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2012年2月7日 火曜日

テレビ評・動物

Frozen Planet (BBC, 2011)

【閲覧注意】 一部に野生動物ならではの流血写真あります。

 学期末恒例の「自分へのお疲れ様プレゼント」として、英国amazonに注文してあった4枚のDVDが、思いのほか早く届いたので、まだ採点が終わってないが先に見てしまおう。
 先に「お疲れ様プレゼント」ってなんなのかについて。この年になれば、私はもうクリスマスプレゼントも誕生日プレゼントもいらない。でもこのプレゼントがないとやっていけない。だけど誰もくれないから自分で自分に買ってあげるのだ。というのも、試験作りとその採点は(半年に渡る苦労や苦心が水の泡だったことを知らされるという意味で)、なんかそういうご褒美でもないと、とてもじゃないがやってられない。という意味では「お疲れ様」というよりは「目の前のニンジン」に近いな。とりあえず、そういう学生の悪口は場所を変えて書くつもりなので、今はパス。
 で、そういう絶望で荒みきった心を癒してくれるものは何かといえば、それはもう人によってそれぞれで、おいしい食い物だったり、恋人の熱い抱擁だったりするのだろうが、私の場合はなんと言っても一番は美しい景色と美しくてかわゆくてかっこいい動物たちを見ることである。
 というわけで、毎度おなじみ、英国BBCテレビの自然ドキュメンタリーの最新作、“Frozen Planet”のリビューとなります。(日本でやっているのかどうかは知らない。たぶん、いずれはNHKでやるだろうけど)

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“Planet Earth” 2007年1月8日
また鴨川シーワールドに行ってきた

 大ヒットした“Planet Earth”に続くシリーズなわけだが、最初、この企画を聞いたときは、「えっ?」と思った。あのリビューでも書いたが、「過去のシリーズや他局の動物ドキュメントで取り上げたネタは使わない」というのが長年のBBCの方針だったのだが、「凍った世界」って、まんま『プラネット・アース』の1エピソードじゃない。さらに、それ以前の『ライフ』シリーズにあった“Life in the Freezer”とモロかぶりだし。

 でもぜーんぜん気にしないの。かぶろうがなんだろうが、『スコットランド旅行記』にも書いたように、寒いところ大好き! まして極地なんて最高!という人だから。
 いやー、いいなー、雪と氷の世界! ヨーロッパは今年も大寒気に襲われているようだし、日本も近年にない寒い冬らしいけど。「らしい」とか他人事みたいに書いてるのは、自分が異常に暖かい西葛西に住んでるから。こないだニュースで同じ日に、品川は大手町より11度気温が高かったというのをやってたけど、うちもたぶんこれと同じだ。ここは一年中、東京湾から強い風が吹き付けるのだが、その海風が暖かい、とまでは言わないが、ぜんぜん冷たくないのだ。
 うちのマンションが異様に暖かいということもある。なにしろテレビじゃ連日寒波がどうのこうのとやっているのに、家に帰って玄関入ると、「あちー!」と言って、その場で来ているもの全部脱ぎ捨てて、(窓を開けて部屋が冷えるまでは)下着だけで歩きまわってるもんだから、調子が狂う。代わりに夏は地獄ですけどね。でも、今年は昼間なのに暖房をつけてる日が多いというだけでも、例年より冷えてるんだなあとわかる。

 それでつくづく思ったのは、やっぱり私は寒いの好きだーということ。今年は特に大きな被害が各地で出ているし、こんなこと言うと、本当の寒冷地や雪国に住んでる人にはどやされるのはわかってるんだけど。私も一時、宇都宮に住んでたことがあるので、「室内で物が凍る」寒さはいちおう体験済みだし、オーストラリアでは南極圏の寒さの一端を味わった。それでそれはやっぱりものすごくつらかった。
 要するに私が寒いの好きというのは、「自分がぬくぬくとあったかくしていられるぶんには」ということなんですがね。でも寒くなければ、ぬくぬくとあったかくしていられる喜びもわからないじゃない! それに北国が好きというのも、スコットランド旅行記にしつこく書いた通り。ほんとに南国にはまったくと言っていいほど惹かれない。どんなに絶景の場所でも、暑いと考えただけでげんなりする。いや、「涼しくない」だけでもダメ。
 その意味じゃ、極地はまさに聖地である。それに自分ではまず行けない場所だから、お金出してDVD買って見るだけの価値もある。夏は暑いから極地のビデオを見て涼む。冬は寒いから、それより寒い極地のビデオを見て、あったかくしていられることに感謝する。というわけで、私は1年中極地のビデオを見ているのだが。

