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『氷と炎の歌』 キャラクター評

Brienne Tarth ブリエンヌ・タース

想像上のブリエンヌ 『GoT』のブリエンヌ

その生い立ち

 小さいが豊かな島タースを治めるイーヴンフォール城の領主セルウィン・タースの長女として生まれる。母はまだ彼女が幼い頃に亡くなり、ブリエンヌには母の記憶はない。ひとりの兄とふたりの妹がいたが、いずれも幼くして亡くなり、ブリエンヌはセルウィン公に残された唯一の子供である。
 女だてらに男装し、剣術を好むブリエンヌに、セルウィンはなんとか婿をあてがってやろうとするが、ようやく見つけた求婚者は彼女を見るなり縁談を断り、最後に残ったハンフリー・ワグスタッフは、戦って自分を倒した男としか結婚しないと主張するブリエンヌと決闘をして、骨を3本折るはめになる。これ以降、セルウィンは娘の縁談をあきらめる。
 その容姿や膂力のせいで、幼い頃から男性に心ない扱いを受けていたブリエンヌは、たまたまタースを訪れたレンリー・バラシオンに会い、彼の丁重で公平な態度に感銘を受け、レンリーに忠誠を誓う。その後レンリーが主催した武芸大会で優勝し、その褒美としてレンリーの親衛隊レインボー・ガードに加入することを願って認められる。
 しかし五王の戦いのさなか、彼女とレンリー、そしてカトリン・スタークだけがテントの中にいたとき、正体不明の影によってレンリーが殺害され、ブリエンヌはレンリー殺しの濡れ衣を着せられる。カトリンといっしょに逃げたブリエンヌはカトリンに忠誠の誓いを立て、サーセイに捕らわれた彼女の娘たちサンサとアリアを取り戻す手伝いをすることを誓う。
 すtスターク勢が捕虜にしたジェイミーを娘たちと交換しようと考えたカトリンは、一族郎党の反対にも関わらず、密かにジェイミーを解放し、ブリエンヌに彼をキングスランディングに送り届けるように命じる。しかし道中、ヴァーゴ・ホウトの一党に捕まった2人は‥‥
 女丈夫には事欠かない『氷と炎の歌』の中でも、おそらく最強の容貌魁偉な女戦士。しかし、どんなに強くても、この世界は女にとって、とりわけ容姿が醜く、不器用な頑固者の女にとっては住みやすいところではなかった。

『ゲーム・オブ・スローンズ』のブリエンヌ

(なんかいつもと順序が逆だけど、それぐらい印象的だったので)

◆ というわけで、私は昔から「強い大女」マニアなのだが、なかなか私の厳しい欲求を満たすだけの大女はいなくて‥‥
● いちおうこの面では長年に渡ってシガニー・ウィーバー(180cm)が私のアイドルでした。
▲ 『エイリアン』シリーズのリプリーは強さといい、でっかさといい、おばさん臭さといい(笑)、申し分なかったね。
★ あとは誰かな? ユマ・サーマン(182cm)?
● 彼女はかっこいいし、きれいだし、大好きなんだけど、映画がいまいちかな。『キルビル』はあの通りのお笑いだし。
▲ あとキャスリーン・ターナー(173cm)も大好きだった。セクシーな肝っ玉姉ちゃんって感じで。

◆ だからブリエンヌが初めて小説に登場したときも好感を持ってたのだが‥‥
● あー、内面やストーリーの話はあとにして。今はとにかくルックスについて。
★ ブリエンヌの容貌については作中に詳しい描写があるんだよね。いわく、「彼女は大きな青い目をして、髪は麦わら色、幅が広く、荒削りで、のっぺりした目鼻立ちをしていた。乱杭歯が突き出しており、口は大きすぎ、唇は膨れ、鼻は何度も折れたせいででこぼこで、肌はそばかすだらけだった。彼女は女としては背が高く、不格好でずんぐりした体型だった」
▲ ひでえ! いくらなんでも妙齢の女性に対してここまで言うか!
★ ああ、あと胸板は厚いんだけど、胸はぺちゃんこです。
◆ というわけで、この役のキャスティングは苦労するだろうなあとは思ってた。
● 鼻や歯は特殊メイクでどうにかするにしてもねえ。むしろ、大好きなキャラクターだけに、そこいらのただのブスをブリエンヌとして紹介されたら絶対むかつくと思って警戒していた。
★ そこで上の写真を見たわけだが‥‥

● ファンの間では「美人過ぎる、かわい過ぎる」と悪評だった
▲ 美人過ぎるから文句を言うって(笑)。デブ専というのがあるように、ブス専というのもいるんだろうか?
◆ それは確実にいるが、これは話が違うでしょ。私も最初は、あんまり男らしくないし、なんか普通の人過ぎるなあとがっかりした。
★ でもイラストと似てるね。このイラストってテレビのあとで描かれたとか?
▲ いや、そのずっと前だから関係ない。むしろこのイラストを参考にメイクやヘアメイクをしたんでしょ。
● でも口もちっさいし、出っ歯でもないし、鼻も折れてないし、手抜きだと思った。

