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「ひとりごと日記」番外編 夏休みスペシャル――私の愛したゾンビ
Part 2 Land of the Dead

Land of the Dead (2005) directed by George A Romero (邦題 『ランド・オブ・ザ・デッド』)

 なんのジャンルにもデファクト・スタンダードというものがある。たとえばロボットならアイザック・アシモフ、吸血鬼ならブラム・ストーカー、エルフと言えばJ・R・R・トールキンが頭に浮かぶように。彼らはこれらのクリーチャーの発明者というわけではないし、彼ら以前にもそれを題材に作品を書いた人は大勢いる。だけど、彼らの作品があまりにもすばらしかったために、それが後代のスタンダードになってしまったわけだ。
 『指輪物語』のところで書いたかもしれないが、もともとの伝説上のエルフは醜い邪悪な小鬼なのである。それがエルフと言えば長身で耳のとがった優雅で高潔な種族を指すようになったのは、もちろん『指輪物語』のエルフがそうだったからだ。同様に吸血鬼は鏡に映らないとか、噛まれた人間も吸血鬼になるとか、昼間は棺桶で寝ているとか、胸に杭を突き刺すと死ぬとかいうのもぜーんぶ『ドラキュラ』の影響。アシモフは有名な「ロボット工学三原則」を考案し、もちろんアトムもそれに従って書かれている。
 ならばゾンビのスタンダードはと言えば、言うまでもなく、ロメロの“Living Dead”三部作である。

【注】 ロメロはオリジナルのゾンビ(ヴードゥー伝説に出てくるやつ)と混同されるのを嫌って、作中ではほとんどゾンビという言葉を使ってないが、めんどくさいのでここではゾンビと総称する。

 後のホラー映画におけるゾンビの定義や性質もロメロ作品が基準になっている。それではここでそれを再確認してみよう。

  1. ゾンビは人間を食う。
  2. ゾンビは脳を破壊しないと死なない。(これらの矛盾は“Day”で自分で突っ込みを入れている)
  3. ゾンビにかじられた人間は死ぬとゾンビになる。これが最大のポイント。
  4. ゾンビは「ゾンビ歩き」をする。足を引きずり左右にガクガクと揺れるあぶなっかしい歩き方。どうも死ぬと平衡感覚がなくなり、二足歩行が困難になるらしい。それ以外の動作もすべて緩慢で不器用。
  5. ゾンビには自意識も思考能力も感情もない。というか、動いているだけで、知能は動物以下。それにしては妙に人間的なしぐさをすることもあるが、それは単に人間だったころの記憶がかすかに残っているかららしい。
  6. ゾンビになれるのは新しめの死体のみ。これは案外指摘している人が少ない。死人がみんな蘇ったら、大多数は白骨死体のはずだが、骸骨ゾンビは1体も出てこない。まあ、そうなるとゾンビじゃなくて別の種類のモンスターになっちゃうような気がするが。いちおう理由として考えられるのは、骸骨には脳がないからというもの。もうちょっと科学的な説明としては、人間の骨は筋肉や腱でつながれているだけなので、ただの白骨死体では骨格標本みたいにはならなくてバラバラになってしまうということ。バラバラの骨じゃたとえ生き返っても動けないもんねえ。

 というわけで、ゾンビというのはモンスターとしてはおそらく世界最弱の、どうしようもなく情けない、哀れを誘う怪物なのだ。ゾンビにはツメも牙もない。フランケンシュタインの怪物のように怪力というわけでもない。武器や道具も使えない。攻撃はただ噛みつくだけ。でも動きがのろのろしているから、歩いてでも逃げられる。また、自己保存本能もないから、攻撃されても反撃も逃げることもできない。おまけに腐ってるから、ちょっとさわっただけで手や足がボロボロもげる(笑)。
 なんか書いていて本当にかわいそうになってくるような情けなさだ。よって、ゾンビの武器というか強みは、

  1. 気持ち悪い。
  2. 噛まれるといや。死ぬのもいやだが、あんな化け物になるのはもっといや。
  3. どんどん増殖するので数で圧倒する。さらに恐怖も痛みも感じないのでいくら殺されてもめげない。

というだけ。これまでのロメロのゾンビ映画もすべてこれをうまく利用して作られていた。
 ところがロメロは“Day”で上の第5項を自ら破ってしまった。知能も感情もあり、武器も使えるスーパー・ゾンビ、バブくんがそれである。あれを見た私はバブがゾンビの救世主になって、人類滅亡後の地球にゾンビ文明を興すという続編の筋書きを考えていた。

 そしてそれから20年、とうとうついにロメロのゾンビが帰ってきた! ただ、続編とは聞いていたが、三部作の路線をどこまで引き継いでいるのかは不明だった。夜、夜明け、昼と来て、今度はLandだからやっぱり違うのかな?とか思って。
 いくらなんでも20年もたてば考え方も変わるだろうし、マンネリもいやだろうけど、でもファンとしてはせっかく前三作で作り上げた世界を壊してはほしくない。特にロメロゾンビの大原則である、「マイノリティが主人公」という点と、「強いヒロイン」と、「They are us.」の思想は何があっても守ってほしいんだが‥‥というわけで、期待と不安こもごもさっそく見てきました。

