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ひとりごと日記特別編

じゅんこの北ヨーロッパどたばた旅行記 Part3

Part1  Part2

(えー、忘れないうちにあわててアップしたため、この旅行記はまだまだ未完です。他にも書きたいことがあったはずだし、写真も付け加える予定だし、誤字脱字も残ってると思うけど、もうちょっと待ってね)

14日目 アムステルダム→アーメルスフォールト→エンスヘーデ→ユトレヒト→ロッテルダム→アントワープ→ゲント→クノック

サッカー観戦 死の強行軍 (ふだんは乗り換え駅は書かないのだが、あまりにすごいスケジュールなので書いてみました)

9月5日(土) 10:36 a.m. アムステルダムからアーメルスフォールトへ行くインターシティ上

 隣の騒音はいつの間にかやんだらしい。私も知らないうちに寝入っていたが、午前2時、またあれが始まった。どうやら外出していたらしい。どうせ女でも買いに行ってたんだろう。とにかく昨夜のことはもう思い出したくもない。とにかくすっかり寝不足で、おかげで今朝は8時半まで眠ってしまった。電車は10:28発だから、乗り過ごす心配はないけど。しかし、8時半で遅起きってのが我ながらすごい。日本へ帰ってもこのペースが続けばいいんだけど。

再びアムステルダムについて

 なんか私の外国人の友人は、みんな「アムステルダムは天国だ!」と言うので、私もなんとなく期待していたが、たぶんあいつらが言ってるのはマリファナと女のことだったんだろう。というわけで、アムステルダムは美しい外見とは裏腹に裏の顔を持つ街でもある。いや、裏じゃないな。マリファナにしろ、赤線にしろ、堂々とやってるもん。(オランダではマリファナも売春も合法なので、それを求めて多くの旅行者が集まる)
 でもそういうのは特定の裏道に限られたものだと思っていたの。ところが、中央駅の真ん前の繁華街にも、おみやげ屋と並んで堂々とマリファナ用品の店や、セックスショップが並んでいるのにはあきれた。子連れの家族とかがいっぱい通るところだよ。中に、ウィンドウに大股開きの巨大でリアルな女性器の模型を飾った店もあり、一瞬私もぎょっとしてしまった。子供に「あれ、なーに?」と聞かれたら、親はどう答えるんだろう? 私はべつにポルノにもマリファナにも反対じゃないが、あんまりいい気分のものじゃないね。
 ところで日本人はここへ何しにくるんだろう? みんながみんなアンネの家を見に来るとも思えないので、同じか。やっぱりなんとなく胸くその悪い町だ。主としてホテルの印象のせいだが。

 とにかく今はそんなことは忘れよう。今日は待ちに待った日蘭戦の日だもん。

 朝、今日のスケジュールを見ていたら、アムステルダムを出る列車は中央駅じゃなくて南駅になっている。ここへはどうやって行ったらいいんだ? 下へ降りてフロントの男に聞くと、トラムの5番が行くという。しかし、その5番のトラムに乗るには、またえんえんと歩かなきゃならないし、迷うのは確実。
 路線図を見ると、5番も中央駅から出ているようなので、いったん中央駅に戻り、そこから乗ることにした。遠回りだが、私はこの方が絶対早い。
 トラムに乗っていたのは若い人が多かったが、みんな英語が達者でとても親切。私が路線図をながめていると、降りる場所を教えてくれる。
 観光用の北部と違って、アムステルダムの南部は完全なビジネス街で、人も少なく駅も閑散としている。ここでも案内板を見て首をひねっていたら、若くてハンサムな男性が親切に生き方を教えてくれる。アムステルダムは一般市民は○、観光客と観光業者は×××。まあ、観光地ってだいたいそんなもんだよな。結局、これまで観光地らしい観光地って行ってないから忘れてた。
 電車はきのうのインターシティよりはすいてるが、イギリス人の若い男の子のグループがうるさかった。あー、ガキと観光客はなに人でも同じだ!
 気になる天候だが、昨夜から今朝はどしゃ降り&強風が吹き荒れた。心配していたが、この時間はかなり明るくなり、雨も小降りになった。私の悪運もまだ尽きないかな? これだけ毎日雨が降るのに、私が外を歩いていたときに降られたのはまだケルンだけで、せっかく持ってきた傘もまだ出番がないのだ。(ケルンへは傘を忘れていった) それも濡れたのは博物館から駅までのごく短い距離だけだったし。どうかどうか試合開始までに雨が上がりますように。

11:15 a.m. まだ車上

 アーメルスフォールトで乗り換えて、エンスヘーデ行きのインターシティに乗る。ここは乗り換え時間が5分しかなく、例によって電車が遅れて、エンスヘーデ行きの出発時間ちょうどに着いたのであせったが、電車はまだ向かいのホームに止まってた。ぎりぎりセーフ。ここもかなりの田舎なのに、ここからさらに1時間半の旅。
 でも電車は満員。(こっちで満員というのは、座席がすべてふさがっているという意味だから念のため) ヴァレリーはエンスヘーデはスタジアム以外何もない所だと言っていたが、(よってアムスなんかは観光名所だらけなのでいい所なのだが)、私はそういう所のほうがずっと好き! べつにサッカー見れなくても、ぼーっと座ってこの美しい田園風景を見ているだけでもいいよ。

オランダ語の発音のこと

 ところでオランダ語の発音には本当に閉口する。Enschedeは、ヴァレリー(もちろんオランダ語は母国語)は「アンスケデー」と発音していたが、どうやらフランス語訛りが入っていたらしい。でも私もそう言っていたが(ちゃんと発音訓練も受けた。なにしろいたる所で人に聞いてまわらなきゃならないので)、それでちゃんと通じたぞ(笑)。
 ところが、日本へ帰ってから調べると、「エンスヘーデ」と書いてある。(日記ではいちおうそれに統一した) ぜんぜん違うじゃん! 本田のいるVenloも、日本じゃ「フェンロ」と言っているから、「なるほどオランダ語のVは、ドイツ語みたいにFと発音するのだな」と思っていたが、いくら「フェンロ」と言ってもアンドレたちに通じない。しまいに、「ああ、ヴェンロのことね」と言われてしまった。もしかしてフラマン語(ベルギーのオランダ語)とオランダ語って違うんだろうか。たぶんそうなんだろう。
 かんじんのオランダ人はなんと呼ばれてもあまり気にしてないみたいだった。私のベルギー訛り+日本語訛りの発音で通じたんだから(笑)。それならいっそ、英語読みにして「エンシェド」でも通じたかも。
 Amersfoortだって、アーメルスフォールトとは読めない。私は勝手に英語流に「アマーズフット」と読んでいたが、これもちゃんと通じた(笑)。

 しかし、エンスヘーデ(やっぱり変な名前!)への電車はフットボール・ファンで満員だろうという予想は見事に外れ、昼時の電車にふさわしく、老人や子連れ客ばかりで、私が恐れていたフーリガンはどこにも見あたらない。ほんとに客入ってるのかな? スタジアムも、草サッカー場に毛が生えたようなものじゃないの?
 ここまでの車中から初めてサッカーしている人を見た。子供チームだったけど。馬に乗ってる人も見た。こんなにたくさん馬がいるのに(オランダでもやっぱり牛の次に多い)、馬に乗る人が少ないのが不思議だ。

11:51 a.m. まだ車上

 途中の聞いたこともない駅で、人がゾロゾロ降り始める。え? まだ着いてないのに? あわてて人に聞くと、エンスヘーデへ行くのは前のほうの車両だけだという。またかよ!
 あわてて降りて、前のほうに走るが、今度は車両を間違える心配はない。まわり中、オランダのシンボルカラーのオレンジの服を着た人たちでいっぱいだから。でも日本人の姿もちらほら見える。呉越同舟ってやつですか。私も青を着てくるべきだったのかなー。でも、べつにそれほど日本を応援しているわけでもないのでいいか。
 それにしてもフーリガンなんていないよ。若い女の子のグループや、お年寄りや、小さい子供連れの人もたくさんいるし。思ったより雰囲気はよさそう。

4:21 p.m. エンスヘーデからの帰りの車上

エンスヘーデのFCトウェンテ・スタジアム
オランダ戦のプログラム

 エンスヘーデの駅に着く前に、スタジアムが見えてきた。列車はその真ん前に止まる。みんなゾロゾロ降りていくので私も付いていった。臨時駅みたいなもの?
 チケットの交換所もすぐに見つかる。ここで受領のeメールのプリントアウトを見せると、チケットがもらえるわけ。
 でもゲートへ向かう途中で、日本人の団体がつかえていて、動けなくなってしまった。まったくこれだから日本人は! とっとと動けよ。みんなの迷惑だろ! 日本人はそれでも意外と少なく、子供(女の子?)が黄色い声で「ニッポン! ニッポン!」と叫んでいる。
 私のゲートはすぐそこなので、必死で人混みをすり抜けようとしていると、日本選手団のバスが入ってくるところだった。なんだ、みんなそれを見ようとして待ってたのか。私も背伸びして見たが(さすがにでかいオランダ男どもが邪魔で視界がきかない)、玉田が後部座席にどっかりとえらそうに座ってるのと、あとは中村憲剛の顔がちらっと見えただけだった。なんか昔、バンドの出待ちをしていた時代を思い出す。でもサッカー選手にはそれほど萌えられないから、べつに興奮もしない。

 ゲートへは人ひとりがやっと通れる狭いターンスタイルを通って入るのだが、私はキャリーバッグを抱えているので途中で引っかかり、動けなくなってみんなに助け出されるという恥ずかしい思いをした。こんな荷物を持って観戦なんてできないので、「どこか預けるところある?」とゲートの係員に聞くと、ここへ置いて行けと言う。はいはい。さらにペットボトルを取り上げられる。またかよー。
 きっと喉が渇くだろうと思って、中で飲み物を捜す。売店があったが、お金じゃなくトークンを買わないと飲めない。これがまた長蛇の列。コーヒーを飲み終えると、ちょうどいい時間なので、席を捜しに行く。
 予約したのが遅かったので、席はスタジアムのいちばんてっぺんだ。うれしいことに屋根付き。(屋根のないところもある) おお、けっこうちゃんとしたスタジアムじゃないか。っていうか、日本よりはるかにサッカー先進国なんだからあたりまえだったか。私はまたすごいボロい田舎のスタジアムを予想していて、屋根なんかないに決まってるから、雨が降ったら全身ずぶ濡れというのを覚悟していたもんで。

 でも自分の番号を捜しながら歩いていくと、そうじゃないかとは思っていたが私の席にどっかり腰を下ろしている男がいる。出たー! フーリガン! いや、ほんとに私が想像していた通りの、でっかくて人相の悪い男なのよ。でもここでひるんでは女がすたる。チケットを突き付け、「そこは私の席だ」と言うと、男は黙って立ち上がった。それでもどこにも行かずにそのまま通路に立って見ている。なんだ、こいつは?
 この男は私の右隣の男2人と仲間らしい。しかも彼らの誰もチケットを持っていないことが判明。というのも、しばらくして2人連れの人が来て、チケットと番号を見比べながら何か口論を始めたからだ。(もちろん私には何を言ってるのかわからない) すると、私の左隣にすわっていた子供連れのお父さんが激しい口調で一喝。男たちはしぶしぶ立ち上がった。が、階段に腰を下ろしてマリファナなんか吸ってる。ほんと感じ悪い。
 このお父さんは本当に強い人で、試合開始直後、みんなが一斉に立ち上がるのだが、前の人に「座れ座れ」と命令して座らせてしまった。試合は座って見るのがエチケットらしい。でも座席の下にプログラムがあるよと教えてくれたりして、私には親切でやさしかった。
 しかし、あの3人組はなんだったんだろ? あれだけ警備が厳重なのに、チケット持たずに入れるはずないし。まあ、入れるのかも。ヨーロッパだから(笑)。客席には警備員なんていないので、何しようと勝手だし。

 ついでに言うと、ハーフタイムにタバコが吸いたくて外へ出た。外階段のところでは大勢が立ってタバコを吸ってたので、ここならいいのかと思って。そしたら警備員がやってきて、ここは禁煙だと言う。でも誰かが注意されている間も、他の連中は知らんぷりで吸い続けているし、警備員が背を向けるとまた吸い始める。こいつらマナーなんてないな(笑)。

 私が座ったときは、日本チームがウォームアップを始めたときだった。すかさず本田を見つけてニンマリ。でも本田は金髪だからすぐわかるし、闘莉王と中澤も髪型でわかるが、この距離だと私は選手の顔はおろか、背番号も見えないよ。いちばん合ってるメガネをなくしちゃったもので。これまたサッカー見るとわかっていたらオペラグラスを持ってきたのに! 試合が始まると、ポジションと動きでわかったけどね。
 席は確かにてっぺんだが、ちょうど真ん中へんなので、ピッチの全体がよく見える。むしろこの方が見やすいかも。

 スタジアムでの観戦で感じたこと。テレビと違って全体の動きが見えるのでおもしろい。特に連携のよしあしは一目でわかるし。だけど、なんだかハラハラして心臓に悪い。というのも、テレビだと横目で見ながら、歓声が聞こえたときだけ目をやるという見方ができるのに、他に見るものがないので試合から目を離せないというのは、けっこう緊張の連続なのだ。日本は負けて当然と思っていたし、べつに日本を応援しているわけでもないのにね。

プログラムの本田インタビュー。日本選手ではいちばん大きく4ページの扱いだったのに。
なぜかここだけ日本語見出しがついて入っている。

 そして選手が入場してきたが、本田がいない!!!(もちろん先発メンバーも知らずに見てた) どういうこと!? なに考えてんだ、岡田のバカは! わざわざ苦労してこんなところまで来たのに、本田がベンチだなんて! だいたい、オランダのサポーターだって、彼とやるのを楽しみに来てるはずなのに! そうでもなかったら、こんな弱小国との試合、勝ったっておもしろくもないじゃない。

 その後の試合展開は見た人はご存じの通り。もう胸くそ悪いから思い出したくもないんだけど、70分ぐらいまでは日本のボール支配が圧倒的。オランダのパスもしばしばカットして、まったくチャンスを与えなかった。だけど自分のチャンスにはシュートを打てないというか、パスまわしてるだけでゴールの気配はぜんぜんなし。パス練習見に来たんじゃねーんだぞ! それで残り20分にはヨレヨレになり、オランダにいいように弄ばれる、いつも通りの岡田ジャパン。ほんとに何考えてるんだ、あの男は。実力そのものっていやー、そうなんだけど、これほど完膚なきまでに叩きのめされるとは。なんかドイツW杯の負け方を思い出す。
 日本が負けたのはいっこうにかまわない。私はもちろん日本が負けると確信してたし。ただ、こういう負け方をするとは夢にも思わなかった。なんともいやーな感じの負け方

 2点目を取られた時点で、もう試合は決まったし、電車のことが心配なので出ようと思って歩いていたら、歓声が聞こえてきたので振り返ったら、オランダの3点目が入ったところだった。

オランダ戦の本田

 それでも、後半、本田の名前がコールされたときには、オランダ人からもいっせいに歓声が上がったし、私も期待したんですがねえ。
 あのね、2ちゃんねるを席巻している「中村俊輔は本田をつぶしにかかってる」というたぐいの「陰謀論」、私はあんなのは電波系の妄想だと思ってまったく信じてなかったが、この試合を見ていると、「もしかして‥‥」と思えてくるぐらい、あやしげな試合だった。
 とにかく出てきた時から闘志満々の本田が、完全フリーで絶好の位置にいて、くれくれと合図しているのに誰も彼にパスを出さないという場面が何度もあった。なんでなの? 死ぬほどほしい1点をいちばん取ってくれそうな男なのに。この人たち、本気で日本のために戦ってるのかしら? 勝つつもりあるのかしら?と思ってしまった。結果としてなんの働きもしなかったとか言われたようだが、ボールにさわらせてもらえないのに得点なんかできないよ!
 これがフェンロなら、ボールはすべて彼のところに集まるのに、ここでは彼だけわざと避けてるみたいだった。本田もとまどった様子で、「え? なんで? なんで?」と言ってるみたいだった。

 これもこっちでも話題になったみたいだが、いちばん疑問なのは、後半のフリーキックの場面。0-0で得点機としてはこれ以上ない絶好のチャンスで、会場のオランダ人サポーターからホンダ・コールが起きたときは、つい目頭が熱くなっちゃうほど感激した。この瞬間、敵も味方も関係なく、スタジアム中の全員が本田が蹴ることを確信して期待が盛り上がったと思うんだよね。本人だって当然自分の番だと思ったはず。そしたら俊輔がボール持ってグズグズして、イエローもらったあげくに打って外す始末。期待に水を差すとはまさにこのことだ。盛り上がっていたスタジアム全体がシーンと静まりかえった。あのときはオランダ・サポーターもがっかりした(というかあきれた)に違いない。

 サービス精神ってないのかしら。オランダなんだし、親善試合なんだし、いやしくもオランダ1部リーグの得点王(もちろん暫定だし、シーズン開幕当初のことだが、そういう時期があったのだ)で、しかもフリーキックは得意中の得意なのに、1回ぐらい本田に蹴らせて困ることは何もないでしょうが!

