2009年1〜3月の日記

このページのいちばん下(最新記事)へ

サイト内検索 

2009年1月8日 木曜日

近況です

その1 紅白歌合戦

 大晦日は実家に帰って、父と弟と猫たちと過ごす。猫と遊ぶ以外何もやることがないので、すごく退屈。あまりにやることがないので、父につき合って紅白歌合戦をほとんど最初から最後まで見てしまった。父は毎年見ているのだが、これまではチラッと横目で見る程度だった。でもって、これはこれですごく新鮮だった。
 というのも、私はテレビ見ない、邦画見ない人なので、画面に出てくるタレントの誰ひとり知らない。歌もすべて初めて聴く曲ばかり。ヒットした歌なんかはタイトルぐらいは知ってるが、(『千の風になって』とか)、「ああ、こういうのだったのか」なんて。オペラ歌手が歌ってるなんて知らなかったよ(笑)。
 ドラマが嫌いなので、NHKの大河ドラマとか朝の連続ドラマとかいうやつは生まれてから一度も見たことがない非国民の私ですが、歌番組は子供のころは見てましたよ。当時の日本はグループサウンズと和製ポップスの時代だったけど、音楽でさえあればなんでもよかった。中学生ぐらいになってステレオを買ってもらってからは邦楽とはすっかり縁を切ってしまったけどね。
 でもって、ほとんど初めて見たに等しい「ガイジン」の紅白の感想。

 私の住む西葛西はインド人街でありまして、カレー屋がとにかくおいしい。私もしょっちゅう行くのだが、どこでも必ずでっかいテレビがあって、インドのドラマや歌のプロモビデオが流れている。あの音楽がなんとも奇妙なんだ。基本はヒップホップで、歌もダンスもすごくうまい。なのに、そこに必ずあのヘロヘロしたインド音楽の旋律が入っているのだ。というと、Kula Shaker(ファースト)みたいなのを想像するかもしれないが、Kula Shakerはあくまでインド風の英国ロック。インディアン・ポップスはアメリカ音楽風のインド音楽。なんかこのミスマッチがすごくて、聞いてると頭がクラクラしてくる。
 そういえば、レゲエというのも、もともとはジャマイカ黒人がアメリカ風のロックンロールをやろうとしたら、ああなってしまった(笑)のだと聞いたことがあるが、お国柄というのは自然と体からにじみ出てしまうというのが恐ろしい。レゲエぐらい元歌からかけ離れてしまうと、それはそれでいいんだが。
 で、Jポップを聞いて私が感じる気持ちの悪さもインド人のヒップホップとまったく同じ。イントロだけ聴くと完全に洋楽風で、「おっ、かっこいいじゃん」と思うんだけど、そこに歌が入るとガクッ! 完全に日本人のメロディなんだよね。単に洋楽風の歌謡曲というだけで、これなら和製ポップスのほうがまだましだ。(和製ポップスというのは、どっちかというと日本人がガイジンになろうとせいいっぱいがんばっていた) だいたい歌へただし、歌詞キモいし。イラネ。
 よって、私が聞く価値ありと判断したのは、驚くかもしれないが演歌のみ。だってー、演歌歌手は少なくとも歌うたえるし、個性もあるし、とにかくしっかり声が出てるじゃない。
 演歌といえば、NY生まれの黒人の演歌歌手ジェロのことは知っていて、彼は一目見てみたかった。私の友達(日本人)に、アメリカ黒人文学の大家で、もちろん黒人大好きのくせに、趣味は歌舞伎や落語鑑賞で、カラオケで歌うのは演歌という人がいて(笑)、なんとなく彼を思い出させたから。
 で、見ての感想は、うん、うまいし、日本語の発音もきれいだけど、コブシはないのね。これ見たら、昔『サタデイ・ナイト・ライブ』でやってた、「ソウルのない黒人」というギャグを思い出してしまったよ。黒人が出てきて、『マイ・ウェイ』を歌うのだが、あの黒人特有のノリやなまりがまったくないのだ。これはこれで芸だと思った。それを言ったらジェロも同じだが。「コブシのない黒人」 って、それはあたりまえじゃないか!
 しかし、演歌歌手が多いのにもびっくりした。演歌なんてもうとっくに滅びたかと思ってたのに。まあ、確かに私も他に聞くものないとしたら演歌を選ぶけどね。ただ、演歌も歌詞がたまらんなあ。演歌の歌詞といえば、酒と女と涙となんたらかと思っていたが、なんかやたらオドロオドロしくて暗くて、死ぬだの殺すだの、すさまじい呪詛というか怨念がこもったみたいなのが多いのね。ジェロの『海雪』にしたって自殺すると言って脅す歌だろ? 黒人が演歌を歌うことにはまったく違和感覚えないが、あの顔でこの歌詞を歌うのには大いに違和感あり! だいたいこういう歌聞いて楽しいか?
 あと、ロックって本当に人気ないのな。「ロックバンド」はひとつも出なかったところ見ると。かつての「バンドブーム」はどこへ? ヘビメタ専門店なんか行くと、客は腹の出た50代以上のオヤジばかりというのも、これを見るとうなづける。

