場 試合数 |
名前 | 最終所属クラブ | 通算得点 | |||
1 | 遠藤 保仁 | ガンバ大阪 | 146 | 1 | 釜本 邦茂 | ヤンマー | 75 | |
2 | 井原 正巳 | 浦和レッズ | 122 | 2 | 三浦 和良 | 横浜FC | 55 | |
3 | 川口 能活 | FC岐阜 | 116 | 3 | 岡崎 慎司 | マインツ(独) | 39 | |
4 | 中澤 佑二 | 横浜F・マリノス | 110 | 4 | 原 博実 | 三菱重工 | 37 | |
5 | 中村 俊輔 | 横浜F・マリノス | 98 | 5 | 高木 琢也 | コンサドーレ札幌 | 27 | |
6 | 三浦 和良 | 横浜FC | 89 | 6 | 木村 和司 | 横浜マリノス | 26 | |
7 | 今野 泰幸 | ガンバ大阪 | 83 | 7 | 中村 俊輔 | 横浜F・マリノス | 24 | |
8 | 稲本 潤一 | 川崎フロンターレ | 82 | 8 | 本田 圭祐 | ACミラン(伊) | 23 | |
三都主 アレサンドロ | FC岐阜 | 82 | 高原 直秦 | SC相模原 | 23 | |||
10 | 長谷部 誠 | フランクフルト(独) | 81 | 10 | 中山 雅史 | コンサドーレ札幌 | 21 | |
11 | 岡崎 慎司 | マインツ(独) | 79 | 11 | 香川 真司 | マンチェスターU(英) | 19 | |
12 | 駒野 友一 | ジュビロ磐田 | 78 | 宮本 輝紀 | 新日鐵 | 19 | ||
都並 敏史 | ベルマーレ平塚 | 78 | 13 | 柳沢 敦 | ベガルタ仙台 | 17 | ||
14 | 楢崎 正剛 | 名古屋グランパス | 77 | 中澤 佑二 | 横浜F・マリノス | 17 | ||
中田 英寿 | ボルトン(英) | 77 | 15 | 玉田 圭司 | 名古屋グランパス | 16 | ||
16 | 釜本 邦茂 | ヤンマー | 76 | 16 | 杉山 隆一 | 三菱重工 | 15 | |
17 | 原 博実 | 三菱重工 | 75 | 碓井 博行 | 日立 | 15 | ||
18 | 長友 佑都 | インテル・ミラノ(伊) | 72 | 18 | 遠藤 保仁 | ガンバ大阪 | 13 | |
玉田 圭司 | 名古屋グランパス | 72 | 19 | 森島 寛晃 | セレッソ大阪 | 12 | ||
柱谷 哲二 | ヴェルディ川崎 | 72 | 渡辺 正 | 八幡 | 12 |
サッカー日本代表 国際Aマッチ&ワールドカップ記録から引用
太字は現役選手
(2014年6月25日現在)
すげー! 岡崎、もう完全に日本のエースどころかレジェンドの仲間入りじゃない。なのにあの扱いの軽さはなんなのか?と前から言ってるけど。しかし、なにげに本田も8位に食い込んでるんな。あれだけ点取ってるんだから当たり前だけど。なのに、出場試合数では本田はベスト30にも入らない。ストライカーではないことを思えばすごい得点率だな。(まあ、本田はPK蹴ることも多いから額面通りではないが)
というわけで、岡崎はやっぱり本物だった。しかも本田みたいなフィジカルとか、長友みたいなスタミナがあるならともかく、あの恵まれない体で、特にスピードがあるとかテクニックがあるとかいうわけではない岡崎がよくドイツで‥‥
と思っていたが、なんかいつの間にかめちゃくちゃうまくなってない、この人? 昔の岡崎はひたすら泥臭く点取ってる感じだったのに、なんか最近代表でも華麗なテクニック見せるし。体つきも、小さいのはしょうがないとしても、長友顔負けのガチムチになってきてる。顔もなんかきりっとしてきたし。やっぱり苦労して成長したんだなあ。
あと、香川についても一言。マンチェスター・ユナイテッドに移籍したときの私の錯乱ぶりはその時の日記を見てもらえばわかると思うが、あのときは、日本人からMan-Uの選手が出るなんて光栄なことだし祝ってあげなきゃいけないと、私らしくもない愛国心を発揮して、あれでも精一杯好意的に書いたんですよ。でもその後の香川を見ていて、やっぱり私、この選手嫌いだわと(笑)。考えてみたら、そもそも私がMan-Uというかプレミア全体に愛想を尽かしたのは、「金で取ってきた変な外人だらけになっちゃった」からなんだが、香川もその変な外人そのものじゃないか(笑)。
なんで香川が嫌いかというと、そもそも私はチビやブサイクや気が弱そうで暗そうな奴や見るからに頭悪そうな男が嫌いだからっていうのもあるが(遠慮をなくしたとたんひでー言いよう)、何より点取れないから。ドルトムントじゃ点取ってたそうだが、私は(地上波しか見られない時代だったので)見てないし、代表やMan-Uではぜんぜんだから、単にいらない選手という印象しかない。むしろ上の表で香川が通算得点の11位になってるのを見て驚いたくらい。でも私の印象じゃどうしても1点欲しいところで香川が得点したケースってないんだな。5点とか6点とか入るようなバカ試合や、どうでもいい消化試合でしか得点しないっていう印象で。だいたい、私が彼の得点シーンはほとんど見てないということは、(私は重要な試合しか見ないので)やっぱりどうでもいいところでしか取ってないということだ。その辺が、本田・岡崎との違い。
でもテクニックが~というのも聞き飽きた。そもそも私はああいうチョコマカしか選手が嫌いだし、試合で生きないテクニックなんか曲芸でしかない。それより、体を寄せられるとあっさりボールを奪われたり、勝負所でバックパスを選択するような体の弱さ、気の弱さがすごい嫌い。だいたい私が嫌いなんだから英国で好かれるわけがなかったんだ(断言)。
しかし香川に対するイライラなんかどこかに吹き飛んでしまったのは、香川レベルじゃないMan-Uそのものの失墜。長年Man-Uを率いた名将ファーガソンの後だから、次の監督は誰が来ても、何をやっても叩かれるだろうなとは思っていたが、後任のモイーズが来てからのダメダメさは目を覆うばかり。最初は同情的だった私も見放した。とてもこれが前年の優勝チームとは思えない。あらためて、監督の重要性を思い知らされた。
香川もとんだ泥船に乗ってしまったわけで、これは彼の責任ではないので本当に気の毒に思う。それでも、彼はファーガソンの最後のシーズンで、優勝を味わったんだなと思うと、嫉妬のあまり殺したくなる。早く移籍すればいいと思うが、どこへ行っても使えないとも思う。とにかく、こいつが「マンチェスター・ユナイテッドの香川真司です」と言って出てくるのを見ると、めちゃくちゃ血圧上がるので早くやめて。