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2011年2月14日 月曜日

映画評

Survival of the Dead (2009) Directed by George A. Romero
ジョージ・A・ロメロ監督作品 『サバイバル・オブ・ザ・デッド』

参考 私の愛したゾンビ――Living Dead三部作
    『ランド・オブ・ザ・デッド』評
    『URAMI 〜怨み〜』評
    『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』評 (これはまだ書きかけなんですが、後の作品だけ公開するのも変なので暫定的にアップしました)

(ネタバレはありだけど、もうあんまり関係ないっていうか)

 というわけで、クロネンバーグもなんかないまいちな感じになってきてしまった今、私が安心してすべてを託せるのはジョージ・A・ロメロだけになってしまった。最後に残ったのがB級ホラー監督というのがあれだが、これは悪口ではない。ロメロの場合はほめ言葉なのである。(その理由は前作『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』で改めて書くはずだったのだが、まだ書いてない)
 というのも、クロネンバーグにさえ、どうしても受け付けない映画(『ザ・フライ』とか)はあるのに、ロメロにはそれが1本もないから。明らかな失敗作でも、ロメロには必ず見所があるし、泣かせて、笑わせて、怖がらせて、感動させてくれる。

 1968年の“Night of the Living Dead”から始まったロメロのゾンビ映画“The Dead”シリーズとしては、これは6作目に当たる。シリーズ外の作品もいいのだが、やっぱりロメロはゾンビでしょ。しかし軽く1968年と書いたが、ここまでくるともはや伝統の重みを感じさせるな。

 ご託はこれぐらいにして、単刀直入に映画の話に行こう。時代は前作『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』のあと、数週間後の設定。つまり、年代記ふうに言えば、ゾンビ現象が始まって、まだ間もないころ。
 『ダイアリー』とは直接の関係はないが、微妙に関係している。『ダイアリー』にちょい役で出てきた州兵サージ(Alan Van Sprang)が、重要人物として出てくるのだ。(アラン・ヴァン・スプラングはロメロのお気に入りらしく、『ランド』にも出ているが、あちらはキャラクターが違う。そういや、この人は“The Tudors”にも出てた)
 確かにあの人は出番は少ないのに、主役の学生さんたちを食ってしまうぐらいの強烈な存在感があったけど、まさかこの人が今回の主役? 悪党が主役ってのもおもしろいかもしれないけど。
 そんなわけで、こいつらはあのあとも気ままな野盗暮らしを続けているのだが、たまたまネットで「ゾンビのいない島」の存在を知り、そこへ向かおうと決める。

傭兵3人組。中央がサージで、左右の2人は色男とレズ。

 でも、この噂は実はデマ。ゾンビがいないなんてはずはなくて、この小さな離島も本土と同じようにゾンビが徘徊している。さらにこの島はたった二家族(といっても分家が何世帯もいる大家族だけど)が住んでいるだけなのだが、この二家族は昔からの仇同士で、代々憎み合っているという設定。
 現在の当主であるパトリック・オフリン(Kenneth Welsh)と、シーマス・マルドゥーン(Richard Fitzpatrick)もまた、ゾンビの処置をめぐって対立している。オフリンはゾンビは根絶やしにしろと主張しているのに対し、マルドゥーンは治療法が見つかるまで生かしておけと唱えているのだ。ふむふむ、どっちの言い分も一理あるな。どっちが勝つにしろ、ゾンビがこういうレッドネックどもを食い散らかすのは見ていて楽しいし。で、主人公は誰なの?
 でも、仇同士の家柄なんて、ちょっとシェイクスピアみたいだな。というとほめすぎのようだが、実際これまでのロメロ映画にはシェイクスピアを思わせる深い人間洞察があったから別に驚くほどのことではない。オフリンにはうら若い娘ジェイン(Kathleen Munroe)がいるので、するとマルドゥーンの息子と恋に落ちて、ゾンビ版『ロミオとジュリエット』になるのか? 実際、マルドゥーンの牧場の牧童が彼女に心を寄せているみたいだし。