パースが狂ってるとしか見えないブリエンヌとカトリン
◆ だからブリエンヌにはぜんぜん期待しないでセカンド・シーズンを見始めたんだけど、例のメレー(トーナメントで行われる剣による乱闘)で優勝したブリエンヌが兜を脱ぐシーンを見て‥‥これって特撮?と‥‥
● なんかスケール感がおかしいんだよ。だから最初は、『LOTR』で普通サイズの人間をホビットに見せたみたいな特殊効果だとばっかり思ってた。
▲ だって、ジェイミーを演じたニコライなんとかはすごい長身なのに、そのジェイミーを見下ろしてないか?

★ というわけで、『GoT』でブリエンヌを演じた女優さん、グウェンドリン・クリスティー(Gwendoline Christie)。サウス・イングランドの生まれで、身長191cmだって言うんだけど。
● うっそだー! 189cmのジェイミーと並ぶと8cmぐらいでかかったぞ! サバ読んでるんじゃないのか?
◆ そういうのもサバ読むっていうのか(笑)。まあそれぐらいは靴でも変わるし、意図的に大きく見せるように撮ってるのもあるだろうけど、少なくともジェイミーより大きいのは一目でわかる長身。
▲ ちょっと感動。これだけの大女を見たのはフェリーニ以来だわ。
◆ というわけで、この身長を見ただけで顔がどうとかはわりとどうでもよくなってしまった。
▲ だってブスなんて掃いて捨てるほどいるけど、これだけの大女にはそうはお目にかかれないわけよ。いや、イギリスで一度だけ見たことあるな。歩いてたらいきなり影の中に入ったので見上げたら女性だった(笑)。
★ 小人俳優はたくさんいるのを知っていたから、ティリオンのキャスティングには困らないだろうとは思ってたけど、女優、しかもプロの女優でこんなに大きい人がいるとは思わなかった。フェリーニが使っていたフリークはほとんど素人だからね。
● それで興味持って、IMDbで背の高い女優で検索してみたら、グウェンドリンでも10位なのよ。いちばん大きい人では199cmで。
◆ でもそれじゃフリーク以外の役が付かないでしょ。実際、さすがに190越えは無名な女優ばかりだったけど。
▲ でも彼女、この身長を買われて、写真のモデルもしてるんだよ。大女には神話性があるもんね。
● ちゃんと化粧してちゃんと髪もセットすると、ブスには変わりないけど、顔は普通の人なのよね。

◆ マーティンはインタビューで、「ブリエンヌは6フィートを超えているのは確実だが、7フィート近いってことはない。僕の頭のてっぺんよりちょっと上って感じかね。レンリーやジェイミーより大きいし、確実に彼らより体重もあるだろうが、このシリーズ中の本物の巨人であるグレガー・クレゲインには及ばない。ホードーやグレイトジョンよりは小さいし、おそらくハウンドよりも小さくて、ロバートとだいたいおなじぐらいだ」って言ってて‥‥
▲ 細かいんだよ!(笑)
★ でもだいたいその通りじゃない?
● グレガーを演じたイアン・ホワイトが216cmか。よくまあそういうのばかり見つけてきたよなあ。
▲ ティリオンとからませたら本当のフリークショーだね。
● 体はそりゃ細いとは言えないけど、わりと普通なのに、わざと大きめの鎧を着せて太く見せている。肩幅とか胸板の厚さとか威圧感がハンパない。
◆ とにかく、今後のシリーズを見る楽しみがまた増えたね!

『氷と炎の歌』のブリエンヌ

◆ というところで、あらためて原作に戻る。キャラクターとしては男まさりの女戦士なんてそんなにめずらしくもないんだけど、やっぱりジョージ・R・R・マーティンは違うよね。
● 単に強いだけの女なら、アニメとかマンガとかゲームとかにはあふれかえってる。やっぱりマーティンならではだと思うのは、それにリアリティを持たせたことかな。
▲ タイマンならロラス・ティレルをボコボコにできる。ジェイミー(おそらくウェステロスで五本の指に入る戦士)とも、相手が手枷をはめられていれば互角に渡り合える。だけど、普通の兵士3人を同時に相手にすると勝てないというあたり、すごいリアルだと思ったな。よくある1人対集団の殺陣なんて、絶対あり得ないもの。
◆ だいたいファンタジーじゃ女騎士とかよく出てくるけど、こういう弱肉強食の世界で女がやっていくことの厳しさを描いたのは、この小説が初めてだよね。世の中そう甘くないんだ。女で強いというだけで憎まれて、差別されたり足を引っ張られたりする。
★ あー、それは企業戦士とかにも言えそうですねえ。