《ここのところは帰国後に書いてます》

 帰国後、留守中の新聞を読んでいたら、朝日に英国人ジャーナリストの観戦記が載っていた。オランダサッカーには詳しいが、日本代表を見るのは初めての人らしい。いわく、「こんなサッカーは初めてだ」 「シュートアレルギー?」 「(パスとプレスの素晴らしさにくらべ)シュートがひどい。こんな落差は見たことがない」 「シュートコースが空き、それに気づいている様子なのにパスしてしまう」 「選手の技術は素晴らしい。とても知的なプレーをする。なのになぜシュートだけ‥‥。文化的な理由があるのだろうか」 「シュートがなければ本物のサッカーとは言えない。シュートができなければ本物のサッカー選手とはいえない」
 はいはい、おっしゃる通り。日本じゃシュートは反則なんですよ。シュートなんかしようとする選手は干されるんですよ。(笑) だいたい、日本人だって見ていて「???」なのに、外人が見たらよけい変で、まったく理解不可能だっただろう。おかげでまたいやな思いを思い出した。

 ところが、同じ日の紙面では、編集委員の署名コラムで、本田のことが書かれていた。彼の欠点や課題を指摘しつつも、本田のことを弁護する記事だった。
 あのフリーキックの場面。なかなか蹴らなかったのは、本田が自分に蹴らせてくれと俊輔や他の連中に何度も訴えていたかららしい。それをはねつけるって、実にいい根性しとるな。このコラムは「これぐらいの個性を受け入れる懐の深さがなくてどうする。これをチームの和を乱すわがままというのはナンセンス。小学生の学芸会でもあるまいし」という、朝日としては極めつけの激しい言葉で結んでおり、よっぽど腹を立ててたというのがよくわかる。そのナンセンスさは、現地で見ていた人間のほうがずーっとよくわかります。やっぱり本田いじめって本当だったんだ!

 さらに翌日の新聞には、オランダ戦を振り返るコラムで、はっきり名指しで中村俊輔を外して、本田(もしくは他の若手)に替えろという趣旨の文章が載っていた。ふーん、朝日のサッカー記事は、以前から堂々と岡田監督批判や俊輔批判をしていて好きだったのだが(他のメディアはヨイショ記事ばっかり)、いよいよしびれが切れてきた感じだな。
 でもきっと本番ではまたあれの繰り返しなんだよね。

《こっからリアルタイムに戻ります》 

 私が本田を好きなのは、彼が日本でいちばん優れた選手だからというわけではなく、これまでのつまらない不甲斐ない日本サッカーを変えてくれそうな唯一の選手だからなのに。その本田をスタメンから外したり、意地悪としか思えないことするような日本代表なんか、ますますきらいになったし応援する気も起きない。どっちみち、私はイングランド・サポーターだから関係ないですけどね!

 スタジアムを出ると、すでにオレンジ軍団が浮かれ騒いでいる。露店が出ていたが、売ってるのはオランダと日本の応援グッズだけだった。どっちかというと青い旗買って、この場で燃やしてやりたいよ!

 (怒りをこらえて)さて、試合は終わったが、私にはこれから別の戦いが待っている。エンスヘーデから6本の電車を乗り継いで、今日中にクノックに帰らなければならないのだ。しかも、それでぎりぎり終電で、乗り換え時間も切迫している。
 とか書いてたら、野原の真ん中で電車が止まってしまう。おい! なんかの故障らしい。さいわい、予定より20分早い電車に乗ったから、なんとか間に合うことを祈るのみ。

7:16 p.m. ロッテルダム行きの車上

 ヴァレリーから何度も電車の時間がぎりぎりだってことを言われたので、せっかく20分早い電車に乗ったのに、これが20分遅れたうえ、例によってネットで調べた通りに運行していない。ユトレヒトまでは直通で行けるはずだったのに、途中で一度乗り換える必要があったのだ。さらに乗り換え駅に降りたら、次の電車は30分遅れるというアナウンスが。30分も遅れたら終電に間に合わない!
 もちろん、そういう場合は、ブリュッセルのアパートに泊まるように言われていたが、私としては今夜中に帰りたいので、あとは残りの電車も遅れてくれることを祈るのみだ。

 それでえんえん遅れてユトレヒトに着き、「間に合った!」と思った瞬間、向かいのホームから私の乗るはずのロッテルダム行きが出発してしまった。どうせ遅れるんだから、少しぐらい待ってくれてもいいだろ! だいたい時刻表では7時4分発のはずが、3分発になってる。こういうときだけ定刻に発車しやがって!
 それでもあきらめきれずに、駅員に「なんとかならないか?」と聞いたら、「ロッテルダム行きならこれがある」と言って、目の前の電車を指す。こちらは6時48分発のはずだったのだが、遅れてまだ出ていなかったのだ。ここのダイヤってどうなってるの? こんなにめっちゃくちゃで、衝突事故とか起きないのかしら? とにかくそれに飛び乗って、今はロッテルダムに向かっている途中。
 私の計算では、ぎりぎりで次のアントワープ行きに間に合うはずなのだが。とにかく、なんでもかんでもアバウトな国。ベルギーはいくらなんでもこんなにひどくなかった。もうオランダなんかキライだ!
 だいたい特急なのに、駅でもないところでノロノロ走るし。普通、遅れてれば急ぐとかしないか? もうここまで来ると、どうでもいいって気分になってきた。そうでなくてはヨーロッパ人にはなれない。実際、同じ車両でイライラ時計を見ているのは、私と黒人男性の2人だけだった。

8:37 p.m. エンスヘーデからの帰りの車上

 ロッテルダムは奇跡的に時間に間に合って到着。ところが次のブリュッセル行きが10分遅れ。アントワープでの乗り換え時間は6分しかない。頼む! 4分遅れてくれ!

 今日は満月だ。まるで作り物のような黄色い月が低い空にあって、暗い森の中に見え隠れてしている。濃い青色の空(この時間にはまだけっこう明るい)と相まって、ますますマグリットの絵のように見える。

9:20 p.m. エンスヘーデからの帰りの車上

 やっぱり今夜中に帰り着くのは不可能だ。ロッテルダムを出た電車はこれも遅れに遅れ、9時着のはずが20分たっても着く気配がない。あと2回乗り換えなきゃならないのに、その2回が同じだけ遅れることはありえないし。このままブリュッセルまで乗っていって、アパートに泊まるとしよう。でもアンドレの家に電話しないと。こういうとき携帯がないのは本当につらい。

15日目 ブリュッセル→クノック→リル→ロンドン

9月6日(日) 7:57 a.m. ブリュッセルのPetillonの駅でメトロを待っているところ

 昨夜は結局クノックに帰り着くことができずブリュッセルに泊まったのだが、そのことをヴァレリーに連絡しなくちゃならないのに、電話が見つからなくて右往左往。いくらなんでも国鉄の駅にはあるだろうと思ったのに、深夜のブリュッセル中央駅は、店はみんな閉まっているし、電話のありかを聞こうにも人がいない。構内にはなさそうなので、夜の町に出てさまようが、やっと見つけた電話はカードオンリーで使えない。もう疲れ果て、あきらめて地下鉄の駅に向かったら、そこにあった。がくっ。
 あとでヴァレリーに話したら、こっちも携帯のせいで公衆電話がどんどんなくなっているのだと言う。まったく携帯はガンだ!

ブリュッセルのメトロ

 ところで、メトロもぜんぜん来ないなー(笑)。ここの地下鉄は東京と違って、電車の現在位置が電光掲示板にリアルタイムで表示されるのだが、さっきからぜんぜん動いてないぞ。確かに便利だが、これのせいでかえってイライラさせられるっていうか。日曜だからしょうがないか。もう遅れ慣れてるから、30分早く出たんでいいけど。
 なぜかメトロの駅のホームだけは、BGMが流れていることがわかった。ときどき宣伝も流れる。変なの。誰もいないのに(笑)。他がまったくそういうのがないので変な感じ。でも広告も日本みたいなキンキン声の女がまくしたてるんじゃなく、ねっとりとして変に色っぽいフランス語だとそういやじゃない。

 こちらはなんでも二か国語表示なのだが、パトカーにPolitie Police(前がフラマン語)と書いてあるのを、Polite Policeと(礼儀正しい警察)と読み間違えて笑う。無礼な警察もあるのか(笑)。
 車内の表示と言えば、オランダの鉄道にはどこにでも大きく「車内では静かに」と書いてあった。窓のすべてに帯状にずらーっと、英語とオランダ語で書いてあったし、車両の入口には口に指を当てた絵文字も。確かにベルギーとくらべるとオランダ人はうるさい。でも勝って気勢を上げるオレンジ軍団には無意味だったけど(笑)。

 そういや、ロンドンでもしょっちゅう地下鉄やバスが遅れたけど(平気で1時間ぐらい待たせる)、向こうの人は達観した様子で待っていたし、私もそんなに気にならなかったのは、気ままな旅だったからか。私は定刻に出勤するのがいやでいやで、すごいストレスなのに、旅行でまでそれをやりたくなかったのに。日本じゃ、時計もカレンダーも手帳もほとんど見ない私なのに、ここではひっきりなしに時計と予定表とにらめっこしなきゃならない。今度はホテル代をケチったりせず、ちゃんとホテルに泊まろう。(それができるなら!)

5:42 p.m. ブリュッセルのPetillonの駅でメトロを待っているところ

 今朝は8時半の電車に乗ってクノックに帰った。帰ったらオランダでの冒険談を話す暇もなく、アンドレのために弟に国際電話をかけ、オークションの入札を頼む。弟にまで迷惑はかけたくないのだが、これだけ世話になっている以上、断り切れない。そのあとすぐに一家で車に乗ってフランスのリル(Lille)の町へ出かけて、ヨーロッパ最大という蚤の市を見て、そこからユーロスターでロンドンへ向かう予定。あー、忙しい!

 リルって知ってました? 私は聞いたこともなかったが、フランス北部でいちばん大きな都市だそうだ。駅からして空港みたいにでっかくてモダンで立派だし、駅前も巨大な広場になっている。ベルギーやオランダとは、国のスケールや豊かさが違うのが一目でわかる。もっともこういうのは田舎者(失礼、べつに蔑称のつもりじゃないです。私は田舎のほうが好きだし)はあこがれるかもしれないけど、東京人にとってはクノックみたいな田舎のほうがよっぽど魅力的だと思うけどな。

リル・ヨーロッパ駅
リルのフリーマーケット
この山は何かといえば、ムール貝の殻です。ここは殻捨て場のようですが、このサイズのゴミの山がいたるところにできております。

 ここを訪れたのは、年に一度の大フリーマーケットが開かれているから。アンドレはあわよくばピクチャーディスクを見つけようという魂胆もある。まあ私自身の体験から言って、こういうところにお宝があったためしはないんだけど。でもフリマ大好き。ただ見て歩くだけでも楽しい。

 9月最初の土日に渡って、町全体が蚤の市になるというのだが、私の第一印象はノミの市じゃなくてゴミの市ですな。前にも書いたように、ヨーロッパ人は平気でゴミをポンポン道に捨てるのだが、これだけ人が集まるともはや道はゴミの山だらけ。場所によっては歩道がすべてゴミで覆われ、それを踏んづけて歩かないとならない。せっかく美しい町をなんでわざわざ汚すのか?
 ヴァレリーにそう言うと、普段は静かな町なので、ゴミ箱が足りないとか、収集が追いつかないとか言うけれど、ゴミを持ち帰るという発想はないのだな。ここだけは日本人のほうが公共マナーがいい。というか、東京は一年365日これぐらいの人出だから、ゴミを放置したりしたら大変なことになるんでしょうがないんだが。

 売っているのは日本同様、古着や古道具、あとは古本とか、自分で描いた絵とか手作りのジュエリーとか。食べ物屋も多いし、大道芸人もたくさん集まっている。ただ、日本のフリマよりは業者が多いように思ったな。ヨーロッパはフリマが多いから各地を転々として商売している連中が一堂に会したという感じ。でも、わずかばかりの持ち物を地面に並べて売ってる女の子とかもいる。
 ほとんどががらくたで確かに安い。それに安物やがらくたでも、ヨーロッパのものはなんか趣がある。とにかく日本じゃ見ないものばかりというだけでも楽しい。千円ぐらいのジュエリーにかなりすてきなものがあって、気をそそられたのだが、なにしろ家族連れでは立ち止まってじっくり見ることができないのがつらい。ひとりなら一日中かけて見てまわりたいんだけどね。かといって、ひとりならわざわざフリマのためにここまで来なかっただろうけど。
 しかし、屋台の食べ物がいい匂い。その上、どれも見たことも聞いたこともないような食べ物ばかり。あれ全部食べてみたいよー、と思っても、そうもいかない。エミリーは綿菓子を買ってもらってましたがね。例によって一口食べただけで、あとはくれるというんだが、綿菓子なんて甘いだけだし日本でも食べられるからいいのに。うちの親は不潔だと言って、買うのをいやがったが、こっちのお兄さんは手でくるくる巻いてくれる。衛生観念が薄いのは、やはり寒い国(食中毒が少ない)からだろうか?

 アンドレはレストランを物色している。お昼は初めてのちゃんとしたレストランに入れるみたい。ここでふと思いついて、これまでの歓待(責め)のお礼に、昼食代は私に持たせてくれと頼んでみた。もちろん快諾。ただ、この人たちは外食の時は高級レストランばかりというのを知っていたので、値段がちょっと恐ろしかったけど。それでもこのあたりのレストランはほとんどがブラスリー形式で、昼食ならそんなに値段は張らないだろうと祈る。
 何を食べたい?と言われたので、ムール貝と答える。ムール貝は有名なベルギー名物。でも、アンドレがご馳走してくれると言っていたので、わざとこれまで食べないできたのだ。しかし、ベルギーと言えばムール貝とフリット(フライドポテト)なんだが、この町もどこへ行ってもムール貝とフリットの看板ばかり。ほんと国境はないというか、ベルギーの一部みたい。
 いかにもグルメらしく、アンドレはあっちこっちのレストランを見て首を振ったあげく、やっと店を決める。今回はテラスじゃなくて室内だし、ウェイターも本格的で高そうなところ。うう‥‥。
 私とヴァレリーが頼んだのは、ムール貝のコース。アンドレはいつものようにステーキ。子供たちはお子様ランチかと思ったら(そんなのないって!)、驚いたことにタルタルステーキ! 好き嫌いが激しいとか言って、そんなの食べられるのか? だいたいそんな高そうなもの! いや、これまでの恩を考えれば、そんなケチなことを言ってはならない。財布のことは忘れて食事を楽しもう。

 コースの最初はパテというのかムースというのか、あの寄せ物。なんか見た目は悪いが、お味は最高。このたぐいは日本で食っても(かなりの高級フランス料理店でも)うまいと思ったことがないのだが、これはうまい! やっぱり日本のフランス料理よりうまいや。何が入っているのかわからないが、シーフードの味がする。
 それに続いてムール貝の到着。お皿に貝がいくつか並んでるような日本のを想像しちゃだめよ。でっかいホウロウのシチュー鍋がひとりひとつずつ出てきて、それにふちまでぎっしり貝が詰まっているのだ。「こんなに食べられない」と言うと、「ほとんど殻だから」と言うが、それにしても60個以上は入ってるぞ。結局全部食べましたがね(笑)。
 ムール貝を薄く切った野菜といっしょに蒸し煮にしてある。この野菜はほとんど香り付けという感じで、向こうの人はほとんど食べないが、貝のダシがたっぷりしみてうまいので、私は貝は半分でいいからもっと野菜を入れてくれればいいのにと思う。というより、最後は雑炊で食べたいと思ってしまう私はやっぱり日本人。でもニンジンは星形に切ってあったりして手が込んでいる。

 あ、トンネルに入った。もう英仏海峡か。日記書くのに忙しくて入るところ見逃した!