 このジェインが本作のヒロインというのは確実だ。颯爽と馬を駆る姿もかっこいいし、ワイルドなきりりとした美人で好み。男どもはろくでもないやつばっかりだし、女性が主役というのはまた昔に戻ったようでうれしい。
 ついでに言うと、島が舞台というのもうれしい。これもスコットランドに行ってから、島というものに(もともと好きだが)今まで以上に愛着を覚えるようになったので。このシリーズもいろいろなところを舞台にしてきたが、島というのはなかったので新鮮だ。島というのは、逃げ場のない閉ざされた空間という面と、広々とした野外という両面を持っているので、この特徴を生かせばすごくおもしろくなりそう。私はアメリカの景色はどこも殺風景で嫌いだが、島と思えば許せる気になってくるし。
 この島では産業と言えるものは牧畜しかないらしく、どっちの家も牧場主。それに、現代とはとても思えないような、時間が止まってしまったような過疎の島の物語なので、全体の雰囲気はまるで西部劇。これも明らかに意図した趣向でちょっとおもしろい。

 でもジェインは父親のパトリックを嫌っている。この男は見るからにいかれたキチガイじじいなので当然だが。
 そうなると、そのライバルのマルドゥーンのほうがまともな人間に見える。ゾンビに変わってしまった親族を殺したくないというのは自然な感情だし、ゾンビを「調教」して、人間の肉以外のものも食べるようにしつければいいという考えは、『デイ』に出てきたキチガイ博士そのものなので、思わずにんまり。するともしかして、今度こそ知性あるゾンビ誕生か? それともフランケンシュタインになるのか?
 が、しかし、こいつのやることもやっぱり異常。なにしろゾンビ化してしまった島民を、鎖につないで放牧してるし、ゾンビを調教する実験台に選んだのはオフリンのもうひとりの娘ジャネット(ジェインとは双子。キャスリーン・マンローの二役)。生前の彼女はジェイン同様馬好きだったので、その彼女が人間じゃなく馬を食べることを覚えればOKって、なんか論理が変じゃないか?
 当然、この仕打ちにオフリンは激怒。あのデマを流したのもオフリンで、よそ者を連れてきてマルドゥーンにけしかけ、劣勢を跳ね返そうという魂胆だったらしい。そこへ州兵たちが、ひょんなことから仲間になったティーンエイジャーの少年(単にBoyと呼ばれていて名前はない。Devon Bostick)といっしょに上陸する。

 はたしてこの中で生き残るのは誰か??? と、まさにタイトル通りのサバイバル物語を期待してしまう。確かにゾンビ映画のおもしろさというのはサバイバルのおもしろさなのであって、その意味ではこれもゾンビ映画の原点に返ったということになりそう。
 というわけで、期待に胸ふくらませ、手に汗握って眺めていたのだ。前半までは‥‥

 1本の映画にゲロゲロ・ホラーも、サバイバルも、シェイクスピアも、西部劇も全部詰め込んで、しかもそれを超低予算で撮るって、常識的に考えて無理、と察するべきだった。いや、それでも全盛期のロメロならそれもできたかも。だけど、彼ももう70才。70才にしてはびっくりするほどかくしゃくとしているんだが、それにしてもロメロ老いたり、と思わずにはいられない。

