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2014年4月6日

アニメ評

カートゥーン二題

Part2『アドベンチャータイム』(Adventure Time)

Part1 My Little Ponyはこちら

作品紹介

 こちらは見た目は小さい子供向けカートゥーン風の絵とタイトルだけど、実はどっちかというとサウスパークやシンプソンズの系統につながる、あれほどブラックでなくて脱力系の、インディー系の不条理アニメ。こちらは私はフラッシュゲームをやってて、絵がかわいいので気になって、どうやら元はアニメらしいというので検索して知った。

 冒険好きの12才(放送開始から実時間通りに年を取ってるそうなので今は15才だとか)の男の子フィンと、その相棒の不思議な犬ジェイクの冒険談。それにフィンのガールフレンドであるお菓子の国の王女様プリンセス・バブルガムや、意地悪な氷の国の王様アイスキングがからむ、という設定やストーリーはいかにもかわいらしい子供アニメだが、彼らが住んでいるウー大陸は、実は千年前の大規模核戦争で人類が滅亡し文明が崩壊したあとの、科学技術の代わりに魔法が発達した世界。と、いきなり落とすあたりの設定がまずたまらない。好きだー、こういうの!(終末SF好きはもう目がキラキラ輝いている) うう~、ここはUrthかよ?
 そもそもフィンはこの世界では最後の人間の生き残りらしい。他にも人間らしきキャラクターはいないでもないが、作者の解説によるとミュータントだったりヒューマノイド(亜人類)だそうだから。あ、でもフィンも一種のミュータントかも。「ヌードルみたいな腕」して、手足がゴムみたいに伸びたりするし。なんか日本のマンガにいたな、そんなキャラ(笑)。

やっぱりあまり人間には見えない主人公のフィン 帽子を取ると意外や美少年という噂も

 このディープ過ぎる設定にも関わらず、お話はけっこう脳天気に進む。見た目通りかわいらしいキャラたちが繰り広げる、のんびりした不条理ギャグって感じ。それはそれでかわいらしくて楽しめる。
 とにかく出てくるキャラが変な奴ばっかりでおかしい。プリンセスだって、『マイリトルポニー』のプリンセスが女の子が思い描く通りのお姫様なのに対して、こっちはほぼ全員、人外だし(笑)。まともなのはバブルガムぐらいで、あとは変なのばっか。YouTubeで“List of All Adventure Time Princesses ”というのを見て爆笑してしまった。準レギュラーのランピーは宇宙人のプリンセスらしいが、紫のフワフワに手足が生えてるだけだし、ホットドッグ・プリンセスは犬の形のソーセージに王冠が載ってるだけだし、エルボー(ひじ)プリンセスはそのまんま人間のひじがドレス着ている。スライム・プリンセスや胎児プリンセスもそのまんまだし、コミック版だが、ヤツメウナギ・プリンセスなんていう恐ろしいものも出てくる。(ヤツメウナギのあの口をしている。マジで怖いので画像検索しないように) 狂ってる! そのわりに妙にかわいいのも狂ってるんだが。
 いかにもアメリカ人が好きそうな、グロさとかわいさが拮抗する作りで、そういえばそこも水野純子に似ている。そのせいか水野さんも国内より外人(や私)の方が受けがいいみたいね。
 個人的にはこのアニメはすごいかわいくておもしろいと思う部分と、わりと退屈な部分と、ちょっとキモいと思う部分があって、全面的に好きとは言えないんだけど。フィンやBMO(フィンの家に住んでいるゲーム機の形をしたロボット)は死ぬほどかわいいけど、はっきりいってジェイクがわりとキモいんで。えー、だってあの白目と黒目が反転したみたいな目、気持ち悪くない? 人間はみんな黒丸だけの目でそれがかわいいのに、なぜか動物の目はこれなんだよね。(実はこの白い部分は白目じゃなくて目の中の光らしいんだが、やっぱり白目むいてるように見えない?)

サイモンとマーセリン

(このあと大きなネタバレありですので、気にする方は読まないで)

少女時代のマーセリンとサイモン(左)と成長したマーセリンとアイスキング

 ただ、どのアニメもそうなんだが、回が進むにつれておたくファンが増えてきて、内容もよりディープになってくる。第3シーズンあたりから、けっこうシリアスで暗い話も増えてきたようだ。特に悪役だがマヌケなアイスキングは、初期はどっちかというとウザいだけのキャラクターだったのだが、徐々にその秘密の過去が明らかになってくると、急にシリアスな人間味を増してくる。
 実はアイスキングは、元は核戦争前に生きていたサイモンという名の人間で、彼は考古学者だったのだが、偶然見つけた王冠の魔力によって、超自然的な力と永遠の命を得た代わりに、正気と人間だった頃の記憶を失ってアイスキングとして千年間生き続けてきたというのだ。彼がプリンセスと名が付けば誰でも追い回すのは、かつての恋人のことをプリンセスと呼んでいた名残りらしい。
 その恋人ベティとの再会のエピソードも泣かせるんだが、それよりもっと泣かされたというか、これはもうだめだと思ったのは、吸血鬼の女王マーセリンとのエピソード。