 もうひとつ、極地が好きなのは私が好きな動物ばっかり住んでるから。北極ならば、ホッキョクグマにホッキョクオオカミ、ホッキョクギツネ、シロフクロウ(snowy owl)。オオカミとキツネはみんな好きだが、北極に住む人たちはフワフワの白い毛のおかげで愛くるしさ3倍増だし、クマやフクロウはそれほど好きじゃないのだが、ホッキョクグマとシロフクロウのかわいらしさと美しさは筆舌に尽くしがたい。そうそう、うちのそばの江戸川自然動物園にシロフクロウが来たんだよ。大きさも羽毛の美しさも並みのフクロウとはまるきり違って、ほとんど神話的な威厳があってステキ!
 南極ならさまざまなペンギンやアザラシ。それにもちろんシャチやベルーガなどの海棲哺乳類もいるし、もうほとんど嫌いなものがいないと言ってもいいぐらい。ちょっといやなのはトウゾクカモメ(前にペンギンのドキュメンタリーで残虐シーン見せられちゃったからなあ)と(不細工でデブで凶暴な)ゾウアザラシぐらいだ。だから『ハッピーフィート』にも大興奮したわけだが、本物はもちろんアニメよりずっといい。

北極点に立つナレーターのサー・デイヴィッド・アッテンボロー

 DVDのパッケージを見ると、“BBC Earth”と銘打たれていて、これはどういうことか? 『アース』シリーズとして、『ライフ』シリーズに次ぐシリーズものにするつもりなのかな?
 でも『ライフ』シリーズは案内役のデイヴィッド・アッテンボローの番組だったけど、言っちゃ悪いが、アッテンボローさん、もうシリーズが作れるほど長生きは無理なんでは‥‥。
 ところが、このアッテンボローさん、『プラネット・アース』でナレーションのみを担当していたので、「さすがにこの年ではもう世界中を飛び回るのは無理なんだなー」と思っていたが、なんとここでは“the most hostile place on this planet”に自ら出向いてくれる。
 いやー、それはすごいが、岩場や雪山の上では足元がかなりおぼつかなくてヒヤヒヤする。いくらここまでは飛行機が運んでくれるとはいえ、さすがにこの高齢では危なっかしくて見ていられない。ここまでやると「年寄りの冷や水」と言われてもしょうがないね。この人は企画だけしてるんでも十分ありがたいんだが。でもこの姿が見れなくなったら、それはそれで絶対悲しいはずだが。

 それはともかく、内容は確かに『プラネット・アース』の続編だなと思わせるもの。つまり、『ライフ』シリーズではあくまで動物が主役だったのだが、このシリーズでは動物だけではなく、彼らが生息する地域の美しく雄大な映像をまじえて見せてくれるのだ。

海に流れ込む北極の雪解け水

 で、その風景は確かに息が止まるほど美しい。極地の風景で美しくない写真なんて1枚も見たことがないんだから、実物がどんなに美しいかは想像に難くない。だからもちろんうれしいんだが、ただ、それは最初の数回だけで(もちろんこういうDVDは穴の開くほど何度も見るんである)、その後は風景シーンは早送りで飛ばしつつ、動物の登場シーンだけを見ている私がいる。こうなってくると、なんというか、風景は単なる「埋め草」に思えてきてしまうのだ。ちょうど私が『ジュラシックパーク』シリーズは、人間のドラマ部分はぜんぶ飛ばして、恐竜の登場シーンだけ見ているのと同じ。
 もちろん珍しい動物がどういう環境に生息しているのかは私にとっても重要な関心事で、それはもちろん『ライフ』シリーズでもたっぷり見せてくれたのだが、なんというか、『アース』はあまりにこれ見よがしで、やりすぎなのだ。
 この風景の撮り方ひとつでもBBCの映像は芸術そのものだし、これを撮るのにどれだけの手間暇と金がかかっているかはわかってるんだけどね。やっぱり私は生き物のほうがいいや。というのは、映像でどんなに絶景でも、実物の景色の美しさは映像とはくらべものにならない、ってのを、これもスコットランドで悟っちゃったからねえ。それを思うとちょっと虚しい気分になる。

