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『氷と炎の歌』の固有名詞のカナ表記について
 『氷と炎の歌』 早川書房版翻訳 初版ハードカバーでは、1〜3巻の岡部宏之訳と、、第4巻以降の酒井昭伸訳とでは、固有名詞の表記がかなり異なっている。現在は改訂版の文庫が出始めているようだが、シリーズものとしてはこれはきわめて異例の事態であり、初版ハードカバーを買っている読者にとっては、きわめて混乱を招くものである。

 私自身翻訳をやっていて、個人的にも固有名詞のカナ表記の困難さは重々承知しているし、早い話が固有名詞は綴りとは無関係になんと読ませてもかまわないものだし、ましてこれはすべて実在しないファンタジー世界であることを思えば、何が正しくて何が間違っているという議論は不毛なものである。
 しかもこちらの日記にも書いたように、現在出回っている改訳の表記も決して決定版と言えるものではない。これまでも読者の間では名前の読みには諸説あったが、アメリカHBOテレビのシリーズ“Game of Thrones”が始まってしまった現在、このテレビシリーズでの発音が定説となることは間違いない。テレビの視聴者は本の読者より確実に多いし、何より音声付きだからである。そのため、このサイトではテレビシリーズの発音に準拠した私訳(というのも、英語の発音を完全にカナに置き換えるのは不可能なので、どうしても私の解釈が入るので)で統一してある。
 ただし、“Game of Thrones”のを見ていて痛感したのは、「実は名前の読みなんてかなりアバウトで人によって変わる」ということである。たとえばmaesterは役者によって「マイスター」と発音する人もいれば、「メイスター」と発音する人もいる。他にもオーディオブックではこうだったとか、作者のマーティン本人はこう発音していたなどと、外野はやかましいが、まあアメリカ人なんてこれぐらいアバウトなのは普通なので、こんなのしつこく気にするのは(翻訳者と)日本人だけかもしれない。

 ただでさえ2種類の訳で混乱しているのに、それに輪をかけて混乱させるようで申し訳ないが、とにかく私もいちいち脳内変換するのに疲れたので、いちおう私なりに読みを決めておきたい。私がこれにこだわるのは元々英米人の名前に関心があったせいもあるので、注として少しばかり蘊蓄を書き加えておいた。

 参考までに不完全なものながら、これまでの翻訳と違っていたり、意外な読みの名前を表にしてみた。なお、私自身がまだセカンド・シーズンしか見ていないので、サード・シーズン以降の固有名詞はわかり次第追加する。