▲ というわけで、強いだけじゃなく、弱みもあるのがブリエンヌの魅力。
● 弱みって何? いい男に弱いところ?(笑)
◆ 意外と面食い(笑)なのは置いといて、あまりにたびたび男に傷つけられているから過剰防衛になってる感じはするわね。レインボーガードの中での出来事がそうじゃない。ただの悪ふざけ(女が親衛隊に抜擢されたことに憤慨した同僚の騎士たちが、誰が彼女を誘惑してベッドに連れ込むかという賭けをした)に、あそこまで怒らなくてもと思う。
★ レンリーにベタ惚れしたのも、彼女をレディーとして敬意を持って扱ってくれたからなんだよね。
▲ でもそれは単にレンリーは育ちがいいからで、内心では、「女のくせに」と嘲笑しているという皮肉。
◆ そんな場面あったっけ? それは『GoT』のほうじゃなくて?
● 忘れたけど、レンリーはむしろおもしろがっているだけだと思ってたけど。

● というわけで、見かけによらず、中味は夢見る乙女だったりするのがかわいくもあり、哀れでもあるところ。実際、お姫さまとして育てられたんだから当然だけど。
★ えーと、怒らないでほしいけど、私の印象では、現代に生まれて別に戦うこともなければ、やおいとかにハマって同人誌作ってるような腐女子のイメージ(笑)。
▲ 「レンリー本」とか作ってるわけ? ロラスとのからみで(笑)。
● いや、それじゃ現実だからおもしろくない。レンリーとスタニスで兄弟ホモとか。
◆ 話がそれてるんですが!
● 私はレンリーってどこがいいんだかわからないんだけど。ハンサムってこと以外は。
▲ だから、それまで父親以外に男に優しくされたことが一度もないから、レンリーにちょっと優しくされてメロメロになっちゃったんでしょ。
★ たまたまレンリーに出会って惚れたけど、やはり理想は彼女を倒せるぐらい強くて、しかも美形の男ですか。
▲ それじゃジェイミーじゃない! 
● うん、だからよけいあれに萌えるんだけど‥‥
◆ あー、その話は最後にするつもりだから。

● 強いし、心優しいし、道義心の塊だけど、あんまり賢くはないんだよね。
★ うん。あまり物事を深く考えたり、疑ったり、策略をめぐらすタイプじゃない。思い込んだら一直線というタイプ。
▲ よく「でっかい牝牛」とからかわれてるけどさ、ほんとに牛っぽい。おとなしくて引っ込み思案なんだけど、暴走し出すと止められないし(笑)。
◆ その愚直さのためにどれだけ損してるかわからないんだけど。
● でもだからこそ、その正反対とも言えるジェイミーが‥‥

美男と野獣 ジェイミーとブリエンヌ 
◆ 結局そこかい。じゃあ、お待ちかねの「美男と野獣」
▲ 最初は大笑いして読んでたんだよね。あまりにも正反対のジェイミーとブリエンヌの道行きがおかしくて。
● ジェイミーはいつも通り脳天気で、しつこくブリエンヌをからかうんだけど、ブリエンヌの方はいつも通りの仏頂面で乗ってこないあたりが、漫才でもやってるみたいで。
★ ぜんぜん噛みあっていないようでいて、不思議と息が合ってるような‥‥
▲ それがだんだん、好きな女の子を執拗にいじめる悪ガキみたいになってこない?
◆ 好きなはずはないんだけど、ジェイミーは明らかにナルシシストだし。双子の姉を愛するってことは、言ってみれば鏡に映った自分を愛するようなものだからね。それで2人とも絶世の美人なんだから、ブスなんか目じゃないはず。そうじゃなくても、サーセイ以外は女と認めてないし。
▲ 一方のブリエンヌは名誉を何より尊ぶから、キングスレイヤーなんか悪魔のように忌み嫌っている。
● いや、もしブリエンヌが普通の美人か、少なくとも十人並みの容貌だったら、サーセイとくらべて「フン!」という感じだったと思うけど、あそこまで醜いと比較にならないから、かえって興味がわくんじゃない? 最初の頃の反応がまさにそうだったもん。ブスだと思うなら見向きもしなきゃいいのに、いやがる相手にしつこくかまうじゃない。
★ そういや弟にも優しいし、フリークには好意的なのかも。
◆ でまあ、そうやって漫才やりながらも、否応なしに相手のことを知るようになり、特に相手のいいところや、同情に値するところがわかってくると、お互いにある種の敬意を抱くようになってくる。
● するとなんか妙にモヤモヤした感じになってくるんだよね。

つづく

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