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2014年6月14日

スポーツ評

本田圭佑のバセドウ病について

 なんかワールドカップの日本緒戦の前夜にあんまりな内容だけど、どうしても言いたかったんで書かせてください。なにしろ私は同病で長年苦しんだので。自分の病気についてはあんまり宣伝したくなかったんだけど、同病で悩んでいる若い人や、もしかしてこの病気じゃないかと心配している人の参考になるかも知れないし。ただ、もちろん私は医学については素人なので、あくまで個人的体験+素人の知識と思ってください。
 というわけで、私が昨年、ワールドカップ最終予選 日本対オーストラリア 戦のリビューに書いたこと、引用すると

元から目は大きくてギョロ目だったけど、なんかまぶたが引き攣れたみたいにまくれ上がって、白目がむきだしになったみたいな。私は真っ先に甲状腺の異常を疑ったけどね。自分がそうだったから知ってるが、甲状腺機能亢進症(いわゆるバセドウ病)になると、目が飛び出したようになって、ものすごく人相が悪くなるのだ。目が異様にギラギラ光るようになるのもあるが、本田の目もそう見えた。あんな美男子だったのに!

というのは図星だったわけだが、それでもあっさりと「まさかね」で片付けていたのは、あそこにも書いたように、バセドウ病を患いながらスポーツなんかやってられるはずがないと思ったからだ。なのに本当だったのかよ、く~!

 というところで、まず本田は本当にバセドウ病なのかというと、なぜか本人は言葉を濁しているが、確定である。たぶん彼としては生来の負けず嫌いで、病気を言い訳にしているとか、同情を買おうとしているとか思われるのがいやで、はっきり言わないんだろうが、わかる人が見れば一目瞭然だ。私、しばらく代表戦や代表についての報道見てなかったので、こないだ初めて写真を見てのけぞった。この首の傷! これが甲状腺切った痕でなくてなんだろう。私もちょうど同じところが腫れているので(私は切ってない。治ったということになっているが肥大した甲状腺は元には戻らない)甲状腺の位置はよく知ってるし、この種の手術跡の写真も何度も見たわ。
 ていうか、それ以前にあの目はバセドー病の目に決まっているのに、なぜかそんなはずないと自分をだましてました。俗に「目が飛び出す」というが、本当に飛び出すわけではない。(ものすごく症状が重い人はそうなるのかもしれないが、普通そこまで放ってはおかない) 上まぶたが腫れぼったくなったり、まぶたが上に引っ張られるようになるので、目が飛び出したような印象を与えるだけ。

 (自分の顔写真を何度も貼るのは気が引けるので、リンクだけ張っておくが)これがバセドウ病の目です。私も発病当時ほどのことはなくなったが、人相は完全に変わった。と言っても、年も違うし男女差もあるし、だいいち元の顔自体が違うのに比較は無理な気がするが、今自分で見てがくぜんとしたぐらい、この変化はそっくり似ている。
 と言っても、私の場合は老化が著しいし、読者の皆さんは元の顔を知らないからぴんとこないだろうが、私は自分で言うのもなんだが、大きな黒目がちの、おっとりしてかわいらしい顔だったのだ。(中身と見た目が違いすぎるし、個人的には早くおっかないおばさんになりたかったので、自分のこういう顔は嫌いだったのだが)
 ところが、あそこで自分で「怖い顔になってしまった」なんて書いてるが、なってしまったじゃなくて、今じゃ地顔がこれなんだってことを忘れてる。そう、バセドウ病になって目が腫れると、妙に意地悪そうな人相悪い顔になるんだよね。なのに、自己イメージの中ではいつまでも「昔の自分」にしがみついているから、ぱっと見て「怖い顔」と思ってしまうのだ。
 本田もまさにそうだった。彼はゴリラとか言われるが、それは体型とあごと眉毛の上の隆起のせいで、目そのものは大きくてぱっちりした、むしろ少年ぽいかわいい目をしていたのを思い出してほしい。だからこそ(まだ子供っぽい顔立ちの)ネイマールに似てるなんて言われたんだし、顔が変わってからはまったくネイマールに似たところはなくなったのを見てもわかる。
 これも余談だが、私の主治医は私を慰めようとしてか、「この病気になるのは、元々目が大きくて美人の人が多いんですよ」と言っていた。そういや、本田くんも元々彫りが深くて日本人離れした容貌だったよなー。主治医いわく、発病はしなくても病気の素因を持ったタイプの人がいて、それは容姿に現れてるんだという。そういや、私の母もバセドウ病ではないが、私よりも出目で目がでかかった。私も年を取ったら気味悪いほど母に似てきたし。