 というわけで、ここでも動物に話を絞る。動物の撮り方も『アース』のあれを踏襲している。特に、ジャイロスコープを仕込んだ特製カメラを使った空中撮影は、ここでもふんだんに見られて、やっぱり素晴らしいと思わずにはいられない。
 どういうことかと言うと、ホッキョクグマとかライオンとか、近寄って撮影することができない(してもいいけど、たぶんカメラマン食われる)動物の場合、従来は望遠レンズで撮ってたのだが、今と違ってカメラも良くなかったので、どうしても小さくてボケボケのはっきりしない映像しか見られなかったのだ。
 ところが最近の望遠はすごくて、はるかな上空から撮ってるのに、まるで近くで接写したような鮮明なアップが撮れるのね。従来ならこんなに鮮明に撮れるほど低空にヘリを飛ばしたら、被写体の動物の方がびっくりして逃げまどってしまう。だけど、高空からだから、動物の自然な生態を邪魔することがないわけ。
 さらにヘリを使った空中撮影では、揺れがひどいので画面もブレブレで、被写体を中心に捉えるのもむずかしかったが、このジャイロカメラを使うと、まるで静止したカメラで撮ってるかのような、というか空を飛ぶ鳥の視点で撮ったような本物の鮮明な鳥瞰図が撮れる。
 このカメラを使って撮ったリカオンの狩りのシーンは『プラネット・アース』の最大の売りだった。見ていて、『ジュラシックパーク』のラプターの狩りを思い出しちゃったよ。草深い草原で、獲物(人間だったけど)を追うラプターの群が、獲物の手前でさっと三方に分かれて相手をおいつめるところ。
 『プラネット・アース』でもここでも、あれとそっくりな狩りが見られる。っていうか、もちろん『ジュラシックパーク』のあのシーンはこういう現実のプレデターの狩りを参考にして作ったものなんだけど。ただ、『ジュラシックパーク』はCGだからできたけど、あの当時の撮影技術じゃ現実には撮影不可能なシーンだったから、私にとっては生まれて初めて見る映像で、すごい感動してしまったのだ。それが現実にたっぷり見られるなんて!
 しかし『プラネット・アース』で見られたのはリカオン(African hunting dog)の狩りで、こっちはホッキョクオオカミの狩り、と言えば、どっちが上かは言うまでもないでしょう。もちろん動物に貴賤はないが、リカオンとオオカミとじゃ役者の格が違いすぎる。

バイソンの子供に追いすがるオオカミの群
親が助けに来た!と思ったら‥‥
もろに轢いて行きやがった!
バイソンと文字通りの一対一の死闘を繰り広げるオオカミ
メスを巡る戦いで傷ついたオスのホッキョクグマ

 でもこの狩りのシーンがけっこうショッキングだった。20頭以上のオオカミの群が、バイソン(ヨーロッパ野牛)の群を追っているのだが、うまく1頭の子供を群から引き離すことに成功する。
 しかし子供とはいえ、オオカミよりはるかに体の大きいバイソンは、オオカミといえども簡単には引き倒せない。このまま逃げ切れるか?というところで、後ろから巨大な大人のバイソンがすごい勢いで突進してくる。あわてて逃げまどうオオカミ。てっきり親か仲間が助けに来たのかと思ったら、この大人は単にオオカミの襲撃にパニクってただけ。この動物はほとんど盲目に近いので、闇雲に突進して子供バイソンを文字通り轢き倒してしまう。そのまま大人は逃げ去るが、倒れた子供はたちまちオオカミの群に飲み込まれる‥‥

