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2012年2月19日 日曜日

私が映画を見なくなったわけ

 春休み映画劇場! と言うか、最近はもう、映画見るのも長期休みのときぐらいになってしまったなあ。

 その理由のひとつは、実は音楽に関してもそうなんだけど、膨大すぎる情報を集めるのがしんどくなってきてしまったこと。とにかく次から次へと新作映画が封切られる中、情報について行くだけでも大変だ。それもテレビでCMやってるような映画しか見ない人なら楽だろうけど、私はどっちかというと誰も知らないような無名の映画の中に珠を見つけるのを楽しみにしているタイプ。
 音楽もそうだったしね。チャートに載ってるようなメジャーには興味なし。誰も知らないような無名バンドに自分好みのバンドを見つけるのが楽しみだった。だけど、そういうのってものすごい体力がいる。なにしろ玉よりは石ころの方が圧倒的に多いから、情報の取捨選択だけでも大変。ああいうのは若くて暇を持て余してるときでないとできないなあ。まして、今はインターネットのおかげで情報もブツ(DVD)も限りなく手に入るようになっちゃったし。おまけに金もかかる。スカをつかまされることも多いから。そんなわけで、金銭的にも体力的にも苦しくなってきたわけ。
 若い頃のほうが新作映画はたくさん見ていた。というか、日本で封切られる映画(私が映画と言うときは洋画の意味です、念のため)は、好みじゃないのも含めてほぼすべて見ていた。というのも、ビデオ時代の到来までは、映画はまさに一期一会。封切り時に劇場で見なければ二度と見られない可能性が高かったから。だけど、今みたいにいつでもどこでも見られると、別に見なくてもどうでもいいやって気がしちゃう。

 もうひとつの理由は、そもそも見たい映画がないから。ビデオ屋の棚に並んでる映画を眺めても、パッケージを見ただけで頭が悪くなりそうな映画ばっかりだもんなー。かといって、いわゆる「まじめな映画」は、だいたいにおいて暗くて退屈で救いがないばかりで、暗くて退屈で救いがない現実から逃れたいから映画を見る私としては、もう今さら見たくない感じ。
 そのビデオ屋の棚にしても、かつてはほぼすべてを占めていた洋画は、今や棚4列だけに押し込められているのを見て、えらいショックだった。あとはすべて邦画とアニメと韓国映画とテレビシリーズ。マジですか? 正気ですか?ってのは、もう音楽についてさんざんわめき散らしたあとなので、もう声も出ない。それだけ私の好みが古いんでしょう。

 見たい映画がないのは年をとってしまったせいもある。年を取るということは、それだけこれまで見た映画のストックがたまっていくということで、早い話が、新作以外の棚にある映画はほとんど見たやつなのだ。かといって、新作映画で過去の名作を越える作品なんて一握りだし。
 だいたい私が本当に愛する映画はみんなビデオソフトで持っていて、家でそれらを何十回と繰り返し見ても飽きないぐらいの名作揃いなのに、今さらくだらない新作映画なんて見なくてもいいやって感じ。

ついでにビデオソフトについて

 で、今回久しぶりにツタヤへ行って気付いたのだが、なんかブルーレイのディスクが増えてる! もしかして日本じゃDVDがブルーレイに取って代わられようとしてるの? AV事情も疎いから知らない。なにせまだアナログテレビにベータのビデオ使ってる人だし。(笑) ていうか、うちはまだレーザーディスクからDVDへの移行も済んでないのに!
 ハイ、根がコレクターである私は、音も映像も所有するもの! 愛する作品をダウンロードやストリーミングで済ますなんて死んでもできない。
 だから、ソフトのメディアが変わるのは私には一大事なのである。せっかく死ぬ思いで、莫大な金を使って手に入れたレーザーディスクのレア盤や貴重盤や、単にそんなのが出てるなんて誰も知らない盤、これを全部DVDに買い直すことを考えただけでも気が遠くなるのに、次はブルーレイだなんて言われたら死んじゃう。
 ん? ブルーレイは録画できるのか? それにデジタルはコピーしても劣化しないか。うーん、コピーで持ってるというのはコレクターとしては絶対避けたいんだが、もうやむを得ないか。ていうか、ビデオテープもデジタルにコピーするつもりでやってないのが何百本ってあるのに!(笑)
 別に私はLDのまんまでもかまわないんですがね。かんじんのハードが製造中止になって、手持ちの機械も壊れてしまったらただのプラスチック板なのよね。幸いうちのLDはまだ現役だが、ベータのデッキなんて壊れたままだ。パイオニアはいつまでLDプレイヤー作り続けてくれるだろうか?
 本当にLDでしか出てない盤もたくさんあるからなあ。信じられないのはベルナルド・ベルトルッチの『1900年』がDVDでは発売されていないこと。なんかの権利関係なのだろうか? それとも5時間もある大作だからか? これなんて私のオールタイム・ベスト・フィルムを選ぶなら、必ず3本の指に入る映画で、DVDに切り替えたとき真っ先に買おうとして探して、ないのでショックを受けたのだ。今調べたらまだ出てないっていうことは、名画座もなくなっちゃったし、今の若い人は『1900年』を知らずに育つのか? ああー、かわいそうにねえ。

