2010年5月3日 月曜日

もちろんこんなシーンはないんですけどね。あまりにインパクトのある写真だったのでつい。しかしこれじゃ『カリギュラ』かって感じで、ほんとにポルノビデオと間違うね。

テレビ評

The Tudors - The Complete Seasons 1-3 (TV) (2007-2009)
(邦題 『The Tudors〜背徳の王冠〜』)

 皆さん、ゴールデンウィークいかがお過ごしですか? 私は例によって、お金のかからない怠惰な休日が理想ってことで、友達と地元でサイクリングとかも行ったけど、あとは家でビデオ三昧。でも、DVD9枚組のボックスセットなんか買っちゃったから、やっぱりけっこう金かかってるか。

 きっかけは(とにかく最近、情報集めからすっかり遠ざかっているせいもあり)、何かの広告で、偶然このDVDのことを知ったから。私の考える「世界一美しい男ジョナサン・リース・マイヤーズ(最近はリス=マイヤーズって書くんですか? これだからカナ表記はめんどくさい。こっちのほうが語呂がいいし、原音にも近いからリースでいいよ)主演の時代劇って、それだけ聞けば買いじゃないですか! あの人は時代劇のほうが似合うっていつも言ってるし、最近、あんまりいい男見てないし。
 近ごろすっかり映画から遠ざかってるのも、毎度おなじみの顔ぶれのハリウッド・アクターにうんざりしているから。特に若手にはひとりも好きな人がいないし、ブラッド・ピットだの、ジョニー・デップだの、もう金払ってまで見たくないよ。ところがそういうのを除外していくと何も見るものが残らないという‥‥(笑)

 というわけで、「ヘンリー8世の話」という以外何も知らないまま、即刻amazon UKに注文出したら、わずか3日で届いたのがこのボックスセット。でも買ってから失敗したと思ったのは、「まだ奥さん3人しか殺してない! 完結してないやんけ!」 (もちろん、全員殺したわけじゃないが) コンプリートなんとかって題されたボックスセットが出てるから、てっきり完結してるのかと思ったが、今はまだ第4シーズンの放映中らしい。どうせなら完結してから買うんだった。もっともタイトルからすると、このあとメアリやエリザベスの時代まで続くのか? それだと完結するのに10年はかかりそうだが。

 で、時間ももったいないのでいきなり本題。これは毎度おなじみBBCのドラマ・シリーズで、イングランド国王ヘンリー8世を主人公にした(少なくとも第3シーズンまでは)ソープオペラである。ヘンリー8世が即位したのが1509年なので、即位500周年記念というわけで、イギリスではいろいろイベントがあったみたいだが、これもそれにちなんだものだろう。
 ヘンリー8世というと私のイメージでは、「若い女に目がなくて、奥さん取り替えるために宗教改革までやっちゃったヒヒじじい」ぐらいにしか思ってなかったが、イギリスではなぜかこの人が人気があるんだよね。
 だからヘンリーその人にはあまり思い入れはないが、こちらとしてはとりあえずジョナサンの美貌と、BBCの時代劇には付き物の、豪華絢爛たる衣装や、豪華絢爛たるキャストや、豪華絢爛たる宮廷の建築やインテリアだけでも楽しめればいいやというぐらいの気持ちで見始めた。

 それで28話を一気に見終えての感想だが‥‥先に批判に答えておこう。

 amazonのカスタマー・コメントとか見ると、「歴史的事実に反している」という批判と「いや、これでいい」という擁護論がぶつかりあっているようだが、(ちなみにまじめな日本人はやっぱり事実をねじ曲げてることに批判的みたい)、私の立場は「べつにどうだっていいじゃん」。教育テレビの歴史番組じゃないんだしさ、ただのドラマじゃない。それを言ったら、シェイクスピアだって時代考証なんてしてないし(笑)。
 「リサーチ力もない製作者」という批判もおかしいと思うな。イギリス人ならヘンリー8世の話を知らない人なんていないし、ちょっと調べりゃすぐわかることを間違えるはずがない。もちろん話をおもしろくするために、わざと史実を曲げたり、実際にはなかったエピソードを加えているわけでしょう。実際、メイキングの中でシナリオライターが「ピーター・オトゥールの演じる法王は実際は2人の法王を混ぜ合わせてある」って認めてるし。
 というわけで、見ながら「そんな話あったっけ?」と首をかしげたエピソードは、あとから調べたらほとんど創作だった。でもその創作部分がおもしろいからいいのだ。誰かがamazonで書いてたように、これ見て学校の宿題書くのはやめたほうがいいけど。