 しかしオオカミのほうも大きな犠牲を払っているというのがわかるシーンもあった。やはりバイソンの群を追跡しているオオカミなのだが、こちらは夫婦なのかオスとメスのたった2頭。
 それでやはり小さめの(と言っても、オオカミから見たら巨大な)バイソンをうまく群から引き離して追い詰めるのだが、このバイソンは逃げるどころか戦う気まんまん。確かにいくらオオカミでもたった2頭じゃ勝ち目がないように見える。そのせいか、オスの方はすぐに、「あ、これ無理だわ。俺、降りる」とばかりに引き下がってしまうのだが、メスの方はよほどお腹がすいてるのか、たった1頭で立ち向かう。
 それで文字通りの命を賭けた死闘が始まるのだが、死闘というより、オオカミの方が一方的にやられてるようにしか見えない。なにしろバイソンはオオカミを角で引っかけて、ボロ切れみたいに振り回し、軽々と宙に放り上げるし、突進しては蹄に引っかけて蹴散らすし。その間中、メスオオカミは犬そっくりな「キャン!」という悲鳴をあげっぱなし。
 真っ白だったオオカミの体は見る見る真っ赤に染まっていく。しまいにはほとんど立ってるだけで意識朦朧としてるように見えるので、これは死ぬなと思ったら、驚いたことにオオカミの勝ちで、バイソンは出血多量で倒れてしまう。うーん、もしかしてあの血はほとんどが返り血だったのかも。バイソンは真っ黒で血が出ててもわからないし。それにしても、あれだけ踏まれたり放り投げられたりして無事なわけないけど。
 しかし、メスがこれだけ命がけで戦ってるのに、オスは何やってるんだよ! これだから男は!(笑)

 流血と言えば、これはシリーズの一番最初に出てくるのでかなりきつかったのが、ホッキョクグマのオスのメスを巡る戦い。すでにメスを手に入れたクマなのだが、せっかくのハネムーンを邪魔しに次々現れるライバルたちと戦わなくてはならないのだ。
 それで数週間後、これまた真っ白だった毛並みは、ところどころ毛皮ごとごっそりえぐられて血に染まってズタボロ。シロクマが赤黒グマに変わり果てていた。こちらも歩くのがやっとの様子で、その歩き方もおかしいし、交尾には成功しても絶対このあと死ぬと思った。
 いや、野生動物の生命力ってすごいから、それでも生き延びるのかも。少なくとも北極だと感染症の心配はあまりないからね。

 これには感動したね、私は。いや残虐なシーンに感動したのではなくて、ホッキョクグマは(私の認定では)地上最強の肉食獣なのに、かわいらしい顔つきや、動物園でのおどけた仕草が頭に焼き付いてるからか、どこでも「かわいい、かわいい」としか言われないし、そういう目でしか見られてないのが、私はすごく不満だったのだ。
 私ももちろんホッキョクグマはかわいいと思うが、かわいくって凶暴ってところが最高なのに。
 しかし、こういうリーサル・ウェポンを持った肉食獣は、仲間同士では決して殺し合わないと聞いていたので、これはかなりショックだった。ライオンとかトラは威嚇だけですむからね。それに較べて、ご存じのように草食動物のオス同士は、文字通り相手をズタボロにするか、相手が死ぬまで殺し合うことが多い。「草食系男子」って野蛮!(笑) というのは冗談だが、ご家庭向け番組なのに、こういう血みどろシーンもカットすることなく映してくれるBBCってステキ。

ぬいぐるみのようにかわいらしいアザラシの赤ちゃん
(写真はワモンアザラシ)
こええー!! カメラマンに襲いかかるヒョウアザラシ
http://biganimals.com
ヒョウアザラシのすてきな笑顔
http://biganimals.com

 いや、書いてたら本当にだんだん腹が立ってきたぞ。YouTubeや画像まとめサイトのおかげで、いろんな動物の写真やビデオを自由に見られる世の中になったのはありがたいんだけど、(昔はそんなものないから、写真や映像が見たければ写真集やパッケージビデオを買うしかなかった)、そうやって誰でも手の届くものになったとたん、せっかくの野生動物がペットかキャラクターに格下げされてしまったというか、女子供の慰み者にされてしまったようで、私はやりきれない思いをすることも多いのだ。
 前にも書いたと思うが、私が動物が好きなのは、動物の中の野生を感じるのが好きだからで、馬も猫も、ドメスティック・アニマルとしては野生を残しているから好きなのに。なのに、ペットショップを覗けばネコまで奇形ネコばっかりでうんざりする。「犬猫のはなし」で書いたように、ネコがいいのは小さいわりには殺傷能力が高いからなのに。