▲ というわけで、前の2本が対談形式だったから、今度も対談でやりなさいというお達しなのだが、もう長らくやってないので対談のやり方なんて忘れちまったよ。そこで私がロメロのゾンビに対する熱い思いを一方的に語るから、あんたは相槌を打ちなさい。
★ ハイ。しかしゾンビ好きですね。
▲ うん、大好き。
★ でも、私の理想って人であれ物であれ美しいことじゃなかったの? ゾンビなんて醜いし、ばっちいし、腐ってるし(笑)。
▲ 誤解しないでほしいんだけど、私は「ロメロのゾンビ」というコンセプトを愛しているだけであって、別に腐乱死体愛好癖はない。まわり中ゾンビ・グッズで埋め尽くしたいという願望もないし。
★ モンスターでも吸血鬼が好きなのはわかるんだよね、エロチックだしかっこいいから。でもなんでゾンビ? 狼男は好きなんだっけ?
▲ 強いしかっこいいし大好きだけど映画の狼男はみんな嫌い。だって元が人間だからメイクしてもみんな猿人にしかならないから。
★ じゃあ、フランケンシュタインズ・モンスターは?
▲ 嫌い。のろまだし醜いしかっこわるいから。
★ ゾンビもそうじゃん!
▲ うーん、なんかあそこまで徹底的に弱っちくてみじめで情けないと、かえって同情がわいてしまって。それにね、ゾンビってのはほとんど人間なんだよ。彼らの醜さやみじめさは我々の醜さやみじめさなんだ。
★ They are us.ってやつですか。
▲ 人間死ねばゾンビ、一皮むけばゾンビなんだよ!
★ はあ(笑)。

▲ 日本での封切り日は私の誕生日! これは私への誕生日プレゼントだわ。それでももちろん水曜の女性デーまで待って行ったのだが、開演10分前に入ると、観客は3人! げっ! 確かに他にはスピルバーグの“War of the Worlds”とか、“Star Wars”のエピソード3とか、『妖怪大戦争』とか、お子様が好きそうな映画が同時上映されているとはいえ、市川妙典のゾンビ・ファンはこれだけか?
★ ゾンビはお子様向きじゃないんですか?
▲ 特殊なお子様とお子様の心を失わない人(おたく)だけだな。
★ 映画が始まるころには10人ぐらいになってましたけどね。でも、市川妙典で夜中の回だからじゃない?
▲ もちろん、それを期待してわざわざローカル館で見てるんだけどさ。
★ しかしマイカルは座席指定制で、いつも「このお席でよろしいでしょうか?」なんて聞かれるんだけど、よろしいも何も全部あいてるじゃん(笑)。
▲ だから映画鑑賞時は人に近寄られるのがいやな私は、わざわざ真ん中を避けて、はじっこや前のほうで見ることにしている。

▲ で、ドキドキしながら開演を待ったのだが、映画が始まってすぐ、思わず(心の中で)叫んだ。「主人公が黒人じゃないじゃん!」
★ あわてて手元にあったパンフを取り出してキャスト紹介を見たんだけど、そこには女はいるけど黒人はひとりもいないんだよね。
▲ えー! 「こわい顔の黒人男」が主人公じゃないゾンビ映画なんていやー! こんなのロメロのゾンビじゃないー!
★ と、それだけでもう投げ出しそうになったのですが‥‥

▲ それはひとまず置いといて、ストーリー。“Day”から20年もたってれば、当然人類滅亡、かと思いきや、映画の中ではそれほど時間はたっていないようで、“Day”とさほど変わらない時代のようだ。ここでもほとんどの町はゾンビに蹂躙されゴーストタウンとなっているが、その中で唯一、多数の人口と文明の名残りを残している町がある。
★ どうやら、川に囲まれた天然の地形に助けられ、ここだけゾンビが入れなかったらしいね。
▲ さらに町の周囲には電流を通した鉄条網で囲い、ほとんど要塞都市と化している。町の中心には高層ビルがそびえ、そこでは金持ちたちが「ゾンビ前」と変わらぬ優雅な暮らしをしている一方、町にあふれる平民は難民のような様子。
★ 早くも出ました社会派ロメロ! ゾンビ映画で社会派ってのもすごいが。
▲ その金持ちたちの親玉がデニス・ホッパー演じるカウフマン。
★ もちろん金持ちはみんな悪いやつ(笑)。
▲ 映画は傭兵軍団(金持ちに雇われて装甲車で金網の外へ出て食糧などを調達している)とゾンビの戦いで始まるのだが、そこで「これじゃ戦闘じゃなくて虐殺だ」とつぶやくセリフがあり、あいかわらずの哲学は維持していることがわかる。この荒れ果てた廃墟をどでかい装甲車で走りまわる場面かっこいいね。
★ ほとんど『バイオハザード』だって言われてますが。
▲ あれだってロメロがいなけりゃ生まれてこなかったんだよ! それはいいんだが、でもこいつが主人公なの?
★ そうみたい。

これが主人公のライリー
後ろに見えるのがチャーリー

▲ というわけで、主人公は初めて白人男性で傭兵のライリー(Simon Baker)。しかし彼はロメロの主人公らしく、ゾンビ殺戮に嫌気がさしており、傭兵をやめて車を買い、カナダへ逃げることを計画している。ライリーにつねに付き従うのは相棒のチャーリー(Robert Joy)。彼は顔の半分がやけどでケロイドになっており、ゾンビと間違われる醜悪なご面相の上、知恵遅れ気味らしい。
★ うーん、確かに身障者も一種のマイノリティではあるけれど‥‥
▲ でもこのチャーリーが(ロバート・ジョイの名演とあいまって)なんとも言えずいいんだよね。忠実な犬のようにライリーを慕っているけなげな様子とか。
★ 彼はこのやけどを負った火の中からライリーに助け出されたため、彼に忠誠を尽くしているんだよね。
▲ 知恵遅れと言ってもちょっとトロいだけで決してバカではなく、毅然としてかっこいいところとか。ここで「ゾンビもどきの人間」を出したのは大きな意味があるんだよ、わかる?
★ どういう意味?
▲ つまりゾンビは醜い。だったら醜ければゾンビか?というわけ。ゾンビだって人間だ。たまたま不運に見舞われただけの人たちなんだってこと。
★ そこまで読みますか。
▲ だからまあ、白人が主人公でも許すかという気になってくる。