 批判その2は「ほとんどポルノ」というもの(笑)。確かに全編を通して、10分に一度ぐらい、けっこう生々しいセックスシーンがある。これは確かにこれまでのヘンリー8世ものにはなかったので、最初は私もあせった。でも製作者も初めからソープオペラ(日本の昼メロみたいなもの)って言い切ってるんだよね。ソープならセックスシーンはお約束みたいなもの。とりあえずきれいだからいいんじゃない? 確かにご家庭で子供といっしょに見るのは問題あるが。
 ヘンリーのオナニー・シーンまである。これは史実かどうか確かめようがないが、王様だからしてオナニーも普通と違うんですね。さすがにしごくのは自分でやるが、従僕がタオル持って前にひざまづいて待っていて、事後の処理をしてくれる。これは大笑いした。しかし、いつもながら思うが、イギリスはアナーキーだなあ。これが日本なら天皇のオナニーはおろか、セックスシーンだって右翼が騒いで大変だろうに。

 エロが出ればグロも。こっちはもともとけっこう期待していたが、これも期待にそぐわない。とにかく出てくる人間が片っ端から殺される話ですからね。首チョンパのオンパレードに加えて、火あぶりはあるは、釜ゆではあるは、拷問も各種取り揃えてあります。
 こういうのは、従来の映画なら、悲鳴が聞こえてきたところで拷問室の扉が閉まったり、死刑執行人の斧が落ちてきたところで暗転してたものだが、そこもちゃんと見せます。スプラッタとまではいかないが、首なし死体からピューピュー血が吹き出て、体が痙攣してたり。でもこれは本当に史実だしなあ。もっともっとひどい拷問や処刑方法もあったぐらいで。
 ただ、こういうふうに子供を連れて公開処刑を見物に行くような時代を、野蛮とか残酷とか思うのは間違ってるよ。だって、現代人だってこういうドラマ見て喜んでるし、人のサガってものは変わらないね(笑)。
 ただ、これはやっぱり週に一度テレビで見るもので、一気に28話見るのはけっこう無謀だった。セックスも暴力もこれだけ立て続けに見せられるとちょっと食傷して気分が悪くなってくるから。

 で、結局、批判者が言いたいのは、格調高い王室の話を安っぽいメロドラマにしやがってということなんだろうが、これはこれで新しい見方でおもしろいと思った。私のいい加減な記憶では、これまでのヘンリー8世ものって、どっちかというと王妃たちの悲劇に焦点をしぼって、ああ、お気の毒と泣かせる作りになってたが、これはその辺が妙にサバサバして、けっこう笑わせるし、でももちろん「いい人」が死ぬ場面は泣かせるし、登場人物も人間味があるし、絢爛豪華な宮廷絵巻はげっぷが出るほど見られるし、期待にそぐわず、よくできた歴史ドラマだと思った。