 幼い少女だったマーセリンは、戦争後の瓦礫の中でひとりで泣いていたところを通りがかりのサイモンに拾われる。なぜか町はグロテスクなゾンビに占拠されており、マーセリンを守るため、サイモンは王冠をかぶる。彼が「変になっていく」ことを恐れたマーセリンはサイモンに王冠を使うのはもうやめてくれと頼むのだが、彼女を守るためにサイモンはあえて人間をやめて‥‥

 これは禁じ手だよなあ。瓦礫の街をさまよう(親子ではない)不死人の中年男と幼女っていう絵に、私はめっちゃくちゃ弱いのだ。って、そんな変わったシチュエーションそんなにあるかよ?と思われるだろうが、けっこうあるのだ。
 『ハイランダー』という不老不死のスコットランド人を主人公にしたB級映画があって、私はこれの大ファンなのだが、中でもいちばん印象的なシーンは、大戦中の瓦礫の街で、ハイランダーのマクラウドが孤児の少女を救う場面。これは回想シーンで、現代のシーンでは少女はもう初老の女性になってマクラウドの秘書をしているのだが、マクラウドは少しも変わっていない。彼女はずっとマクラウドを愛し続けて、この年まで独身を通しているのだが、以前愛した女性が老衰で死ぬのを見届けたマクラウドは、おそらく同じ苦しみを味わいたくないために、彼女の愛に気付かないふりをしている。ぜんぜんシチュエーションは違うけど、このエピソードにも号泣したよ、私は。
 あと、幼女は出てこないけど、不死人との悲恋という点では、英国ファンタジーに『ザンス』シリーズというのがあって、これはしょうもないダジャレ・ファンタジーで私は好きでもなんでもないのだが、その中の不老不死の戦士を主人公にしたエピソード(『幽霊の勇士』)だけは何度読んでも泣く。主人公のジョーダンは400年前に死んだ戦士の幽霊なのだが、愛した女の「残酷な嘘」のために幽霊になったことをずっと恨んでいる。彼は死んでも何度でも生き返ることのできる能力の持ち主なのだが、体がバラバラになると生き返れない。その女スレナディは彼をだまして殺し、体をバラバラの場所に埋めたのだ。しかし実は彼女は悪い魔法使いに求婚されていて、ジョーダンを殺して埋めたのは、彼を守るためだった。しかしその後彼女は魔法使いに捕らわれ、ジョーダンを助けることができないと知って自殺する。そして、幽霊のジョーダンが400年に渡って思いを寄せていた幽霊の女こそ死んだスレナディの幽霊だった。2人は愛し合っていたが、未だにジョーダンが自分を誤解して憎んでいるのを知っているスレナディは、自分の正体を明かすことができなかったのだ。
 なんかもう話がどんどん『アドベンチャータイム』からそれまくってるが、こういうのを見ると私はそうした話を思い出してしまって、よけい泣けてもうだめなのだ。とりあえず、このエピソードの入ったDVDは買おう。

 吸血鬼のマーセリンは、ボロボロになったグロいテディベアを大切にしているのだが、このぬいぐるみも元はサイモンがマーセリンを泣き止ませようとして与えたものだった。ただ、この幼児期には彼女は人間と悪魔の合いの子ではあるが、吸血鬼ではなかったのに、なんで彼女が吸血鬼になったのかはまだ明かされていない。(あと、悪魔の父ちゃんがいるのに、なんでひとりぼっちだったのかも謎だが、追求し出すときりがないので、そっちはやめておく)
 一説にはマーセリンは重い病気で、(サイモンといたときに熱を出している)、このままでは死んでしまうので、通りすがりの吸血鬼が彼女を噛んで不死身にしたというのだが、これはあまりありそうにない、ていうか、そんな小説もあったよな。それならばマーセリンは幼女の姿のままのはずなのに、成長した女性になってるし、サイモンに拾われたのも偶然なら、吸血鬼に出会ったのも偶然って、あまりにも都合が良すぎる。
 私は彼女はサイモンのために自ら進んで吸血鬼になったんだと思う。つまり、自分を守るために発狂してすっかり自分を見失ってしまったサイモンを逆に見守り続けるために、彼とは別の方法で不死を得るしかなかったんじゃないかと。あるいは待ち続ければサイモンがいつか正気を取り戻してくれるのを期待していたのかも。
 そこまでしてアイスキングに尽くしているのに、アイスキングになってしまったサイモンは彼女のことをまったく覚えていない。しかも彼女の愛を勘違いした色ボケ爺に迫られたりして、怒りと悲しみの涙を流すマーセリンは本当にかわいそう。すべて忘れてしまったアイスキングは気楽でいいが、マーセリンはこの苦しみに千年間耐えてきたんだからね。それでもなおサイモンを愛しているあたりがよけいかわいそう。
 このアニメにも大量の二次創作が存在するのだが、主人公のフィンとジェイクを差し置いて、サイモンとマーセリンの話を映像化したものが多い。それで、それ見てまた泣いてしまう。まあ、普段の不条理ギャグやほのぼの路線とは世界が違いすぎて、ややわざとらしさを感じないわけではないけれど、でも泣かずにはいられない。