★ もうひとりの主要人物がライリーの傭兵仲間のチョロ(John Leguizamo)。彼はヒスパニック。黒人じゃなくて残念でしたね。
▲ この人はライリーとは正反対の上昇志向人間で、カウフマンに取り入って上流階級の仲間入りをすることを夢見ているのだが、悪人ではない(貧乏人だから)。ところがカウフマンに裏切られ、テロリストと化す。
★ 主要人物はもうひとりいて、カウフマンに背いた罰としてゾンビと戦わされるはめになった娼婦がスラック(Asia Argento。Dalio Argentoの娘)。ライリーに助けられて彼女も仲間になるんだけど。
▲ これが今回のヒロイン? 確かに男勝りの「強い女」ではあるが、これまでのヒロインが(オリジナル“Night”を除く)凛とした気品のある女性だったのに、なんかちょっと下品だなあ。ま、アルジェントの娘じゃしょうがないか。
★ ひどい(笑)。でも典型的な鼻っ柱の強いアバズレで、普通の映画だったら真っ先に殺されるタイプだよね。
▲ でもこのタイプも嫌いじゃない私としては許す。

▲ でも見てて気付いたんだけど、問題はライリーのキャラクター。白人男性のヒーローというと、つい定石の勇猛果敢で冷静沈着な正義の人というのを連想して、いやだなーと思ったんだけど。
★ なんかかなり違いますね。
▲ 確かに勇気も正義感もある。「いい人」には違いないんだけど、ヒーローの定石からはかなり外れてるんだよね。何よりカナダへ行きたいのは、カナダへ行けばなんとかなるからというのではなく、人間がいやだから人のいないところへ行きたいんだって。
★ なんか社会性に問題あるね(笑)。妙に無気力で投げやりなところも気になる。
▲ そう、たとえば、カウフマンは裏切り者のチョロの始末をライリーに依頼するんだけど、カナダへ行ける装備と引き換えにあっさりそれを承諾する。
★ カウフマンは見るからに「悪」だし、チョロは仲良しとは言えないまでも、いちおう仲間でしょう? 主人公が悪人の言いなりになっていいのか?
▲ それで仲間のふりをしてチョロの装甲車に乗り込むのだが、「カウフマンの差し金だろう?」と問いつめられると、あっさりそうだと認めて、何もかもペラペラしゃべってしまう。おまえはいったいどっちの味方なんだよ!
★ 普通、多少は言い訳したり、ごまかしたりするよねー。
▲ なんかやることがぜんぜんヒーローらしくないのだ。
★ なんかこの世界のありさまに絶望して、「もう何がどうなってもいいや」という感じなんじゃない?
▲ その意味、キャラクター的には“Dawn”のピーターのニヒリズムの後継者かもしれない。
★ なるほど、やっぱりこう来ましたか。
▲ これに気付いたとき、私のヒーロー好感度はアップ。だって、彼が経験してきたことを考えてみれば、こうなる方がリアルっていうか、熱血正義漢のほうがよっぽど嘘くさいじゃない。それにこの男は肌は白いがれっきとした社会のアウトサイダーであることがわかる。そういう意味じゃ、「伝統」は忠実に守られているわけだ。

★ とまあ、人間たちがドタバタやっている間、ゾンビの皆さんもじっとしているわけじゃない。特に黒人の大男ゾンビ(Eugene Clark)はなんと知性と感情を持ち、ゾンビ軍団を率いて町へ向かって進軍するという。

お父ちゃんに率いられたゾンビ軍団

▲ 出たー! これだ! これこそ“Day”のバブの後継者じゃなくてなんだろう。
★ しかも黒人っていうことは‥‥もしかしてこの人が本当の主人公なの?
▲ もちろんそうじゃない。そうだったらたぶん大多数の観客は納得しない(笑)。でもロメロの心情としては彼が主人公、少なくとも裏の主人公というのは痛いほどわかるのよ。私もそうだけど、たぶんロメロもゾンビ・ヒーローがバッタバッタと悪い人間をやっつける映画が撮りたいのよ。これに気付いたとき、「あー、やっぱりロメロはロメロだった。これぞ正調“Living Dead”の続編だ」と思って私は涙が。
★ マッド博士の努力もむだではなかったですよ、見てますかー?
▲ 彼がボロ人形のように殺される仲間や、生きたまま射撃の的に使われている仲間を見て、悲しみや怒りをあらわにするところや、銃を見つけて使い方を思い出し肩にかつぐ場面は本当に感動する。
★ これはゾンビにはできるはずのなかったことですからね。バブ以外は。
▲ 言うなれば奇跡のゾンビ、まさにゾンビたちの救世主なんだよ。この感動は“2001”の猿人が初めて武器を手にしたシーンに匹敵するな。