その2 クリスマス・プレゼント

 毛唐の行事など祝わない(好きだけど)私ですが、その私のところにクリスマスの日に小包が届いた。開けてみたらUNKLEのかっこいいポスターだ。でも私は買ってない。ポスターはほしいけど、高いし、それに輪をかけて(大きくて重い筒のせいで)送料が高いので。
 うちにはStrangelove Recordsがまともなレコード屋、あるいはレコード会社だと勘違いした海外の新人アーティストから、ポスターや試聴盤が送られてくることがよくあるが、まさかUNKLEがそれほど困ってるとは思えないし(笑)。となれば、きっと海外のUNKLE仲間からのプレゼントだろう。でも、ポスターは販売店から直接送られてきたもので、カードも何も入ってないし、心当たりもまったくない。
 最近、店のメールアドレスを変えて、古いアカウントは削除してしまったので、もしかして送り主は知らずにそっちにメールしたのかもしれない。誰にせよ、確実にうちのMowaxメーリングリストのメンバーに違いないと思ったので、「私のサンタは誰?」というメールを送ってみた。返事はいくつか返ってきたが、「僕じゃないよ」という人ばかり。途方に暮れていたところ、正月になって、「実は僕でした」というメールが来た。送り主はいつも書いてるカナダのスコット。ちょっと前なら最初に彼の名前が浮かんだはずだが、最近すっかりメールが途絶えていたのでまさか違うだろうと思っていた。
 ほんといい人だなあ、というか、彼は気前が良すぎてちょっとこわい。だって何かもらうようなこと私はなんにもしてないんですよ。ちゃんとお金もらって商品売った以外は、つまらんことメールでダベってるぐらいで。なのに、なんでこのプレゼント攻勢? 推測するに、1) 大金持ちで誰に対してもこれぐらい気前がいい。または、2) 私に関して何か勘違いした妄想を抱いている(笑)。2だったら困るなあ(笑)。
 いや、前にあまりに気になったから面と向かって訊いたんですよ。「あなた、誰にでもこんなに気前がいいの?」って。そしたら「そんなことない。きみは特別」って言ってた。心配になったから、「私はあなたのお母さんほどの年なのよ」とも言っておいたんだけど。もしかしてマザコンか?(笑)
 だいたい、それほど金持ちでもないんではとも心配している。だいたいにおいて金持ちはケチだ。そうでなきゃ金持ちにはなれないし。アンドレなんか、私がもらう金以上の働きをしているのに、クリスマスに送ってくるのは子供の写真を使った安いカードだけだし(笑)。(西洋人にとってのクリスマスカードって、本当に日本人の年賀状と同じなんだなと実感させる)
 でもアンドレは腹の出たおっさんなのに、スコットは(写真を見るぶんには)かっこいい若者なのにねー。私がせめてあと20才若かったら、すぐにもチケット買ってカナダに飛んでいくのに(笑)。いつも思うが、なんで私が若いときはインターネットがなかったんだよ! もっとも若いころは今ほど英語できなかったし、メールだけで人の心をつかむなんて絶対できない芸当だったけどね。世の中ってのはそういうものだ。

その3 テレビ局からの電話

 暮れに日本テレビから電話がかかってきた。洋楽に詳しい人を捜しているというので、「もしかして出演依頼?」とちょっとドキドキしたが、そうじゃなかった。(テレビは見ないくせにね。でもテレビってギャラがすごくいいっていうし。「ゆかいなビンボーさん」はさすがに断ったが、音楽のことで出演するのはぜんぜんOKです)
 で、その話というのは、なんとかいう番組に出ている、なんとかいうタレントが、タイトルもアーティストも知らないけど好きな曲があって、その曲がわかれば教えてほしいというもの。
 「はあ、私でわかれば協力しますが」と答えたら、「それじゃ今から私がメロディを歌います」と言って、「ルルル〜」とスキャットで歌い出した。そんなん、電話口で鼻歌で歌われてもわかるかい!(笑) というわけで、結局私にもわからなかったのだが、うちにまでかけてくるぐらいだから、ネットで洋楽の専門家を捜して片っ端から「ルルル〜」を聞かせているらしい(笑)。若そうな男の子だったが、テレビ局勤めも楽じゃないなーと思った。

2009年3月11日 水曜日

 えー、実はこのところ日記が書けなかったのはわけがありまして、翻訳の仕事に専念してたからなんですよね。ところが死ぬ思いでやって、もうあとちょっとで仕上がるというところで、突然、編集長が替わってこの話はボツに‥‥
 遊びも店も放り出して、毎日パソコンにしがみついていたこの半年間の血のにじむような努力は!!!!!
 なんて、終わったことをグチグチ言ってもしょうがないからやめますね。しかし貧乏人が貧乏人なのはわけあってのことだなあ。いくらがんばっても、こういうふうにとことん運が悪いから貧乏人は貧乏人のままなんだね。

 ならいっそ働かずに貧乏なままでいたほうがまし、っていうのは短絡ですが、そんなわけでずっしり落ち込んでた間は何をしていたかというと、ゲーム(苦笑)。だって、現実逃避にはこれがいちばん手っ取り早いんだもん。
 というわけで、今日はゲームの話。

ローグライク・ゲーム事始め

 けっこうお気に入りだった『ドラゴン・ウォークライ』が休止になってしまってから、ほかに何かおもしろそうなRPGはないかなーと思って捜していた。もうフリマだのオークションだの人とのつき合いだのでめんどくさいオンラインRPGはやめた。そういうのは実生活で十分やってるから。というか、ゲームにハマってしまうと実生活の方が崩壊するから。(もう崩壊してるから遅いかもしれないが) やっぱり私はダウンロードして、好きなときに好きなだけ自分のペースで遊べるゲームのほうがいいや。
 そう思ってRPGをいろいろ探したのだが、やりたいと思うようなゲームがさっぱりない。まあ、考えてみたら、最初期のRPG『ローグ』と『ウィザードリィ』ほどのめり込めるRPGってほかになかったな。(ほかに、日本じゃさっぱり受けなかったようだが、『トンネルズ&トロルズ』はすごい好きだった) あー、昔はよかった‥‥
 と、すぐに懐古にふけるのも年寄りのしるしだが、私は市販ゲームなんかなかった時代からのパソコン・ゲーマーですので、それぐらいは勘弁してほしい。ゲームがないのにどうやってゲームするのかって? 頭のいい人は自分で書く。それほど頭のない人は(私も)、人が雑誌などに投稿したゲームのソースコードを、こつこつと自分のコンピュータに打ち込むのである。もちろん1字でも間違えたら動かないから、動いただけで感動したものだ。
 そんなわけで、おそろしく非デジタルで手工業的な時代を経て、私が初めてプレイしたRPGが『ローグ』というゲームだった。というか、あれがすべてのRPGの祖だから、それ以前にRPGというものは存在しなかったのだが。それでこれにすごいハマったのを覚えている。もちろん、まもなく『ウィザードリィ』が出て、そっちにのめり込んだので、ローグはそれほどやり込んだってほどじゃないけど。

 ローグというのはこういうゲームである。

| - - - - -+- - -|
| . . . . . . . . . . . . . |
| . . . . A. . . . . . . .+
| . . . . . . @ . . . . . |
| - - - - - - - - |