 アザラシだってそうだよね。アザラシというとおそらく大多数の日本人が思い浮かべるのは、右上の写真のような愛くるしい赤ん坊か、せいぜいがシーワールドで愛嬌たっぷりの演技を見せてくれるやつ。
 だけど、私は南極もののドキュメンタリーでは定番の悪役であるヒョウアザラシが大好きなんだよー! 確かにあのかわいらしいペンギンの唯一の天敵だから、悪役なのは当然としても、役柄にふさわしいこの面構えが好きっ! かっこいい! まあ、右の写真をご覧下さい。
 ヒョウアザラシはその名前の由来となったおしゃれなヒョウ柄模様と体の大きさ(体長4m、体重500kg)もかっこいいけど、あまり哺乳類っぽくなくて、爬虫類的な感じがいい。このすごい歯並びだけ見ても、なんか恐竜っぽいよね。おまけにこの人たちはまるで蛇みたいに、あごがほとんど180度近くまで、クワッと開くんだぜ。
 かと思うと、このYouTubeのビデオを見ると、この悪鬼のようなプレデターが、人間を子供と間違えたのか、せっせと人間に食べさせようとして死んだペンギンを運んでくるようになったという体験談を、ナショナル・ジオグラフィックのカメラマンがしている。これなんか写真はかなり怖いが微笑ましい話。
 (もちろんそうでない場合が大半だと思うので、ヒョウアザラシを見かけてもなでたりしないほうがいいですよ。実際、アザラシやトドは、シャチなんかくらべものにならないほどたくさん人を殺してるし)
 あー、しかしこれは本物見たいなー。ヒョウアザラシって日本で飼育しているところないのかしら? 私は一度も見たことないんだけど。

 というところで、(私の認定による)地球最強のプレデター、シャチの話である。このページのトップの写真は、このシリーズのカバーフォトで、やっぱりシャチが主役らしいので、ジャケットだけ見てもワクワクした。
 それで、ホッキョクグマやアザラシをかわいいかわいいと言う風潮を腐したあとでこういうことを言うのもなんだが、シャチかわええ! かわいすぎて萌え死ぬ!
 もともと海獣ではシャチがいちばん好きだったが、今やあらゆる現生動物の中でいちばん好きかも。鴨川シーワールドの話にも書いたけど、ここまで強く、速く、美しく、大きく、賢く、ユーモラスで、かわいらしい動物をどうして愛さずにいられよう?

これだよ、これ。(もちろん黒い方)
しかしこの写真かなり写り悪い。本物の(ぬいぐるみ)方がずっとかわいい。

 実をいうと、私がますますシャチ狂いになったきっかけのひとつは、鴨川シーワールドで買ったシャチのぬいぐるみ。買ったときからお気に入りで肌身離さず、というのは大きすぎてちょっと無理だが、いつも私のベッドの上で寝ている。
 買ったときも感心したが、ほんとによくできてるわ、これ。何よりプロポーションやディテールが本物そっくり。もちろんぬいぐるみだから本物よりずんぐりむっくりに作ってはあるのだが、それを除けば本物そっくり。〈つーか、もともとあまりにもシンプルな配色と造形だから、ディテールってあまりないのでは?〉
 「毛のない動物なのにぬいぐるみなんて変」と昔は思っていたが、最近の、なんて言うのか知らないが新しい繊維で、手触りがツルツルなめらかでひんやりした毛を使ってるから、あんまり違和感ないんだわ。
 あのちっこい黒い目も愛らしいし、シャチは正面顔と下から見た顔が愛嬌があってかわいいのだが、まさにその角度がいちばんかわいく見える。それでぬいぐるみとじーっとにらめっこしては、「やっぱりかわいい!」。
 ヒレも、胸びれはぶらぶらについていて自由に動くのに対して、背びれは固くしっかり固定されていて、尾びれは上下にパタパタ動くなどリアルに作ってある。
 とにかくかわいくてかわいくて、ソファでテレビを見たりするときと、寝る前にベッドで本を読むときはいつも抱いている。大きすぎ、重すぎて、抱くというより私が下敷きになってる感じですが。でもこの重さがまた快い。ネコが上半身をこちらの体に載せて寝ているときって、すごく気持ちいいでしょう。あの感じ。全身で乗られるとネコでも重すぎて「ぐえっ!」となるけどね。
 いい年こいて気持ち悪い? えー、でも葛西臨海水族園のマグロのぬいぐるみ買ってかわいがってる人もいるし。この特大サイズのマグロはうちのシャチくんとほぼ同じ大きさなんだが、さすがにあれは欲しいとは思わなかったよ。だって、シャチやイルカならまだ哺乳類だが、マグロはメタリック・シルバーの、まるでマシンみたいなボディが売り物なのに、ぜんぜんマグロに見えないじゃん。どっちかというとカツオだし。9千円もするのに、写真で見るとヒレの作りとかちゃちだし。
 ただ魚自体はやっぱりかわいいなあ。この流線型のボディにかわいさの秘密があるのかも。深海魚のぬいぐるみもあれば、バージェス・アニマルのぬいぐるみもあるんだよね。ほ、ほしい! 私は葛西臨海ならサメのリュックが欲しくてしょうがないのだが、これ、明らかに幼児用なんだよね(笑)。
 とか言ってたら、こないだ実家に帰ったときに、弟(言うまでもないが、私の弟だからいいおっさんである)がボッシュのぬいぐるみがほしいとか言っていた。ええ、『悦楽の園』のヒエロニムス・ボスのことです。あの絵の謎生物のぬいぐるみがあるんだって。ハルキゲニアのぬいぐるみも、ローソクモグラアンコウのぬいぐるみもある日本でも、さすがにそれはなくて輸入物らしく、そんなものどこがいいのか私はわからんが。〈やっぱり家系的な遺伝なんじゃないの? 変なぬいぐるみを喜ぶのって〉
 ちなみに、いっしょに買ったベルーガはもちろん気が狂うほどかわいいのだが、なにせ真っ白なので、たちまち手垢で黒くなってしまうだろうと思うと、もったいなくてさわれない。もう1匹買っておけばよかった。上のマグロの話を読んで、ぬいぐるみも洗えることはわかったんだが、洗うと張りを失ってくたっとしてしまいそうだな。本物もフニャフニャしているベルーガはいいが、シャチやイルカはパンパンに中味が詰まった感じがしないとリアルでないし。

