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2011年3月5日 土曜日

教育・社会

Yahoo!知恵袋カンニング事件雑感

 えーと、いちおう犯人(山形の男子予備校生19才)捕まったから、もう書いてもいいのかな? これに関しては例によって識者があれこれ言ってるようだけど、いちおう現役大学教師としても言いたくなっちゃったので。あと、事件名が決まってないようなので、適当に名前を付けた。これ、やっぱりYahoo!知恵袋ってところがミソなんで(笑)、これを抜かしちゃだめでしょ。

 なんか世論では、「たかがカンニングにマスコミ騒ぎすぎ、逮捕なんて大げさ」という感じだが、一教員としてはぜんぜんそうは思わない。(マスコミの反応は新聞しか読まないのでよく知らないけど) むしろ学内試験の厳しさにくらべて、全国規模で影響のある入試で、見つかったら合格取り消しでおしまい、なんてなったら不公平すぎる。
 定期試験でも、「カンニングが発覚したらその教科のみならず、全教科受験停止。すでに受験した科目は全部0点」という大学はめずらしくない。つまり、1回のカンニングで、1年留年は確定、青春の1年間棒に振るんだから、これはかなり厳しい。まして入試はその人間の一生を左右する可能性もある。罰はそれより重くて当然と思うのよ。少なくとも翌年の全大学受験停止ぐらいでなくちゃ。ハゲるような思いして問題作った教員から見れば、半殺しにしてもいいぐらいだけどね。
 だいたい、問題作って採点する側から見ると、カンニングぐらいムカツクものはない。いつも採点時期には、私は頭からカッカと湯気たててるけど、できないのはバカだけどまあ許す。しかし、できないのでカンニングでごまかそうとするやつなんか、なます切りにして生きたままじわじわ刻んでやりたいほど憎らしいね。アホってところも許せないし、姑息ってところも、卑怯ってところも、絶対許せないレベル。
 さすがに入試ではないが、定期試験では何人か捕まえたが、男らしく(女でも)罪を認めて罰を受けるならまだいい。でも、そういうのに限って、見つかると泣きわめいたり、開き直ったり、あげくの果てはバカ親が出てきたり、ほんと何から何まで人間のクズって感じだったよ。カンニングを考えている学生諸氏は、そういう風に見られるんだということを肝に銘じておいてほしい。

 ただ、カンニングは防げるか?という点に関しては、これまた試験官の立場から言うと、非常にむずかしい。

 語学の定期試験ならかんたんなのだ。人数も少ないし、教室も小さいし、いちばん後ろに座って見てりゃ、すこしでも変な動きをするやつは異常に目立つし。
 しかし入試では、人数も多いし、教室も大きいし、それ以上に試験官のやる気がゼロに等しいところに問題がある。これ言っちゃうと身も蓋もないけどね(笑)。
 まず、試験監督というのは拷問に等しい苦行だということを知ってほしい。私も学生時代はいろんなバイトやったけど、バイトとしてはこれがいちばんつらかった。(たぶん、スーパーのエスカレーター・ガール――エスカレーターの下にぞうきん持って立って頭下げてるだけ――と互角かな) 1時間とか2時間とか、シーンと静まりかえった場所で何もしないで立っているというのは、感覚遮断実験にも似た拷問だ。むしろ歩きまわってる方が楽なのだが、あまりドタドタ歩きまわってると、受験生の気が散るのでかわいそうでできないし。しかも入試だとそれを一日中続けなきゃならないし、飽きるなんてものじゃない。
 しかも専任教員だと、試験監督は完全な雑用で、入試手当なんて雀の涙だし、誰だって金払ってでもやりたくない仕事。もちろん職務だからやるけど、これだけやる気がないと注意力だって散漫になるし、見逃すリスクも高まる。
 専門の教授がこれだから、バイト学生なんかまるであてにならない。そうじゃなくても最近の学生バイトの出来の悪さは目に余るし、5分で集中力が切れて、あとは何も見てないに決まってる。
 これを防ぐには、やっぱり試験官の志気を上げるために、日給5万円ぐらいにして、学生アルバイトを排除し、私みたいな非常勤にやらせるのがいちばんいい(専任は5万でもやりたがらないので)のに、どうしてそうしてくれないの!