と、画像がなくても打ち込んだだけで簡単にお見せできるのがいいところだね(笑)。もちろん実際のプレイ画面はもっと広いけど。Aがモンスターで、@がプレイヤー・キャラね。-と|は壁で、ドットは床で、+がドアね。つまりすべてのグラフィックをアスキー文字だけで書いたダンジョン探索型のRPGなのだ。これで熱中できるなんて、昔のゲーマーはなんて想像力に富んでたのかと思われるでしょうが、それだけこのゲームがよくできていたのよ。
 そういや、ネットを捜せばローグぐらいどっかに落ちてそうだな。あれなら暇つぶし(暇じゃないんだけど)にはちょうどいいなと思って、検索かけてみたところ、もちろんオリジナル・ローグもあったが、初めて知ったのは、現在ではそのさまざまなバージョン(ローグでは「バリアント」と呼ぶ)がいっぱいできて、けっこうにぎわっているようなのだ。(それらのローグ系のゲームを引っくるめて「ローグライク」と呼ぶ)

変愚蛮怒

 これはひとつやってみようと思って、選んだのが『変愚蛮怒』というバリアント。なんかふざけた名前だが、これが日本じゃいちばん人気あるみたいだったし、人気があれば攻略とか充実してるだろうと思って。
 いちおう簡単に系譜を書くと、指輪物語の世界を舞台にしたローグのバリアント『Moria』(あのダンジョンをモリアの坑道にたとえたわけね)から、『Angband』(サウロンの要塞ですね)というバリアントが生まれて、Angbandはすごく人気があったみたいで、そのさまざまなバリアントが「なんとかバンド」という名前でできているが、変愚蛮怒はその純国産バリアント。

 で、さっそくダウンロードしてやってみた。それでもって、ものすごく感動した。
 感動したのは変わってないところと、変わったところにである。
 やっぱりいちばん感動したのは、この時代にあいかわらずアスキー文字だけで描いてるところ。見た目はほとんど変わっていない。自キャラはやっぱり@だし、コマンドさえ昔のままなのが泣かせる。そのコマンドをほとんど覚えていたことにも驚いた。もちろんマウスなんか対応していない。すべてキーボード入力である。基本的なゲームシステムもオリジナルと変わっていない。

 私は人気のオンラインRPG(と、もちろんパッケージ・タイプのも)とかを見ると、やたらケバケバしくて派手派手しいグラフィックがなんかいやなんだよね。そもそもキャラクター・グラフィックがいやだし。こんなチャラチャラしたお兄ちゃんお姉ちゃんじゃ、モンスターがうごめく過酷な世界じゃ生きてけるはずがない!なんて。
 だいたい、私はグラフィックが派手なRPGに偏見持ってる。というのも、ファミコンが初めて登場したときのPCゲーマーの気分が抜けないから。(真っ黒画面でプレイしていたPCゲーマーにとっては、たとえファミコンのドット絵でも)確かにグラフィックはきれいでうらやましいが、なんかいかにも子供向きだし、そんなオモチャみたいなゲームやってられるかって。それが尾を引いて、これだけゲーム・フリークなのに、いまだに専用ゲーム機って買ったことがない。

 その一方で、がらっと変わっているのにも驚いた。だいたいが、アルファベットは26文字しかないから、モンスターも26種類しかいなかったローグに対して、こちらは大文字小文字を使い分け、さらに色分けでモンスターの種類も天文学的に増えた。もちろん、アイテムも数10種類しかなかったのが、爆発的に増えた。しかもそれぞれのアイテムが独自のパラメータを持っているので、実質無限大。プレイヤー・キャラも、種族が37種類、職業が27種類、さらに性格というのが12種類で、11988通りのキャラメイクが可能。魔法は10領域320種類! こんなの覚えるだけで大変だ!

 ローグはひとつのダンジョンをひたすら降りていくだけのゲームだったが、こちらはいくつもの町があって、店があって、ダンジョンがあって、広大な広域マップもある。このマップ、一度に全体は見られないのでなかなか気づかないが、実は日本地図になってるあたりの遊び心も憎い。「金鉱」という名のダンジョンは佐渡島にあったりして。
 ローグのころにはなかったが、今のRPGでは定番の、クエストもあるし、カジノでギャンブルもできるし(しかも遊べるゲームの種類が豊富)、闘技場で腕試しもできるし、モンスターを仲間にできるし、ドラゴンナイト気分でモンスターに乗ることもできるし、鍛冶までできる。

 早い話が下手な有料RPGよりよっぽど充実している。ここで気が付いたのだが、テキスト・オンリーということは、バカみたいに軽いだけじゃなく、膨大な情報を盛り込めるのだね。派手なグラフィックやアニメーションや音楽の付いたゲームは、その代わりにスピードか内容を犠牲にしなくちゃならないので、情報量に限りがあるのに。
 グラフィックの欠如を補うためか、ゲーム中は「○○はXXした」という感じのメッセージがつねに流れているのだが、そのメッセージ量がすごくて、モンスターは戦いながらもしゃべりまくるし、使っている武器によって自キャラのセリフまで変わるのに驚いた。たとえば、ある日本刀を手にするとメッセージもお侍言葉になるばかりか、「拙者、おなごは斬らぬ」なんて言って、女モンスターは殺せなくなってしまう(笑)。

 しかし、ローグライク・ゲームの真骨頂は、「死んだら終わり」ということ。今じゃほとんどのRPGは死に放題だが、ここもオリジナルを忠実に守っている。死んだらまた最初からすべてやり直し。それまでの何か月もの苦労は水の泡。ということは、何があっても絶対に死ねないゲームなのだ。
 これまた、最近の甘ちゃんなRPGにくらべて男らしくてすがすがしい。『ウィザードリィ』はいちおう生き返らせることはできたが、そのペナルティはあまりにも大きかったし、あのお墓を見たときの落胆を久々に思い出したよ。
 なにしろ死ぬわけにいかないから、一歩進むにも考えに考えて進まなければならないし、つねに逃げ道を確保しておかなくてはならないし、敵を研究し尽くして、あるだけの物資を総動員しての緻密な戦略が必要になってくる。アクションゲームでもないのに、これだけドキドキハラハラして緊張するのってめずらしい。
 つーか、アクションは定石とパターンさえ覚えればあとは鼻歌まじりでできるが、ローグライクはあらゆる局面で頭を使わなくちゃならない。実はローグライクは戦略型のゲームなのだ。それで私はこういうタイプのゲームがすごく好き。絶対勝てないように見えたのに、ちょっと頭を使えば切り抜けられて、「やったー!」という爽快感がなんともいえない。一度この手のゲームをやっちゃうと、ただクリックしてさえいれば、それなりに進んでいくような、ほかのRPGがすべてお子様向けに思えてきちゃうね。