▲ この印象が決定づけられたのはラスト。ここまでライリーと黒人ゾンビ‥‥
★ ちなみにこの人にはビッグ・ダディ(でかい父ちゃん)という名前がついています。胸の名札にそう書いてある(笑)。
▲ この二人が対決する場面はそれまで一度もないの。でも最後にはどうしても対決しないわけにはいかないだろうなと思って、ロメロがどっちを勝たせるか固唾を飲んで見守っていたのだ。
★ その前にここまでのストーリーを簡単に要約すると、ビッグ・ダディはゾンビ軍団を率いての川越えを敢行し、
▲ なんでゾンビは川を渡れないと思ってたのかな? 息してないんだから川底を歩いて渡るのなんかかんたんなのに。
★ 腐敗の進んでる人は流されてバラバラになっちゃうからじゃないですか。それでバリケードも破って町へ侵入する。チョロはビルを破壊してカウフマンを倒すという志半ばでゾンビに噛まれてしまう。
▲ でも、殺してやろうとする仲間を押しとどめ、「一度ゾンビになってみたかったんだ」と言うあたり、この男も普通じゃない。
★ で、めでたくゾンビになったチョロは逃げだそうとしているカウフマンを見つけ、彼に襲いかかるが、そこに現れたビッグ・ダディに二人いっしょに焼き殺されてしまう。

▲ 一方、町が危機に瀕しているのを見たライリーは救出に向かう。ただ、何をするかと言えばバリケードを壊して人々が外へ逃げられるようにしてやるだけ。
★ 「それだけかい?」と、普通の観客なら思うでしょうね。ヒーローのくせに目の前でゾンビの群れにガリガリ食われている一般市民は見殺しかい?
▲ でも私はライリーの気持ちがすごくわかるんだなー。だいたい彼はヒーローになりたいなんて思っていない。ささやかな心の平和がほしいだけだ。それに彼は人間だろうとゾンビだろうと、もう殺しには飽き飽きしているのだ。
★ 逃げ道は作ったから、助かりたければあとは自分でなんとかしろ、ってところでしょうか。
▲ うんうん、わかるよ、きみ!
★ というところでついに、彼は仲間を連れて歩いているビッグ・ダディと出くわし、バッチリ目が合ってしまう。さあ、どうする?!
▲ すぐに銃を構える仲間を手で制してライリーは言う。

“Stop. All they want is somewhere to go. Same as us.”
「よせ。彼らも行き場を捜しているだけなんだ。俺たちと同じだ」

じ〜ん‥‥出たー! これこそ「They are us.」の言い換え。しかも“Night”リメイク版のこのセリフには自虐の響きがあったが、ここではむしろ共感と同志愛さえ感じられる。
★ しかも目と目が合っただけで気持ちが通じちゃう! ありえねー!(笑)
▲ でも私はこれにうるうるしてしまったよ。だってゾンビを愛しているから。そしてロメロも心から自分のゾンビたちを愛してるんだなーというのがしみじみわかるから。
★ そういえば、映画の初めのほうでも楽器を演奏するゾンビを見て、「俺たちのまねをしてやがる」と言う男に対して、ライリーが「彼らも元は俺たちだったんだ」と言う場面がありましたね。
▲ そう、ミミズだってオケラだって生きているんだ、友達なんだ。
★ だから死んでますって!(笑)
▲ これはもうあれだよ。次の続編は今度こそゾンビを主人公にして、ゾンビのユートピアを築く話(笑)。というのは半分冗談だが、まんざらありえなくもない。
★ うーむ、ゾンビのユートピアってどんなんだろ?
▲ とにかく食べることしか関心のない人たちだから、エサの人間がたくさんいるところ。それにゾンビは子供を産めないし不死ではないから、人間はゾンビのもとでもある。だったら、人間をいっぱい閉じこめて飼育して繁殖させて‥‥
★ うげー!
▲ って、悪夢の世界のように聞こえるかもしれないけど、これは人間が牛や豚に対してやっていることじゃない。「They are us.」というのはそういうことだ。
★ ハア、なんか変に説得力のあるご意見。

▲ なんか早急に結論が出ちゃったけど、言いたいことはまだまだあるよー。まずはゾンビ・メイク。当然、今度もトム・サヴィーニかと思ったら、そうじゃないので最初はがっかりした。でもサヴィーニはちゃんとゾンビ役でカメオ出演する。
★ なんかやっててすごいうれしそうですね(笑)。
▲ この人もゾンビに魅せられた人間だからな。
★ ビジュアル・エフェクツを担当したのはKNBというところだそうです。『スクリーム』とか『キル・ビル』をやった人たち。パンフを読むと、ここの創設者は元サヴィーニの弟子で、初仕事が“Day”だったんだって。やっぱり身内で固めましたね。
▲ まあとりあえず誰がやっても20年間(“Night”(リメイク版)からでも15年)のあいだには技術も飛躍的に向上しているから。ロメロのゾンビは見るたびに質が向上していて楽しい。
★ ただあんまりグロテスクじゃない、「生っぽい」ゾンビが多かったように思う。
▲ これはいずれ出るはずのDVDとメイキングでじっくりチェックしよう。映画館で見ていてイライラするのはポーズがかけられないことなんだよね。「あっ、今のもう一度見たい!」と思ってもダメだし。
★ あなたはそうやってゾンビをひとりひとり鑑賞してるんですか。夜のシーンが多くてちょっと見づらかったのは事実ですけどね。“Dawn”と“Day”は白昼じっくり見せてくれたのに。
▲ もちろんスプラッタ趣味も十分堪能させてくれる。
★ どっちかというとマンガっぽいサヴィーニよりもリアルでいいね。15年間の技術の向上のせいが大きいだろうけど。
▲ サヴィーニはそこがおもしろいんだけど、反面、冗談のように見えてショック度が低いからな。感心したのはゾンビが人間を引き裂くところをシルエットだけで見せる場面。二度あるんだけど、これがなかなか芸術的で美しいんだわ。
★ 人の首引っこ抜くところが美しい?
▲ だからすごいと思ったんだよ。