 でもこの病気の症状として、目が変になるぐらいは序の口だ。素人なりの解釈では、甲状腺ホルモンというのは全身の細胞の基礎代謝を活発化し、要するに「働け!働け!」と鞭打つホルモン。これが異常に出過ぎるのが甲状腺機能亢進症(いわゆるバセドウ病)。これになると、たとえ休息していても寝ていても、細胞は起きて活発に活動しているので、当然ながら、ものすごく疲れる。いくら寝てもまったく疲れが取れず、いつでもぐったりと疲れている‥‥にもかかわらず、体はそれでも全力疾走している状態。バセドウ病でサッカーみたいな激しい運動ができるわけがないと言うのはそういうわけ。
 それでもすぐにどうこうなる病気じゃないが、その疲れはだんだん蓄積して行き、放っておいたら最期は心臓が過負荷で止まる、と聞いた。

 でもまさか自分がそんな病気になるとは思わなかった私は、自分がなんでこんなに疲れているのかわからず、悶々としていた。まぎらわしいのは、私がもともと虚弱体質で疲れやすい体質だったこと。だから自分じゃ「いつものこと」としか思わなかった。ちょっと働きすぎかなあとか、私ももう年なのかなあと思うぐらいで。(私が発病したのも本田とほぼ同じ20代後半なんだが)
 それがいよいよヤバいと思い始めたのは、階段が昇れなくなったとき。今は膝が痛いので階段昇りがきついが、それとはまったく関係ない。痛いのじゃなくて、文字通り足が重くて10cmも上がらないのだ。(当時は今と違ってガリガリに痩せてたので体重のせいでもない) だから、おかしいとは思いつつも、2階の教室行くにもエレベーターを使ってた。
 腕の力もなくなり、重いカバンが持てなくなったので、少しずつ荷物は学校に置くなどしてカバンの重量を減らした。重すぎると文字通り持ち上がらない、ばかりか、無理に持とうとしてもストンと手から落ちてしまうのだ。

 同時に自分でも変だと思ったのは異常にお腹がすくようになったこと。上記のように、本人はぐったりしていても細胞は活発に動いているので、すごい熱量を消費するのだ。それをカバーするのにお腹が減るわけ。私は食が細くてやせっぽちの虚弱児だったので、そもそもお腹が空いたなんて感じることもなかったというのに。
 朝はちゃんと食べてるのに、昼までの時間が保たない。しょうがないので1時間目と2時間目の間の10分しかない休み時間に、学食で飯をかき込むのだ。学生に見つかって、「痩せの大食いなんですね」なんて笑われたが、恥ずかしいけど食べないではいられない。授業が終わっても、今度は家に帰り着くまで保たないから、また途中でなんか食べる。もちろんそれ以上に消費しているので、食べても食べても痩せていくばかり。

 家族も私の異常には気付いていた。勘違いの方面でだけど。母に言わせると、手の震え(これもバセドウ病の特徴のひとつ)には以前から気付いていて指摘したという。でも当時の私は母と仲が悪く、特に母が「あんた麻薬やってるでしょ」と見当違いの非難をするので、「バカ言わないでよ!」とむきになって認めなかったのだ。
 さらに母が言うには発病後、異常に性格が悪くなったと言う。これまた私は、母との不仲の原因は母にあると思っていたので、言いがかりとしか受け取らなかったのだが、確かにホルモン異常は精神にも影響を及ぼす。考えてみれば、私はどっちかというと天然で、物事に動じないおおらかな(悪く言えば無神経な)性格だったのに、この頃はやたらイライラして人に噛みついていたような気がする。
 そういえば本田くんも‥‥昔はすごく大人びて頭のいい人だと思ってたけど、この頃、ちょっと首をかしげるような発言が増えてるのはもしかして‥‥