 でも、そうなるまでとにかく死にまくりました。とにかく何もわからずに始めて、最初はRPGの定石通り、持ってるお金で装備を調え、食料と光源を買って、ちょっと町の外を見てこようとしたら、いきなりカラスにつつき殺された(笑)。カラスばかりか、町をさまよってる浮浪者みたいなのに袋だたきにあって死ぬし。
 普通、RPGって、町の中は安全だし、最初の町の周辺は弱いモンスターしか出ないはずじゃないの? 実は確かにそうなんだけど、プレイヤー・キャラがそれ以上に弱いのよね。それ以外にもマップの広大さを知らずに隣の町へ行こうとして、途中で食料が尽きて餓死。川を歩いて渡ろうとして溺死。火山に迷い込んで溶岩に焼かれて焼死。山ではワシにさらわれて空から落とされて墜死。ダンジョンに行く前に死にまくり。
 ただ何も考えずに経験値稼ぎしているだけでは、すぐ死ぬ。なにしろ、プレイヤー・キャラのレベルは50までしか上がらないのに、強い敵は平気で100レベルを超えている。レベルMAXで、最終装備のキャラでも、ザコの一撃で死ぬこともある。おまけにそいつらが画面を埋め尽くすほど大量に出てくる。
 普通のRPGならどんな下手くそでも地道に経験値さえ稼げばいつかは強くなるし、誰でもクリアできる。でもこのゲームはそうじゃない。死なないためには頭を使うしかないわけ。
 情報集めしてたときに、「プレイヤーのレベルが低くては、いくらキャラクターのレベル上げしても勝てない」というような文章を見つけて、「ふーん?」と思ったが、やってみたらほんとだ! そうやって何度も死にながら、プレイヤーが少しずつ経験値を積んでレベルアップして、やっとまともにプレイできるようになるのだ。

 もっとも、そういうところも変愚蛮怒は親切設計で、ちゃんと初心者モードもあるし、初心者用のめちゃくちゃ強いキャラも用意されてるし、デバッグモードでチートもできるし、死んでも生き返るようにするオプションもある。ただそれだとやっぱりあまりおもしろくないので、ゲームに慣れたら、だんだんむずかしいモードに挑戦しなさいというわけ。

 それでも、これほど初心者に敷居の高いゲームはない。なにしろ見た目がぶっきらぼうなくせに、複雑で奥が深いので、ゲームシステムを覚えるだけでも大変だし、できることがありすぎて、何をやったらどうなるのかが最初はさっぱりわからない。こういうゲームには当然、完璧なwikiができてるだろうと期待していたが、システム解析みたいなのはあっても初心者向けの解説はほとんどない。

 そのせいか、プレイヤーの偏差値はかなり高い。なにしろ公式ダウンロード・ページに行っても、なんとかバイナリと名前の付いたファイル名がずらっと並んでるだけ。変愚蛮怒はそれでも親切なほうで、ときにはバイナリすらなくて、自分でコンパイルしろとか。
 今どきのゲームのプレイヤーに媚びまくった公式サイトとくらべていっそすがすがしいほどだが、パソコンのこともろくろく知らないような最近のゲーマーではダウンロードの仕方もわからないだろう。実際に遊んでるのはやはり若い人がほとんどだろうが、いかにも古株のためのゲームって感じ。
 ついでに言うと、変愚蛮怒のファンサイトも、今どきのプロ顔負けに凝った美しいサイトを見慣れた目には驚きの、おそろしくプリミティブな作りで、なんか80年代に作ったサイトがそのまま残ってるような気がしてしまう。もしかしてこれは、ローグに敬意を表してわざとやってるんだろうか? 昔のHTML初心者が作ったサイトに多かった(私も最初はそうだった。だって、パソコンの画面は黒に決まってるもん!)黒バックが多いのもよけいそういう気にさせる。
 結局、まとまったスポイラー(攻略)サイトがないので、普段は敬遠して近づかない掲示板(2chじゃないよ、ここ)に、ずいぶんお世話になりました。
 しかし、2chのゲームスレで、「教えて君」に「ヘルプ読め」というのは当然としても、「英語だから読めないなんてのは言い訳にならない」とまで言い切ってるのには驚いた。それじゃ私の学生の大部分はできないよ(笑)。変愚蛮怒が人気があるのも、国産なのでちゃんとヘルプも日本語で書いてあるからかも。

 言葉の壁を乗り越えたとしても、最低限、マクロと自動拾い設定が書けなくてはゲームにならない。マクロというのは、面倒なコマンドを登録して手数を減らすためにどうしても必要。もっともマクロは皆さんワープロや表計算とかでも使ってるだろうから、それほど抵抗はないだろう。
 問題は自動拾い、正確には自動破壊だな。ローグ系のゲームはとにかく大量のアイテムが落ちている。大戦争のあとの戦場なんて、戦利品がうずたかく積み重なっている。それをひとつひとつ拾ってはいる、いらないを判定していたのではたまらないので、必要なものだけ拾ってあとは破壊するための専用のプログラムが用意されているのだ。それを自分で書かなきゃならない。
 いや、これも親切設計で、マクロはキーを押すだけの簡易マクロがついてるし、自動拾いもテンプレートが付いているのだが、キャラクターのレベルや、職業や、プレイヤーのプレイ・スタイルで多種多様な遊び方のできるこのゲームでは、やっぱりそれを自分用にアレンジしなくては使い物にならない。そのためには簡単な文法をマスターする必要があるわけ。ここで萎える人も多いだろうな。
 かく言う私はコンピューター音痴だが、与えられたものをただ遊ぶのは嫌い。『ウィザードリィ』の時代から、わからないなりにソースを見て裏技を考えたりしていたので、こういうのは大好き。『シムピープル』が好きなのも、デフォルトを好きなようにいじくれるからだしね。