ムール貝。私の食べたところはもっと高級でしたが、マジでこの量で出てきます。念のため断っておくけど、これ皿じゃないからね。かなり深い鍋ですからね。

 カニを食べるとき人は無口になると言うが、ムール貝を食べるときも無口になる。とにかく数が多すぎて、殻から剥がして口に入れるだけでも忙しいから。でも身はすっと殻から剥がれる。
 味はちょっと塩がきつすぎ。貝はそれ自体塩辛いから、塩は控えめにしてほしいんだがな。しかし、貝は新鮮でプリプリしててとてもおいしく、貝好きにはこたえられない。あとで伝票を見たら、他の安い店の倍の値段なのだが、安い店のを見たら貝が小さい。

 さらにデザートとしてアップルパイが付く。アイスクリームを載せたアップルパイは私の好物で、楽しみにしていたが、一くち口に運んで感動! うまーい! これまで食べたアップルパイでいちばんうまい。もちろん日本でだって金さえ出せば、これぐらいうまいアップルパイはあるのかもしれないが。
 日本のパイの何が嫌いといって、パイ皮がモチモチと分厚くて、油っぽく粉っぽく、皮ばっかりだということ。こっちは皮なんてほとんど気が付かないほど軽く、フィリングがまたうまい。アイスクリームもうまいが、これはミルクの質の違いだろう。クリームを入れて乳脂肪だけ足したような日本のアイスとはやっぱり違う。私がここに住んでたら、毎日これ食べて、やっぱりブクブクに太っていただろうな。

 そうそう、付け合わせのフリットについても。フリットはイギリスのチップスとくらべて小さくて、カラッと揚げてある。だからあまり油っぽくなくて、カリカリだが、実を言うと私は、あのでっかくてじっとりと油のしみたチップスのほうが好き。ジャガイモっぽさが残ってるからね。アンドレはデザートにプディングを食べていた。太りすぎを気にしているくせに、太るものばかり食べてる!

 ここでフリットのことが話題になる。ベルギー人はこれが大好きで、特にステーキには欠かせない。アンドレが東京でステーキを食べたとき、フレンチフライを付けてくれと頼んだら、皿に2本載ってきた、というのでみんな大笑い。もちろんこっちでは大皿に山盛りで来る。彼は「マクドナルドに行って買ってくる!」と息巻いたそうだ。
 これは私のイギリスでの体験と正反対だ。私が(目の前で皿に盛ってくれる)カフェテリアで料理を頼んだら、「チップスはいるか?」と聞かれたので、「うん」と答えると、巨大なスコップでざくっとすくって、皿いっぱいにざーっとあけてくれる。「うわー!」と思って見ていたら、またスコップを突っ込んでざざざー! あわてて「もういい! もういい!」と叫んだが、料理なんか見えないほどポテトが山盛りでこぼれそう。これで太らないイギリス人は不思議。

 子供たちはやっぱりろくに食べない。エミリーなんか形だけ手を付けただけ。おなか減らないのかしら? しかもこれだけうまいのにもったいない。結局、料理のほとんどはアンドレのお腹に入ったようだ。彼が太る原因はこれか? デザートをあげようとしても、いらないと首を振るのに驚いた。日本人の子供で、ケーキを断ることのできる子はあまりいないと思うけど。こんなうまいもの断って、綿菓子なんか食べてるんだもんなー。味覚おかしくなってない?

 そして恐怖のお会計。しめて111ユーロ(サービス量10%込み)。日本円にして約1万5千円。5人でおなかいっぱい食べて、ワインやデザートやコーヒーも頼んでこれだから、やっぱり超安い。日本ならファミリー・レストランだってこれより高いでしょ。やっぱり食はフランスにありだなあ。

 あ、もうトンネルから出た。早いなあ、もうイギリスか。窓から見える田園風景も明らかに大陸と違う。日曜日なせいか、初めてサッカーをしている人たちを見た。今度は大人で、ちゃんとユニフォームも着ていた。

 食事のあとは、駅でアンドレ一家と涙のお別れ。さすがにこれでお別れと思うと、なんかうるうるしてしまう。アンドレもヴァレリーもまたおいでと言ってくれる。人使いは荒いけど(これは夫婦とも)本当にいい人たちだ。子供たちに「キスして」と頼んだら、かわいくチュッとキスしてくれた。

7:27 p.m. ロンドン、Clearlake Hotelにて

 ユーロスターはさすがに遅れもなく走って、ロンドン到着。セントパンクラスの駅でユーロスターを降りた瞬間から、自分の家へ帰ってきたようで浮き浮きする。だってさー、これまでの15日間、どこへ行くにも緊張の連続、迷ったり、まごまごしたり、あせったりしながら、ようやくのことで旅程をこなしてきたのに、ロンドンに着いたとたん、さっさとチューブ(ロンドンの地下鉄の愛称)の駅に降りて、窓口で3 day travel cardを買い、迷わずサークル線に乗って、ホテルまで一直線。
 実を言うとこのホテルに泊まったのは25年前のことなんだけど、体が覚えているので我ながらびっくりした。
 ホテルのあるハイ・ストリート・ケンジントンの駅でリフトがないことに気づき、まわりを見回すがひと気がない。たいした高さではないが、スーツケースを持ってえっちらおっちら階段を昇りかけたところで、ホームの端にいた若い男性が駆け寄ってきて、上まで運んでくれる。だからロンドンは好きなんだよー! ホテルでもあらためて感激。

またまた写真が撮れなかったのだが、ロンドンならGoogleのストリート・ビューがあるはず、と思って捜したら見つかったよ。このように美しい高級フラット(アパートのこと)の立ち並ぶ通りの、突き当たりに見える(建物の一部)がクリアレイク・ホテル。振り向くと後ろがケンジントン公園。
ここがホテルの入り口

 湖なんかないのにクリアレイク・ホテルという名前が付いたこの小さなホテルは、初めてのロンドン旅行の時、現地にいた知人が捜してくれたものだが、1か月の滞在ですっかり気に入って、またいつかはここに泊まりたいとずっと思っていたのだ。もちろん日本のガイドブックには載っていない安ホテルだが、何より場所がいい。ハイ・ストリート・ケンジントンはウエスト・エンドの真ん中の、ブティックやデパートが建ち並ぶ落ち着いたファッション・ストリート。ホテルは路地に少し入ったところだが、ケンジントン宮殿やケンジントン・ガーデンズのすぐそば。(公園に面したホテルは超高級ホテルばかり)
 建物も中こそ古くてボロいが、建物は高級フラットなので、すてき。もちろん(狭くてボロいが)リフトも付いている。
 しかも、長期滞在用のアパートメント形式のホテルなので、部屋の設備が充実している。最初のときは1か月いたので、もちろんアパートメントを借りたのだが、短期用のシングルルームでも同じだろうと思っていたら、やっぱりそうだった。

 何より部屋に電気ポットがある! 日本なら当たりまえだが、ヨーロッパじゃまずないのよ。これでいつでも部屋で熱いお茶が飲める!
 さらに冷蔵庫もある。これまた日本じゃ当たりまえだが、以下同文。これで朝起きたとき冷たいジュースやミルクが飲める。調理用レンジこそないが、電子レンジがあるので、スーパーで買ってきた食品を暖められる。カップや皿、ナイフやフォークなどの食器も一通り揃っているし、トースターまであるし、バスルームには石鹸やシャンプーはもちろん、シャワー・ジェル、カミソリや、歯磨き粉と歯ブラシまである。(さすがに歯ブラシは使う気になれないが) 要するに身ひとつで来ても暮らせるようになっているのだ。
 もちろんヴァレリー=アンのアパートのようにはいかないが、気を遣って何も触らないようにしていた他人のアパートより、どんなに使い心地がいいか。
 小さいけどフロントも居心地のいいロビーもあって、フロントのインド人のお兄さんも親切で感じがいい。チェックインの前に、部屋に案内して、「ここでよろしいですか?」と聞くのも他のホテルじゃなかった。

 これで1晩たったの40ポンド!(6千円) ロンドンのホテルはガイドブックなんかに載ってるやつは中級でも200ポンドぐらいするのよ。高級ホテルになったら4000ポンドとか(笑)。なのに、ユースホテル並みの値段でこの快適さ!
 もちろん何度も言うように、部屋は古くて狭い。広さはアムステルダムのあれとたいして変わりないし、床はやっぱりギシギシいう。だけど、格から言ったらアムステルダムのあれと同じなのに、この安さと居心地の良さの違いはなんなんだ!
 あとから気が付いたこと。床やドアはやっぱりガタピシなので、人の足音は聞こえるんだけど、ここの滞在客は夜中に歩くときは、そーっと足を忍ばせて、音を立てないようにゆっくりゆっくり歩いてる。(私もそうしてる) これはイギリス人のマナーの良さの表れか。いや、泊まり客は外国人が主だろうから、違うか。長期滞在者やリピーターが多いので、旅慣れた人が多いからかも。
 あー、できるものならまたここに1か月ぐらいいたいよ。
 アンドレとヴァレリーはフランス系なせいか、なんでもフランスがいちばんという考えで、イギリスをバカにしているが、私がイギリスのほうが好きな理由をわかって頂けるだろうか。

《書いたあとで、せっかくの穴場なのに、名前出してこんなに詳しく書いちゃって、日本人観光客が押し寄せたりしたらどうしよう?と思った。だけどよくよく考えてみれば、予約確認するのに何度も国際電話かけなきゃならないようなホテルに、日本人が押し寄せるわけないか(笑)》

 さっそく町へ出て、コーナーショップ(コンビニみたいなもの。たいていインド人かアラブ人が経営している)に行って、紅茶とミルクとブラックカラントのジュース(これがいちばん好きなのだが、日本で買うと700円とかする)と、夕食用にステーキ&グレービー・パイを買ってくる。あいにくスーパーはもう閉まっているので。日曜の夜でも開いてる店があるのもうれしい。
 ああー、日本を離れて以来、初めてのまともな紅茶。さすがにティーポットはないのでティーバッグだが、ちゃんとわかして、カップも温めて煎れる紅茶はうまい。水とミルクの違いもあるんだがね。Ahmedの紅茶なんて日本じゃけっこう高いが、50パック入りで200円ぐらい。というのも、日本で売ってる輸入品と違って、個別包装もしてない、ヒモもついてないやつだから。我々は包装に金を払っているわけ。
 パイは牛肉をグレービーで煮たやつが入っている。こんな150円のパイでも大きな牛肉のかたまりがゴロゴロ入ってるし。さすがにパイは電子レンジだと湿っぽくなってしまうが。前に泊まったときの部屋にはオーブンがあったんだけどね。昼に食べ過ぎたので、これで十分。

 気候だが、さすがに夜のこの時間は涼しい風が吹いているものの、寒いというより涼しくて気持ちいいという感じ。大陸の寒さは骨の芯まで冷えるのに、こっちはマイルドで、冬の寒さも東京と変わらない。これだけ北にある国(なにしろ北極圏はすぐそこ。オーロラが見えることもあるっていうんだから)で、この暖かさは島国ならでは。私が持ってきた服でちょうどいい。

 さて、明日はどうしよう? とりあえず、日本では買えない(アマゾンの洋書は本当にあてにならない)本を買いたいんだが。本屋街はどこだっけ? ああ、やっぱりほとんど忘れてる! 明日はいちばんにガイドブックを買わなきゃ。(もう必要ないと思って「地球の歩き方」は捨ててきた)

 感じるのはやはり言葉の問題。誰とでも話せる! 駅のアナウンスが何言ってるかわかる!(例によって、「○○線は現在運休しておりますので、他の路線をご利用下さい」というアナウンスばっか) テレビが見られる!(ほかでも見られたのだが、何言ってるのかわからなくて、さっぱりおもしろくない) 看板もメニューも読める! というだけで、どれほど気が楽かわからない。前にも言ったが、アンドレ夫妻はよく日本中を旅行してまわれたものだ。 

16日目 ロンドン

9月7日 1:10 p.m.

 今日はロンドンに一日いる予定。と言っても、もう金輪際、観光なんかするつもりはないよ。ロンドンへはリラックスしに来たんだから。今日はハイドパークでひなたぼっこして、イングリッシュ・ブレックファストを食べて、あとは少しショッピングをするだけのつもり。

 でも例によって6時に目が覚めてしまい(寝たのが9時だからねえ)、ゲームやパソコンもできないし、しょうがないので寝っ転がってテレビを見ていた。「働く動物」という番組で、手品師の使う犬の訓練とか、レースに出るフェレットとか、実にのどかな番組。早朝じゃ、ほかにはニュースか子供番組しかやってない。
 でも癖になっているので、ついじっとしていられなくて町へ出てしまう。しかしまだ8時じゃ店はみんな閉まってて、念願のイングリッシュ・ブレックファストにはありつけそうにない。とにかくまずガイドブックを買わないと。
 フォイルズという大きい本屋に行きたいのだが、本屋街はチャリング・クロス・ロードだということは覚えてるんだけど、その通りがどこにあったか思い出せない。
 しょうがないので、中心街へ行けば本屋ぐらい開いてるだろうと考え、オックスフォード・ストリート(新宿通りみたいないちばんの繁華街)へ。でもチューブに乗っている最中に、突然ヴァージン・メガストアに行きたくなって、トッテナム・コート・ロードで降りる。
 が、ヴァージンがない! この角に大きな本店があったはずなのに! どうやらトッテナム・コートは大規模な再開発の最中らしく、どこも工事中。それでヴァージンも消えちゃったのか。しょうがないのでオックスフォード・ストリートを歩くが、本屋もないし、店もみんな閉まってる。

 オックスフォード通りを歩いていたら、HMVがあいていたので、時間つぶしのつもりで入る。Franz Ferdinandのセカンドの限定盤を買い逃したので、捜してみたがなかった。StarsailorやManicsのシングルがないかと思ったら、これもなかった。もしかしてシングルって出てない?(最近チェックもしてないので知らない) なんかそんな気がする。
 シングルの品揃えも東京のHMVと変わらない。DVDも買うつもりだったが、BBCの自然シリーズなんて、私が持ってるのしかなかった。ダメだ、こりゃ。やっぱりこっちでもネットに押されてる。
 でもStone Rosesの再発シングルFool's Goldがあったので買う。1.99ポンド。あと、Associatesのシングル・コンピと、唯一CD化されていなかったファーストのCDがあったので、高かったけど買ってしまった。2枚組が15ポンドで1枚が10ポンド。まあ、日本で買っても同じか。これをeBayじゃ、なんであんなに安く売れるのかわからない。

 どこかで何か食べるという手もあるのだが、こんなところで食べたくないな。こんな朝早くにここらで開いてる店はいかにも忙しいビジネスマン用だし。イメージ的にいかにもイギリスって感じのカフェでなくちゃいや。そういうカフェはノッティング・ヒル・ゲートにたくさんあったはず、と思い出して、再びチューブに乗る。
 降りて歩いていたら、バーゲン本の店があったので、そこでTime Outのガイドブックを買う。HMVでは10ポンドしてたのが半額。それで地図を見たら、あちゃー! チャリング・クロス・ロードの入口はトッテナム・コートだったじゃないか。目と鼻の先にありながら!
 そこでここらで一休み。思ってた通りのカフェを見つけたのでそこでブランチにする。なんか以前入った店に似ているが、同じ店かどうかは覚えていない。カフェ・ダイアナという名前で、店内にはダイアナ妃の写真がいっぱい飾ってある。
 イングリッシュ・ブレックファストと言っても、10種類ぐらいあって、好きな取り合わせが選べる。私はあまりお腹が空いていなかったので、卵、ソーセージ、ベーコン、チップスを選んだ。