 ただひとつ不満があるとすれば、皮肉な話だが、そもそもこれを買うきっかけとなったジョナサン・リース・マイヤーズなのだ。

 彼がヘンリー8世を演じるなんてミスキャストだってのは見ないでもわかる。実際のヘンリー8世はあの有名な肖像画で見て誰もが知ってる通り、飛び抜けてでかい大男で(6フィートぐらいだったらしいが、平均身長が小さかった500年前としては、まさに巨人だったろう)、でっぷり太って(晩年はひとりじゃ歩けないほど太ってたとか)、燃えるような赤毛の長髪だった。なのにジョナサンはチビで、あんなに細くて、おまけに黒髪のクルーカットで出てきたときには、何がなんだかわからなくて頭がクラクラした
 チビと言っても178センチあるのだが、イギリスの舞台俳優というのは雲つくような長身揃いなので、情けないことに共演者の男優の誰と並んでもジョナサンのほうが小さい。おそらくはその巨体だけでも相手を圧倒したはずのヘンリー8世がこれでいいのか? ヘアスタイルに至っては謎だらけ。あの髪型のせいでなんか彼だけ現代風で周囲から浮いてるし、衣装とも合ってない。ジョナサンはめずらしく長髪が似合う男なのでもったいない! たぶんあの顔で長髪だと女っぽくなっちゃうからああしたんだろうけど。
 さらにヘンリー8世といえば、狩りや馬上槍試合といった荒っぽいスポーツを好み、ギャンブル好きで、まさに英雄色を好むを地で行く、豪放磊落な豪傑というイメージなので、まるっきりジョナサンの持つイメージと正反対。実際、彼が戦う場面ではいつも負けてたような気がするが、これもなんかすごく情けない。

 この批判に対しても擁護は可能だ。まず、一般に流布しているヘンリーのイメージは晩年のもので、17才(だか18才)で即位したころのヘンリーはモテモテの美青年だったという。それに豪傑イメージは当然ながらかなり創作やヨイショも混じってるはず。
 それはそうかもしれないけれど、それでもこういうタイプの美青年じゃなかったことは確実。
 製作者に言わせると新しいヘンリー8世像をねらったらしい。それはいいけど、全体が大胆な史実の翻案というならともかく、基本は史実通りだし、あの顔、あの体で、ヘンリー8世の服を着て、ヘンリー8世のセリフをしゃべってるのは、やっぱり違和感おおありだよ。

 まあ、それでもいいんだ。私としても、デブのヒヒじじいよりはきれいな男の子を見てた方がうれしいし。しかし、いちばんの問題点は、かんじんのジョナサンがあまり魅力的に見えないということだったりして。
 うーん、このタイプは年取ったら終わりだとは思っていたが、(うんとおじいさんになれば、逆に変態性格俳優として使えるかもしれないが)、彼ももう年かなあ。いくつになるんだ? 1977年生まれだから今年で33才か。しょうがないかなあ。確かに若い頃の、この世のものとは思えない人間離れした美貌は失われた。今でもハンサムには違いないけど、なんか普通の人になっちゃったみたいで、これだけ見てると、ただのニヤケた優男にしか見えないよ。おえっ。

せっかくだから検証してみました
確かにハンサムではあるけれども‥‥(2007年) べつにそれほど好きな写真じゃないけど、馬つながりで並べてみた。こっちは2004年。

 うーむ。いくらなんでも3年でそんなに変わるはずないし、これは年とは関係なく、メイキャップとか役作りの違いだけか。
 ヒゲは最初は勘弁!と思ったが、あまりに威厳のないヘンリー8世なので、ヒゲぐらいあったほうがいいかと思い直した。
 ああ、せめて髪型がアレで、役柄がこうじゃなければなあと思うが、それじゃヘンリー8世じゃなくなっちゃうし。『ゴーメンガースト』や『アレキサンダー』では、あんなにぞっとするほど魅力的だったのに。いや、それを言うなら似たようなテレビドラマの『冬のライオン』のフランス王フィリップのほうが1億倍似合ってた。やっぱり基本的に彼にヘンリー8世をやらせるのが無理だとしか。「悪魔的な誘惑者」、あなたはこれ以外やっちゃダメ!(『ゴーメンガースト』と『冬のライオン』の役柄はまさにそれだった)