 変愚蛮怒に話を戻すと、これはジョーク・バリアントだとも言われてる。確かに出てくるモンスターは、「正ちゃん、おなかすいた」と言って追いかけてくる『ゴーストQ』とか、『ガチャピン』とか、『ジャイアン』とかふざけたのが多い。というか、むちゃくちゃ(笑)。元が『Moria』なので、『指輪物語』のキャラが大量出演している一方で、『Zangband』というロジャー・ゼラズニィの『真世界アンバー』シリーズを取り入れたバリアントも入ってるので、そっちのキャラも多数、あとなぜかラブクラフトの『クトゥルー神話』からのモンスターもたくさん入っていて、『ニーベルングの指輪』や北欧神話が入っていて、そこに日本独自のマンガ、アニメ、ゲームのキャラや、2ch用語や、おまけに時事ネタ(ちょっと古い)で小泉元首相まで出てくる。そういうところが嫌いで、だから変愚はいやっていう人もいるみたいだが、私はそんなに気にならなかったね。『アンバー』は読んでないし、日本物は知らないのが多いし、とにかく死なないために精一杯で、そんなの気にしてる暇がないし。
 しかし、この一見ふざけた姿勢にだまされてはいけない。実は変愚蛮怒はものすごくよくできたRPGだ。とにかくバランスがいい。RPGというのは、途中で壁にぶつかって進めなくなったり、逆に自キャラが強くなりすぎるととたんにダレてつまらなくなってしまうことが多いが、最後まで適度な緊張感が連続するだけでも立派だ。逆に言うと、チート的な裏技が使えないようになっているのだが。
 遊び方の自由度とバリエーションの豊富さもすばらしい。これまた昔の日本の一本道RPGが大嫌いだった私は、こうでなきゃRPGとは言えないと思うのだが。とにかく大量のコマンドを駆使しなければならないローグ系ではそれがめんどくさいことが多いが、ひとつのコマンドでいろいろ代用できたりして、操作性も快適。
 (他のバリアントをやってもいないのだが、話を聞く限りでは)比較的新しいバリアントだけに、他のバリアントのいいとこ総取りっていう気がする。

 そうそう、さっき英語の話が出たが、自分が翻訳で苦労したので、変愚蛮怒は翻訳もパーフェクトなのに感激してしまった。これは国産だが、元になったバリアントは英語なので、ソースを見ると、元の英語のセリフが日本語訳と併記してある。その訳がうまいんだ。だいたいジョークっぽいセリフはオリジナルにもたくさんあったようで、ジョークほど訳しづらいものはないんだが、日本人にはわかりにくいものは日本風にアレンジしたりして、それがぴたりと決まっている。モンスターのセリフはそれぞれの個性を反映しているのだが、その訳し分けもうまいし。ああ、もちろんスメアゴル(『指輪物語』のゴラムね)は「スメアゴル語」でしゃべりますよ。
 これは驚異的である! というのも、市販ゲームの翻訳ってひどいから。「じぬんをぐろぐろまわります」並みの翻訳多数! たまたま変愚で呪われたアイテムの名前にあったから書いたんだけど、これは中国製花火の取説にあった珍日本語。それがおかしいと言って、みんな笑うけど、自分は、というか日本を代表する大企業がそれよりおかしい英語を大量生産して世界にばらまいてることはみんな知らないのか。中でもゲーム業界はひどい。
 たとえば、私がいつもやってる『シムピープル』。これなんかエレクトロニック・アーツという大手から出ているのに、どう考えても英語も日本語も不得意な中国人に訳させたとしか思えないセリフ続出で、唯一の萎え要素。なのに、素人がボランティアで作った変愚蛮怒はパーフェクトってのはなぜ?
 と考えて、やっぱりオープンソースだからじゃないかと思い至った。

 ローグライクはフリーウェアで、ソースも公開されている、いわゆるオープンソースである。(たまたま例の翻訳にオープンソースの話がでてきたので、ちょっと詳しくなってしまった) 多くの人がそれをいじってどんどん改造しているから、こんなに多くのバリアントが存在するのだが、それだけ多くの手が加わっているからこそ、これほど完成度の高いゲームに進化したんだろうな。
 世界中のプレイヤーがいろいろ手を加えることで、オリジナルよりずっとおもしろくなるというのは、シムピープルにも言えることで、だからあのゲームが好きだったんだけど。
 今例に挙げた英語の話にしても、日本語版がまだないローグ系で、掲示板で誰かが「日本語版作ろうぜ」と声を上げると、みんなが少しずつ翻訳したものを、「英語あまり得意じゃないんだけど」と言いながらも、どんどん投稿しているあたりにもけっこう感動した。(実際は監修者がいないとこういうのは使い物にならんのだけどね)
 だから、変愚蛮怒が市販ゲームや人気のオンライン・ゲームよりおもしろかったとしても不思議はないのだ。しかもその進化には限りがない、という利点がある。変愚蛮怒そのものはもう完成形ということで開発は終わっているようだが、その間にもどんどん新しいバリアントが生まれているわけで。

 プレイするキャラクターの職業ひとつで、ぜんぜん別のゲームみたいに違うのもおもしろい。
 昔のゲームって、職業がいろいろあっても結局は戦士系か魔法使い系のどっちかで、それもレベルだけめちゃくちゃ上げてしまえば、メイジでも殴りだけでやってけるみたいなところがあったけど、これはそうじゃないのね。レベルも50でストップしてしまうが、それ以前に種族や性格や職業で縛りがかかってて、いくら鍛えてもメイジはひ弱なまま、戦士はバカなまま。自分の長所を生かさなくてはやっていけないようになっている。そりゃそうだよねえ。いくら鍛えたからって、ちっぽけな妖精がドラゴンを殴り倒すなんて変だもん(笑)。

 おもしろいと思ったのは、種族や職業には明らかに他より強いやつと、露骨にヘタレなやつが入り交じっていること。普通は一長一短で、総合すれば同じぐらいの強さにするものじゃない? 強いのは初心者向けとしても、ヘタレなんか誰がプレイするんだ?
 たとえば「なまけもの」という性格はすべてのパラメータが最初からマイナス。あと「観光客」という「職業」もあって、ただの観光客が危険なダンジョンに迷い込んだんだから、当然ながらものすごく弱い。特技といえば「写真を撮る」ぐらいしかないし(笑)。
 当然、なまけものの観光客なんて最低の組み合わせなんだが、この組み合わせだと最終的には専用の最強の武器を手にすることができる。この最終兵器の名前が、『適当な棒』、『いいかげんな弓』、『やる気のない服』と、脱力系なところがまたいい。
 なるほど、なまじむずかしいだけに、チャレンジングなプレイヤーの食指をそそるわけですね。なまけものの観光客なんていかにも私らしいので、Junkoという名前を付けてプレイしましたが楽しかったです。
 これについては、後述するToMEにちゃんと理由が書いてあった。つまり、各人が能力に応じて好きな難易度で遊んでもらうためなんだって。変愚にはスコア送信の機能があって、公式サイトに送ると他のプレイヤーとスコアを競うことができる。当然、難易度が高いほどスコアも高くなるので、上位を狙うプレイヤーはそういうのを選ぶらしい。