 これだこれだ! 本場のイングリッシュ・ブレックファスト。脂を落としてカリカリに焼いた分厚いベーコン、これも脂っぽくなくておいしい、ハーブがいっぱい入った太くて柔らかいソーセージ。チップスも私は中までカリカリのベルギー風より、外がカリカリで中はしっとりしたイギリス風のが好き。(まずい店だと外もベチャベチャになるが)
 かんじんのトースト頼むのを忘れたけど、これでも十分おなかいっぱいになる。あいにく紅茶もティーバッグだったが、言わなくてもミルクをたっぷり付けてくれるからよしとする。

おっと、うっかり昔の店名を書いてしまったが、名前がMusic & Video Exchangeに変わったのね。確かにレコードの時代じゃないからなー。

 この通りでRecord Exchange(中古レコード屋)が3軒も並んでいるのを発見。ここは前にも来たが、3軒もあったかどうかは忘れた。これはあちこちに支店のある中古レコード屋。ブラック、ポピュラー、クラシックの3店が並んでいる。
 さすがブリュッセルと違って、ここではいわゆるレア盤も扱っており、そういうのは壁の陳列棚の中に並べてある。プロモが主体だけど、それほどほしいものはないな。日本盤が貴重盤扱いなのに苦笑。
 ただ、プロモでインストゥルメンタル盤というのが出てるのは知らなかったな。数枚あって、中にThe Musicのセカンドがあったので買ってみる。7ポンド。こんなのもeBayでいつでも買えるんだろうけど。
 とにかくeBayとオンラインショップがレコード屋をつぶしているのは間違いない。実際、かなり多くのレコード屋が消えてたし。でもこういうのを見ると、やっぱりStrangelove Recordsは存続させる必要があると、少し勇気が出た。
 なんか荷物が重いし、たくさん着すぎて暑かったので、いったんホテルに戻ることにする。ところがチューブに乗っていると、暑すぎて気分が悪くなってきたので、途中のクイーンズウェイで降りて、歩いてホテルに帰ることにする。そういえばまだ公園見てなかったし。ここからケンジントン公園を抜けて、まっすぐ歩けばホテルに出るのだ。今は途中のベンチで一休みして、これを書いてるところ。平日なので、人も少なく、雨も上がって、のどかで気持ちがいい。

5:45 p.m.

 あのあと、ホテルへ向かって公園を歩いていたら、おじさんにキスされた(笑)。

ケンジントン公園の散歩道

 私が歩いていると、地元民の50才ぐらいのおじさんが寄ってきて、「ここはいいところだよね」とか、「どこから来たの?」とか話しかけてきたので、おしゃべりしながら歩いていると、「きみって本当にきれいだね。ご主人は幸せ者だ」などと言い始める。
 ナンパかと思ったが、「ホテルどこ?」とか、「一杯おごらせて」といった見え透いた誘いはなしなので、私も気にしなかった。結婚はしていないと言うと、「なんと、日本の男は見る目がないのか! きみみたいな女性を放っておくなんて考えられない!」と大げさに驚いて見せ、私も同感なのでうなづく(笑)。
 でも別れ際に手を差し出すから、てっきり握手のつもりだと思ってこっちも手を出したら、さっと身をかがめて私の手の甲にチュッとキスをする。おおー! こんなのは生まれて初めてだ。ていうか、外人同士でもこんなの映画でしか見たことがないよ。
 しかもそれで終わらず、ハグしてくれというから、しかたなく手を差し出したら、いきなりぎゅっと抱きすくめられて、ほっぺたにキスされた。もう一度しようというから、それは丁重にお断りしたけど。すると、「なんでだめなの?」 なんでって言われても(笑)。「きみってすごくシャイなんだね」とかも言ってたが、シャイとかそういう問題ではないと思うが。

 念のため断っておくけど、イギリス人すべてがこういう人じゃないです。前にも書いたように、ベルギー人よりはむしろ人なつこいぐらいなんだけど、イギリス人は普通、見ず知らずの人間にこういうことはしないです。(イタリア人とかフランス人ならしそう) 私の魅力が抵抗できないほど絶大すぎたのか(笑)、でなきゃ単に観光客にキスするのが趣味の人なんだろう。イギリス人は変人には事欠かないので驚かないけど。
 でも、これって日本ならセクハラと騒ぐところだけど、あまりに邪念がなくてあけっぴろげなので怒れない。だいたい、「きれいだ」、「美しい」と連発されて、怒れる女はあまりいない。最後、分かれ道のところへ来て、またキスされるかと恐れたが、「また会えるといいね」とにこやかに手を振って別れたし。

 ホテルへ帰って、フロントで「近くにトラベル・エージェント(旅行代理店)はない?」と聞く。するとハイ・ストリートにあるというので行ってみた。観光なんかしないと言いながら、どこへも行かないのももったいないような気がして、明日はデイ・トリップ(日帰り旅行)でもしようと思ったのだ。でもそこは海外旅行専門だった。
 旅行代理店なんて、観光客の集まるところならあるだろうと思って、ピカデリー・サーカスに行ってみたが、ここでも見つからない。そのくせ、最初のロンドンではさんざん捜しまわっても見つからなかったチケット・エージェント(日本で言うプレイガイド。コンサートのチケットを予約したかったのだ)はいくらでもあるし。なかなか思い通りにはいかないもんだ。まあ、いいや。日帰り旅行もけっこうお金かかるし、観光はもう十分したから。

 午後はチャリング・クロスへ本屋めぐりに。私の狙い目はファンタジーとSFの日本で翻訳の出てないやつ。特にシリーズものは、日本では1巻だけが翻訳されてそれっきりというのが多いので、買うものはいっぱいあるはずだった。
 ところがそういうのはたいていかなり昔の作品で、本屋には最新刊しか置いてない。それともこのジャンルは人気ないのか。たしかにそうかもね。12年前はもっとたくさんあったような気がしたし。でも『ハリー・ポッター』があれだけ人気なんだから、ファンタジーぐらいもっとあってもいいのに。
 作家も日本の洋書屋でも置いてるような人気作家ばかりで、これなら本もeBayで買った方が早いし安いぐらい。がっかり。Richard Dawkinsの新作や、G.R.R.Martinは短編集が出てるが、どうせ日本で翻訳が出そうなものは買う気が起きない。
 SF・ファンタジー専門の古書店もあったはずなのだが、場所を忘れてしまっている。そのままあっちこっちをブラブラ歩きまわって、ケンジントンに帰った。

 ハイ・ストリート・ケンジントンへの帰り、サウス・ケンジントンの駅で、サークル線に乗り換えようとしたら、サークル線は止まっているというアナウンスが。観光客がとまどってウロウロしているのを尻目に、ハイ・ストリート・ケンジントンへ行くには隣のアールズ・コートまで行って、ディストリクト線に乗り換えればいいことを知っている私は余裕しゃくしゃく。誰か訊いてくれないかと思ったぐらい。いや、あまりにしょっちゅう止まるので覚えちゃったんですよ(笑)。

ラウンドポンドのほとりの私のお気に入りのベンチ。知らない人が座ってますが。
ラウンドポンドの夕焼け

 実は観光よりもずっと楽しみなことがあったのだ。それはケンジントン公園のラウンド・ポンドのほとりに座って、夕焼けをながめること
 今回の旅行のベスト・モーメントは、観光でもサッカーの試合でもなくて、アンドレの家の、猫の額ほどの庭で、デッキチェアに寝そべって日なたぼっこをしたこと。同様に、初めてのロンドンでいちばん印象に残っているのは、この池のほとりで過ごした時間だった。あの至福感はよく似ている。そのとき、何がなんでもここに戻ってこようと思って、二度目の時も泊まっていたのはケンジントンじゃなかったのに、わざわざ訪れたほどなのだ。

 その名の通りのまん丸な池で、それほど広くもないのだが、無数の鳥が群れている。白鳥、大きなカモの頭の黒いのと茶色いの(同じ種のオスメスかもしれない)、カモメ、ハト、それに細かい茶色い模様のかわいらしい水鳥、その他いろいろ。
 ここの鳥は人間をまったく恐れない。というより、人が投げるエサが目当てで寄ってくる。(リスとかもそう) これだけの野生の鳥を、こんなに近くで見るチャンスはめったにないので、それだけでも楽しい。鳥たちが泳いだり、エサを取ったり、羽づくろいをしたり、ケンカしたり、眠ったりしているのを見ているだけで時間が過ぎていく。
 そしてその上に広がる灰色の雲におおわれた空を眺めているだけでも楽しい。空はやっぱり大陸とはぜんぜん違って、いつも灰色の分厚い雲がかかっているのだが、この雲が立体感があって、すごくきれいなのよね。
 こういう、時間が止まったような空間が、なんで日本にはないんだろう?と友達に言ったら、「それは旅行者じゃないからよ」と言われてしまった。それはごもっとも。うちのそばの葛西臨海公園だって、広いしきれいだし鳥もいるし、あそこで海を見ているのもいいものなんで、私は暇があればできるだけ出かけていくんだが、そんなに何時間もいる気にはなれないんだよね。でもここでなら永遠にこうしていたい

 通りすがりの地元民がホリデー帰りらしく、旅行の話をしている。「オーストラリアって最低。あんなところ二度と行かないわ」と言っているのを聞いて笑う。

 本日の夕食は、チキンスープとカンバーランド・パイ(グレービーソースであえた牛挽肉とマッシュポテトのパイ)、マカロニ・チーズ(日本のマカロニグラタンのようなものだけど、チーズたっぷり)、名前は知らないが、夏野菜のいためもの、フルーツ・カクテル、アップル・クランブル(リンゴのケーキ)。なんか自炊だと、いきなり食生活が豪華に!
 しかし、マークス&スペンサー(高級スーパー。ダイアナ妃といっしょに死んだボーイフレンドはここの御曹司)は味落ちたな。カンバーランド・パイははっきり言ってまずかったし、アップル・クランブルはカップ入りで本物とは似ても似つかなかったし、リンゴが甘くなくて苦い。生のフルーツのほうがよっぽどうまかった。昔(25年前)は毎晩ここで冷凍食品買って食べてたが、うまくて感動したのに。

ハイ・ストリートのWhole Foods

 その代わり、同じ通りの並びにWhole Foodsという自然食品の巨大なスーパーができていて、そこでお総菜の量り売りをしていたのだ。こういうのは日本にもたくさんあるが、日本じゃ食べたいものが何もないのでめったに買わない。だけど、ここでは目移りがしそう。
 しかも電子レンジで暖めなおせば熱々が食べられる。自分の目で見て選べて、好きなものを好きなだけ食べられるところがいい(こっちじゃ量が多いのがネックで、食べたくても食べられないことがよくある) 
 しかし見るからに気取った高級感のあるスーパーで、すごい高いかと思ったら、あれこれ買っても千円も行かなかった。(日本のデパ地下やスーパーの量り売りって、ものすごく高くないですか? それならまだレストランで食べた方が安い) こんなのがうちのそばにあったら! ここで買ったものはどれもおいしかった。明日から全部ここで買おう。

 意外だったのはフルーツがうまかったこと。ゴミを出したくないし、いろいろ食べたかったのでフルーツカクテルを買ったのだが、イチゴ、メロン、リンゴ、グレープフルーツ、ブドウが入っていて、砂糖はまったく使ってないカットフルーツの盛り合わせ。これがどれも甘くてうまい! やっぱり果物は日本が最高というのは間違ってたか。これは量が多くて、とうとう3日かけても食べきれなかった。

 しかし、25年前よりジャパニーズ・レストランの数は圧倒的に増えた。スーパーでも寿司とか売ってる。(私はもちろん嫌いなので食べないが)
 一方、25年前は、製品は日本一色だったのに、車と電気製品は韓国その他は中国製に取って代わられている。これも時代の推移だなー。
 アンドレの車もヒュンダイのRVだった。それまでずっとフランス車に乗っていたのだが、あまりにしょっちゅう故障するので、ヒュンダイに乗り換えたのだそうだ。それから一度も故障していないという。
 日本の躍進が目立つのはユニクロと無印良品。この2つはあらゆる目抜き通りに店を構えている。ユニクロなんてベネトンやGAPとモロに競合するのにやっていけるのかしら? 私はGAPが好き。今着てるジャケットもGAPだし。でも日本製は私には小さすぎるので、こっちでいいのがあったら買おうとGAPに入ったら、何もほしいものはなかった。ついでにタンクトップはローラ・アシュリー。ローラの店もハイ・ストリートにあるので行ってみたが、やっぱりほしいものはない。

 しかし、基本的に町は25年前とそんなに変わってないなー。日本なんか大学の休みが終わって2か月後に出講すると、店ががらっと変わってしまっているのに。(ちなみに、西葛西に帰ったら、閉店した書泉のあとにやはり大きな本屋ができていたり、わずか20日でいろいろ変わっているのであきれた)
 おや、そういえばケンジントン・マーケットがなくなってる!(これについては後述)

 イギリスにいるとテレビばっかり見ている。それほどおもしろいかというと、そうでもないんだけど、少なくとも日本のテレビみたいに見るのが苦痛じゃないせいか。イギリス人は動物番組が好きで、いつでもやってるので、動物の番組ばかり見ている。あいにくフットボールはやってない。英国ではフットボール人気が下降気味で、クリケットの人気が上昇してるんだって。やっぱりねえ。
 そういえば、捨ててあったタイムズ(イギリスじゃ新聞なんて買う必要がない。宅配なんてなないので、みんな駅で買って降りるときに座席に置いていくから。フリーの夕刊紙もいっぱいあるし)のスポーツ面を読んでたら、ワールドカップの予想が載っていて、地域ごとに優勝候補国についての解説が載ってた。ちなみにアジアは「見込みなし」だって(苦笑)。
 テレビで大学対抗のクイズ番組を見た。ロンドンのインペリアル・カレッジとサザンプトン大学の対抗戦で、4人1組の学生が回答者。ところがこの問題がむちゃくちゃ難しく専門的で、しかも歴史、地理、科学、文学、哲学、はては料理からスポーツまで、あらゆるジャンルから、しかも脈絡なく出題される。出題の仕方も凝っていて意地悪。「こんなの答えられるわけないよ!」という問題ばかりなのだが、それにスラスラ答えていくのにドギモを抜かれる。
 この学生たちが、もう見るからに極めつけの秀才って顔したのばかり。いや、学生の頭の程度なんて、ほとんど顔見ただけでわかるようになってしまいましたよ、私は。
 さすがだな。イギリスも大学の数を増やしたので、大学生の質が落ちたなんて言われてるが、まだまだ知的エリートであることに変わりはない。
 いいなー。私もこういう学生教えたいな。ていうか、教えることがなくて私のほうがバカにされるだけだろうが。

 今朝乗った地下鉄は通勤時間帯で、実際かなり混んでいた。ベルギーと違って、こちらは800万都市だから混んで当然なのだが、なのに車内がしーんと静まりかえっているのに、今さらながら驚いた。たまに女性がおしゃべりしながら乗ってくると、(にらみこそしないが)みんながさっと振り向くぐらい。もちろん隣の人との話はささやき声でする。
 しつけの悪いヨーロッパのガキども(エミリーとマキシムはもちろんそうじゃないが)にさんざん悩まされたあとでは、子供たちのお行儀の良さにも感心する。
 イギリスのスクールボーイって大好き! あの妙に大人っぽい制服が、おませな感じでお坊っちゃまぽくて、めちゃかわいいし。もっとも高校生ぐらいの年齢になると、見た目がほとんど大人なので、ちょっとグロテスクではありますがね。

 ただしイギリスへ来ると、みんな顔が庶民的(笑)なのでほっとするね。たとえば、デヴィッド・ベッカムなんて、イギリスじゃ最高の美男の部類だが、北ヨーロッパではあれぐらいザラにいる。公園のおじさんもあれぐらいの美形だったら、私はどこへでも喜んでついて行っちゃうんだけどな(笑) (別に不細工でもデブでもなかったが、普通の人でした。だいたい私より背低いし)
 でもやっぱり私はイギリス人の顔のほうが好き。絵に描いたような美男美女は、目つきが悪くていかにも性格悪そうに見えるんだもん。(話してみると親切だったりするのだが) イギリス人は情けないところがかわいい。中年になっても、あんな化け物みたいなデブは(比較的)少ないし。