 でもバカな私は(当時はインターネットのような情報源もなかったし)まさか自分が病気だとは思わなかったんだよね。もちろん働かなくては食べていけないので、こんな状態でも働いてたんだが、死ぬほどきつかった。
 結局、とうとう病院に行ったのは風邪を引いたとき。体力消耗しているから、当然抵抗力も落ちて風邪を引きやすくなってたんだと思うが、しまいにはベッドから起き上がるのも困難になってやっと病院へ行った。
 その時たまたま当たった医師が甲状腺の専門医で、私が「風邪を引きまして‥‥」と言い出すと、「あなたはバセドウ病です」と一目で見抜かれてしまった。それで検査をしたら、その通りだったわけ。

 バセドウ病の治療にはホルモン剤の投与と手術の2通りがある。私の主治医もそれを説明してどちらにするかと聞かれた。手術をするなら甲状腺のいちばんの権威である原宿の伊藤病院を紹介するとも言われた。
 でも、喉というのはなにしろ大事な器官や神経がいっぱい通っているところなので、けっこう危険な手術であること。一度取ってしまった器官は元に戻せないこと。(ホルモンの分泌なんて年によっても変わるし、逆に少なくなりすぎても病気になる) そして何より、まだ若くて、白くて細い首が自慢だった私は、首のあんなに目立つところに大きな傷跡が残るのがいやで、薬を選択した。あんな傷があったら、一生胸のあいた服が着れないと思って。

 でも、薬を飲み始めたら1週間と立たないうちに、上記の症状はすべて消え失せた。自分がそうだったから、本田ももしバセドウ病なら薬を飲んでるに違いないと思ったわけ。
 ただし、手術と違って、薬は残る一生1日も欠かさず飲み続けなければならない。薬は単にホルモンの分泌を抑えるだけで、病気を治すわけではないから。もちろんその都度検診も必要。それを30年続けたのだが、つい最近になって、完治したというお墨付きをもらって薬をやめることができた。自然治癒することもあるんだね。切らないで良かった。

 なのに本田さんは手術か‥‥目もレーシック手術をしたようだし、体にメス入れること気にならないのかしら? でも目がおかしくなり始めたのってもう1年前だよね。その間おそらく薬は飲んでたはずだが、それを手術に踏み切ったのは、薬じゃよくならなかったから?
 これは私の推測に過ぎないが、彼はミランで、さらにこのワールドカップでベストパフォーマンスをするためなら、将来の体のことなんか無視して、目だろうが、首だろうが、平気で切るだろうと思う。それぐらい、この男はサッカーに命賭けてるから。でもそこまでする価値があるか?
 それにかんじんのパフォーマンスがこのところ冴えないのは、やはり治療がうまく行かなかったからじゃないのか? なのにその本田を叩くイタリア人や日本人は鬼だ! 私なんか病名がわかってから(その必要はなかったにもかかわらず)ショックで大学1か月休んじゃったぞ。
 とにかく体力や筋力や運動能力が衰える病気にかかって、サッカー続けてるだけでも信じられないよ。まして、この人はそれで点取ってるし(笑)。本当にこの不屈の根性と、有言実行ぶりには頭が下がります。なんかここまで行くと、好きというより畏れ多くて痛ましい。

 しかし、まさかねえ。昔、本田は私に性格が似てるなんて畏れ多いことを書いてたが、膝といい、甲状腺といい、おんなじじゃないか!
 実はさっきの主治医に言わせると、バセドウ病になりやすい性格というのもあるんだと言う。なりやすい性格っていうより、甲状腺が活発すぎる人の性格ってことだけど。これも医者のセリフなんだが、この病気の患者には「有能で、なんでもできて、仕事もテキパキやるような完璧主義者」が多いんだって。
 これだけは私は違うと自信を持って言えるけどね(笑)。私は間違いなく根性なしの怠け者だから。でも本田くんには当たってるような気がする。あの、到達不能と思える目標に向かって、いつも自分を追い込んでいく性格、完璧でないと気が済まない性格はまさにそのものだ。

 なんかもうここまで行くと他人とは思えないよ。それと同時にこの人の不運さに涙がこぼれる。それでも彼はやってくれると信じてるけどね。というところで、次はちゃんとサッカーの話を書きます。

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