 ちなみに職業では私のお気に入りはパラディン。単にイメージ的にですが。ほんとは竜騎士がいちばん好きなんだけど、変愚にはいないから、騎士ってことで。だけど変愚のパラディンは乗馬技能があんまり上がらないのが残念。でも戦闘能力も高いし、強力な魔法も使えて、パラディンは強いよ。
 だからパラディンでクリアしても、別の職業、別の種族を選べば、まったく違ったゲームのように遊べるので飽きるということがない。変愚蛮怒に飽きたら、他のバリアントに乗り換えれば、またまったく違う遊び方ができる。しかも基本はいっしょだから、ひとつやっていればすぐにゲームの世界に入っていけるというあたりも利点。

 あ、変愚についてもうひとつ。ゲームと言えば「萌え」というのが、私には理解不能な最近の傾向ですが、掲示板を見ていたら、ここまで愛想のないローグライクにも、ちゃんと萌えが存在するのにあきれた。ただの@とか、pとかにどうやって萌えろと!? それでも「脳内補完」で萌えられるあたりが、人類の限りない可能性を物語っていますね(笑)。
 たとえばキャラクターには身長・体重・年齢から、髪の色や肌の色なども決められていて、これはゲームには一切関係ないのだが、体格からいってエルフでなきゃいやだとか。
 うーむ、私にはこのゲームのキャラは自キャラもモンスターもみんな虫に見えるけどなあ。大量にうじゃうじゃわいて出て、ものすごいスピードで動き回るところが虫みたいだし、気分は虫退治。
 とはいえ、『灰色のガンダルフ』(ガンダルフなどの善良キャラは「友好的なモンスター」として登場。勝手にモンスターと戦って助けてくれる)に、「ボヤボヤせんでお前も手伝わんか!馬鹿もん!」などと怒鳴られると、「あっ、すいません!」とつい答えてしまう私が‥‥(このセリフも、いかにもガンダルフっぽいなあ。ちなみに声だけイアン・マッケランの声に脳内変換)

ToME (Troubles of Middle Earth or Tales of Middle Earth)

 というわけで、変愚蛮怒にもまだまだ堪能していないのに、浮気性の私は他のバリアントも見てみたくなって始めたのが、このToME。フル表記が2種類あるのは仕様。なぜかこの英語版公式サイトでも、アクセスするたびに名前が変わる。
 これもAndbandから進化したバリアントなので、変愚蛮怒とは兄弟のようなものだが、名前の通り、Angbandから『指輪物語』以外の要素を取っ払って、トールキン世界に限定したバリアント。

 というだけでも、大のトールキン・ファンの私にはワクワクするが、それ以上に誘惑だったのは、「ToMEの錬金術師はとんでもない」という噂を掲示板で目にしたから。それ以上にToME自体がとんでもないらしい。とんでもないというのは、どうとんでもないのか、自分の目で見たくなって。ダウンロードしたのはこちらの日本語版。

 それでさっそく職業を錬金術師にしてやってみました。種族はちょっと迷ったけど、サンダーロードというのにした。馬かドラゴンに乗りたいんだけど、乗馬というのは変愚だけの機能でToMEにはなかったのよね。サンダーロードは大鷲に乗る種族。そんなのトールキンにあったか?と思い出せないんだけど、ガンダルフも鷲に乗ってたし、まあいいか。鷲も大好きだしね。
 トールキンならば、ホビットを選んでフロドなりきりプレイとか、ドゥナダンにしてアラゴルンなりきりプレイとかいろいろできるんだけど、なんかそういう主流は避けたくて(笑)。実はToMEの前身はPernBandといって、アン・マキャフリーの『パーンの竜騎士』を下敷きにしていたのだが、マキャフリー本人から苦情がきて、トールキン専門に変わったという。サンダーロードは元はその竜騎士で、言ってみれば主役級の職業だし。
 で、いきなり町で酔っぱらいに殺されました(笑)。プレイヤーぜんぜんレベルアップしてない(笑)。というか、変愚蛮怒ではもっぱら強い種族職業でばかりプレイしていたけど、錬金術師は魔法使い系なのでやたら虚弱なのよ。レベル1じゃほぼどんな敵にもさわっただけで死ぬ。
 しかしToMEの錬金術師が強いと言われるのは伊達ではない。実は最初から持ってる「破裂のエッセンス」を調合して「爆発の薬」を作り、水辺に行ってそれをヒドラに投げつけてやれば一気に15〜20レベルに、ってそんなのスポイラー読まなきゃわかるかよ!

 とりあえず、やっぱり錬金術師は錬金術をマスターしなきゃやっていけないことを学習する。
 錬金術師というのは、魔法のアイテムから「エッセンス」を抽出して、それを他のアイテムに付加し、独自に魔法のアイテムや武器防具を作れるという職業。だから安い魔法アイテムを買って、それを加工して高価なアイテムを作り、店に売るのを繰り返せばたちまち大金持ち。なんて、面倒なことをしなくてもいいんですよね、ToMEでは。
 というのも店からものを盗めるから。店の中にはブラックマーケットというのがあって、そこでは普通ダンジョン内でしか見つからないレア・アイテムをものすごい高値で売っている。だから、理論上は所持金100ゴールドのレベル1キャラでも、いきなり100万ゴールドの「すごいアイテム」を手にしたりできるのだ。この成功率が意外と高い。もっとも失敗して発覚するとその店には以後しばらく立ち入り禁止になり、これはゲーム上かなりまずいことなのだが。ギャンブル性が高いゲームなんですかね。