気候について

 朝は雨だったので傘を持って出たが、一度も使わなかった。イギリスの雨はしょぼしょぼ降る雨なので、ほとんど濡れない。天気予報を見ても、どうせ全国雲のマークばかりで、予想なんてしてもしなくても同じなのに。これも晴れるとカンカン照り、降れば嵐のようなどしゃ降りの過激な大陸の天気と対照的。
 でもこっちは暑い! とにかく大陸であれだけ凍える思いをしたので、イギリスはさぞかし寒いだろうと思っていたのに。日中歩いていたら、汗だくになってしまった。大陸じゃみんな厚いパーカやコートや革ジャンを着て歩いていたのに、こっちはみんなTシャツ1枚にセーターを腰に巻いている。うーむ、結局私が持ってきた衣類はイギリス向きだったのか。 

 旅に出ていると、夜は遅くても10時に就寝、朝は遅くても7時には起床の生活が続いている。おまけに一日中歩きまわって、快食快眠快便。あまりに健康的すぎて気持ちが悪くなるぐらいだ。こんな生活をしたのって、もう何十年ぶりだろうか。
 でも、いつもみんなに「もっと健康的な生活をしろ」と言われているが、してみても何がいいのかあんまりわからないんだけど? 確かに病気はしてないがそれだけ。むしろこんなに慣れない暮らしをしていると、日本に帰ったとたん病気になるんじゃないかと心配。
 まあ、おかげさまで足はだいぶ筋肉付いて、お腹もへっこみましたがね。日本へ帰ればすぐ元通りになるから。

17日目 (ロンドン→リーズ・カースル→ロンドン)

9月8日(火) 12:01 p.m. Bearstedに向かう車中にて

絵ハガキのようなリーズ城

 今日はなんと朝から青空が広がり、さんさんと陽が差す、イギリスでは真夏でもめったにない快晴。こんな日にロンドンにいるのなんかもったいない! 絶好の遠足日和ということで、お出かけすることにした。

 そこでリーズ城(Leeds Castle)に行ってみることにする。名前はリーズだが、リーズじゃなくてケントにある。私はロンドン近郊は、バースも行った、ストーンヘンジも行った、ウィンザー城も、カンタベリーも行ってしまったので、どこへ行こうか迷った。ブライトンへ行って、パヴィリオン(変な王様が立てた変なお城)を見ようかとも思ったのだが、たまたまホテルにあったパンフレットにリーズ城が載ってたのだ。
 天然の湖に浮かんだお城だって。なんかすてきそう。行ってみたい。
 これに行き方も書いてあって、国鉄(おっと、もう国営じゃないのか?)のBearstedという駅から、バスが出ているらしい。また乗り換えとか面倒だから、ツアーがあるといいんだがな。そこでいちおうヴィクトリア駅のコーチ・ステーション(長距離バス乗り場)へ行って、バスの便がないか訊いてみる。すると、ツアーしかなくて、それはもうみんな出てしまったという。そこでヴィクトリア駅で切符を買う。

 ロンドンの地下鉄は達人の域に達した私も、鉄道はあまり乗ったことがないので、昔は鉄道を利用するときは緊張した。でもヨーロッパであれだけ乗ってすっかり慣れたので、もう迷うことはない。売り場で往復切符を買い、駅の掲示板を見てホームに行くだけ。この掲示板も大陸のより見やすくて、途中停車駅が全部書いてあるから安心。
 ただし、こっちの駅はホームが異常に長くて、同じホームに2台の別の電車が止まっていることがある。今日も手前に止まっていたのは回送電車で、昔の私ならそれに乗ろうとしただろう。でも言葉がわかり、鉄道にも慣れた今は迷わずホームのずっと先まで歩き、目的の電車に乗る。

1:38 p.m. リーズ城の庭園のベンチで

Bearsted駅

 列車は1時間ほどでBearstedに到着。森に囲まれた、小さくてかわいらしい駅だ。やっぱり田舎の駅も大陸よりずっときれいで雰囲気あるなあ。城の他には何もない、ただの田舎町だが、チューダー調の家々と森がとてもすてき。アンドレとヴァレリーはフランスの自慢をして、イギリスをけなすけど、田舎もやっぱりイギリスのほうがずっときれいだよな。街の絢爛豪華さもパリやローマにまったく引けを取らないし、そもそも私は建物ならロンドンのほうがずっと趣味が良くて美しいと思う。

 駅を出たところにリーズ城行きのバスの看板が立っていて、発車時間も書いてある。こういうところも親切。
 バスを待つ間、台湾から来た女の子と少し話した。言っちゃ悪いけど、台湾とか中国の人ってすぐわかるね。やたら化粧が濃くて服装もがんばりすぎで、のどかな田舎なのにディスコでも行くみたいな格好をしている(笑)。これはある程度日本人にも言えるんだけど、日本人のほうがまだ多少センスがいい。やはり海外旅行に慣れてないせいか、昔の日本人観光客みたい。でもこういう人たちはみんな英語ができるのが、日本人との違い。(海外に行けるほどの金持ちの中国人は、すごく教養レベル高いです)
 待っていると10分ほどで白髪のやさしそうなおじいさんが来て、「リーズ城行く人ー!」と呼びかけ、その場で立ったまま料金を集める。往復で大人5ポンド。これもわかりやすくていい。観光地ではとにかくいつ、どこで料金を払うのか、どこからバスが出るのか、迷うことが多かったので。バスはマイクロバスで片道15分ほど。

城へ向かう途中の静かな池のほとり

 私はバスが城の真ん前に止まって、人がゾロゾロ降りるというのを想像していたのだが、門をくぐると、森の中をえんえん走る。そうそう、こういう田舎のお城ってのは広大な領地がついてるんだってことを忘れてた。なんか向こうじゃ街の中にある城ばかり見てたので。
 バスは駐車場に止まり、そばにある料金所でチケットを買って中に入る。おじいさんはバスのそばに立って、「帰りのバスもここから出るからねー。時間は毎時0分だよ。半券なくさないでね。でないとまた買うはめになるからね」と、小学校の遠足みたいで親切このうえない。というか、それぐらい言われないと必ず失敗する小学生の私にはありがたい(笑)。
 入口を入ると森の小道のようなところを歩いていくんだが、いつまでたっても城はどこにも見えない。途中にすばらしいウォーター・ガーデンがある。巨大な柳の枝が垂れ下がる中、滝もある小さな池や小川が広がり、白鳥や黒鳥が泳ぎ、クジャクがゆったりと歩いている。きれいだねー。イギリスの庭園というのは、日本庭園と同じで人工的でなく、自然の姿を大切にしてるから好きだ。聞こえるのは水音と葉ずれの音と鳥の声だけ。

 と思ったら、団体さんがやってきたので、それをやり過ごすためにベンチで日記を書いている。これは確かに16.50ポンド(入場料)払う価値があったな。暑いが、木漏れ日は涼しいし、あー、城なんて見ないでも、私はここで閉園までじっとしててもいいよ。ツアーで来なくて良かった。こういうぜいたくができるのもひとりだからこそだし。

3:29 p.m. 帰りの車中

リーズ城全景。
曇り空も風情があるけど、私が行った日は冗談のような快晴だったので、トップの写真のような、冗談のようなきれいさでした。

 あのあと、のんびり歩いて城へ向かった。見えてきたときはやっぱり「うわー!」と思いましたね。11世紀に建てられた城は、絵に描いたような中世のお城。本当におとぎ話のお城そのものだ。ただ、ごく最近まで城主が住んでいたため、中はほとんど改装されて中世の面影はない。
 それがまわりになんにもない湖の真ん中に、ぽっかり浮かぶように建っている。うん、岩山をそのまま利用したディナンのシタデルも良かったが、これもいいわあ。やっぱりなんというか、こういう自然と一体化した建築物って、なんとも言えずすてきよね。晴れ渡った空を映して、湖も絵ハガキのように真っ青。

 城の入り口へは湖のほとりに降りて、地下のワインセラーから入る。ここは中世っぽい。さらに中世そのものの暗く狭い石段を上がって上の居室へ向かう。
 過去には多くのイングランドの王様や女王様が使った城だが、最後の所有者はただの貴族だったので、内装はそんなにむちゃくちゃゴージャスな感じではない。でも、そこがかえって生活感があり、往時の貴族の暮らしが見えておもしろい。もっとも私がシムピープルで作ってる部屋とそっくりなので笑っちゃったが。
 確かに中世の城は各地にたくさん残ってるが、中まで中世のままというのは、まず残ってるはずがないんだよね。こっちの城はほとんどが観光用じゃなくて使ってる城だから。観光用にそういうのを再現した城があってもいいとは思うけど。中世を売り物にしたのはロンドン塔とか、そういう見世物じみたのばっかりなのが残念。

 というわけで、中は思っていたより質素だったのだが、窓からの眺めは格別。眼下には湖が広がり、そのはるかかなたの森も野山もぜーんぶ自分のもの(外の世界はまったく見えない)なんだから、やっぱり我々には想像できない世界だけど、気分がいいだろうなーというのはよくわかる。

 城を見終わってお昼にする。こぎれいなレストランもあったが、むしろこんな日は外で食べたいと思い、サンドイッチとコーヒーを買って、城が見える湖のほとりの芝生にすわって食べた。
 ブラックバード(和名クロウタドリ。鳴き声がきれいな真っ黒な鳥)が寄ってくるので、パンの耳をあげた。「クジャクにエサをあげないでください」とは書いてあったが、他の鳥については何も書いてなかったので。
 教訓――外でピクニック気分にひたるにはビニールシートが必要。いやな虫とかはいないが、芝生は晴れてても湿った感じがするうえに、そこらじゅう鳥のフンだらけなので。ハンカチ敷いただけじゃ、寝っ転がることができなかったのが残念。

 そのあと、まだ見てない敷地のあちこち(すべて入れるわけではなく、観光用コースができている)を見てまわる。遠くで歓声がするので、何かと思って行ってみたら、鷹匠の実演だった。あいにく私が着いたときにはちょうど終わったところだったけど。これはうちの近くでもやってるので、まあいいや。
 でも、ここで馬上槍試合の実演とかもあるらしい。それは見たかった! 流鏑馬とかでもすごい迫力あるからね。
 ここには鳥類園もある。場内にも鳥の絵がいろいろ飾ってあったし、図書室の蔵書をチェックしたら、鳥の本がたくさんあった。(あとはありきたりの全集のたぐいで、城主は明らかに読書家ではなかったね) イギリス人は鳥好きだなあ。私も好きだけど。
 猛禽ばかりを集めた小屋もあって、その近くに、明らかに鷹狩りに使うとおぼしきタカやワシ、ハヤブサが、なんの囲いもない止まり木に1羽ずつ止まっている。おとなしいので、初め剥製の鳥かと思った(笑)。見ると足輪にひもがついて止まり木に結びつけてあるだけなのだ。
 かわいそうな気もするが、鳥たちはいたって満足な様子だったし、毎日空を飛べるんだから、一生カゴの鳥で終わる動物園の鳥たちよりはましだ。
 檻がないので近くでじっくり観察できた。ワシはまるで鳥類のライオンのようで、獣って感じがするが、タカやハヤブサは本当に賢そうなつぶらな瞳をしていてかわいいし、まるでこちらの心を見透かすような知性を感じさせる。ほしいなあ、こういうの。たとえ城はなくても、駿馬とタカを持ってるというだけで、貴族ってどれだけぜいたくなんだと実感させられる。

 あとは花壇とかブドウ園とか。花壇には一面にバラが咲き乱れる‥‥というにはちょっと時期が遅くて、終わりっぽいが、それでも夏の終わりにまだこんなに咲いてるなんて。あと、お決まりの迷路もあった。ちょっと入ってみたが、こんなところでまで迷いたくないのでやめた。あとは子供の遊び場や、ただただ広い芝生や森が広がっている。

 結局、11時に来て3時までいた。帰りたくなかったが、とにかく暑くてバテたので。
 なんなんだ、イギリスでこの暑さは! 大陸とは本当に別世界だね。30度ぐらいはあるんじゃないか。(夜の天気予報では、28度まで上がったと言っていた。Glorious day!とも) もちろん風は涼しいが、ベルギーではどんな暑い日でも風は冷たかったのが、ここでは暖かく感じる。なるべく木陰を選んで歩いたり座ったりしていたのだが、また汗があふれてくる。ベルギーじゃ一度も汗なんてかかなかったのに!

 あ、学校帰りの男の子たちが電車に乗ってきた。中学1年生ぐらいか。私は「イギリスの学校の制服姿の男の子」に目がなくて、この子たちも本当にかわいー!
 日本の中坊なんて憎たらしい盛りだし、ブレザーにネクタイの制服は日本の私学でもありふれてるのに、この違いはなんなんだ!
 何度も言うが、顔はべつにそんなにかわいいわけじゃないのよ。(それでも10人にひとりぐらい、すごいきれいな子がいるが) むしろ見るからにいじめられっ子タイプとか、逆にいじめっ子タイプとか、ガリ勉タイプとか、それでもなぜか制服着るとみんなかわいく見える。お行儀もいいしね。
 中学生グループなんて日本ならいちばん目障りでうるさいじゃない。この子たちも盛んにおしゃべりしたり、飲み食いしたりしてるが、降りるときにはお菓子の空き袋とかペットボトルをみんな集めて持っていった。まったくもう日本の大学生に見習わせたいよ。(学生の帰ったあとの教室は、空き袋や空き缶だらけである)
 さっきのお城でも、ドイツ人かオランダ人のティーンエイジャー団体(18才ぐらい)と鉢合わせして、こいつらがうるさいの何のって、みんなが眉をひそめていた。やっぱりイギリス人は小さいうちから訓練されてるだけあってお行儀がいい。
 列車もすいていて、6人がけの席をひとりで占領できてうれしい。ユーロスターはあんなに高かったのに、座席も狭くてぜんぜん快適じゃなかった。

8:30 p.m. ホテルにて

 ヴィクトリア駅で電車を降りたが、まだホテルに帰りたくなかったので、周辺を散策する。他に見るものがないので、バッキンガム宮殿までブラブラ歩いていったが、この時間にはおむ見学は終わっている。だいたい宮殿は高い塀に囲まれてるから、外から見ても意味なかった。そこでヴィクトリアへ戻る途中、Royal Mews(王室の厩舎)のショップが開いていたのでなんとなく入る。
 そしたら例の騎士人形がここでも売っていて、ケルンではなかったやつもある。そこでまた一組買ってしまう。黒馬がほしかったのと、弓兵がほしかったのよね。
 なんかこの人形が今回の旅行の唯一のみやげものになりそうだ。ほかに気に入った名所のガイドブックは買ってるけど。これは写真を撮る代わりと、あとで思い出すために。

 あとはハイ・ストリート・ケンジントンに戻って、またWhole Foodsでお総菜を買って夕ご飯。今夜のメニューはビーフ・エンチラーダと、チャーハンと、豆腐の中華炒めと、チップスと、野菜炒め。なんかもうでたらめな取り合わせだが、少しずつなんでも入れられるのがいいのよね。っていうか、これをひとつのパックに詰め込むから、見た目も内容も機内食のようでもある(笑)。あとはまたチキンスープとデザートにクランベリー・マフィン。どれもうまかった。さすがにマフィンはお腹に入らなくて、これは明日の列車の中で食べよう。
 中華はもちろん英国風中華で、日本のとはだいぶ違う。(だから洋食と組み合わせても違和感ない) しかしふと気づいたんだが、ご存じのようにこっちではライスは野菜なので、チャーハンは野菜炒めってことになるんだな(笑)。豆腐は厚揚げで、見た目は日本と同じだが、硬く歯ごたえがあって、しっかり揚げてある。私はやっぱりこの方が好きだなあ。