 かわいそうだからもう簡単に結論を言っちゃうと、このすべてが見事なまでに破綻しているばかりか、これまでのロメロの良さが木っ端みじんに粉砕されている。

 たとえば登場人物。ロメロの登場人物はたとえどうしようもない悪人でも、いかにも現実にいそうで人間味があったし、ヒーロー、ヒロインは本当にいじらしくて、彼らが死んだり、死にそうになると、胸が痛くなるほど共感を呼ぶ人物だったのに、これはどうか。
 私の思った通り、ヒロインはジェインらしいのだが、これまでのロメロ・ヒロインのスカッとするような大活躍を期待して見ていたら、もろにコケた。このジジイどもは自滅するとして、島を救うのは彼女に違いないと思っていたのだが。
 実際はというと、彼女はマルドゥーンに捕らわれた双子の姉妹のジャネットを見て、思わず抱きしめようとしてかじられてしまう。おいおい、ただの被害者だったのかよ! これじゃ姉妹そろって、あんまりにも浮かばれないよ。
 唯一ヒロインらしかったジェインがこれだから、ほかはもう目も当てられない。オフリンとマルドゥーンは、なにしろ人類滅亡の危機に際しても、私怨を晴らすことしか考えていないようなアホなので、当然のごとく自滅するとしても、サージは何かやらかしてくれそうに思ったんだけどね。悪人だけど、妙に調子が良くて憎めないという、典型的なアンチ・ヒーローで、最後はこいつが男気を見せてなんとかするんだと思ったが。でも結局、ほとんど何もせずに、血の気の多すぎる老人たちの争いをぼーっと見ているだけ。なんなんだー!

非常に気になる名無しの少年(デヴォン・ボスティック)
とりあえずこの手の顔はモロに好みなのでチェックしておこう。

 もっと思わせぶりだったのが名無しの少年。この子はすげー好みのタイプなので、出てきたときからワクワクしてたんだよね。若い頃のデクスター・フレッチャーに似てる、と言っても、誰のことかも知らないだろうけど(苦笑)。
 とにかく、この世紀末世界に子供がひとりでフラフラしてるってのがなんか変だし、名前がないのも思わせぶりだし、ゾンビが襲ってくると、この子は顔色ひとつ変えずに、素人とは思えない銃の腕前を披露して、とてもただ者とは思えない。にもかかわらず、これはロメロ映画の常で、どこの何者かは何も明らかにされないんだよね。それでも、これだけ印象的なキャラなんだから、最後に何か種明かしがあるはず、と思っていたが、ほのめかしすらない。誰だったんだー!
 こんな調子で、感情移入できるキャラクターがひとりもいない。というのはクロネンバーグなら当たり前のことだが、ロメロではあり得ない! 登場人物の中でいちばんまともで、かろうじて人間らしさを見せるのは、サージの仲間の州兵の男女だけ。女は強面の黒人でレズビアン。男はヒスパニック系の色男で、無駄と知りつつ女を口説くのをやめない。このまるで不釣り合いなデコボコ・コンビが、なかなかいい味を出していたのだが、もちろん雑魚キャラなのですぐに死んでしまうのがとても残念。

 人間もよくなかったが、ゾンビもよくない。
 「ゾンビの進化」というのも、これまでのシリーズの中で何度も語られてきたテーマで、それがまた出てきたからワクワクした。今度こそ本当の知性を持ったゾンビが生まれるんじゃないかと。
 だけど、マルドゥーンの論理がおかしいところから疑ってしかるべきだった。マルドゥーンはゾンビになったジャネットを馬といっしょの囲いに閉じ込めて、彼女が好きだった馬を食えば、もう人間を食わなくなると信じているらしいのだが、人を食わなくたってゾンビはゾンビだし、馬でも人間でも食べるほうが普通に思えるのだが。実際、両方食べてたし。馬好きの私は、彼女が双子の姉妹を襲うところより、馬に噛みつくシーンの方がグロテスクに思えていやだった
 それにしても彼女はまったくただのモンスターで、バブくんほどの人間らしさもない。結局、ゾンビはただのモンスターでしたという結末が、バブやビッグ・ダディの活躍に涙した私としてはなんとも虚しく悲しい。
 いや、待てよ。時系列から言うと、あっちのほうがずっと後の話だから、ここから進化していくのか? とにかく私はゾンビ映画を見ながら、心の底のどこかでは、いつかゾンビが知性を得て、ゾンビ文明を築くのが見られるんじゃないかと、いつも期待しているもので。