岡部宏之訳 酒井昭伸訳 私訳
人名
デーナリス・ターガリエン デナーリス・ターガリエン デナーリス・ターガリエン
ヴァイサリス・ターガリエン ヴィセーリス・ターガリエン ヴィサーリス・ターガリエン
エリス・ターガリエン (未確認) エイリス・ターガリエン
サーセイ サーセイ サーシー (またはサーセイ) (注1)
ケイトリン キャトリン カトリン (注2)
トンメン トメン トーメン (注3)
ジェイム・ラニスター ジェイミー・ラニスター ジェイミー・ラニスター (注4)
サンサ サンサ サンサ (またはサンザ)
アリア アリア アリア (またはアーヤ) (注5)
ミアセラ ミアセラ マーセラ (注6)
ボロス・ブラウント ボロス・ブラント (未確認)
バロン・スワン ベイロン・スワン ベイロン・スワン
オズフリッド・ケトルブラック オスフリッド・ケトルブラック (未確認)
オズネイ・ケトルブラック オズニー・ケトルブラック (未確認)
ヴェリース ヴァリス ヴァリス
キバン クァイバーン (未確認)
ガイルズ・ロズビー ジャイルズ・ロズビー ジャイルズ・ロズビー
オーラン・ウォーターズ オーレイン・ウォーターズ (未確認)
ティレル タイレル ティレル (またはタイレル)
(注1に同じ)
オレンナ・ティレル オレナ・タイレル (未確認)
メッガ・タイレル メガ・タイレル メガ・ティレル (注3に同じ)
アッラ・タイレル アラ・タイレル アラ・ティレル (注3に同じ)
テーナ・メリーウェザー テイナ・メリーウェザー (未確認)
バロン ベイロン ベイロン
エロン 〈溺れた神〉の司祭 エイロン 〈溺神(できしん)〉の祭主 エイロン
ドラン・ナイメロス
ドーンの君主(プリンス)
ドーラン・ナイメロス
ドーンの大公(プリンス)
(未確認)
アリアンヌ・マーテル アリアン・マーテル (未確認)
アレオ・ホター アリオ・ホター (未確認)
リサ・アリン ライサ・アリン ライサまたはライザ・アリン
(注1に同じ)
ピーター・ベーリッシュ ピーター・ベイリッシュ ピーター・ベイリッシュ
ローター・ブルーン ローサー・ブルーン ローサー・ブルーン (注7)
エンモン・フレイ エモン・フレイ エモン・フレイ
ジェンナ・フレイ ジェナ・フレイ ジェナ・フレイ
ブリエンヌ・タース ブライエニー・タース ブリエンヌ・タース (注8)
マイスター・エーモン メイスター・エイモン マイスター (またはメイスター)
ウィラ ウィラ ワイラ
ホーダー ホーダー ホードー (注9)
ジェンドリー ジェンドリー ゲンドリー (注10)
グレガー・クレゲイン グレガー・クレゲイン グレゴー・クレゲイン
レッドワイン家 レッドワイン家 レッドウィン家
ティシャ ティシャ タイシャ
ジャケン・フガー (未確認) ジャケン・ハガー (注11)
ジリ ジリ ギリー (注12)
エイモリー・ローチ (未確認) アーモリー・ローチ
ザロ・コーアン・ダコス ザロ・ゾアン・ダクソス ザロ・ザアン・ダクソス
地名
ウェスタロス ウェスタロス ウェステロス
ブラーボス ブレーヴォス ブラーヴォス
リース ライス リース
カルス クァース カース (注13)


(注1) 役者によって発音が異なる。
(注2) 私は脳内で勝手に英国を舞台にしていたので、最初から「カトリン」と読んでいたが、役者のほとんどがイギリス人のせいか、やはりテレビでもそうだった。
(注3) 原語はTommen。このように子音がダブったときも、英語は1字と同じように発音し、決して「トンメン」にはならない。
(注4) Jamieは実際にあるJamesの愛称。Eddard(英語のEdwardと思われる)の愛称がNedになるように、この国の名前は英語名とかなりダブっている。
(注5) これは私も意外だった。確かに、A・ry・aと読めば「アリア」または「アライア」で、Ar・yaと読めば「アーヤ」になるが。
(注6) 原語はMyrcellaだから「マーセラ」と読むのが普通だと思うが、どこから「ミアセラ」なんてエキゾチックな読みが出てきたんだろう。
(注7) thの音はどうせカナでは表せないのだから好きにすれば、というところだが、日本ではいちおうサ行で表記するのが普通なので。
(注8) これは酒井さんが先走りすぎたっていうか、確かに「ブライエニー」はありえない読みではないが、テレビでは普通に「ブリエン」と読んでいる。ただし、英語の語尾の「n」は日本語の「ん」と違って、はっきり「ン」と発音するので、「ブリエンヌ」も間違いではない。私がこの問題を気にし始めたのは、Policeの名曲『ロクサーヌ』を聞いたときから。最初は「ロクサーヌ」じゃフランス人だろうと思ったが、かといって「ロクサン」じゃ誰のことかわからない。
(注9) これは私も外した。Hodorって、普通「ホーダー」って読むと思うよね。でもテレビでは全員、はっきりと「ホードー」と言っている。
(注10) これも意外。原語はGendryだが、普通はgentryからの連想でジェンドリーと読むと思うし、名前としても違和感がないが、「ゲンドリー」はいくら言われても違和感あるなあ。
(注11) もともと「非英語名」として作られた名前だから、発音なんてどうでもいいのだが、発音するのは英米人なので、どうしても英語読みになる。ためしに英語で「ジャケン・フガー」と言ってみれば、どれだけ言いづらいかわかる。
(注12) これも意外だった。Gillyという名前はGillian(ジリアン)の愛称を想像させるので、私もジリーだと思ってた。「ギリー」ってあまり女の子の名前らしくないし。
(注13) 劇中で、誰かが「クァース」と言ったのを、カース人がはっきり「カース」と訂正している。

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