 あー、しかし、明日はもう帰途につくのか。実はもう1日ブリュッセルでホテルに泊まるのだが。ブリュッセルを出る飛行機が10:40なので、ロンドンから戻ったのでは間に合わないのよね。あーあ、ヴァージンにしておけば、もう1日ロンドンにいられたのに! ブリュッセルには夜着いて、翌朝早く出るから、寝るだけのために110ユーロも取られる! 同じホテルなのに、なんで日によってこんなに値段が違うんだよ。まあ、イビスは悪くなかったからいいけど。

 ところで、大陸のヨーロッパは完全に国境がない。隣国への移動も、書類書く必要もないし、パスポートを見せる必要もない。おかげでパスポートがハンコで埋まるのを期待していた私はちょっとがっかり。
 しかしなぜかイギリスへの入国は、飛行機に乗った時みたいに、入国審査も荷物検査もある。イギリスはやっぱり外国なんだな。

喫煙について

 かつての喫煙者王国イギリスがすっかり様変わりしてたのには驚いた。なにしろかつてのイギリスは、列車はもちろん、バスの車内でも地下鉄でもタバコが自由に吸えて感動したものだが、今はパブを除く、すべての公共の場所での喫煙が禁じられている。
 ホテルやレストランも公共の空間だからもちろん禁煙。隠れて吸ってるけどね(笑)。だって、ひとりっきりで吸って誰に迷惑かかるってんだよ。窓は開け放して風がビュービュー吹き込んでるし、吸いがらはちゃんと集めてゴミ箱に捨ててるし。
 まあ、日本みたいに路上喫煙禁止なんてヤボなことは言わないし、カフェも外のテラス席ならOKだし、街角には灰皿もあるから、日本よりはまだだいぶましだけどね。
 でも大陸はもっと自由だったのに。こんなとこだけアメリカのまねしやがって。

 おまけに高い! タバコ屋で値段を見たら3ポンドちょっとで、これなら大陸よりちょっと高いぐらいだなと思ったが、買ったらそれは10本入りだった! 普通の20本入りはなんと1箱が千円以上
 これじゃイギリス人はいやでも禁煙せざるをえないわけだ。おかげでもったいなくてチビチビ吸ってる。これが禁煙の役に立つかというと、私の場合、日本に帰ったら思いっきり吸ってやる!と考えてるんだからやっぱりだめだけど。

 さらに今度は酒の広告が禁止になるらしい。おかげで酒造会社がスポンサーのフットボール・クラブなんかパニックになってるみたい。これもアメリカの悪影響。

フットボールの話

 明日はイングランド対クロアチア戦なのだが、見れないのがすごく残念。明日もロンドンにいられたら、ウェンブリーまで見に行けたのに! 《日本へ帰ってきてから結果だけ見たが、ランパードが2点、ジェラードが2点、ルーニーが1点とって、5-1の圧勝だった。あんなオランダ戦よりこっちが見たかった!》

 今日のデイリー・テレグラフのスポーツ面を読んでいたら、ベッカムはワールドカップに行けるかという特集だった。うーん、心情的には行かせてやりたい。彼がW杯とイングランドにどれだけ特別な感情を持っているか知っているから。でも、同じポジションにレノンやウォルコットみたいなピチピチの若手、しかも攻撃的な選手が出てきてしまっては、かなりむずかしいだろうな。こないだのW杯ではレノンもウォルコットもひよっこだったのに、ほんとスポーツ選手の命は短い。
 ここまで書いてふと気が付いた。かつての名選手も34才になって、もうほとんどパサーとしてしか使えなくて、攻撃力のある若手にポジションを脅かされているって、今の日本の中村俊輔そっくりじゃないか。こっちも本田という攻撃的な若手が育ってるのに、なのになんでベッカムほどのスーパースターが外されてるのに、俊輔は不動のレギュラーで、本田が控えなの?
 岡田バカ! JFAもバカ! (だってあんな試合、一度でもしたら向こうなら首が飛ぶでしょ)もう後進国だからしかたないけどさ。

 それはそうと、それでもベッカムには出てほしい。たとえベンチでも彼なら若手のいいお手本になるし、精神的支えにもなるからね。新しいイタリア人監督も、練習にはいちばん早く来て、最後まで残っているベッカムの熱心さとまじめさには感心しているようだし。
 なんというかベッカムの悲劇は、なまじちょっとばかり顔がよかったばかりに、本来フットボールのことしか考えられない、まじめな努力型の地味な選手が、メディアのいい餌食にされたってことだな。それでも紆余曲折を経て、イングランドの顔になったんだから立派。
 ただ、未だに納得いかないのは、なんでアメリカなんか行ったのかってこと。しかも5年契約だなんて、本気で草も生えないサッカー不毛の地アメリカに骨を埋めるつもりだったんだろうか?
 その後の本人の言動を見ていると、ヨーロッパに戻りたくてしかたないようだが、やっぱり行ってみて誤算に気づいたのかな。かわいそう。でもかわいそうと言えば、あれだけ愛していたマンUを追い出されたのもかわいそう。このかわいそうさがまた人気の秘密なのだが。

18日目 ロンドン→ブリュッセル

9月9日(水) 11:30 a.m. ハイ・ストリート・ケンジントンのカフェにて

ハイ・ストリート・ケンジントンの地下鉄駅

 今日はロンドン最後の日。ぐすん。ユーロスターの発車は4時。ホテルのチェックアウトは11時なので、荷物だけ置かせてもらって、あとは時間までこの辺でブラブラしてるつもり。
 ホテルを出てからボールペンをどこかに置き忘れてきたことに気づく。カメラはなくても平気だけど、日記が書けなかったら死んじゃう!というわけで、あせってるのにはわけがある。
 ポンドをちょうどいいぐあいに使い切ってしまって、財布にはきっちり5ポンドしかない。ヴィクトリア駅までの切符が4ポンド、1ポンド以下のボールペンってあるかしら? こっちって100円ショップはないし、物価けっこう高いからないかも。もちろん日本円は持ってるのだが、1万円札しかないし、ボールペンのために高い手数料払うのはもったいない。もちろんカードはあるけど、ボールペン1本をカードで買うわけにもいかない。
 Ryman's(大手文房具屋チェーン)へ行ってみると、Bicの安いボールペンは39ペンスだった。あー、良かった。しかし、これで切符買うと所持金数10円になっちゃうな(笑)。貧乏旅行もいいところだが、とにかくブリュッセルに着くまでこれで乗り切るしかない。さいわい、タバコも水もまだあるし。
 教訓――外貨は使い切るなんてケチなことは考えずに、両替は多めにしておこう。

 まずは朝ご飯だ。ハイ・ストリートを歩いていたら、Cafe Concertoという名前のすてきなカフェがあった。前はこんなのなかったように思う。ここでバカのひとつ覚えのイングリッシュ・ブレックファスト。だって次はいつ食べられるかわからないんだもん! 迷わず、「全部入り」とポットのお茶を頼む。
 おお、今度はちゃんとした金属製のポットで出てきた。ママレードとイチゴジャムはプラスチックのパックじゃなく、ちゃんとした小さな瓶入りだし! ここはかなり高級なカフェみたいだ。でも値段はお茶が別で10ポンド。(カフェはカードが使えるからキャッシュレスでOK)
 出てきたのは、ベーコン、ソーセージ、焼いたトマトが半分、目玉焼き2個(うっ、ちょっと多すぎる)、焼いたマッシュルームが4個(これが大好き。日本のとは香りが違う)、トマトソースで煮た豆(イギリス人はこれが大好きでトーストに載せて食べるのだが、私はあんまり好きじゃない)、これにカリカリの薄いトーストが2枚付く(これが大好きで、できれば10枚ぐらい食べたいのだが。
 最後はコレステロールやダイエットのことは忘れて思い切り食べようと思ったのだが、さすがに全部は食べきれず、豆は少し残した。ママレードとイチゴジャムは見たらどっちも未開封で、一口味見したいだけなのに、封を開けるのはもったいないような気がしたので手を付けず。こういうところのケーキ、おいしいんだがなあ。でもちょっと入らない。

テレビの話

 昨夜はテレビを見ていて、11時まで夜更かししてしまった。9時から見たのはBBCお得意の自然紀行番組。ニューギニアの人跡未踏の(科学者が入ったことがないという意味)山奥に、未発見の動物を捜しに行くというもの。
 人間が(ホスト以外)出ないというのはデヴィッド・アッテンボローの番組だけの特徴で、これもどっちかというと、動物より取材の苦労話のほうが多い。でも出演しているのは全員本職の動物学者。これはいい。(恐竜学者を見ていて思ったのだが)科学者というのは、下手なタレントよりキャラが立った人が多いので、それを主役にするのは間違っていない。
 昆虫学者の品のいい白髪のおじいさんなんか、めずらしい昆虫(当然ながら、ものすごくでかくてキモい)を見つけると、大騒ぎして、いかにもいとおしそうにブチュッとキスするあたりがたまらない。
 ただ、このあたりはワニが最大の動物で、あとは小動物だけ。哺乳類もネズミやクスクスがいるだけってのがちょっと絵的には地味ですな。でも滝の中腹にある洞窟に命がけの探検に行くところなんかスリル満点でおもしろかった。(なんせドキュメンタリーで、すべて特撮じゃないですからね) 続き物であとは次回のお楽しみってわけなんだが、私はその次回が見られないのが残念。このたぐいの番組は毎週やっていて、当然DVDが出ていると思ったのだが、売ってなかったなあ。

 そのあと10時からはマーキュリー・プライズの授賞式を見る。
 まあ、マーキュリー・プライズという賞自体、わけわからんもので、なにしろジャンル混合、ロックもジャズもクラシックもフォークもヒップホップもまぜこぜのノミネーの中からいちばんを選ぶってこと自体、不可能に近いし、例年の受賞者もわけわからん顔ぶれだし、たちまち消えちゃったような人も多いけど(笑)。
 ただ、Kasabianが出るというので見てただけ。たしかKasabianって去年もノミネーとされなかったっけ? まだ人気あるのか?
 でもノミネーの演奏は全部じゃなくて、さわりしか見せてくれないのね。ちぇっ、なーんだ。15組もいるから1時間番組じゃ無理なんだけど。Kasabianの他は、Friendly Fire、The Horrorsあたりが私のジャンルなのだが、ちらっと見た限りでは、悪くはないけど今いちくんだなー。
 結局受賞したのは、Speechなんとかという女性ラッパー。なーんだ。もともとラップは好きじゃないが、それほどうまいとも思わないし、なんで選ばれたのか不明。

音楽について

 そういや、音楽の話、ぜんぜん書いてなかったね。というのも、旅行に出て以来音楽というものをほとんど耳にしていないので。余裕があれば、コンサートとかも行けたんだけど、鬼のような観光の連続で、捜す暇もなかった。
 結局、音楽らしい音楽を聴いたのは、ブリュッセルのメトロのBGMと、ロンドンの本屋で流れていたPortisheadと(図書館のように静かな書店内では、Portisheadが妙に合っていてすてきだった)だけ。テレビで音楽番組を見たのも、この3日間でこれが初めて。
 これは驚きだ。大陸のことは別として、ロンドンにいてこんなに音楽に飢えているなんて。
 というのも、最初のロンドン滞在の時、私は当然のようにウォークマンを持参したんですよ。1日でも音楽聴かないと死んじゃうと思って。ところが現実には、ウォークマンはほとんど使わなかった。だって、音楽は街にあふれていたから。テレビでもいっぱい見れたし、ホテルじゃいつもラジオを聴いていたし。(そういえば、今回の部屋にはラジオがなかった) バンドTシャツ着た人もいっぱい歩いていたのに、今回見たのはごく少数のメタル系だけ。なんかもう音楽自体が下火って感じ。これは日本の洋楽も同じだけど。

 そういや、Ken Marketってなくなっちゃったのね! これはハイ・ストリートにあった、えー、昔の原宿の地下にあったみたいな(名前を忘れた)と言ってもそんなの知ってる人、もう誰もいないだろうけど、とにかく、ロック関係の店ばかりを集めたマーケットで、薄暗い地下に、レコード屋や、ロック系の服やアクセサリーを売るブティックや、Tシャツ屋や、ポスター屋なんかが、闇市的にごちゃごちゃと集まったマーケットだった。
 私はほとんど毎日のようにここに通い詰めたものだから、店員と友達になっちゃった。私がこのホテルを気に入ったのも、主としてKen Marketに近い!というせいだったのに。もしかして、今Whole Foodsが入ってるビルがそうだったのか。
 なんというか、ロックの時代は終わったというのをしみじみ感じますねー。ぐすん。ここで買った革ジャン、もうボロボロだから捨てようかと思ってたけど、Ken Marketのロゴを見るともったいなくて捨てられない。
 しかし、音楽も下火、フットボールも下火って、それじゃ今のイギリスの若者は何して遊んでるの? 携帯とニンテンドーだな。これもほとんど日本と同じ。実際、CD屋がどんどんつぶれて、ゲーム屋に取って代わられてるのを見ると東京と同じで、つまんねー!

ゲームについて

 かく言う私もゲーマー(ただしパソコン・ゲーマーという、これまた滅び行く人種)なわけだが、こちらのゲーム事情も日本と同じだ。アンドレの子供たちもニンテンドーに夢中。もちろんWIIも持っている。暇さえあればゲームやってるし、ドライブ中も携帯ゲーム機を放さない。マキシムはまだヨチヨチ歩きのガキだが、明らかにゲームは私よりうまい。
 ところで、WIIのゲームって、ヨーロッパではヨーロッパ向けのオリジナルゲームが出てるのかね? というのも見てたら、背景がいかにもヨーロッパだったり、題材がフェアリーテールだったりするゲームが多いので。

 きのうは半袖で汗だくになったのに、今日はパーカを着て(もちろんフードをかぶって)てもまだ寒い。でももうすぐあの熱帯に帰ることを思うと、寒さも心地よい。

 わっ、驚いた。白鳥ってでかいだけあって、飛び立つのもすごい騒ぎなんだな。群れが水面を助走し始めると、他の鳥はみんな逃げる。《この辺は公園のベンチで書いてます》

2:54 p.m. セントパンクラスの駅構内のカフェで

 やれやれ、重いスーツケースを持って歩くのはしんどい。今日はいつものお助けマンがタイミング良く現れず、やっと助けてくれる東洋人の若い人がいたので、これ幸いとスーツケースを持たせたら女の子だった。てっきり男の子だと思ってたよ! 悪いことしちゃった。女の子なら軽い方のカバンを持ってもらったのに。
 そこで次に手を貸してくれた若い白人女性には、キャリーバッグを持ってもらった。
 地下鉄が遅れたり止まってることも考慮に入れて早く出たので、まだ発車まで1時間もある。そこで構内のイタリアン・カフェでキャラメルマキアートを飲んでるところ。
 地下鉄に乗ろうとしてわかったのだが、自販機でもカードが使えたのね。なんだあせって損した。ほんとイギリスはキャッシュレスで楽。これもアンドレとヴァレリーに言わせると、イギリスだけユーロに加盟しないのは高慢で不便だと文句たらたらなのだが、私はポンドがなくなったらいや。

4:42 p.m. ユーロスター車中にて

 ハイ・ストリート・ケンジントンでは、(自家用に)お茶とビスケットも仕入れていこうと思って、スーパーをまわったのだが、今では日本でも輸入紅茶が買えるし、しかもインド製は安くてうまいことを思い出してお茶はやめた。(まして西葛西はインド植民地だし) ビスケットもベルギーのほうが絶対うまい。それなら空港で買えばいい。
 結局買ったのは、Boots(ファーマシー)で2つ買うと1つただという、安い化粧品だけ。3個で4ポンド。私はここの製品が好きだったのに、日本に進出したBootsは撤退しちゃったので。
 本も買うかどうかすごく迷った。買おうと思えばDawkinsの新作とか、Ruth Rendelの新刊とか、読みたい本はあったのだが、重いハードカバーを持って帰ること、それ以上にうちにはもう本の置き場がないことを思ってやめにした。だって、もしも日本で文庫本が出たら、(スペースの節約のため)それに買い換えなきゃならないんだもん。だいたい、苦労して持って帰ったら、同じ本が東京の洋書屋のバーゲンワゴンにあったりすることもよくあるし。