 しかし錬金術師の真骨頂は「二重エゴ」作りにある。詳しい説明はめんどくさいので省くが、これはバグを利用した裏技で、現在の最新バージョンでは使えなくなっている。とにかくこれをやると、めちゃくちゃな武器が作れてしまうのだ。そうでなくても、ToMEでは変愚とかにくらべると高性能な装備品がインフレ気味に出てくる。
 あ、いい武器というのも説明が必要だな。なにしろまだ『ウィザードリィ』から抜けきってない私は、せいぜいが「ロングソード+2」とかいうのに慣れきっていたので、ローグライクのアイテムを見たときは、その種類の多さと複雑さにクラクラとめまいがしました。
 キャラクター・レベルが50までしか上がらないローグライクでは、いったいどうやってキャラクターを強くするかというと、装備品の助けを借りるのだ。当然ながら、いい装備品ほど見つけにくくなっていて、言ってみればこれは宝探しゲームでもある。(そういうのもすごい好き) 特に重要なのが「耐性」と呼ばれるもので、敵の攻撃はすべて属性を持っている(火炎を吹くとか、毒を持っているとか)のだが、それに抵抗するための能力。その属性がまた頭が混乱するほどたくさんあるうえに、それ以外の特殊能力がいっぱいある。
 ローグライクでは「耐性パズル」と言われるぐらい、この耐性を揃えるのが重要になっている。破壊力の大きな剣が実際の戦闘でも強いとは限らないのだ。強い剣を装備して、他とのかねあいで弱点ができてしまうと、そこを付かれてやられてしまったりするから。それだけ考えても好きなように耐性が付けられる錬金術師は強いはず。それに個々の武器防具のパラメータも変愚よりはかなり上。

 だけど、だから変愚よりかんたんというわけじゃない。敵の凶悪さのインフレも半端じゃないから。ちなみに今の私のToMEのキャラクターはレベル42で、ほぼどんなモンスターでも一撃で殺せる、考えられるかぎり最強の剣を装備しているが、まだ中盤のダンジョンで、階段降りたとたんに、剣を振るう暇もなく、モンスターにボコ殴りにされて即死する。この手の即死は変愚にもあったが、いくらなんでもこんなに頻繁じゃない。まだ私が慣れていないせいもあるだろうけど。
 でも考えてみたら、ただの人間(人間じゃないキャラクターが多いけど)が、ひとりで恐ろしいモンスターの大群と互角に戦えるほうがおかしいよね。モンスターというからには、これぐらい強くて当たりまえかも。ちなみに「ちっぽけな妖精がドラゴンを殴り倒すなんて変」と書いたけど、ToMEでは町のスズメを飼育して成長させると、ドラゴンをつつき殺すそうです(笑)。
 あと、敵の攻撃方法や罠も陰険そのもの。罠はダンジョン内にはたくさんあるが、変愚ではある程度成長すれば平気で踏んづけて歩いてたのに、ToMEでは致命的な罠が多数。例の最強の剣が、気が付いてみたら能力ゼロのがらくたに変えられていたこともあった。
 というわけで、バランス重視の変愚に対して、「バランス無視」のToMEと言われるが、私の考えじゃ、べつにバランスがおかしいわけでもないと思う。めちゃくちゃなところでうまくバランスが取れているというか(笑)。緻密に計算して、慎重に進んでいけばクリアできる変愚に対して、こちらはかなり運任せのパワー・プレイっていうか。

 というようなことは置いといて、ToMEはいい! どこがいいかを列挙してみよう。

 まずはやっぱりトールキンってとこ。なんか聞いたこともない変なキャラや武器防具がうじゃうじゃ出てくるより、なじみの名前に出会うとうれしくなる。ミナス・アノールの玉座にはちゃんとアラゴルンがついているし、ロスロリエンに行けばガラドリエル様が将来を占ってくれる。
 変愚に変なキャラが出てくるのはそれほど気にならないんだけど、せめてトールキンは出さないでほしかったな。せっかくのイメージが壊れるから。その点これは、すべて由緒あるトールキン由来(指輪だけじゃなく、『ホビットの冒険』や『シルマリリオン』も含む)なので、安心していられる。

 マップも確かにミドルアースなので、初めて行く場所なのになんだかなつかしい。
 変愚ではほとんど意味のなかった地上マップがToMEでは重要。というか、変愚は町と町を結ぶテレポーターが使えるので、地上マップに出る必要はほとんどないのに対し、ToMEは広大なマップをとことこ歩いて旅をしなくてはならなくて、めんどくさいといえばめんどくさいが、この方がフロドの旅の苦難がわかる。といっても、とにかく軽いゲームなので、ミドルアースの端から端へ行くのもすぐですけどね。その間の食料の減り具合の激しさで遠さが実感できるのよね。それに地上は、さすがに変愚よりも安全になっているし。
 うん、やっぱり暗いダンジョンと町を往復しているだけより、広い野外を歩ける方が楽しいよ。別にゲーム進行とは関係なく、単にあっちこっちを観光してまわるだけでも楽しいし。
 と書いて、前にもそんなゲームあったなと思ったら、『ウルティマ』だった。暗い『ウィザードリィ』から、『ウルティマ』の広大なマップに出たときには感動しましたね。ただ、『ウルティマ』というのは基本的に(かなりめんどくさい)クエストを順番にこなしていくゲームで、そういう従うべきレールがあるゲームが嫌いなのと、『ウィザードリィ』みたいにめちゃくちゃ強いキャラを作って暴れまくったり、伝説のアイテムを捜してえんえん探索を続けたりすることができないので、『ウルティマ』は一度クリアするともうやる気がなくなってしまったけど。その点、ToMEなら両方できる!

 グラフィックも変愚よりいい。グラフィックたって、こっちもアスキー文字なのだが、それだけでこれだけ雰囲気出せるのかと感心。(実はタイル版といって、モンスターや地形が文字の代わりに絵で表示される機能もあるのだが、確かにきれいではあるものの、一目で敵の種類が見分けられる文字のほうが便利なので、タイルは使えない)
 町なんか変愚はただ四角が並んでるだけという印象だが、ToMEはちゃんとそれぞれの町の特徴が見ただけでわかる。ダンジョンもそれぞれ特徴があっておもしろい。