 ただ、昔はそれでもたいした被害はなかったの。ネット以前の時代は、カンニングと言ったら、隣の人の解答を盗み見るか、カンペ(カンニングペーパー)を使うしかなかった。それで、隣の学生は選べるわけじゃないし、無作為抽出すればたいていの場合、ほぼ同程度のバカだから、見てもそれが正解とは限らないし、最終的な点数にはあまり影響がない。
 カンペにしても、膨大な出題範囲を、小さい紙に書き込めるようにまとめるなんて、バカにはほとんど不可能、それができるぐらいの人なら、カンペなんかなくても受かってる、というところで問題外。
 あえて問題があるとすれば替え玉受験ぐらいかなー。これは本当に防げない

 もちろん、試験官が顔写真の入った受験票を持って回り、ひとりひとり写真と照合するのだが、これがわからないんだ。まず、これをやるのは試験開始後なので、みんな机の上に伏せるような格好で鉛筆を走らせてる。(日本人ってなんて近視率が高くて姿勢が悪いのか、実感させられます) あごつかんで顔上げさせるわけにもいかないし、ひざまずいて下から顔をのぞき込むわけにもいかない(ついその場面を想像したら吹いてしまった)ので、顔なんてほぼ見えないのよ。
 それに写真と現物が違う人なんて大勢いる。特に女子は化粧しちゃったらまったく同一人物に見えない人多数(特に最近みたいな厚塗りが流行ってると)なので、確かめようがない。受験票はスッピンで、試験には化粧してきたら、「化粧落としなさい」とは言えないじゃない。そうじゃなくても日本人って顔が均質でみんな同じ顔に見えるし。
 というわけで、この顔照合はやっててもまったく自信がなくて、男が女装してきたとか、お父さんが代わりに受けたというのでないかぎり、見つかりっこないと思った。それを防ぐには指紋の照合でもしなくては。(あ、でも出願の時点から偽の指紋を送れば無意味か)

 でも、ネット時代になって、そんな悠長なことは言ってられなくなった。なのに、大学側にその危機意識がなかったのが最大の敗因でしょうね。今回はYahoo!知恵袋だから助かった(発覚した)けど、数年前に韓国でもっと大がかりなハイテク・カンニング事件があったじゃない。あれから韓国は金属探知器使ってるそうだが、日本もそれぐらいやって当然じゃない? 日本とか韓国みたいに入試がすべてって国は特に、テロ対策並みの防護策とってもいいと思うよ。

 幸い、私はもう専任辞めたからそういう心配しなくてもいいが、それでも授業ですら差し障りが出ている。さすがに授業に金属探知器は持ち込めないし(笑)。たとえば、当てて答えて、よくできれば平常点あげる、ってことができないんですよ、もう。だって学生はみんなネットに接続したノートパソコン持ってるから。当たってからYahoo!知恵袋で答きいてるかもしれない(笑)。だから私も回答欄で、「おまえ、10点減点な」って、笑い話じゃなくなってるし! 板書は携帯で撮影しておしまいだしね。
 言うまでもないが、こういうのは答を知ることが勉強じゃなくて、どうやって答を導くかという経過が大事なので、それをすっ飛ばして答だけ聞いても何もできるようにはならない。同様に、英語みたいな暗記科目では、手で何度も書くことで覚えられるのに、写真を眺めてたって何も覚えられない。
 便利になったのは認めるし、現に私自身、もうネットなしじゃ生きていけないけど、そのためバカは輪をかけてバカになってるような気がしてならない。

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