二次創作について

『アドベンチャータイム』化した『マイリトルポニー』
これはこれでかわいい

 二次創作の質の高さも『マイリトルポニー』と同じだが、ちょっと意外だったのは『アドベンチャータイム』と『マイリトルポニー』をミックスした絵も多いということ。つまりファン層が共通してるってことか? タイプが違いすぎると思うんだが、私が両方好きってことは他にもそういう人が多いんだろう。ミックスというのは、たとえば『アドベンチャータイム』の絵柄で『マイリトルポニー』を描いたり、逆に『アドベンチャータイム』の登場人物を全員ポニーに置き換えたり。当然ながらどっちもかわいい。

性転換したフィオナと相棒のケイク

 そして『マイリトルポニー』に公式の「人間化」バージョンがあったのと同じように、『アドベンチャータイム』には「Gender Bender」とか「Gender Swap」と呼ばれる(どっちも性転換の意味)バージョンがある。作中の男女がすべて入れ替わっている平行世界(実はアイスキングの妄想の世界)なんだが、これも二次創作にありがちな発想。わりとそういうところ、どっちもおたくに媚びてるな。全員人外なんだから男でも女でも関係なさそうだが、実はこれがなかなかいい。
 主人公のフィンは女性化してフィオナになる。といっても、いつもかぶっているクマ耳の帽子がウサギ耳の帽子になるぐらいで服装もほとんど同じなんだが、フィンはヒョロヒョロに痩せているのに、フィオナはむっちりと肉感的な体つきなのが変に色っぽい。まあ15才ぐらいだとこれぐらいの男女差があるから不思議はない。犬のジェイクは猫のケイクになって、これも性別が逆転する。やっぱり猫の方がいいなあ。ケイクは妙に世話焼きのおばさん臭いんだが、ジェイクはおっさん臭いし。
 でもバブルガムはちょっと。プリンセスがプリンスになったのはいいが、性格はほとんど元のままなので、勇ましいフィオナに振り回されるナヨナヨした男になってしまった(笑)。逆に元がミステリアスなマーセリンはマーシャル・リーと名前が変わるが、男のほうが魅力的かも。ファン人気もプリンス・バブルガムより断然高い。(名前が違いすぎると思うかもしれないが、原語の発音だとマースリン→マーシャリーでよく似てるのよ)
 他の男性陣もいいんだよね。フィンはやけに女性にもてるんだが、その女性たちが全員男に変わっているわけ。この男たちがまた変に色っぽい。そのせいか、女性の描く二次創作は最初からこっちの版になってることが多いようだ。

トイレのBMO。コップの水を流しておしっこしたつもりなの。かわいすぎるー!

 とにかくこの、一見子供の落書きのようにシンプルな絵は魅力的だ。私はキャラクター商品なんて欲しいと思ったこともないし買ったこともないが、Forbidden Planet(英国のマンガやアニメの専門店)にあったBMO(ビーモと読む)のスウェットだけはどうしてもほしいと思った。(あいにく売り切れ) 逆に『マイリトルポニー』はいくら好きでも、あの絵のついたTシャツとか着て歩く勇気はない、っていうかそれに勝る恥辱はないと思う。
 違いは何かと言えば絵のセンスだろうなあ。『マイリトルポニー』はあれでもずいぶん向上したとはいえ、やっぱり絵が恥ずかしい。それにくらべ、『アドベンチャータイム』の絵は最初から子供は無視しているので、洗練されていておしゃれで、大人が見てもステキだと思う。

 逆に『マイリトルポニー』の挿入歌は質が高いと書いたが、『アドベンチャータイム』は、あー‥‥(笑)よく言ってヘタウマ狙い? オープニングの歌ですら、素人(作者)が適当にウクレレをかき鳴らしながら歌ったのをそのまま使ってる感じで、すばらしいチープさを醸し出す。劇中いきなりミュージカルになるのも『マイリトルポニー』と同じだが、こちらは声優によってうまい下手はあるものの、やはり手作り感を狙っていて、正直言って音痴(笑)。まあ、それを言ったら絵もヘタウマだけどね。

 『アドベンチャータイム』はスカパー! などの「カートゥーン ネットワーク」で放映中。見れない人はレンタルビデオなどで‥‥と書こうとして気付いたのだが、これって日本じゃDVD出てないのね。それどころかはるかにメジャーな『マイリトルポニー』でさえ日本版は出ていない。ええー! 本当に海外アニメって人気ないんだな。私はおもしろいと思うけどねえ。
 というわけで、どっちも見る人を選ぶアニメだけど、選ばれた人は必ず楽しめるのでおすすめ。

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