 だいたい、ゾンビの作りからして安っぽい。この手の映画の見せ場のひとつであるゾンビ・メイクが、今回はまるっきり手抜きで低予算というのが丸見えで、あまりにも情けない出来なのだ。メイクそのものもそうだし、スプラッタ・シーンもそう。実を言うと、前作からそれは感じていた。今はなまじCGがあるおかげで、CGでごまかしたほうが安上がりなんだよね。おかげでこわくもグロくもない、安っぽいCGシーンの連続。
 登場するゾンビの数からして少ないし、ほとんど素顔に血糊をぶっかけたような「生っぽい」ゾンビばっか。ゾンビが寄ってたかって人の腹を割いて内臓つかみ出すのは、『デイ』の二番煎じだし、あれよりだいぶ出来が悪いし。
 それでも役者はいつものように、無名だけど芸達者な人を集めているからいいんだけど、ゾンビだけ見ていたら、それこそロメロもどきのC級、D級ホラーを見ているような気がしてくる。

 造形もひどいがゾンビの扱いもひどい。もちろん「ゾンビより人間の方が恐ろしい」という結論は、ロメロ映画ではとっくに出ちゃってるんだが、今回は人間の悪役がまるっきり迫力ないばかりか、ゾンビの扱いはそれ以下。この人たち、ゾンビの存在にあまりにも慣れすぎというか、ぜんぜん怖がってくれないんだもの(笑)。ゾンビが襲ってくると、めんどくさそうにバンバンと撃ち殺すだけで、ほとんど見向きもしない(苦笑)。本来の主役はゾンビなのに、あまりにも冷遇されている。

 ストーリーもねえ。これまでのロメロの映画は彼が主張したいことが実にはっきり出ていて、その主張に大いに同感だったから支持してきたのだが、これはいったい何がやりたかったのか。ラストもぜんぜん落ちてないし、クライマックスもどこが?って感じだし、山なし、落ちなし、意味なし、って言葉がこれほどぴったり合ってしまう映画もない。
 さんざんクソミソ言ってるようだが、それぐらい私はロメロに期待してたので。でも60年代から映画撮り続けて、ここまで保っただけでも大変なことで、もう期待する方が無理なのかなあ。

 今だから言うけど、やっぱり“Living Dead”シリーズはあの3本でやめておくべきだったね。それぐらいあまりにも完璧な三部作だったから。『ランド』はかなり好きだったし、『ダイアリー』ですらけっこう好きだったんだけど、その2本もやはり三部作に匹敵するものではなかったし、これはなかったことにしてほしい。
 それでも、やっぱり最後の望みは捨てきれない。ロメロさん、どうかもう少し長生きして、最終篇、つまり『ドーン』の続きに当たる、人類とゾンビのその後を描いた映画を、もう1本だけ撮って下さい。『ドーン』の続き、ってことはすべてのゾンビものの結末が知りたいので。

 考えられる結末は次の3つ。
 1.土壇場で人類の逆転勝利。誰かがゾンビを根絶やしにする方法を考えついて、ゾンビを滅ぼしてハッピーエンド。(個人的にはこれがいちばん見たくない)
 2.キチガイ博士の夢がかない、人類とゾンビは共存共栄の道を探す。(ありえねー! だけど本当に実現したら泣いちゃう)
 3.人類はあっさり滅亡。残されたゾンビはどうなるのか? (普通に考えれば、腐りきってバラバラになればおしまいだし、ロメロのゾンビには寿命があるらしいので、どっちにしろゾンビも滅亡のシナリオだが、そこをなんとかして、新たに興ったゾンビ文明が人類の遺産を継承していく‥‥ことにならないかな)

 やっぱりそれを見届けないと私も安心して死ねない。ってぐらいロメロのゾンビが好きなんだけど。

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