★ でもなんでゾンビがそんなに好きなのかなあ。「モンスター大好き、人間嫌い」なのは知ってるけど、ゾンビっていちばん人間に近いじゃない。
▲ だから不気味なんじゃない。人間なんてもともとグロテスクなんだから、そのグロテスクさを誇張したのがゾンビで。どんな化け物より歩く死体のほうがこわいよ、現実に会ったら。
★ でも映画のゾンビこわくないじゃん。
▲ 私は残念ながら映画を見てこわがるほどウブではなくなってしまったからなあ。
★ じゃあ、どんな映画がこわかった?
▲ 私が見てこわいと思った映画は3本しかない。まずはブニュエルの『アンダルシアの犬』でしょ。
★ それはわかるけど。私は眼球恐怖症だからね。
▲ とにかくいきなりあの目玉切り裂きシーンだから、またいつあれが出るかと思って、ほとんど目を上げられなかった。それからリンチの『イレイザーヘッド』。
★ いきなり新しくなりますね。あれ、そんなにこわかった?
▲ こわいよー。異常な登場人物に異常なストーリーに異常なカメラに異常な音楽で。こわいっていうよか、上演時間中ずっと神経切り刻まれるようないたたまれなさを味わった。だから帰ってすぐLD買ったけど。
★ やっぱ好きなんじゃないさ。あと1本は?
▲ ジョン・カーペンターの“The Thing”。
★ それは意外って言うか、あれこそホラーおたくのためのホラーで、あの頃はとっくにおたくになってたから喜んで見てたかと思った。
▲ もちろん喜んだよ。喜んでニタニタ笑いながらもこわかった。なんでかというと、あの映画は「物体X」のグロさばかりが話題になるけど、ホラーとしての怖さのキモをついてるからなんだ。真冬の南極基地というどこにも逃げ場のない完全な閉鎖空間、しかも異空間の中で、誰が怪物かわからなくて、隣の人が突然怪物化するかもしれなくて、それどころか自分が怪物なのかもしれないという神経戦的恐怖。その怖さにくらべたら、ギャオーンと出てくるThe Thingなんてそんなにこわくない。おまけにその怪物に高い知性があって、罠やトリックをしかけてくるし。とにかく惚れ惚れするほどうまい。いまだになんでカーペンターにあれが撮れたのかわからない(笑)。
★ あれも「人体変形ホラー」だしね。
▲ ロブ・ボッティン、サイコー! いまだに私のいちばん好きなメイキャップ・アーティストはボッティンなのに、どうしてあまり使ってくれないんだろう? でも予算のなさも明らかだったので、あれこそリメイクしてくれないかと思うんだけど。
★ だってあれ自体がリメイクなのに!
▲ でもオリジナルとはぜんぜん違う(というか、こっちが原作に近い)でしょ? だからカーペンター版のリメイク。
★ だめだよ。今ならあんなのCGで簡単にできちゃうし、あれがCGじゃなーんにもおもしろくない。
▲ そうだな。あれは手作りだから良かったんだな。
★ その点、ゾンビもすべて手作りですから。そもそもメイクだけだし。
▲ そのぶん、アーティストの腕とセンスの見せ所なんだよね。しかも素材が人間でしょ? 人間を狼にしようと思ったらどうしても無理があるから、どうしても技術的なほうにばかり目が行ってしまう。でもゾンビはそういう無理がないぶん、自由に創作できていい。ああ、私、ほんとにゾンビが美しく見えてきちゃって‥‥
★ だって死体だよ!
▲ 素顔より良くない?

▲ 次に役者について。お金のなかった時代はもちろん、たいてい無名の役者ばかりを使うロメロだが、今回も有名俳優はデニス・ホッパーだけ。
★ ライリーを演じるサイモン・ベイカーはオーストラリア人で、なんとなく影が薄い幸薄そうな顔つきはけっこう好き。
▲ でも役者としてはロバート・ジョイのチャーリーに完全に食われてるよな。この人はカナダ人で、映画ではオーストラレシアとカナダに特別な思い入れを持っている私はそれだけでもうれしい。
★ チョロのジョン・レグイザモはコロンビア人。いかにもチンピラ顔のチンピラ声の人だが、演技派。
▲ アーシア・アルジェントはアバズレ顔のアバズレ声。
★ とてもわかりやすいね(笑)。

▲ 問題はデニス・ホッパーだよなー。顔見ただけでサディスト(笑)という、せっかくの役者なんだから、さぞや前作のローズをしのぐ悪辣無比・冷酷非情の卑劣な極悪人を演じてくれるはず、と期待してたんだよ、私は。なのになんだかおとなしめ。
★ 女をゾンビの檻に閉じこめて素手で戦わせたりしても?
▲ だってカウフマンはその場にいもしないし、彼が直接手を下すわけじゃないじゃない。なんかそのー、これじゃゾンビに殺されても文句は言えないっていうぐらいの、ものすごい悪行を見せてほしかったな。
★ 結局、ただの悪徳資本家ですからね。
▲ ロメロの偉大なところは、人間の持つ根元的な残酷さや浅ましさ、「悪」をあれだけリアルに描いたところだったのに、デニス・ホッパー使ってこれじゃなあ。ロメロの悪人を見ていると、ゾンビがかわいらしく見えてくるぐらいだったのに。
★ 死に方もわりとあっけなかったよね。普通なら悪の親玉と主人公の対決は最後の山場でしょう? それが途中でどさくさまぎれに殺されちゃって。
▲ そうだ! だからやっぱり本当の主人公はビッグ・ダディなんだよ! “Day”でもローズを殺すのはバブでしょう?
★ じゃあ、ライリーはただの傍観者? 私は納得するけど、大多数の観客はどうかなあ? 
▲ ま、いいや。とりあえず金持ちは金持ちっていうだけで極悪人なのだ(笑)。
★ そういえば、金のことが気になったんだけど。カウフマンもチョロもすごい金にこだわってるじゃない。でも文明崩壊で金なんてただの紙切れになっちゃったはずじゃないの? だいたい金なんか外の廃墟に行けばいくらでも手に入るのに。
▲ この町だけは資本主義経済が存続しているようだから、地域通貨みたいなもんじゃないの?
★ そうなのかなー? とにかく人間側の悪が弱いってところがこの映画の欠点と言えば欠点ですね。
▲ もうそれは3部作でさんざん見せたからいいことにしよう。