 ただ、こうなると、これまでは「これだけお顔がきれいならば」というので見逃してきた欠点が気になっちゃうんだよね。背が低いというのもそうだけど、いちばん気になるのは声。「役者は顔より体より声が命」というのを、近年ますます強く感じるようになってきた。つまり顔なんかタゴサクでもジジイでも、声さえ良ければ観客をうっとりさせることはできるのだ。
 その点、英国俳優は(ジョナサンはアイルランド人だけど)舞台で鍛えられているので、だいたいの人が合格なのに、(長身の人が多いのも舞台映えがするからだろう。映画俳優はいくらでもごまかせるからチビでも通用するけど)、この人は体が小さくて細いから当然とは言えるけど、声も細くて甲高いのだ。
 それもささやくようにしゃべるぶんには(キャラクターから言って、これまではそういうのが多かった)、そこがかえってセクシーで良かったりもするのだが、ここでは当然のように大音声でしゃべったり怒鳴ったりするシーンが多い。そうなると、いかにも声に迫力がないのがバレバレなのだ。トレーニング不足もあるな。前にも書いたけどこの人は町のチンピラ上がりで、正式の演技の訓練を受けていないから。
 いや、演技が下手ってことじゃなく、この人は天性の演技の才能を持っているし、それはここでも遺憾なく発揮されてはいるが、発声って訓練によるものが多いと思うんだよ。こういうセリフ回しだと、その基礎ができてないのがわかってしまってつらいわけ。

 体もなー。これも役作りのうちなのか、相当ジムで鍛えて筋肉つけたようだが、私はこういう作った筋肉が嫌いなうえ、せっかくのシャープな体の線が失われ、丸っこくなってしまったのがすごいいや。この人は痩せてはいたがガリガリって感じじゃなく、それこそ手を触れたら切れそうなぐらいシャープな、すべてのムダをそぎ落とした野生動物のような筋肉が美しかったのに。私はジョナサンの美しい肉体をたっぷり鑑賞できると楽しみにしてたのに、せっかくこれだけ派手に脱いでくれてもあんまりうれしくない。

 というわけで、ついグチっぽくなってしまったが、ジョナサンのことはまだあきらめたわけじゃないよ。でもとりあえず、他のキャストの話をしよう。

主要登場人物勢揃い(でも他にもいっぱいいる)
左上から、トマス・モア、トマス・ウルジー、誰か
中段 キャサリン、ヘンリー、ブランドンとマーガレット
下段 アン・ブーリン、誰か

 ヘンリー8世の6人の妻たち、その1はキャサリン・オブ・アラゴン(Maria Doyle Kennedy)。彼女は婚姻期間もいちばん長いし、子供を5人も作っていたところからして愛していたんだろうけど、ドラマはヘンリーがキャサリンに愛想を尽かし、侍女のアン・ブーリンに色目を使い始めたところから始まる。
 敬虔で、ひたすらヘンリーに忠誠を尽くすキャサリンは、ドラマではクイーンの鑑として描かれ、それは私も異存ないし、彼女の没落と死は涙を誘うところだけど、ヘンリーの気持ちもわかるんだなあ。死んだ兄貴のお下がりの嫁を押しつけられて、しかも相手は年増で、お祈りばっかりしている辛気くさい女となれば、私でもいやになりそう。
 演じるマリア・ドイル・ケネディはクイーンにふさわしい威厳と風格の持ち主で、それはいいんだが、あまりにもおばあさんすぎる! 一体いくつなんだ? ジョナサンより13才年上か。確か、実際のヘンリーとキャサリンは10才も違ってなかったはずだが。未だに少年ぽさを残すジョナサンが若々しいから、よけいその差が際だって、夫婦どころか母子に見えるよ。

 妻2号は、アン・ブーリン(Natalie Dormer)。いろんな意味で主役級の女性。最初見たときはあまりにブスなんでけっこう引いた。なんで向こうの人は、こういう目と目の間が離れて、鼻の穴が上向いた研ナオコ顔が好きなのかねえ。でも確かに色っぽいといえば色っぽいし、妖しげなところはいいし、馬子にも衣装で、あの豪華な衣装を着るときれいに見える。
 悲劇のヒロインと見られがちなアンだが、ここではけっこう腹黒い妖婦的な描き方をされている。悪女のほうが好きな私はこっちのほうがいい。あまりに憎たらしくて早く殺されないかと思うが。
 それでもアンにはまだ同情できるところもあるのだが、完全な悪役はその父親のトマス・ブーリン(Nick Dunning)。この辺はかなり創作入ってると思うが、この男は2人の娘にフランス宮廷で男をたらし込む性技を仕込み、姉娘を差し出してもヘンリーが落ちないのを見るとすかさず妹を差し出し、アンが王妃になったあともあの手この手で自分の出世をたくらむ極悪人。言ってみればアンはこの父と兄に道具として使われただけで、かわいそうになってくる。
 特にトマスは、3人が投獄されたあと、息子が処刑され、娘が処刑を待っているというのに、自分が釈放され、爵位も剥奪されずにすむとわかると大喜びするような人非人で、極悪非道もここまで行くと笑ってしまった。そして牢獄の窓からアンが声をかけても、振り向きもせずに立ち去る。だけどアンは首を切られる瞬間、幼かったころに父に可愛がられた幸せな記憶を思い浮かべて逝くあたりがいかにも不憫。