 というわけで、映画熱はかなり盛り下がっている昨今の私だが、ときどきは、「もしかしてすごい傑作が出ているのに、見逃しちゃってるんじゃないだろうか?」という不安が頭をもたげてきて、ビデオ屋をのぞくことになる。そんなわけで借りてきた映画がこれです。ただし、私は貧乏すぎて、1週間100円の旧作しか借りられないから、本当の新作映画は1本もない。例によってネタバレ満載だが、どうせ公開からかなり時間がたってるからいいでしょう、ということにする。
 ついでにそんなに情報なくてどうやって見るものを選んでいるのかというと、レンタルビデオ屋の店頭で、パッケージの監督と主演の名前を見て、好きな人を選ぶだけです。タイトルは見ない。(どうせ覚えていられない) どんなジャンルでどんなストーリーかも知らない。かろうじてパッケージの写真の印象を参考にすることはあるけど。(今回もジョナサンが出てる映画で中国映画?っぽいのがあって、さすがにそれは避けた)。こういう闇鍋方式で映画を選ぶと、カスをつかまされることもあるけど、どうせ100円だし、逆に何が出てくるかわからないほうがドキドキしておもしろいのでおすすめ。思わぬ拾いものもたまにあるしね。さーて今回はどうでしょうか?ってところで、やっと映画の話に行く。

映画評

春休み映画劇場 その1
The Crazies (2010) directed by Breck Eisner
邦題 『クレイジーズ』

 第1弾は毎度おなじみジョージ・R・ロメロの1973年の映画のリメイクである。

 実は私はオリジナルは見ていない。これも日本未公開のクチか、と思って調べたらいちおう公開されたのね。知らなかったなあ。ビデオも見たことなくて、今回もツタヤで探したがなかった。これはこれで見たかったのだが、本当はオリジナルを先に見てから書きたかったので、残念。私は『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』もリメイクを先に見ちゃったからなあ。
 普通なら、名作のリメイクなんて唾棄して避けるんだが、『ナイト』のトム・サヴィーニ版は、オリジナルをかなり換骨奪胎していながら、オリジナルに引けを取らない大傑作だったんで、ついこれにも期待してしまった。それにどっちもロメロ御大が制作総指揮に名を連ねているんだよね。ロメロのリメイクにもかかわらず、「あー、なんだこれ?」だった『ドーン・オブ・ザ・デッド』のリメイクにはロメロはかんでいなかったので、この差は大きいでしょ? いやしくもロメロが制作するリメイクがそんなにひどいはずはないと思って借りてみた。

 しかし、今でこそ、傑作だの巨匠だの祭り上げてるが、当時の私(まだロメロ処女だった)がこれ見たら、「なにこれ?」と冷笑したかも。なにしろ、タイトルからして「キチガイたち」って身も蓋もないもんなー。邦題の『ザ・クレイジーズ/細菌兵器の恐怖』というのもかなりひどい。だけど、『アウトブレイク』や、その原型とも言える『ホット・ゾーン』のおかげで、すっかり感染恐怖症になってしまった私には、ゾンビよりゾクゾクさせられるし、ましてやオリジナルのポスターの、ガスマスクに防護服の男を見たら、福島原発を思い出さずにはいられないし、特に日本人にとっては他人事とは思えない映画になるはず。