★ ビッグ・ダディを演じたユージン・クラークは?
▲ 好きっ! かっこいい! 同じデブでハゲの黒人でも“Matrix”のラリー・フィッシュバーンより断然強そうでかっこいい!
★ でも何せゾンビだから、「うー」としかしゃべれないし、動きもヨタヨタしてるけど。
▲ だからってゾンビにカンフーやらせるわけにいかないだろ。それじゃキョンシーになってしまう(笑)。とにかく彼にはカリスマがあるよ。他のゾンビを目覚めさせ、彼に付いていきたいと思わせるだけの。
★ カリスマ・ゾンビ‥‥
▲ 残念なのは他のゾンビに個性がなかったことだな。ゾンビのひとりひとりに個性を持たせれば、よけい観客が感情移入しやすくなっただろうに。いつもビッグ・ダディの隣に立ってる金髪の口裂け女なんて、なんかいわくありげだったのに。
★ 彼女なんじゃないすか?(笑)
▲ よっしゃあ! 次はそれで行けるぞ。つまりゾンビが主人公なんだけど、ゾンビになる前の生活から見せておいて、ゾンビだって人間だということで。
★ 勝手に企画立ててる(笑)。
▲ それで主人公のいいゾンビと悪いゾンビの対決になる。
★ はは‥‥
▲ 私の理想はモンスターだけで人間なんか出ない映画なんだけどなー。誰か作ってくれないかなー。あとね、あとね、「愛する者が怪物になったら」というテーマも、案外ロメロには出てこないんだよね。“Dawn”はハードボイルドだったし。
★ “Night”のクーパーはあれでも娘は愛してるんだよ。彼がベンと撃ち合いになるのは、ベンがゾンビになった娘を射殺しようとしたためだし。
▲ そこでそれをクロースアップした話も撮ってほしいな。恋人がゾンビになっても愛せるか? ゾンビになった恋人は自分を取り戻して恋人を救えるか?という。
★ それならロメロ・トリビュートの短編集にあった。
▲ でもどうせならロメロ版が見たいじゃん。
★ ゾンビのラブストーリー(笑)。

★ ところであの花火はなんだったんだろ?
▲ わからん。ゾンビは花火が好きなんて、これまでどこにも出てこなかったし。
★ 足止めするための方策かと思ったけど、べつにゾンビを足止めしなきゃならない必然なんて見えなかったし。
▲ あんまり気にすることないんじゃないの?

▲ しかしやっぱりいいなー、ロメロのゾンビ。本当にかわいくていじらしくて抱きしめたいぐらい。
★ 映画を愛するあまり、すっかり情が移っちゃってますね。
▲ だってあれだけのハンディキャップを背負って、けなげに生きようとしてるところが(死んでるけど)なんともいじらしいじゃない。
★ そういや、ゾンビは障害者のメタファーだなんていう危ない話もあった。
▲ ゾンビは貧民のメタファーであり、虐げられた人々すべてのメタファーでもあるんだよ。
★ 不思議なことに、人間側の「悪」はあれだけリアルに描かれてるのに、ゾンビが悪っていうコンセプトは最初からまったくないんですよね。
▲ だって悪意なんかないもん。“Night”ではただの動物。動物が人食ってもそれは本能に従ってるだけで責めるいわれはないでしょう。それがだんだんと人間らしさを尊厳を回復して行くあたりがまた泣かせる。
★ それはいいけど、なんかゾンビの動きもなめらかになってきてない? 前ほどヨタヨタしてないし、けっこう力もあるようだし。
▲ 精神同様肉体も進化してるんだよ、きっと。
★ 死んでるのにー? ゾンビのくせに元気なやつを見ると、昔は「あー、あのエキストラ下手っぴだー!」と笑ったものだけど。