 妻3号はジェーン・シーモア(Anita Briem)。この人がいっとうまともな女性で、美しく心優しく貞淑な妻の鑑として描かれる。すぐに死んじゃったので、ボロの出る暇がなかったせいかもしれないが。実際、ヘンリーがいちばん愛したのも彼女らしい。演じるAnita Briemはブロンドのいかにもな感じの英国美人(きれいだけど、なんかもさっとして大味。ダイアナ妃がまさにこのタイプだった)。あまりに優等生的で、そのせいかキャラクターとしてはいちばんつまらない。

イモ姉ちゃんアン・オブ・クレーブズ

 妻4号はアン・オブ・クレーブズ(Joss Stone)。暗い話の中で彼女のエピソードがいちばん笑えた。フランス・スペインとの政治的なんたらで、早いとこ再婚しなきゃならないヘンリーは、ヨーロッパ各地に使者を送ってお后候補を捜すのだが、本命にふられて、彼女に白羽の矢を立てる。
 なのに、使者はなかなか当人に会わせてもらえないし、会ってもベールを付けたまま。少しでも高く売りつけようという魂胆が見え見えの彼女の兄が顔を見せようとしないのにはわけがあるのは見え透いてるのに(笑)。それでもハンス・ホルバインに描かせたお見合い写真ならぬお見合い肖像画が気に入ったので結婚を決めたのだが、実物とのあまりの違いに見たとたんに嫌いになる。ホルバインたいしたことないな(笑)。
 ジョス・ストーンはいかにもフランドル娘という感じの赤いほっぺの田舎の子で、見方によってはそれなりにかわいいんですがねえ。「会ってみたら馬だった」だの「臭い」だのさんざんな言われよう。それでも子供を作らなければならない義務からヘンリーは彼女と寝ようとするのだが、彼女とでは立たないってひどすぎる。あんた、アン・ブーリンの従姉妹のすごいブス女ともやってたくせに。
 このひどい仕打ちにもかかわらず、根が純朴なのか宮廷では好かれてたみたいだし、いよいよたまりかねたヘンリーにお得意の結婚無効を突き付けられても、素直に応じて首を失わないですんだばかりか、手切れ金をせしめたあたり、実はいちばん賢い女性だったのかもしれない。

 妻5号はキャサリン・ハワードだが、この人は第3シーズンの終わりではまだ出てきたばかり。彼女はヘンリーが一目惚れしたぐらいで、美人ってことになってるんだが、顔がまたもや研ナオコなんですが(笑)。あ、アン・ブーリンの従姉妹だからこれでいいのか。娼婦呼ばわりされた人だが、このドラマでは完全に十代の娼婦として描かれている。うざい女。

 第6号のキャサリン・パーはまだ登場していない。でもオフィシャルサイトで調べたら、これを演じるのはジョエリー・リチャードソン! ええと、私は彼女のお母さん(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)に惚れていたせいで、ジョエリーと(惜しくも亡くなった)ナターシャの姉妹のこともずっと応援してたんですよ。美しさもそうだけど、彼女らの知性的な雰囲気と気品がたまらなくて。ジョエリーもかなり年を取ったはずだけど、まだ美しいようですごい楽しみ。でもやっぱりジョナサンとは年違いすぎないか?