 冒頭、燃え上がる瓦礫の山と化した夜の町が映る。そして「2日前」の字幕とともに、画面は一気にのどかなアイオワの田舎町の平凡で平和な風景に変わる。見ている方は、「うんうん、これからこの町をわずか2日で瓦礫の山に変えてしまうような惨劇が起こるんだな」と期待する。というか、私はこの手のアメリカの田舎町がぞっとするほど嫌いなので、早く壊滅しないかとワクワクする。(上のポスターみたいなやつ。どうしてこんなところに住む気になれるの?)
 画面は「アメリカののどかな田園生活」のシンボルのような野球の試合。そこへ様子がおかしい男が乱入してくる。このあたり、ゾンビものを思わせるが、男はゾンビではなく、単に銃を持っているだけの近隣住民。保安官が声をかけて銃を取り上げようとするが、男は耳を貸さず、保安官はやむなく男を射殺する。
 で、この事件をきっかけに、町民がひとりまたひとりと感染し、発狂していく。というのをていねいに撮っていたら、2日じゃすまないので、話は一気に加速して、町はあっという間に壊滅、そこへ軍隊がなだれ込んできて、感染を免れた人々を強制収容キャンプへ連れて行く。

貨車に乗せられ収容所へ強制連行される人々を表す一カット。もろにナチのユダヤ人移送を思わせて、どんな化け物より狂人よりこの方が怖い。

 おおお! これぞまさにロメロですな。ロメロがLiving Deadシリーズで繰り返し描いてる鉄板のテーマ、(で、なおかつもろに60年代、70年代的テーマ)じゃないか。ゾンビより怖い軍隊だから、もちろんただの病人よりこっちの方がよっぽど怖い。
 この前後でわかってきたのは、政府が秘密裏に開発していた生物兵器を積んだ飛行機が、事故を起こしてアイオワの沼地に墜落したということ。この細菌は感染者を暴力的な殺人鬼に変えてしまう。しかし、主人公たちが知らなかったのは、政府が最初から町全体を抹殺するつもりでいたこと。しかし感染者を隔離した野戦病院にも狂人が押し寄せ、医者も軍隊もすべてを放棄して遁走してしまう。あとにはわずかな非感染者が、狂人の群の中に取り残される。

『クレイジーズ』の主人公4人。左から、ラッセル、デイヴィッド、ジュディ、ベッカ。

 ここらで主人公が明らかになってくる。最終的に逃げ延びる主人公たちは保安官デイヴィッド(Timothy Olyphant)、保安官補ラッセル(Joe Anderson)、保安官の妻の女医ジュディ(Radha Mitchell)、ジュディの助手の若い女性ベッカ(Danielle Panabaker)、の4人。このあたりも、もう見慣れたゾンビものの定石。
 感染を免れ、軍隊からも逃れて一安心、というわけにはいかず、この後も4人をさまざまな試練が襲う。いろんなところでゾンビ、じゃなかった感染者に待ち伏せされて襲われたり、仲間の誰かが感染しているのではという疑心暗鬼に駆られたり、実際感染していて残りの仲間を危険にさらしたり、感染しているにもかかわらず、仲間のために自己犠牲を払ったり‥‥。

 なんかどこかで聞いたような陳腐な話だなあと思ったあなた、その感想は正しい。ただし、これが陳腐に聞こえるのは、実はそれらすべてを発明したのがロメロだったから。あとはすべて彼の模倣から出発しているのだ。そういや、『アウトブレイク』のラストはこのラストと同じだし、私は見てないしゲームもやってないが『バイオハザード』もこれが元ネタか?
 ホラー映画界におけるロメロというのは、いわば、スリラー映画界におけるヒッチコック、日本アニメ界における宮崎駿、日本マンガ界における手塚治虫みたいなものだから。なにしろこの人は60年代からずーっとこれをやっているんだからね。もし、今初めて手塚や宮崎を知った若者がいて、彼らの作品を一気に見たら圧倒されるに違いない。それぐらい偉大すぎる。
 と書いて今気付いたのだが、私もロメロは後追いなのだ。と言ってもロメロに狂いだしたのは何十年も前だが、それでも70年代のロメロはリアルタイムでは見ていない。うーん、もしあの当時ロメロを知っていたら、いっぱしに批判したりしてたかも。それが証拠に私は弟がアニメおたくだった関係で、宮崎駿は日本でもマニアにしか知られてなかった頃から知ってる。で、『もののけ姫』と『千と千尋』を作るまでは、大嫌いで批判ばかりしていたのだ。
 つまり何が言いたいのかというと、私がロメロに熱狂するのは、「こんなすごいものを見逃してたのか」という悔いと、あの時代に対するノスタルジアが胸を焦がすという要因が加わってるということ。まあ、それを抜きにしてもロメロはすごいけど。