▲ それにハッピーエンドで良かった良かった。
★ 映画のハッピーエンドって嫌いで文句言うくせに。
▲ ゾンビものって基本的にあまりにも救いのない話だからさ、せめてラストぐらいは希望を持たせてほしいわけよ。まったく救いのないエンディングで衝撃を与えた“Night”から、“Dawn”ではほんのり希望の光が見え、“Day”は嘘のようなハッピーエンディングで終わるあたりにも泣かされた。
★ だんだん明るくなってくるわけよね。でもこれってハッピーエンドなのかしら?
▲ もちろん、ライリーにもビッグ・ダディにも安住の地なんかどこにもないわけよ。これは嵐の前のほんの静けさで、すぐにまた阿鼻叫喚に巻き込まれるのはわかってる。でもどこかに安息が得られる場所があると信じて、とにかく自分の道を行く。
★ 目と目を見交わしてね。
▲ 「おまえもがんばれよ」って感じで。その悲愴だけど前向きな姿勢が泣かせるんじゃない。
★ ハッピーエンドがあるとしたら、あのキチガイ博士が夢見ていたみたいな人間とゾンビが仲良く暮らせる世界だけど、それだとギャグにしかならないという問題が(笑)。
▲ だから永遠にハッピーエンドにはならない。いいなー。
★ もう何を言ってるんだか。とにかく、あなたは感涙にむせんでるけど、普通のホラーファン、特にロメロのゾンビを初めて見た人は絶対納得しないと思うな。かっこいいヒーローがゾンビをやっつける話かと思ったら、そのヒーローはぜんぜん役に立たないし、ゾンビに同情しちゃうような人だから。
▲ だってこれ見てれば誰だってゾンビに感情移入しない? 「がんばれ!」って応援する気にならない?
★ よくわかんない。普通人の感じ方は。
▲ いいよ。ロメロこそカルトなんだから。ゾンビを愛する人たちだけが見ればいい映画なんだから。それに今回は主人公が腰抜けな理由もわかった。これがベンや(リメイクの)バーバラみたいな人だったら、ゾンビに同情はしてもきっと最後まで戦うと思う。
★ バーバラは人形を抱えた女ゾンビを哀れんで撃てませんでしたが。
▲ ‥‥そうなったらビッグ・ダディを殺さなくちゃならなくて、きっとロメロはそれは耐えられなかったんだ。でもライリーみたいな外れ者だから、ゾンビの気持ちもわかると。うん、ライリーだっていいやつじゃないか。
★ もうなんでもよくなってる!
▲ だんだんわかってきた。最初はビッグ・ダディがゾンビ軍団を率いてゾンビ革命を起こす話になるのかと思ったんだよね。でも見てるとビッグ・ダディが統率しているのはほんの小さな小集団。彼もやっぱりゾンビのアウトサイダーで、つまりライリーと同じなんだ。彼らは双子の鏡像なんだよ。白人と黒人、生者と死者。ほら、きっちり鏡像になってるでしょう? 彼らがお互いを見たときわかりあえたのも、鏡に映った自分を見ているだけだったからなのだ。
★ なるほどー。つまり今回はダブル主人公なわけですね。
▲ だから女の出る幕がなかったわけ。やっぱりロメロの映画って、隅から隅まできっちり考えて作られてるんだなあ。これもホラーではなかなかないことだよ。
★ ゾンビ=人間という構図もここではっきりしましたね。でもやっぱり観客はとまどうだろうなあ。いきなりゾンビは人間だって言われても‥‥

▲ と書きながらニュースを見ていたら、ハリケーンに襲われたアメリカ南部では略奪が横行して銃撃戦も起きてるって。
★ 台風で暴動。日本だったらありえない!
▲ こういう「現実」があるから、ロメロはゾンビを撮り続けるしかないんだよなー。被災地荒らして殺し合うなんてゾンビ以下じゃん。
★ まったく。ところで現実と言えば、チョロはテロリストだよね。しかも町のシンボルの高層ビルを破壊しようという(苦笑)。
▲ もちろん9.11意識してるでしょう。あれにはニヤリとしてしまったね。
★ なのに、決して悪人には描かれてないよね。
▲ 当然。彼は直情型で利己的な面はあるが、根はどん底からはい上がろうともがく若者にすぎないのだ。
★ 今のアメリカでこういうの撮るっていうのは勇気いるな。
▲ だから好きなんだよー、ロメロ! マイケル・ムーアのアホンダラの100億倍好きだよー!

▲ あと気が付いたんだけど、ゾンビ映画ってのはサバイバルものだよね。
★ 終末テーマでもあるね。
▲ 私もそれが好きで、さんざん終末ものの小説とか映画とかあさったものだけど、これってやっぱり日本人の恐怖感に訴えるからだと思うな。
★ やっぱり天災の国だから?
▲ うん、ハリケーンだの津波だの世界的大災害があったけど、こんなの日本人にとっては日常茶飯事というか(笑)。
★ おまけにいちばんこわい地震があるし。
▲ だから私たちにとってはこういう話は「明日は我が身」で、いつ自分が巻き込まれてもおかしくない状態なわけ。だから私みたいな無気力人間でさえ、「そうなったらどうしよう?」と日頃からいつも考えてるわけじゃない。
★ 考えるだけで何もしてないけど(笑)。
▲ 災害時に何を持ち出そうとか。で、日本人ならすぐに思い浮かぶのは、水とか食糧とかラジオとか懐中電灯とかじゃない。
★ それから医薬品と毛布とタオルと‥‥
▲ ところがアメリカの小説とか映画とか見ると、必ず最初に確保しようとするのが車と銃なんだよ(苦笑)。
★ やっぱり現実を知らないから?
▲ まあ、車なんか道路が分断されたり橋が落ちたりして使えないのはわかっているにしても、銃というのがね。もちろん天災やほとんどのモンスター相手にも銃なんか役に立たない。これは対人用なんだ。こうなったとき敵はむしろ仲間の人間とわかっているところが、なんとも腹立たしく気の毒でもある。
★ ゾンビが押し寄せて来てるのに、人間同士殺し合ってる場合かって。
▲ ハリケーンですらそうだからね。だからこういう映画って本当にアメリカだからこそ生まれたものなんだなーと。
★ そうじゃなくてもこの人たち、本気で生きのびる気あるのかなーと思うね。生きるのに絶対欠かせないのは食糧じゃない。なのに、誰もが缶詰だけで生きのびられると思ってる。生産手段がないのに、缶詰なんかいつまであると思ってるんだろう。ガソリンがなくなるのは心配するのに、畑を作らなきゃなんて考える人、誰もいないんだよね(笑)。
▲ ロバート・マキャモンの『スワン・ソング』はそういう話だったよ。これは終末ホラーとしては稀代の傑作。これまたマキャモンになんでこんなのが書けたのかわからない(笑)。
★ そういえば、あの小説って、終末風景といい、主人公たち(少女と黒人レスラーとホームレス女)といい、悪役のすばらしさといい、まるでロメロみたいね。
▲ ロメロの影響受けてるんじゃないの? というか、ホラーを手がける人でロメロの影響受けてない作家のほうがめずらしい。