セクシーなマーガレットお姉さま

 次にヘンリーの姉のプリンセス・マーガレット(Gabrielle Anwar)。アップだとしわが目立つ年増だけど、ヘンリーの妻の誰より彼女のほうが美人じゃないの。気が強そうでキリッとしたブルネットで、こういう人好き。彼女がらみの話はほとんど創作みたいだけど、それがおもしろいから許す。
 ヘンリーはいやがるマーガレットをポルトガル王のところへ嫁にやる。(史実では実際の花婿はポルトガルじゃなくてフランス国王ルイ12世) 彼女をポルトガルまで送り届ける役目を仰せつかったのは、ヘンリーの親友のチャールズ・ブランドン(Henry Cavill)。いやがるのも当然というか、相手はヨボヨボの醜い年寄り。しかし、触られただけで気絶するほど嫌いって(笑)。そこで、マーガレットは夫を枕で窒息死させ、さっさとイギリスに逃げ帰る。なんかこれ見てポルトガルでは国辱だ!と怒っていたそうだがざまーみろそれも当然っていうか。
 この人は典型的ツンデレというのか、最初はブランドンに当たり散らしていたのだが、実は密かに彼に懸想していて、結局はヘンリーに内緒でブランドンと結婚する。(史実ではブランドンと結婚したのはヘンリーの妹のメアリー) 当然ヘンリーは激怒するけど。このカップルがなかなかセクシーで好きだったので、マーガレットが早死にしちゃうのが残念。

 ついでだからチャールズ・ブランドンについても。演じるヘンリー・カヴィルはなかなかの男前のセクシーガイ。ガタイもいいし、こっちのほうがよっぽどヘンリー8世らしいのに。とにかくジョナサンがいまいちだったので、こっちで目の保養をさせてもらいました。
 そのブランドンがマーガレットの死後に再婚する妻ブリジット(と言ったはず)が、いちばん気品があってかわいくて、このシリーズに出てくる女性の中ではいちばんの美人だと思うんだけど、IMDbにも載ってないのはなぜだ? 彼女はブランドンの良心みたいな役柄で、性格もすごくいいのに。

かろうじて写真だけは拾ってきました。ブランドンと踊る新妻

 ここらで男優陣に目を転じよう。いつものことながら、男優は(美形こそ少ないけど)重厚な顔ぶれが揃い、芸達者ぶりを見せつける。まずはヘンリー8世の片腕の大法官、ヨーク大司教トマス・ウルジー(Sam Neill)。
 このキャラクターはほぼ史実通りで、権力と財力を武器に権勢をふるう一方で、善良な面も持つ。サム・ニールは悪党面だけど、妙に憎めないところがあるので、昔から大好きで、このキャスティングは決まった。ドラマではブーリン親子の陰謀で失脚し投獄されるのだが、すべてを失った絶望から獄中で自殺するというところは史実と違う。でもその場面がなんとも哀れでかわいそうで泣けるので許す。

 そのあとを継いだのがトマス・クロムウェル(James Frain)。例によって記憶力ゼロの私は、途中までオリヴァー・クロムウェルと混同してましたよ。だいたいなんでみんな同じ名前なんだ! トマスだけでもぞろぞろ出てきて混乱する! 彼は貧しい生まれでウルジーに取り立てられてこの地位まで上り詰める。だけど、ガチガチのルター派で極端な宗教改革を推し進め、みんなに憎まれて結局は首をはねられる。この人も悪役っぽいけど、単に不器用でまじめ一方な人間の悲劇に見えて、なんかかわいそう。

 あと、忘れてならないご存じトマス・モア(Jeremy Northam)。彼は世間一般のイメージ通りの高潔の士として、これ以上ないぐらい、いい人に描かれている。もっともそのモアも異端者は平気で火あぶりにしますがね。とにかく、ヘンリーにとっては師であり友であり父親みたいな存在だったのに、そのモアまで処刑してしまうヘンリーってひどいとしか思えないのが難点と言えば難点。ジェレミー・ノーサムはやっぱり肖像画には似てないが、慈愛に満ちた善良そのものの容姿がぴったり。