おみやげについて

 しかしなんにも買わなかったなー。こう禁欲的だと、毎日のように大量の服や本やCDを買いまくっていた最初のロンドン旅行が嘘みたいだ。
 実際、あのときはほしいものが山のようにあって、金も今よりあったけど。よくまああれだけ持って帰ったものだと感心する。本だけはさすがに郵便で送ったけど。ポスターまでいっぱい買った。ポスターやカレンダーは折れるといやなので郵送はできず、巻いてスーツケースに入れてきたんだよ。
 そのため、日本から持っていったものは着ている服を除いて全部捨てて帰った。
 今回もそのつもりだったんだけど、なにしろスーツケースはスカスカだし、結局捨ててきたのは、旅行のために買ったけど着てみたら気に入らなかったサマーセーターと、着古しのトレーナー1枚だけ。今回は全部捨ててもいい服で行くつもりだったんだけど、ひとりならともかく、いちおう他人さまの家に泊まるので、多少の見栄もあってパジャマや部屋着は新品かきれいなものを持っていったので捨てられなかった(笑)。
 あとガイドブックの類はロンドンで買ったのも含めてすべて捨ててきた。

 しかし自分はともかく最低限、早稲田の仲間と、マンションの管理人のために何か買わなくちゃ。早稲田の友達はいつもいろんなものもらってるし、管理人さんには留守中のことを頼んできたからね。もう空港の免税店でいいや。友達にはもちろんチョコ、管理人さんにはベルギー・ビールと決めてある。

テロについて

 英国の出入国が厳戒態勢なのは、やはりテロを警戒してのものらしい。実際、きのうも航空機を狙ったアルカイダがらみのテロ未遂の犯人に、有罪判決が下ったというニュースで持ちきりだった。水に見せかけた爆発物を持ち込むという手口で、機内への液体持ち込みが制限されたのもこいつらのせい。
 でもきのうのニュースでは、この持ち込み制限は近く緩和される予定だという。今の技術だと水か他の化学薬品かをすぐに見分けることができるんだって。この爆弾もどう見てもペットボトルの水にしか見えないのに、飛行機を落とせるほどの爆発力ってのもすごいが、それを見分けるってのもなんかすごいね。
 それにしても、ユーロスターの駅では、ポケットのある服を着た人にはボディチェックまでやっている。私は上下ともポケットなしだからよかったけど。

19日目 ブリュッセル→コペンハーゲン

9月10日 1:22 p.m. コペンハーゲン空港にて

 問題はこのクソコペンハーゲン空港で、3時間も乗り換え待ちをしなきゃならないことだ。喫煙者の皆さん、絶対にコペンハーゲン乗り継ぎだけはやめましょう。もっとも、どうやらヨーロッパの空港はどこも同じようだが。ブリュッセル空港は外へ出れば吸えたが、乗り継ぎのときも出られるかどうかはわからない。
 教訓――フライトを選ぶときは乗り継ぎの待ち時間にも気を付けよう。
 タバコが吸えれば3時間ぐらいぼーっとしてるのは得意なのに、タバコがないと時間のつぶし方がわからない。普通は3時間ぐらいは余裕で吸わないでいられるのに、吸えないと思うとそれだけでイライラする。日記を書いてれば3時間ぐらいすぐたつのだが、クソおもしろくもないので書くことがない。しょうがないのでつまらないことを承知で書く。
 しかし3時間も腰すえて書くには、ガヤガヤした待合室なんかじゃなく、もっと居心地のいいところ見つけなくちゃ。

 暇にあかせて空港中を歩きまわり、いいところを見つけた。Transfer Centreというところは、ここだけ天井がガラス張りの天窓で明るいし(ほかはどこも暗くて目が悪くなりそう)、木もあってほっとする。これでタバコが吸えれば天国なのだが。これだけバカ広い空港なら、喫煙所作る場所ぐらいいくらでもあるだろ!
 それをあえてしないのは、国民に健康を強制しようと魂胆だろうが。ご存じのように福祉大国のヨーロッパでは、病人が増えれば損をするのは国家だからね。しかし、自国民はともかく、老後の保障なんか何もない外国人にまで強要するな! (保障がないからこそ健康でいなくちゃならないという考えは浮かばない) だいたい喫煙の害なんかより、あの肥満をなんとかするほうが先でしょ! あんなに太っていて病気にならないはずがない。

 というわけで、昨夜の話。と言ってもホテルは最初の晩に泊まったのと同じイビスだし、ほんとに寝ただけだから何も書くことないんだけど。
 その初日が75ユーロだったのに、きのうは119ユーロに跳ね上がる理由がまずわからない。そもそも前は日曜日で、今度は平日だっていうのに! なんか適当に料金決めてない? 値段を聞いて「高い!」と言って、アンドレが電話で値引き交渉までしてくれたのに。(弁護士なのでこういうのは得意)
 しかも部屋は前のほうが良かったのである。前の部屋はダブルベッド1台にシングル1台が必要もないのにあったのに、今度の部屋はそれより小さくてダブル1台。それに最上階の角部屋、というと、日本のマンションを想像するといい部屋みたいだが、こちらの建物は三角屋根なので、要するに屋根裏部屋である。天井の一部が斜めに切れていて、頭ぶつけそう。(アンドレのところでは何度もぶつけた) そのため使えるスペースが狭い。

 あいかわらずベッドはフカフカで気持ちいいが、今度の部屋は窓が開かない! これじゃタバコが吸えない! いや、今度も喫煙室を選んだのだが、窓が開かないと部屋がタバコ臭くなってしまう。タバコ臭い部屋でなんか寝るぐらいなら、外で吸った方がまし! というわけで、タバコ呑みのほうが、非喫煙者よりよっぽどきれいな空気に敏感なのだ。しかたがないので、廊下で吸うか、エアコンの風量を最大にしてガーガーいう中で寝るしかない。

 でも、このところめったにないことに、夜は1時と3時に目が覚めてしまった。やっぱり一昨日、観光しなかったからかな。それとも最後の夜で気が張っていたせいか。最後の最後で飛行機に乗り遅れたらえらいことになるし。FIXなので、決められたフライトに乗れないと、一切払い戻しなし。新しく買わないとならない。
 毎日6時には起きてるし、まず寝過ごすことはないと思ったけど、念のため目覚まし(腕時計の)はかけておきましたけどね。

時計の怪現象

 そう言えばこの時計に謎の現象が。カシオの電波時計のすごく古いモデルなのだが、ヨーロッパに来て時刻合わせをしようと思ったら、時刻合わせのやり方を知らないことに気づいた。なにせ時刻合わせる必要がないから、一度もやったことがなかったのよ。そもそも日本じゃ(仕事の時以外は)時計なんて見る習慣もない人だし。
 でも今回はなにしろ時間との競争で、時計がなくちゃやっていけない。(日本みたいに駅にも町にも、どこでも時計があるわけじゃない) その場合は携帯を時計代わりにしようと思っていたが、すでに述べたように携帯はほとんど電源が切れたまま。
 まいったなあ、と思ったが、着いて数日後、ふと見ると時計の時刻がぴったり合っていることに気が付いた。ええっ? こっちの電波でも受信できるの? でも最後の受信記録を見ると、日本を出る前の日付けになってるし。とにかく私は何もしていないのに、勝手に時刻表示がヨーロッパの夏時間になっていたのでびっくり。
 そう言えば、イタリア人のお客さんに頼まれてセイコーの電波時計を送ってあげたことがあったが、「そっちじゃ使えないでしょ?」と聞くと、「いや、使えるようにする方法がある」と言ってたっけ。でも私は何もしてないのに。
 しかし、時間は秒まで合ってるのに、日付けと曜日はでたらめを示している。これは私には非常に危険。下手すると、平気で帰る日を1日間違えたりするから。
 しかも、イギリスへ行ったときも勝手に合わせてくれるかと思ったら、ヨーロッパ時間のまま。しつこいことに日本へ帰ってきてからもそのままで、手動で受信するしかなかった。
 気になったので、帰ってからネットで調べたら、はっきり「海外では自動では受信しません」と書いてあるじゃないか。最近の高級機種にはそういうのもあるようだが、私のは(当時は高かったけど)最初期のモデルだし。謎だ。

 話がそれたが、ちゃんと6時にセットしたのに、なぜか時計の目覚ましは鳴らず(だから、おまえはなんなんだ! ヨーロッパへ来て気が狂ったのか?)、夜中に目が覚めたせいもあって、起きたのは6時40分だった。おっと危ない、危ない。でも起きたら10時とかいうのでなくてよかった。この時間なら余裕で間に合うので。
 しかし、クリアレイク・ホテルで過ごしたあとでは、それよりはるかに高級で部屋も広いが、部屋でお茶の一杯も飲めないイビスは不自由でしょうがない。ホテルでタバコ吸うな、お茶飲むなって言われちゃうと、なんかものすごい高い金払って監獄に入っているような気分になる。
 そこでやや寝不足のまま、バタバタと支度をして空港へ。この辺はすべてスムースに行ってたのだ。コペンハーゲンの待ち時間が3時間もあることに気づくまでは。

 そこで日当たりのいいベンチで長々日記を書き、店を隅から隅まで見て回っておみやげを買い、食事をすることで時間をつぶす。
 人へのおみやげを買ったあと、食料品専門のおみやげ屋に入る。おお、ハムやベーコンがあるぞ。ここからなら買って帰れる。デンマークはサラミが名物なのか、サラミばっかりいろんな種類がある。私はサラミより、イギリスのあのソーセージが食べたいんだがなあ。かろうじて1種類だけ似たようなのがあったので買う。生ハムはなんとなく買う気がしなかったので、ベーコンのパックも買う。
 安売り本屋まである。半分が英語のペーパーバック。よっぽど買おうかと思ったが、上記の理由でやめる。
 お菓子屋もあったが、チョコレートばっかりだなあ。私はカフェインに弱いので、チョコレートはお菓子に使ってあるぐらいならいいが、かたまりのやつは食べられない。食べると心臓がバクバクいってこわいし、翌朝は顔中ブツブツだらけになるのだ。同じ理由でコーヒーもあまり飲めないし、最近はお茶もたくさんは飲めなくなってきたので、ハーブティーにしているぐらいだ。
 でもビスケットはベルギーのとくらべるとあまりおいしくなさそう。ベルギーでいっぱい買ってくるつもりが、なんとなく時間に追われて、結局スーパーの安いのを少しばかり買っただけだったのは無念。

 食事はあんまり店がない。ホットドッグと、デンマーク料理(らしきもの)、あとはエスニックのカウンターが並んでいるだけだ。デンマーク料理は興味があったが、とにかく見てもなんなのかわからないし、注文の仕方がむずかしそうだったのであきらめる。エスニックは日本も中国も東南アジアもごたまぜ。こんなのは日本でいくらでも食べられる。
 結局、妥協してホットドッグを頼む。少なくとも肉製品はどこで食べても日本よりうまいし。基本は日本と同じだが、フライドオニオンが入ってるところが違う。

9月11日(?) (もう日付けも時間もわからない) 機上にて

 てなわけで、やっと時間が来て飛行機に乗り込んだ。みんな早くから搭乗口に並んでるが、少しでも缶詰め状態を短くしたい私は、いちばん最後の出発間際に乗った。
 席はやっぱり2人がけの通路側で、後ろに席のないところ。これはいい。座席はついてたね。周囲は若い女の子が多い。それでキャリーバッグを荷物入れにしまおうとしたらいっぱい。やっぱり女は荷物が多い。でも入ってるのはコートとか帽子なので、ちゃっちゃと積み重ねてスペースを作っていたら、前の女(日本人)が、「帽子がつぶれるといやなので気を付けて下さい!」と言うし、すかさず隣の女(外人)は、「ラップトップが入ってるので気を付けて!」
 うるせえ! こっちは梱包と輸送のプロだい! そんなことはわかってるって! だいたいそんなに大事なものなら、頭にかぶるか膝に載せるかしろよ。だいたい、こんなところに入れてあっても、乱気流に入ったりすればあっちこっち飛び跳ねるぞ。本当に大事ならきちんと梱包して、スーツケースに詰めるのがいちばんだって知らないのか?
 航空貨物がどんなに荒っぽい扱いを受けるか身にしみて知っている(おまけに禁煙でただでさえイラついてる)私は、ちょっとさわったぐらいでキーキー言われて、また機嫌が悪くなる。

 とにかく映画でも見ようとスクリーンに触る(タッチ・スクリーン式)が、何も起こらない。まわりの人のはちゃんと映ってるのに、私のは地図しか映らん。ふむ。しかもスクリーンの上にINOPと書かれた赤いステッカーが貼ってあって、これって壊れてるってこと? ガーン! なんで私だけ。もう金輪際スカンジナビア航空なんか乗らん!!!
 と頭から湯気を立てながらも、いちおう乗務員を呼びつけて文句を言う。すると、「これは壊れてるから、別の席に移っていただけませんか?」と言う。「えー、せっかくいい席だったのにー」と迷っていると、「別のクラスなら空いてますから」と言う。えっ? 別のクラスってビジネスクラスってこと?
 とにかく席を見てくれというので、ついて行くと、こ、これはほんとにビジネスクラス!(あとからわかったのだが、エコノミー・エクストラという、エコノミーとビジネスの中間クラスだった) わーい! やったー! といきなりニコニコ顔になって、くどくどとお礼を言う。スカンジナビア航空最高! えらい!
 エコノミーじゃない飛行機なんて初めて乗ったよ! 親父が出張で行き来していたころは、さすがにビジネスだったので、おみやげにもらったアメニティ・グッズ(しかしうちの親父もセコいやつだな)でしか知らなかった夢のビジネス・クラス! アンドレでさえ、ビジネス・クラスに乗ったのは、ヴァレリーが妊娠していたときだけだと言う。

 で、感動したことはいっぱいあるので、めんどくさいからもう箇条書きにまとめよう。

エコノミーとエコノミー・エクストラの違い

というわけ。

 しかし、広くて楽だから寝られるってものでもないんですね。眠くて眠くてしょうがないので、しかたなく映画を見る。今回は映画もけっこう見たいのがあって『ターミネーター4』があったので、それを見始めるが‥‥眠すぎて映画に集中できん。やっぱり本当に見たい映画はちゃんと日本で見ようというわけで、『ナイトミュージアム2』を見始めたが、くだらんので途中で挫折。『ロスト・イン・トランスレーション』は嫌いだが、「異国でひとりぼっちの孤独」というところだけはちょっぴり感じるものがあった。
 ただ、座席が快適だと寝てなくてもあまり疲れないのがいい。

20日目 コペンハーゲン→成田

自宅にて

 飛行機は予定より1時間も早く、9時間で成田到着。帰りは偏西風のおかげで行きより早いのが普通だが、今日は特に風が強かったみたい。こんな快適ならもっと乗ってても良かったのに。
 うーむ、次に行くときはどっちにするか迷うところだなあ。旅慣れた人はみんな、コスト・パフォーマンスを考えればエコノミーって言うけど。
 確かにわずか半日の辛抱で、料金は倍以上違うと思えば考えものだが、そういう人たちはみんなちゃんと眠れるんだよね。眠っちゃえば一瞬のことなんだが、私には長い。行きだけエクストラって手もあるな。なんて、そんな金もないのに、なぜかここにいるとお大尽気分になっちゃって(笑)。

 どうせエコノミー以外はガラガラなんだから、ビジネスやファーストクラスをなくして、そのぶんエコノミーを値上げしてでもかさ上げするべきだ。1.5倍の料金なら、私は迷わずエクストラを選ぶよ。だいたい航空運賃自体、昔にくらべれば格段に下がったんだから。安売り合戦のため、エコノミーはますます貧弱化する一方だが、多少高くてもこのエクストラ並みの飛行機があれば、私は絶対乗るもん。
 なのに、こういうふうにわざとらしい「階級格差」を付けなきゃ気が済まないのが、ヨーロッパというか西欧人の感覚なんだよねー。みんないっしょでいいじゃん! そうすれば、機内食だって内装だって画一ですんで、そのぶん経費も節約できるし。というのは、いかにも日本的発想だが。