 あれれ? これはロメロの映画じゃないのに、なんかロメロの話一辺倒になってる。というぐらいロメロ色が強くて、やっぱりオリジナルに忠実なリメイクなんだろうという予想が付くが。ちなみに、オリジナルを見る楽しみを損ねたくないので、なるべく見ないようにしているのだが、ちらっと見たあらすじでは、オリジナルは軍隊と民間人の両方に視点が置かれていたようだ。それに対して、こちらは徹底して一般人の視点で描かれる。うーん、私としては一般人だけでもいいような気がするが、それは見てみないとわからない。
 あと、オリジナルの狂人があくまで普通の人が狂っただけという感じだったのに、こっちはメイクでゾンビに仕立ててしまっているという批判も目にした。確かに白目剥いて白塗りに血まみれの感染者はどう見てもゾンビです。ていうか、何から何までゾンビ過ぎて、これならゾンビでもいいじゃないってぐらい。
 確かに、見た目は完全に正常な人間が、いきなり狂うっていうほうが絶対こわいなあ。それをゾンビにしてしまったのは、たぶんその方が売れるという経営的判断か。じゃあ、ゾンビにしちまえばいいのに。そもそも、『リビングデッド』でもゾンビの発生源は生物兵器だったか、汚染物質だったよね。ロメロへのオマージュの『バタリアン』も同じような話だった。

 とにかく見てもいないオリジナルとの比較はやめにして、この映画の印象に話を絞ろう。

 主人公たちは特に何かの特技があるわけでもなく、特別強いわけでもない(が、いちおう武装していて民間人ではない。ていうか、そうでなきゃこの世界で生き残れない)、ありふれた平凡な人間、というところも、いつものロメロ・キャラ。極端に寡黙で口数が少ないところもそうだ。ただ、ヒロイン2人はかわいいだけで、平凡すぎたな。
 この映画で何より印象に残ったのは風景の美しさ。何度も書いてるように、私はアメリカの風景がヘドが出るほど嫌いなのだが、それは主として町の風景で、人間のいない風景には美しいと感じることもある。軍用機が墜落する沼地は神秘的な美しさがあるし、こういう終末風景もそう。

最後に生き残った夫婦が見つめる黙示録的光景

 結局、ベッカは感染者に殺され、ラッセルは発病して軍隊に特攻して死に、デイヴィッドとジュディの夫婦だけが生き残る。彼らがからくも町を脱出したところで、町には核爆弾が落とされる。真っ暗な夜の原野が一瞬にして真昼のように明るくなるところと、トレーラーのバックミラーに襲いかかる爆風が映るところは恐ろしくも美しい。あー、しかしこの2人も死ぬなあ。爆風でトレーラーごと吹っ飛ばされるほど近くで被爆しちゃったからなあ。
 それを知ってか知らずしてか、彼らは広大な無人の原野を歩いて、隣の町を目指す。とぼとぼ歩く2人の後ろ姿だけを映した絵も美しい。

やっとたどり着いた安住の地と見えたのだが‥‥
しかし私はこういうのを見ると『クリスチーナの世界』(アンドルー・ワイエス)を思い出すな。

 だけど、もちろん政府はこの町にも爆弾落として、地球上から消し去ってしまうんだよね。

 結論。そんなびっくりするほどの傑作ではないが、十分楽しめるし怖がれる良質なホラー。いや、ジャンル的にはホラーというよりショッカーかも。つまりグロいモンスターや残虐描写で怖がらせるんじゃなくて、サスペンスと「わっ!」というので怖がらせる。粗悪で下品なホラーに食傷気味の方にお勧め。

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