 ピーター・オトゥールマックス・フォン・シドーのような大物がキャストに名を連ねているのも、このシリーズにそそられた理由のひとつなんだが、この2人はほとんどカメオ出演でしたな。それにしても、この人たち見るたび、「まだ生きてたのか!」と思って驚く。しかし、ほとんど顔が崩れかけてるし、声までヨボヨボの老人声になっちゃって老衰いちじるしいピーター・オトゥールにくらべ、マックス・フォン・シドーは老いてもあの朗々たる力強い声はそのままで、背筋もピンと伸びてるし、威厳があってかっこいいな。マックス・フォン・シドーのほうが年上なのに。やっぱり若い頃あんまり美男だとだめなのかも。そういや、不必要なほど過剰な色気と中性的な妖しさという点で、ピーター・オトゥールってジョナサンに似てたかも。

 大物といえば、ヘンリーの娘のメアリとエリザベスも忘れてはならない。もちろんこの当時はまだほんの子供だけど。それでもエリザベスはいかにも癇の強そうな子だったり、メアリはすでにある種の冷酷さを見せていたり、後の姿をほのめかしている。

 あとはええと‥‥なにしろすごい数の登場人物が出てくるので、私も途中で誰が誰やらわからなくなったぐらいで、とてもじゃないけど覚えていられないや。ああ、ヘンリーの友達でクリス・マーティン(Coldplay)によく似た人も好きだったんだけど、彼もすぐに死んじゃったなー。彼は数少ないゲイ・セックスを見せてくれたのに。そういや、ミュージシャン(といっても2人しか出てこないけど)はみんなゲイなのも、なんとなく納得できて笑った。
 話はそれるが、これだけ宗教が大事だった時代なのに、べつにゲイはタブーではなかったらしいのがおもしろい。(もちろんバレれば首が飛びますがね) そもそもゲイとかストレートとかいう概念がなくて、異性を選ぶか同性を選ぶかは単なる好みの問題って感じだったみたいね。確かに姦通も死に値する罪のはずなのに、みんな大っぴらにやってるしなー。
 もっともそれを言ったら、大元のバチカンが腐敗しきっていたわけだし、本音と建て前は違うってやつですか。とにかく性的には今よりよっぽど寛容な時代だったみたい。(少なくとも宮廷人は)

『マトリックス』16世紀版(笑)
(というのが言いたいだけで張った写真)
左からブランドン、ヘンリー、クロムウェル

 そろそろまとめ。えー、おもしろかったです。英国史のお勉強にはちょっと不向きかもしれないけど、元々がエンターテインメントとして作られてるので、見始めるとやめられないおもしろさがある。どの人物も結末がどうなるかはわかってるのに、やっぱり見てるとハラハラドキドキする。
 いちばん近いと思ったのはやはり『冬のライオン(テレビ版)』だが、(リビューは2007年1月29日)、あれは格調は高いが、一般の日本人が見るにはかなりつらいものがあるはずだけど、これなら歴史なんか何も知らなくても楽しんで見れるので、もし貸しビデオ屋にあったらおすすめ。(ただしテレビドラマだから長いけどね)

 それにストーリーはオーセンティックと言えなくても、豪華な衣装や華麗な宮廷絵巻はまさに本物で、これだけ見ていても美しくて飽きない。そういう視覚的ディテールや日常の暮らしぶりは歴史書読んでいてもわからないしね。
 衣装と言えば、16世紀の衣装って(特に男性は)バカみたいで嫌い(あのひだ襟とか、ちょうちんパンツとか)だと思ってたが、これを見ていて、意外とかっこいいなと思った。もっともこの衣装もかなり現代風にアレンジされているのかもしれないが。ただ、やっぱり衣装は中世のほうがかっこいいね。

 政治とかのややこしい話はほとんどカットされ、物語の舞台はほぼ宮廷内に収められている。歴史好きには物足りないだろうけど、基本的にソープオペラで、個人の愛憎の話だからしょうがない。
 それに活劇もない。時代はすでに力と力で戦う時代から、外交や財力がものを言う時代に移っているから。
 ただ、軽くほのめかされるだけでも、当時の政治状況がわかっておもしろい。小国だったイングランドが、超大国のスペインやフランスの影で汲々としている様子とか。なるほどー、産業革命と植民地がすべてを変えたんだなというのがよくわかる。イングランドがラッキーだったのは、スペインやフランスが勝手にいがみ合っていて、海で隔てられた島国なんかには矛先が向かなかったからなのね。