▲ で、ロメロの今後の展望だけどやっぱりまた続編撮ってほしいね。
★ 予定を見ると“Diamond Dead”というタイトルが上がってたんで、続編かと思ったら違うみたい。バンドを救うために1年に365人の人間を殺すことを死神に誓った女の話だって。
▲ なんじゃ、そりゃー! 実を言うと、この人にはゾンビもの以外撮ってほしくないんだが‥‥
★ 脚本だけだけど、2006年に“Day”のリメイクが入ってる。監督は決まってないけど、また他の人にやらせるみたいね。
▲ ということは三作すべてリメイクするつもり? まあ確かに今となっちゃ古いし、「古典」だからいいようなものの‥‥
★ そういや“Dawn”のリメイクはどうして見ないの? 脚本はロメロだよ。
▲ 不満もあった“Night”に対して、あれは完璧な作品だからさ(Goblinのサントラを除く)。そのイメージ壊されるのがこわくて。だいたい、なんで人にやらせるんだよ。どうせなら自分で監督もしろよ! それより私は続編の新作が見たいよー!
★ とにかく異常に寡作な人だからねー。
▲ 私もそう思ってたけど、「作らせてもらえない」という事情もあるみたい。製作会社がほしがるのはアカデミー賞狙いの大作か、ファミリー向けの映画ばかりで、ホラーにお金出そうって人はあまりいないみたい。
★ えー、でも伝説のカルト監督だよ! ロメロのゾンビなら確実にある程度は売れるじゃない。ロメロもどきのどうしようもないクズ映画だって山ほど作られてるっていうのに。
▲ でもそれが現実ってものでしょ。かわいそう。ゾンビもかわいそうだけど、ロメロもかわいそう。
★ これじゃまた20年待たされるかも。
▲ 待つよ、私は!
★ つーか、ロメロのほうがそんなに生きてないかも! とにかくあなたがゾンビを愛してることはよーくわかりました。
▲ ロメロもね。

★ 以下は余談なんだけど、予告編でピーター・ジャクソンの『キングコング』をやっていた。
▲ キングコング! 何が悲しゅうてキングコング!
★ でも、絵はきれいでしたよ。ターザンものっていうか、ロストワールドものっていうか、ジャングルで恐竜が出てきて。恐竜見るだけでも見てもいいな。
▲ だって、コングのほうが強いんだろ? そんなのやだ!
★ そりゃ主人公ですから。
▲ それに女はキャーキャー叫ぶだけで戦わないんだろ?
★ フェイ・レイがコングと戦ったら話にならないでしょ!
▲ だから猿人嫌いなんだってば。
★ 猿人じゃなくてゴリラです。
▲ ただのサルじゃん!
★ 弟に『平成ガメラ』のこと、「だってカメじゃん」と言ったら怒られたけど(笑)。
▲ なんでこんなの引き受けたんだろ? ジャクソンは傑作ゾンビ映画『ブレインデッド』も撮ってる人なのに。
★ というか、LOTRでメジャー路線に転向かと思ったら、やっぱりゲテモノのほうが好きなんですねえ。

★ ほんとは予告編でナルニアが見られるんじゃないかと期待してたんだけど。
▲ だってディズニーだぜー。期待するだけむだ。やめとけって。
★ でもナルニアと言えばLOTRと並ぶファンタジーの金字塔で、子供時代の私にとっても忘れられない名作だし。もちろんLOTRは大人向け、ナルニアは子供向けなんで、ひとくくりにはできないけどね。
▲ 監督誰なの?
★ 『シュレック』の人。
▲ うえー。アニメ嫌い。
★ でも“Shrek”ってすごい出来がいいって評判だったじゃないの。だいたい、『ブレインデッド』の監督にLOTR撮らせるほど冒険じゃないと思う(笑)。それにジャクソン同様、ニュージーランドの人だよ。それにSFXはLOTRのWetaだよ。
▲ それこそLOTRの二番煎じみたいじゃない。
★ 確かに。
▲ じゃあ、なんでジャクソンに撮らせない?
★ そんな無理を言われても(笑)。確かにシリアスなLOTRよりもナルニアのほうが変なキャラクターとエピソード満載なのでジャクソン向きだと思うけど。でもネットでトレイラー見たら、ほんとにLOTRみたいだった(笑)。
▲ ここまで露骨にやるかね?
★ やっぱりWetaで、屋外シーンはニュージーランド・ロケだからじゃないですか。原作者同士のトールキンとルイスは友達同士だったからいいんですけどね。それにキャストは期待通りイギリス人で固めてるし。
▲ (予告編を見ながら)ああっ、そもそもワードローブのシーンからして違う! こんな中からピカッと白い光が差したりするんじゃなくて! 子供にとっては中のコートが本当に森みたいに見えて、それがどこまで行っても続いてて、その向こうに雪景色が見えてくるという‥‥
★ このようにファンはしっかりイメージができてるし、チェック厳しいからどうなりますか。
▲ まあお手並み拝見と行こうじゃないの。きっとマンガにされちゃうと思うけど。

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