あらためて本物をどうぞ。あわてふためいて逃げていくペンギンがかわいいが、このシャチは魚しか食べない種族だそうで、ペンギンは無事でした。
(シャチは群によって異なる、食性や狩りの方法といった「文化」を持っているのだ)

 また話がそれたが、そんなわけでシャチはかわいい。シャチばかりはどんな猟奇残酷シーンでもかわいいのはなんでだろ? みんなの大好きなクジラさんを襲って食べてしまうんだから、考えてみたらすごい凶悪な生物なのに。
 このシリーズではシャチは何度も登場し、最大のスペクタクルはもちろんクジラ狩りのシーンである。ただこのエピソード自体は“Life in the Freezer”(『プラネット・アース』だったかも。忘れたが確かめるのがめんどくさい)のほうが良かったな。今回はほとんどが水面下で行われているのに、船の上からの撮影ばかりで、いったい何が起きているのかがわかりにくい。私が見たこともないほどすごい数の群(シャチが30頭ぐらいいた)で、ちゃんと撮れたらすごかったはずだが。まあ、こればっかりは広い海で行われていることで、いつもそううまく撮れるはずがないのだが。
 水中撮影もあったのだが、どうもあまりよくないと思ったら、カメラマンはゴムボートに乗って、水中に突っ込んだ棒の先にカメラを付けて撮影しているのだ。いくらシャチは人間を襲わないと言っても、腹を空かせたシャチでいっぱいの海に入る気は‥‥私でもしませんけどね。

やっぱりかわいいベルーガ

 そんなわけで、シャチで印象に残ったのは狩りよりもやっぱり上のシーン。みんなが並んで水中から立ち上がっているから、まるで芸でもしているように見えるが、実際は立ち上がって周囲を偵察してるだけなのだ。トップの写真を見てもらうとわかるが、こんな一面の氷原では、方向を見失えば、たとえシャチといえどもみんな氷の下で窒息死してしまう。そこで、こうやって水から顔を出して、外洋の方向を確かめたり、こういう空気穴がないかを探しているらしい。

 一方、“Life in the Freezer”では悲劇の主人公だったベルーガは、ここでは微笑ましい役柄をもらっている。「海のスパ」ということで、暖かい水(と言っても、周囲の氷水よりは)の湧く浅瀬で、底の砂利に体をすりつけて体をきれいにしにくるのだ。そのときの顔つきがいかにも「おきらくごくらく」という表情で微笑ましい。(今どき『ウゴウゴルーガ』なんて引用しても知ってるやついないか?) やっぱりベルーガはこういう絵のほうが似合うよ。