 見てて何度も思い出したのはやはり『氷と炎の歌』。(こればっかりですみませんね) ロバート・バラシオンってまさにヘンリー8世そのものだったなーとか。(若い頃は剛胆さで名を馳せたが、中年になった今はブクブクに太ってしまっている。荒っぽい狩りや馬上槍試合が大好き。后を忌み嫌っていて、手当たり次第に浮気をしている。かなり身勝手な乱暴者だが、豪放磊落で率直な人柄でみんなに愛されている、など) まあ、『冬のライオン』にも書いたけど、あの小説がそもそもこういう歴史を下敷きにしているので、これは当然。
 とりあえず、本物だろうと創作だろうと、英国の王様の話で映画化してつまらなかったのは見たことがない。(女王を含めてないのは『クイーン』が期待はずれだったから) それぐらい、とんでもないやつばっかりだということだが。(現代でもまだそれをやってるところがすごい)

 しかしヘンリーもかわいそうな人だよね。この当時の貴族の女性は政治的駆け引きの道具として、通貨みたいにやり取りされる人質だったってことは衆知の事実だが、実は男もそう。ヘンリーだって政治目的で心に染まない人と結婚しなきゃならなくて、おかげでこういう騒動を引き起こしたんだから。その意味、政治的圧力に屈せず、理想の結婚相手を求めるという愛に生きた人でもあったのだ。(それがしばしば失敗し、結局政治に翻弄されることになったけど) 基本的にこれはラブストーリーであり、その意味でも完璧なソープオペラと言えそうだ。

 というわけで、いい作品だったけど、テレビ・シリーズの限界か、深みという点ではちょっとね。こんなに長くなくていいから、これをデレク・ジャーマンかピーター・グリーナウェイに撮らせたら、どんなに美しく背徳的な作品になったかと思うと、(もちろん無理だけど)ちょっと残念な気がする。
 だから、同じジョナサン主演のテレビ・シリーズでも、もしまだご覧になっていなかったら、『ゴーメンガースト』を見なさい(命令形)。あれ? あのリビュー流れてる? おっと、残念。でも先入観なしで見た方がいいかも。あれこそ完全な創作で、ほとんどファンタジー(第3部にいたってはほとんどSF。でも本当は純文学)だけど、これよりはるかに内容は深いし、泣かせるし、大笑いできるし、だいたいジョナサンが死ぬほど邪悪でセクシーだったから。

 そのジョナサンの今後だが、とにかく私が彼に望んでいたのは、「お願いだからハリウッドに行って凡庸な二枚目にならないで!」ということだけだった。ギャリー・オールドマンだって、ダニエル・デイ・ルイスだって、クリスチャン・ベールだって、(みんな美男ではないが)本当にすごい、鬼気迫る演技力を持った役者だったのに、ハリウッドに行ったらただの人になっちゃったからねえ。(クリスチャン・ベールだけは今でも鬼気迫ってるが) その意味ではほぼ私の望み通りの道を歩んでいる。(『MI III』? そんなの知りません。私の脳内ではなかったことになっている)
 ただ、テレビ・シリーズってところがちょっと引っかかるが、英国のテレビドラマはハリウッド映画なんかより、はるかに出来が良くて格も高いので我慢する。昔はこういうの、日本じゃ見られなくて私は地団駄踏んでくやしがったものだが、今はこうしてほぼリアルタイムで見れちゃうしね。
 でも、(こう言っちゃうと見も蓋もないが)顔が命、若さが命だった役者だけに、今後の上がり目はあまり期待してない。はあ〜(ため息) こういう人が十代のうちにスターになってたら良かったのに。私は(どうせ映画はクソだと思うので)どれも見てないが、初期作品のスチルなんて、本当にこの世のものとは思えないエルフのような美しさ。あ、そういえば、『ロード・オブ・ザ・リングス』のレゴラスがジョナサンだったら(背こそ低いが、あのタゴより彼のほうが1千万億兆倍エルフらしい)、あの映画に対する私の評価は神ランクだったのに。(問題はエルロンドという噂もあるが)

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