 クエストがおもしろいし、ストーリー性がある。変愚のクエストはほぼすべて、フロア内のモンスターを全滅させるというだけで、かなりおざなりな付け足しみたいなものだったが、ToMEはクエストがちゃんとクエストらしくなっている。
 たとえば最初に受けるクエストは、農夫のマゴット(映画版では登場しないのが残念)からキノコを集めてくるように頼まれる。彼の3匹の犬(これはホビットたちにとって恐ろしいものだったように、プレイヤーにもかなりの脅威)が発狂してしまって、危険でキノコ畑に近づけないというのだ。でも犬を殺してはいけないという。これは低レベルのキャラクターにはかなり困難なタスクで、さっそく戦略を練る必要が出てくるわけ。
 折れた剣『ナルシル』を見つけてアラゴルンのところへ持っていけば、鍛え直して『アンドゥリル』にしてくれた上、ありがたくも下賜してくださるというのも、ちゃんとストーリーに沿っていて楽しい。変愚では『ナルシル』も『アンドゥリル』も別の剣として手に入るのが、すごい変だったんだよね。
 その他、クエストはひとつひとつやるべきことが違い、起きる場所も条件もさまざまなので、次は何かとドキドキする。さすがにお姫さまはモンスターにさらわれすぎだと思いますが。

 変なところがリアル。たとえば、モンスターを殺すと死体が残るのだが、変愚じゃ死体は家に飾っておくぐらいしか使い道がなかったのに(あと生き返らせてこき使うという手もある)、ここでは死体から肉を切り取って食べることができる。それに肉はしばらくすると腐るので、塩水に漬けて加工肉を作るとか。ドラゴンの腹を割くと、中のガスが爆発して大怪我をするとか。
 そういや、変愚でドラゴンの死体をかついで家に帰るというのがかなり無理があると思ったが、ToMEでは死体にもふさわしい重量が設定されている。ドラゴンになると何10トン。それでも持って帰れるのだが、ものすごく動きが遅くなって、いかにもつらいというのがよくわかる。

 魔法がすごい。すごすぎてまだほとんどわからん。これも変愚にはないスキル・システムを採用していて、魔法にしろ戦闘技能にしろ、好きな技能にスキル・ポイントを割り振って‥‥というのはわかるのだが、その技能の種類が多すぎ、システムが複雑すぎるのよ。スキルの他にも、アビリティと、レイシャル・パワー(種族ごとの特殊技能)と、あと個々の武器や装備品にも特殊な能力が付いてるし、何をどう使うとどういう効果があって、自分に何ができるのかもまだよくわからない。錬金術だけだって十分むずかしいのに、ほかにもそういうのが山ほどあるんだからね。
 あと、変愚にはないフィーチャーとしては、神様を信仰することもできる。(もちろん『シルマリリオン』に登場するトールキンの神々である) 神様を信じて、信者としての務めを果たしていると、いろいろ助けてくれたりするが、神の怒りに触れると神罰を下されたりする。
 あと、運というものがあって、これはランダムに運命の宣告がくだって、いいこともあれば、「おまえはどこそこで死ぬ運命だ」とか決められちゃう。さすがにこわいのでこのオプションはオフにしてあるけど。悪運を乗り越える道も用意されているようですけどね。
 とにかく変愚も十分複雑で盛りだくさんだと思ったが、これはそれをはるかに越えている。変愚はあれでも初心者でもわかりやすく、遊びやすいように作ってあったんだな。
 最初のキャラクター作成からして、何がなにやらわからなくて迷う。種族のほかに亜種族なんてのも付くし。だいたい「自分では動けない種族」って何よ?(実はテレポートだけで移動するらしい) 職業も変愚より多くて多彩で極端。錬金術師なんかは変愚にもあったのだが、あれよりはるかにできることが多く、しなきゃならないことも増えているし。

 というわけで、ToMEの最大の欠点はむずかしいこと。何がむずかしいってヘルプ読むだけでもたいへんだし、スポイラーがなければやっていられない。
 というのも、日本語版と銘打ちながら、未訳部分が多いのだ。ヘルプなんか途中からいきなり英語になっちゃうし、プレイ中にも英語と日本語がいりまじる。ええ、そりゃ私は英語できますけどね。でも『シムピープル』なら英語でも苦労しないけど、これだけテキスト量が多いゲームで、しかもややこしい専門用語だらけの解説を、英語で読むのは一苦労。とうとう、自分で完全な日本語ヘルプとスポイラーを作り始めてしまった。今はゲームしているよりこっちを作ってる時間のほうが多いが、これがけっこう楽しい。なんで金にならない仕事は楽しいんだろ?

 もうひとつ困ったことは、自動破壊の書き方。このゲームの自動破壊はXMLで書かれていて、HTMLがわかる人なら似ているから大丈夫だっていうけど、私はHTMLも自信ないんですけど。いちおう見よう見まねで書いたけど、どうも完璧とはほど遠い。自動破壊に関しては変愚蛮怒のほうがはるかに初心者に親切でわかりやすい作りになっていた。

 とにかく変愚蛮怒よりはToMEのほうが絶対おもしろいのに、プレイ人口が少ないわけがわかりましたね。やっぱり英語読める人は日本じゃ少数派だし。というかローグライク自体が超マイナーだけど。
 どっちもちょっとかじった程度での感想だけど、変愚蛮怒はいかにもきちょうめんな日本人が作ったゲームらしく、絶妙のバランスの優等生的ゲーム。ToMEはいかにも奔放な西洋人らしく、なんでもかんでもぶち込んだ実験的なバリアント。でも、結局変愚では下へ下へとクリアを目指して進むだけになっちゃうのに、ToMEは寄り道が多く、自由度ははるかに高い。やっぱり私はこっちのほうが好み。

 でも感情移入できるってことでは絶対ToMEだな。やってると本当にトールキンの世界に入り込んだような気分になるし、アスキー文字だけでも情景が目に浮かぶようになってくる。これやってると、また映画のDVDが見たくなる。もちろん『指輪物語』なんかはちゃんとオフィシャルのゲームも存在するのだが、グラフィックはともかく、絶対こっちのほうがおもしろいと思うよ。カザド・ドゥムの橋の上でバルログと戦うこともできるそうなので、今から楽しみ。(ナズグルとはすでに戦ったが本当にこわかった)
 そうそう、いちおう最終目標は、『一つの指輪』を滅びの山の火口へ持っていき、破壊したあと、サウロンとモルゴスを滅ぼすこと。でも指輪を付けて、天界に殴り込み、神々を倒して魔王として君臨する方法もあるらしい。

 というわけで、これを読んでやってみようと思う人はまずいないと思うけど、歯ごたえのある「本物のRPG」をやってみたい人にはぜひおすすめ。ToMEやるんなら、私の作った日本語版スポイラーあげますよ。(今のところ公開の予定はなし)

 このページのいちばん上に戻る

inserted by FC2 system