 他に、今回最も印象的だったのは、動物ではなくて地学的なエピソードなのだが、ブライニクル(brinicle)というやつ。辞書にないんだが、あえて訳せば「塩水つらら」ということだろうか。下の動画を見てもらうとわかるんだが、字幕代わりに解説しますと、冬が来て海水表面が凍るとき、真水のほうが融点(凍る温度)が高いので、先に真水が凍り、大量の塩分が放出され、周囲の海水の塩分が一気に凝縮される。そうなると濃い塩水は融点が低いので、氷点下以下になっても凍らない。しかも、この水は普通の海水より比重が重いので、一気に下に沈む。ところがこれは非常に冷たいので、それに触れた周囲の海水が凍る。
 という感じで、まるで上から下へと伸びるつららか竜巻のように、氷の指が下へ向かって伸びていくのだが、恐ろしいのはそれに触れた生物はカチンコチンに凍って死んでしまうこと。映像は海底を動き回るヒトデやウニが、この「死の指」に捕まって凍り付いていくところを、タイムラプス撮影で見せる。

ブライニクル
YouTubeは消されちゃうことも多いので、いちおうキャプチャも貼っておこう。
わかりにくいが地面のようなものは海底で、上に見える空のようなものは氷の天井である。

 このクリップには含まれていないが、実はこれには逆のパターンもある。海中で氷ができるとき、たまたまそこにいた小さい生物も氷に捕まってしまい、氷は水より軽いので、死体もろともフワフワと浮き上がっていく。そして氷の天井にはさまざまな生物の死体がオブジェみたいに張り付くってわけ。
 このシーンがまた、幻想的で美しいと同時に恐ろしい。こういうのを見ると、やっぱり雪や氷はきれいだけど恐ろしいなあと思います。
 っていうか、こんな氷水の中で生きてる動物すごすぎ! そういえば、葛西臨海にはコオリウオ(もちろん魚は冷血動物だが、血液が不凍液になっていて、氷点下の水中でも凍らない)もいて、これにもけっこう感動した。最近、年間パスポート買ったので、しょっちゅう通ってるんだよね(笑)。

 もちろんそういう怖い話ばかりじゃなく、かわいくって楽しいエピソードも満載。ホッキョクグマの赤ちゃんたちとか、ホッキョクオオカミの赤ちゃんたちとか、ぬいぐるみそのもののかわいらしい動物もいっぱい見れられるし。ちなみにホッキョクグマは冬眠中の巣穴の中の、生まれたての赤ちゃんも見られた。(ホッキョクグマはメスが冬眠中に子供を産む) これって初めて見るけど、学術的にもかなり貴重な映像じゃない? さすがにホッキョクグマはパンダなんかと違って、生まれたてでもかわいいなあ。

 あと、もちろんペンギン。定番のコウテイペンギンはやはり別格の扱いだったが、正直言ってコウテイペンギンのドキュメンタリーは見過ぎたせいで、あんまり新鮮味はないなあ。ヒナのかわいさは殺人的だし、何度見ても卵を守って冬を越すオスの姿はすごいと思うが。
 むしろ個人的にうれしかったのは、アデリーペンギンが大々的にフィーチャーされていたこと。

うつろな目がかわいいアデリーペンギン
と、定番だけど、やはり貼らずにはいられないコウテイペンギンの赤ちゃん

 アデリーってペンギンの種の中ではいちばんかわいいと思うんだけどどうでしょう? もちろん私の中でもコウテイペンギンは別格だが、彼らはあまりに威風堂々として大きすぎるし、赤んぼのうちを除けば、威厳がありすぎる。むしろ体型やしぐさはアデリーのほうがずっとかわいい。目のまわりが白いので、いつもびっくりしてるみたいな顔なのもおかしいし、なんかいつでもせわしなくて、ぽっこりお腹をゆすりながら、短いヒレをバタバタさせて走る姿は抱腹絶倒もの。『ハッピーフィート』でも主人公のマンブルより、アデリー・トリオのほうがかわいかったし。アデリーがこれだけたくさん見られたのも初めてだからすごくうれしい。

 この調子で語り続ければ、いくらでも話せるのだが、まだ見ていない人のためにも、今日はこれぐらいにしておこう。それじゃ締めには、シリーズの中でもいちばん印象的だった幻想的なシャチのスチルを。

こんな風景を生で見られたら、もうその場で死んでもいいと思うんだけどね。

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