 なんだかんだで、帰路は家に帰り着くまでタバコが吸えず、禁煙時間は行きよりも長かった。だいたい15時間ぐらい。それで、やっと吸えると思って火を付けたとき、「あれっ? なんかクラクラする!」 こんなの高校生の時に、初めてタバコを吸ったとき以来だよ! そう、体から完全にニコチンが抜けてしまったために、タバコを吸わない人の体になっていたのだ。もちろんぜんぜんうまくない。2本目からはいつも通りに戻りましたがね(笑)。
 なーんだ。禁煙するのなんて簡単じゃん! ちょっと我慢して吸わないでいればいいんだから。禁断症状も思ったほどひどくなかった。ただ、禁煙のイライラってのはほんと。この日記を読み返してみると、フライトの間だけ、変にイライラしている。私はせっかちで短気ではあるが、基本的に物事をあまり気にしない性格なので、こんなつまらないことでイライラしたりはしないはずなのに、人格変わってしまうところがこわいですね。やっぱり禁煙はやめよう(笑)。

 成田へ帰ってくると、いつも多少のカルチャーショックを感じるのだが、さすがに1か月いたときはすごかった。あのときは、まるで見知らぬ外国に降り立ったみたいでクラクラした。人がみんな小さくて細くて、全員黒い髪なのが奇妙に見えたし、しゃべろうとしても日本語がうまく出てこなかったり。これじゃ1年ぐらい留学してた人なんてどうなっちゃうんだ? 聞いた話では1年間まったく日本語使わないとかなり忘れるそうだ。
 今回はもちろんそんなことはない。外国旅行慣れしてきたせいもあるけど。ただ、売店で飲み物買おうとして千円札を出したとき(財布の中身は入れ替えてあった)、それが一瞬お札に見えなくて、間違ったと思って引っ込めようとしたことぐらいか。
 これは最初の時もそうだったなー。イギリスのコインの重さと大きさにくらべて、日本のお金っておもちゃのお金みたいに見えて。
 《このあともうひとつあった。帰国後1週間もたって、ショッピングセンターでトイレに入ったとき、便器があまりに低くて小さいので、子供用だと思って出てきてしまった。考えたら子供用の便器なんてないのに!》

 しかし涼しいじゃないか! またあの猛暑に放り込まれると思ってたのに、それから逃れるだけでも幸せだと思ってたのに、なんか損した気分(笑)。ただ、じとーとした湿度はやっぱり日本だけですがね。あれだけ雨の降る大陸も、あれだけどんより曇りばかりのイギリスも、カラッと乾燥しているから。

 帰るとまたひどい時差ボケに悩まされる。これは行きより困る。行きの時は早寝早起きになってしまって、むしろ旅行には好都合だが、帰りはこの逆になり、朝の6時までまったく眠くならなくて、昼過ぎまで寝てしまう。もうすぐ大学が始まるのに!
 しかも向こうでは朝から晩まで歩きまわって、たっぷり太陽も浴びて疲れるのですぐ眠れるが、日本に帰ってきたとたん、「もうどこにも行くもんか」と開き直って引きこもり、まったく運動しないのでよけい眠れない。

 さすがに家に入ったときはほっとしましたがね。でもまだ向こうでの生活習慣が抜けない。やたら脂っこいものばかり大量に食べたくなったり(笑)。普通は日本へ帰ってきたら日本食が食べたくなるものじゃないの? 私はまだ日本食が人間の食べ物に見えない(苦笑)。
 そこで自分で、どう考えてもカロリー・オーバーのイングリッシュ・ブレックファストを作って食べたりしている。そうそう、買ってきたソーセージとベーコンがあったんだ。
 ソーセージは日本で言うところの粗挽きソーセージで、でっかい脂のかたまりがゴロゴロ入っているのが、私にはちょっと。私は脂っこいものは平気だが、肉の脂身が嫌いで、私の好きなやつはぜんぜん肉っぽい臭みもないし、脂っぽくないんですよ。そこでなんとか脂を抜こうと焼きすぎるとカチカチになっちゃうし。これは失敗。
 一方、ベーコンは期待した通り、赤身がほとんどで分厚いやつ。うまーい! だけど厚切りなので4枚しか入ってなかった(しょぼん)。あーん、こんなことなら5パックぐらい買ってくるんだった。日本のベーコンって味もまずいけど、カリカリに焼こうとしても、べしょっと水っぽくなっちゃうか、ガリガリに固くなるだけできらい。要するに水っぽいのである。ベーコンまで水増ししてるのか?

 ところで気になる費用ですが、レシートなんて集めてないので知りません(笑)。カード明細が来るのがこわい。
 ただ、予算をかなりオーバーしたのは確か。とにかくこんなに動き回るはずじゃなかったので、安いとはいえ交通費が大変なことになってるし、ホテルも思ったよりたくさん泊まったうえに、思ったより高かったので。
 とはいえ、全行程ホテルだったら、とてもじゃないがこんなものではすまなかったので、それを思えばアンドレ夫妻に大感謝。

 ところで、帰国後知ったんだが、ローマの高級レストランでボラれて、おわびのしるしにと、ローマ市長だか観光相だかにイタリアに招待された日本人がいるんだって?
 えー、私はアムステルダムのホテルでヒジョーにいやな思いをして、アムステルダムとオランダの印象がめっちゃくちゃ悪くなっちゃったんですけど、アムステルダム市長さん、どうですか?(笑) スカンジナビア航空もさんざん悪口書いたが、あれで印象が一変したわけだし。もっとも「高級」ってところがポイントで、安ホテルじゃだめか。しかし高級ホテルじゃあんなこと起こりえないという矛盾。だいたい、ただで招待すると言われても、行きたいかって言えばもう行きたくないけどね。

 帰ってきて、「どこがいちばん良かった?」ってよく訊かれるんだけど、私にそれを訊くのはヤボってものでしょう。だって、私はほんのガキのころから、なんでもイギリスが世界一と信じる英国病患者で、そのぶんヨーロッパを嫌ってたし、だからこそ今まで一度も行ったことなかったんだから。
 今回の旅も、要約してしまえば、あらためてイギリス最高!ということを確認しに行ったようなものだった。だってー、お城も宮殿も、街も建物もホテルも、田園風景も公園も、イギリスのほうがずーっと美しいじゃない。
 私がいちばん関心があり気になる建築物については、確かに豪華絢爛という点ではパリやローマに負けるかもしれないし、確かに教会ならケルンの大聖堂みたいにすさまじいのは他にないかもしれない。だけどああいう、「これでもか、これでもか!」という豪華さは、日本人の私には単に悪趣味と紙一重に見えてしまう。実際、私はヨーロッパ主要都市の(個人宅も含めた)名建築の、インテリア写真集を持っているのだが、どう見ても、ロンドンとくらべるとどこも下品に見えてしょうがないんですよ。確かに豪壮なところは変わりないけど、イギリスのほうが品があってきれいなんだよね。
 色彩からして違う。イギリスのあのしっとりしたマットな色彩は、町にも風景にも空の色にさえ共通するもので、私はあれがやっぱりいちばん落ち着くし、他はどこもケバケバしく感じてしまう。
 人も、言語も、社会もやっぱりイギリスがいちばん好きだしね。
 だけど、行ってみれば気が変わるはずだと思ってた。というか、どうせ同じヨーロッパなんだし、たいした違いはあるまいと。ところが行ってわかったのは、やっぱりヨーロッパ(大陸)とイギリスはまったく違うということ。おまけにイギリス以外のヨーロッパは、(ほんの一部だけど私が見て回ったかぎりでは)どこへ行ってもたいして違いはない。

 ただ、あえて言えばベルギー南部とブルージュはやっぱり一見の価値があると思う。国ならやっぱり私はベルギーがいちばん気に入った。なんと言ってもベルギー自体がのんびりした田舎なので、気が張らないところがいい。それに前述のようにベルギーは西ヨーロッパの真ん中で、そのため周囲のあらゆる国の文化がまざりあったミニ・ヨーロッパである。一国で全部見た気になれてお得。
 食い物もうまいし(食文化はやはりフランスの影響が濃い)、周辺国にくらべると物価も安いし、文化レベル高いし、美男美女も多いしね。(文化を除くとこれはイギリスにないものばっかりだなあ)

 さて次はどうしよう? と、早くも次の旅行のことを考えている。次なんて何十年後かわからないのに(笑)。
 ひとつ思うのは、もう文化は十分ってこと。イギリスだけはやっぱり何度行っても好きなので、また長期滞在したいとは思うが、それ以外は城も教会もミュージアムも見飽きた! 私はやっぱり自然のある田舎へ行きたい。
 ただ、イタリアとギリシアはさすがに未練がありますがね。なにしろ西洋文化発祥の地だし、見るべきものはありすぎるほどあるし。ただ、私には南すぎるなあ。(暑いとこ嫌い) この辺は、今回みたいに何かのチャンスがあればって感じ。

 となると、次はスコットランド・ウェールズ・アイルランドだな。なぜか機会がなくてイングランド以外はパスしちゃってるんですよ。というか、ここらは特別思い入れのある土地でもあり、いずれゆっくり来ようとか思って。やっぱり向こうで誰か金持ちの人と友達にならなくては(笑)。
 それからニュージーランドは前から行きたいと思っていた。ただ、やはり自然を求めて行ったオーストラリアがアレだったので、ちょっと躊躇してしまうが、話ではオーストラリアとニュージーランドはまったく別の国だというので。たしかに真っ平らなオーストラリアと、山がちのニュージーランドとでは地理風土からして違う。どうも私は平らなところは性に合わないようだ。これは覚えておこう。
 夢だけならば、昔から行ってみたいのは中東。このテロ騒ぎさえなければねえ。イスラム文化が好きで、イスラム建築を見たり、アラビアの砂漠をさまよってみたかった。ドバイとかの金持ち観光地はいらない。

 逆に絶対行きたくないのはアジアとかアフリカとかインドとか南米。それぞれに日本とも西欧ともまったく違う文化圏だし、独特の魅力があるということは知ってるが、得体の知れない変な虫とか変な風土病のあるところは絶対いや! そういうのはBBCで見るだけでいい。
 それに極度の偏食の私は、きっと何も食べるものがないと思う。エスニックのたぐいって全部嫌いだし。なんかのアレルギーで死にそう。

 というわけで、いつになるかわかりませんが、次の旅行記をお楽しみに。

おしまい

おまけ

 今朝の新聞を読んでたら、「気になるトラベルグッズ」とかいうコラムで、「海外ではパスポートケースがあると便利」とか書いて、6090円のパスポートケースを紹介していた。なにバカ言ってんだよ。パスポートなんかケースに入れてどうすんの? あわただしい空港やホテルで、いちいちケースから出す手間が増えるだけじゃん。それで落としたり、後ろに並んだ人にいやな顔されたりするだけ。こういうのは旅行したことのないやつが書いてるんだな。
 だいたいパスポートなんかケースで守ってどうする? パスポートなんかはボロボロのほうが旅慣れてるみたいに見えてかっこいいのに。というわけで、

いちおう皆様の参考までに、北ヨーロッパを晩夏に貧乏旅行する人のためのトラベルグッズ豆知識

持ってくるべきだったもの

1.食品用のビニール袋、大小各種。ジップバッグだと理想的。

 第一に、向こうでは日本みたいな過剰包装はしない。食料品を多少買っても、まずビニール袋なんてくれない上、持ち帰りの食べ物でも紙1枚でくるんだだけ。しかも脂っこいものが多いので、紙なんかすぐにベタベタになって溶けてしまう。ところが一度で食べきれないものが多いので、あとで食べようと思ってうっかりワッフルなんかバッグに入れると、しみ出した油と食べかすでえらいことになる。そういうときビニール袋があると助かる。
 クッキーやティーバッグなんかも日本みたいに個別包装なんてしてないので、開封したら入れる袋が必要だった。
 またレストランで食べ残したとき、まともなレストランならドギーバッグ(持ち帰り用の箱)を頼むこともできるが、チップスを少しばかり残したようなときはなかなか頼めない。それを持って帰れば、電車の中で食べるいいおやつになる。
 ビニール袋はほかにも濡れたハンカチを入れたり、ゴミや汚れ物を入れたり、さまざまな場面で役に立つ。
 そんなことはわかってたのに、なぜか今回は忘れた。スーパーで売ってないかと捜したが見つからなかった。

2.帽子

 帽子はひとつあれば、日射しも雨も寒さも防げる万能グッズ。ただファッション性の強いものなので、やっぱり現地で買うより気に入ったものを持っていくべき。私は帽子マニアなのに、なんで持っていかなかったのか。

3.旅行用の小さい歯磨き、シャンプー、石鹸、洗濯洗剤

 液体持ち込み制限のこともあり、これこそ現地調達と思っていたが、それは1か月滞在のときの話。実際には20日ぐらいじゃ1本はとても使い切れず、大量の洗面用具持って歩くのも重いし、たくさん残ったのを捨てて帰るのはもったいなかった。これなら旅行用の小さいやつで良かったし、だいたい100円ショップで買える。(向こうはけっこう高い)

4.しっかりした防寒着

 というか、それが1枚あればあとはTシャツだけでも大丈夫。だいたいヨーロッパは暑いか寒いかのどっちかしかない。だいたい、9月なんて日本ではまだ残暑の季節だが、ヨーロッパではもう冬の訪れを感じさせる。(ただし、現地人はそういう季節感を思い切り無視しているけど)

5.カメラ

 やっぱり写真を撮りたいときもある。

6.軽いスーツケース

 ていうか、新しく買う気もしなかったので、親父譲りのでかくて頑丈なサムソナイトを持っていったが、今どきこんな重いスーツケース持ってる人いないじゃん! 今はみんな布のキャリーバッグか、プラスチックの軽いのを使ってる。そういや、これだけでも重量5キロぐらいあるし! サムソナイトの利点は、どんなに乱暴に投げられても壊れない、切られて中味を盗まれることもない、中のものがつぶれないっていうそれだけだが、もともとそんなに大事なものは入ってないし。

7.目薬

 結局買えたけど、日ごろ目が痛くなりやすい人やコンタクトの人は絶対必要。

持ってきてよかったもの

1.サングラス

 夏は必需品。これがないとまぶしくて何も見えない。

2.上等なあったかいスリッパ

 やっぱり一日中靴はいてるのはつらい。かといって旅行用のペラペラのスリッパじゃ、裸足でペタペタ歩いてるみたいで気分悪いし、足冷たいし、足の疲れも取れない。靴は一足でいいから、いいスリッパを持っていくべき。

3.ティッシュ

 ポケットティッシュはめったにないし、高くて固い。ティッシュは鼻をかむだけじゃなく、汚れを拭いたり、こわれ物を包んだり、さまざまな用途に使える。

4.エコバッグ

 以前、買い物が持ちきれず(手提げ袋なんてまずもらえない)、困ったことがあるので持ってきたが、何も買い物しなくても、ビニールのバッグはいろいろに使えた。

不要だったもの

1.革靴、ストッキング、スカート

 そんなもの履いてる旅行者、ひとりもいないって。
 なのに私としてはめずらしく、こんなものを持ってきたのは、1か月のロンドン滞在で、毎日同じものばかり着ていて(洗濯だけはしてました)、すっかり腐った気分になったからだ。この無精な私でも少しは着替えないと気が滅入る。
 だから今回はオシャレっぽい服も入れたのだが、結局出番なし。やっぱり旅行はサバイバルで、実用第一。動きやすい、汚れても平気な服がいちばん。シミ、シワ、汚れ、穴あき上等。だいたい外国人旅行者は、いい年の人でも、思いきりだらしない薄汚れた格好をしている。

2.アイマスク、耳栓

 そんなものはあってもなくても、眠れないときは眠れない。睡眠導入剤もヴァレリーにもらって飲んでみたが効果なし。

微妙なもの

1.傘

 最近の日本の折りたたみ傘は、本当に軽くて小さいので持ってきても損はしないが、結局一度も使わなかった。それにヨーロッパは雨が多いので、観光地ではおみやげ屋に必ず傘も売っている。必要なら買えば良かったかも。だいたい、向こうの人は多少の雨で傘なんかささない。むしろ、雨宿りする場所のないところで本当のどしゃ降りにあったときのために、ビニールのレインコートのほうが便利かも。

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